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余命宣告を乗り越えた幼馴染の愛が重い  作者: ミソネタ・ドザえもん
第八章

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37.講演会

 俺達は奏達の住むタワーマンションの近くの時間貸し駐車場に車を停めた後、スマホを頼りに彼女の家を目指した。


「うわあ、立派なタワマンね」


 まあ、スマホを頼りに、とは言ったものの……奏達の住むタワーマンションは、閑静な住宅街の中では、都心にそびえるランドマークタワーにも似た存在主張具合だった。

 母の感嘆とした言葉にも頷ける。


「あーあ、あたし達がこんなタワマンに住めるようになるのは、いつのことになるのやら」

「えー、俺は一軒家の方が良いけどなぁ。タワマンな階層ごとにヒエラルキーが形成されているみたいな話も聞くし」

「どこの世界もそういうのが蔓延っているのねえ」


 両親は俺の前で、辟易とする会話を繰り広げていた。

 

「それじゃあ、そろそろ行こうか」


 俺達はタワーマンションの中に入り、まもなく奏の家の前に到着した。


「なんだか少しだけ緊張するね」

「本当、一ノ瀬さん達と会うの、久しぶりだものね」

「それじゃあ、押すよ」


 父がチャイムを鳴らすと、まもなく室内からパタパタと足音が聞こえてきた。


「はあい」

「……お久しぶり」

「……うん。お久しぶり」


 俺と奏の両親の久しぶりの顔合わせは、両者に涙などはなく……とても静かに、互いに再会を喜んでいるように思えた。


「今日はわざわざありがとうね」

「いいえ、さあ、入って」

「お邪魔します」

「お邪魔します」


 一歩後ろから彼らのやり取りを眺めていたが、どこか余所余所しささえ感じる会話は、何故か少し微笑ましかった。


「遠路はるばる、どうもありがとう」


 俺達をリビングに通した後、奏の母が言った。


「遠路はるばるはそっちの方でしょう? フランス、どうだった?」

「楽しかった。……と言えば、嘘になるかな」


 奏の父は、苦笑しながら頷いていた。


「でも……貴重な経験が出来た。まさかこの年になって、新たな学びを得る機会があるだなんて思わなかった」

「そう……。それは良かった」

「一ノ瀬さん達は、こっちに戻ってきてからは何をしているんですか?」

「この人は普通に仕事をしているわ」


 奏の母の隣に座る、彼女の父は苦笑していた。


「あたしは……最近は、講演会をしている」

「講演会?」

「ええ。……娘が余命宣告された時の親の気持ちってのは、色んな層に需要があるの」


 ……確かに、余命宣告された我が子と向き合うというのは、相応の覚悟がいるはずである。

 例えば、奏の両親と似たような境遇に陥ってしまったような人達は……奏の両親から聞ける貴重な実体験は、とても参考になるだろう。


 それだけじゃない。

 ……人の死は。とりわけ、若い子供の死は……エンターテインメントの目線からも、興味をそそる一面がある。


「……向こうにいる間、実を言うとお金に困った時期があってね」


 余命宣告された子の治療のためとはいえ、国外での長期間に及ぶ治療の費用が嵩まないはずがない、か。


「それで……色々とお金を工面する方法を探っていた中で、そういうお話を頂いて」


 ……少しだけ複雑な気持ちだった。


「……最初は迷った」


 だって、奏の両親がした選択は、奏を見世物にする行為に他ならないから。


「迷ったから、素直にあの子に相談したの」


 ……でも、奏の母の言葉を聞いて、すぐに気付いた。


「そうしたらあの子、講演会しなよって、二つ返事で答えてくれたわ」


 ……きっと奏なら、そういうに違いない。


「強い子ね、奏ちゃんは」

「……そうね。自分の子とは思えないくらい、強い子になった」


 そう言った後、奏の母は苦笑した。


「ただ一番は……見世物にされることより、優先したいことがあったみたい」

「それは?」

「生きた証を残したかったんですって」


 ……確かに、どんな形であれ、奏の両親が、余命宣告された我が子に関する講演会を開けば、不特定多数が奏のことを知る機会を得る。

 そうして、奏の半生を糧に……奏の母の話を聞いた人は、その後の人生の振舞い方を思案する。


 それはまさしく……奏の生き様が人の生き方を変えたということ。


 つまり、奏が生きた証になる、ということなんだ。


「……本当、強い子よね」


 奏の母は、誇らしげに微笑んでいた。


「……あれ。というか今更だけど、奏ちゃんは?」


 しみじみとしたリビングの空気感。

 ウチの母は……今更ながら、リビングに奏がいないことに気が付いた。


「……あー」


 さっきまで娘の自慢話を、誇らしげに、されどどこか寂しそうに語っていた奏の母は……目を逸らしながら、頬を掻いていた。


「会いたくないんですって」

「……へ?」

「あっくんに」


 ……え。


「あっくん、ウチの子と喧嘩でもした?」


 ……両親の視線が、頬に刺さった。


「……あの、実はテストで奏と勝負してですね」

「うんうん」

「ボコボコにしました」


 それはもう、完膚なきまでに。


「くくっ。しょうもなっ」


 奏の母は必死に笑いをこらえていた。


「まったく。あの子ったら、帰国直前までまったく勉強してなかった癖に。あっくんに挑んで勝てるわけないでしょうに」


 しばらくして……奏の母は呆れた様子で言った。


「……あっくん。ごめん。あの子部屋にいるから、呼んできてくれる?」

「……えー」

「あんたが行かないでどうするの」


 母が俺の背中をバシッと叩いた。


「……じゃあ、ちょっと様子を見てくる」

「うん」

「ごゆっくりー」


 俺と奏の母は……なんだか今の状況を楽しんでいるようにも見えた。


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