雑魚じゃないだと?
「最も、揃いも揃って村の周囲に仕掛けられた罠に掛かり、追い返されているとか……随分と用心深い村ですこと。どなたの影響かしら?」
イザベラが意味ありげにこちらを見てくる。
あたしは素知らぬ顔で、焼き菓子をひとつ摘まんだ。
「さぁ。どいつの名案だろうな〜」
「ミリア嬢……。
どうやら、ご自分が成し遂げたことの大きさに気付いていないようですから、教えて差し上げますわ。
領地を治める者にとって、他領で成果を上げた施策ほど興味を惹くものはありませんの。実際、すでに複数の領主がルーミア村を参考に、自領でも同じような施策を取り入れ始めておりますわ」
「取り入れるって……何を真似るんだよ」
「そうですわね。聞いた話では、領民に槍を持たせて狩りへ向かわせたり、新たな水源を探させたり。
けれど、表面だけ真似たところで、同じ結果になるはずがありませんわ。何の訓練も受けていない領民に槍だけ渡して『さあ、狩りをしなさい』ですもの。上手くいく方が可笑しいでしょう?
案の定、猛反発を受けて、以前より荒れてしまった領地まであるそうよ」
「ああ。あんなの槍持たせたから成功したわけじゃないしな」
猪を狩った時だって、あの場にいた皆の連携があったからこそだ。
それに、ルーカスの護衛が優秀すぎたのも大きい。特にグレイの鬼指導の賜物だ。
「領地経営は、貴族の本分ですもの。その立て直しにルーカス様と共に尽力し、見事成功へ導いたことで『ミリア嬢はルーカス様の婚約者に相応しい』と、そんな声もまだ少数ではありますが上がり始めていますわ。それに――」
イザベラが楽しそうに口元を緩めた。
「以前は『ルーカス様にべったりの婚約者』なんて言われてましたけど、今ではすっかり逆ですのよ。
婚約者にべったりなのは、むしろルーカス様の方だ、と噂になっていますわ」
「いや、それもどうかと思うんだけど」
「ただ、その結果……。
少々厄介な方にまで目を付けられてしまいましたわね」
「……厄介な奴?」
はて? と首を傾げると、イザベラは呆れたように溜め息をついた。
「ジュラシック公爵家のクラリッサ嬢よ。
夜会で何があったのかは、わたくしの耳にも入っているわ」
「……ああ、あのルーカスに怒られてた女か。
『覚えていなさい!』って雑魚が言いそうな事を吐き捨てて逃げてったな」
今思い出しても、見事な捨て台詞だった。
「雑魚……ね。
クラリッサ嬢はともかく、家柄まで侮っていい相手ではなくてよ」
「なぜだ?」
イザベラは頭が痛いとでも言いたげに、額を押さえた。
「貴方、本当に何も知らないのね……。
ジュラシック公爵家はこの王国でも五本の指に入るほどの大貴族よ。剣ではなく政略を武器に、現在の地位まで上り詰めた一族。
有力貴族との縁談、領地の買収、弱体化した貴族の取り込み――自家の勢力を広げるためなら、手段を選ばないことで知られているの」
それまでの説明じみた口調から一転、イザベラはあたしに向き直り、声を潜めた。
「そして、ジュラシック公爵家が最も恐れられている理由は……裏で何をしているのか、誰にも分からないことよ」




