ピクニック
昨日と同様、馬車に乗り込む。
馬が元気よく歩いている。
少し落ち込んだ感じで歩いてくれても構わないのに。
二日連続だから腰が悲鳴を上げている。
ああ、電車の方がまだマシだ。電車が恋しい。
屋敷がどんどん遠ざかっていく。
家族でピクニックなんて……一度もしたことなかったな。
あたしが幼い頃、父は家を出て行き、母は女手一つであたしを育ててくれた。けれど母は、あたしの母親であることより、女としての生活を優先した。
夜の店で働き、男ができたら何日も家に帰ってこない。中学生になってからもそれが続き、あたしは母に期待することを諦めた。
あたしを育てるためだったのか、自分の為だったのか。
考えても答えは出なかった。
学費などは滞らずに払ってくれてたから、高校まで進学することができた。それは感謝している。でも、平気なフリをして家族の温かさに飢えていた。みんなと出かけることに一番喜んでるのはあたしかもしれない。
あたしが静かにしていると兄が不思議そうに顔を覗き込んできた。
「ミリア? 何か困ったことがあったら僕に言ってね。できる事ならなんでも叶えてあげるから」
その言葉はあたしの心にスッと入ってくる。和やかな雰囲気にフィオナとルーシィも温かく見守っているようだった。
「……じゃあ、屋敷新しいの建てて」
「えぇっ! それは無理だよーー!」
あたしの冗談に本気になる兄。
馬車の中は笑顔で包まれていた。
目的地に到着したようだ。
大きな湖が太陽に反射してキラキラしている。風が気持ちいい。
「ミリア様ーー! こっちに座りましょう」
フィオナが木陰にシートを敷いてくれて、みんながそこに座る。
「じゃじゃーーん! お待ちかねの昼食ですーー!」
バスケットの中には色とりどりのサンドウィッチが詰め込まれていた。香ばしい匂いが鼻をくすぐり、あたしのお腹がぐぅと鳴った。
リクエストした卵焼きと唐揚げも入っている。
料理人に言ったところ、思った通りこちらでは周知されていないようだった。
ひとまず手本を見せた。
鶏肉と卵、小麦といった大体の材料は食料庫にあったので、作り方だけ教えた。さすが料理人といったところで、一度教えたら、あとは完璧に味を再現していた。あたしより美味しかったのは少し悔しいが、向こうはプロだから仕方がないと自分を納得させた。
当然、レシピをどこで知ったのかと問いただされたが、図書館で見たのだと誤魔化した。すると、その本を見たいからぜひ借りてきてくれと言われたが、適当に流しておいた。職人の執念を舐めていた。今度から気をつけよう。
あたしのお腹は限界だったようで、またしても腹の虫が鳴った。
「お腹空いてるようだし、早く食べようか」
穏やかな時間が流れた。あたしが考案したおかずはみんなに絶賛だった。お腹いっぱいになり、シートの上に寝っ転がっていると、兄が隣に寝転んだ。
そしてあたしを見つめて懐かしむように話し出した。
「ミリア覚えてる? 昨日も言ったように、ここはミリアが6歳の頃家族で遊びに来たとこなんだ」
「家族で……」
「そう、あの時もミリアのお腹が鳴ってね。お母様とルーシィがーー」
兄が楽しそうに笑っている。
いい思い出なのだろう。
あたしはこの綺麗な景色を初めて見る。なんか、兄を騙してるみたいだ。本物のミリアはここには居ないのに。
心地の良い風が頬を撫でる。
あいつらは今頃、何してるんだろう。
鬼姫と呼ばれたあたしがこんなとこで貴族令嬢やってるって知ったら爆笑するんだろうな。想像したら口元が自然に緩んだ。
あたしがいなくなって悲しんだり、してくれているんだろうか。
見上げた空はあたしの心とは関係なく、晴れやかに青く澄んだ色が広がっていた。




