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鬼姫と呼ばれた元ヤンが気弱令嬢に転生した件〜令嬢ライフも、意外といいものだな!〜  作者: seika
夜会後

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ジュラシック公爵家

「……どういうことだ?」


「以前、ジュラシック公爵から持ちかけられた商談を、最後まで拒み続けた貴族がいましたの。その貴族の一家はある夜、屋敷だけを残して忽然と姿を消しましたわ。使用人まで一人残らずよ」


「……姿を、消した?」


「ええ。けれど、争った形跡も連れ去られた証拠も、何一つ残されていなかったようで、ジュラシック公爵は『資金繰りに困窮していたようですから、全てを捨てて逃げ出したとしても不思議ではないでしょう』と仰ったそうですわ。

 結局、夜逃げとして片づけられ、事件として扱われることはありませんでしたわ。

 けれど――」


 イザベラは真っ直ぐあたしを見つめた。



「王都で、それをただの夜逃げだと思っている貴族は、一人もおりませんわ」


「…………」


「悪いことは言いません。あの家に関わることだけは、おやめなさい。

 ……と申し上げるには、少々遅かったようですわね」


「……っ、遅すぎだろ! もう関わってんだよ!」


 思わず立ち上がって叫ぶも、イザベラは涼しい顔で紅茶を一口飲んだ。


「今回はルーカス様に非がありますわね。

 あのような令嬢にまで手を出していたのですもの。自業自得ですわ」

「くそ、ルーカスめ! あいつぶっ飛ばしてやる!」


 握った拳をぶんぶんと振るあたしを、イザベラが呆れた顔で見た。


「ぶっ飛ばす……。

 以前の貴方からは、想像もつかないはしたない言葉ですわね」


「じゃああれか? それが本当なら、あたしもその貴族みたいに一夜にして消されるってのか!?」


「少なくとも、今のところその可能性は低いと思いますわ。

 本気でミリア嬢を排除するつもりなら、今頃こうして呑気にお茶を楽しむことなどできていませんもの」


 まだ怒りは収まらないが、ここでどうこう言ってもしょうがない。あたしはどかっと椅子に腰を下ろした。


「……少なくとも、今すぐ消される心配はないってことか」


 イザベラは小さく頷いた。


「ジュラシック公爵のことですから、一男爵家の令嬢が相手とはいえ何の準備もなく事を起こす程、愚かではありませんわ」


「……ってことは、手を出すなら準備を整えてからってことか?」


「あら、ミリア嬢にしては鋭いですわね」

「一言余計だ!」



「……ですが、これだけは覚えておいてください。

 ジュラシック公爵家ほどの大貴族ともなれば、たとえ国王陛下であっても、容易に手を下すことはできませんの」


「あのいかつい国王でも?」


「ええ、国王陛下と言えど、何もお一人でこの国を治めているわけではありませんもの。

 王家と有力貴族、その力の均衡があってこそ国は成り立っているのですわ。

 証拠もなく一方的に公爵家を処罰すれば、他の貴族まで王家に不信を抱くことになります。下手をすれば、反乱の火種にもなりかねませんわ」


「何だよそれ、打つ手なしか……」


「今のところは、そうなりますわね。

 ですが、王家がジュラシック公爵家に劣っているという意味ではありませんの。


 ジュラシック公爵家が得意とするのは政治。代々、頭の切れる当主によって、その地位を確立してきました。対して、王家が誇るのは〝武〟ですわ!」


 イザベラの目が輝いている。その奥に炎が見えるのは幻覚だろうか。


「レオニス王家は『獅子の王家』と呼ばれておりますの。代々、類い稀なる〝武〟の才を受け継ぎ、戦となれば国王自ら軍を率いて先陣を切る。そのお姿は、まさに戦場を駆ける獅子そのもの!」


 イザベラは勢いよく立ち上がり、熱に浮かされたように演説を続ける。


「現国王陛下も、若かりし頃には幾度となく戦場へ赴かれ、数々の武勲を立てられました。第一王子、第二王子も前線で功績を挙げられ、騎士たちからの信頼も厚いお二方なのです!」


 お、おぉ……。引くくらい心酔してるな。



「――ただ……。


 第三王子だけは、少々事情が違いますの」


 あれほど輝いていたイザベラの顔が曇った。


「アレイン殿下は、以前からあまり良い評判を聞きませんでしたわ。女遊びに明け暮れ、武術の鍛錬にもほとんど姿を見せない。国王陛下が頭を悩ませていらしたのも無理はありません。


 ところが最近、突然女遊びをおやめになったそうで、ようやく心を入れ替えられたのかと思えば……今度はお部屋から出てこなくなってしまって。

 周囲の者がようやく夜会へお連れしても、令嬢に囲まれれば見るからに怯えていらっしゃったでしょう? あれはあれで少々心配ですわ」


 まあ、実際に別人だからな。

 話を聞く限り、前の王子とは性格が真逆みたいだ。

 しかもあの怯えようじゃあ、王子なんて荷が重いだろう。

 あたしも姫に転生してたら、ああなってたんだろうか……いや、待てよ。姫なら遊んで暮らせたんじゃあ……。


「ミリア嬢は、アレイン殿下と親しくなさっていましたわね。わたくしの忠告は、見事に無視された訳ですが」

「はっ、あれは向こうが絡んできたんだよ!」

「あまり他の殿方と親しくなさると、また嫉妬されてしまいますわよ?」


「嫉妬……? 誰が?」

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