2人きりのお茶会
「ミリア様〜お迎えが来ましたよぉ!! おっきな馬車ですぅ!!」
フィオナが窓から身を乗り出して声を上げた。
ローゼンベルク伯爵家の紋章があしらわれた豪華な馬車が、ゆっくりと此方へ近付いて来ている。
「……でかい馬車だな」
返事を書いてから数日。
約束通り、イザベラのお茶会へ出向く事となった。
2人で話したいというイザベラの希望で他の令嬢達は誘っていないようだ。一対一っていうのも何を話せば良いのやら。
馬車を降りると、前回と同じように薔薇をはじめとした花が庭園いっぱいに咲き誇っていた。だが、その景色は以前とは少し違っていた。
石像など撤去した物が多い為か、随分と庭園が広くなったように見える。これならイザベラが以前話していた通り、落石事故も起こらないだろう。
「ようこそ、ローゼンベルク家へ。お待ちしておりましたわ」
イザベラが、ドレスの裾をつまんで綺麗なお辞儀をした。
あたしも挑戦してみたが、なんだかぎこちなくなってしまう。これが生粋の貴族と、にわか貴族の差なのか。
「……と、堅苦しい挨拶はここまでにいたしましょう。
焼き菓子と紅茶をご用意しましたの。遠慮はいりませんわ、好きなだけ召し上がって」
「おお! 太っ腹じゃん!」
「ええ、積もる話もあるでしょうし」
どうやらあたしは、イザベラが用意した餌にまんまと食いついてしまったらしい。根掘り葉掘り聞き出す魂胆が透けて見える。
「あの村……ルーミア村でしたわね。
辺境の村に名を付ける機会なんて、そうそうあるものではありませんわ」
「ん? そうなのか?
でも、名前はあたしが付けた訳じゃなくて、皆が決めたっていうかさ〜」
焼きたてのマフィンを口いっぱいに頬張りながら、適当に相槌を打った。
「いくつもの領地を持つ貴族でさえ、名もない村の再建には手を焼きますの。税の問題に、村の維持費、それに領民の生活……。村として存続できるだけの基盤を整え、領地管理局の審査を通って初めて、正式な村として認められ、その名が国の台帳に記されますのよ」
「あー、なんかルーカスがそんな事言ってたな! 色々面倒くさいよな〜。村に名前つけるのくらい、ちゃちゃっと済ませばいいのに」
「ちゃちゃっと、で済む話ではありませんわ。
あなた方がなさったことは、長年苦戦を強いられてきた領地改革を僅か2ヶ月という短期間で成し遂げ、これまでの常識まで覆してしまったのよ?
それがどれほど異例なことか、分かってらして!?」
おお……迫力が凄いな。
イザベラが勢いよく立ち上がり、詰め寄ってきたので、なんとか宥めて椅子に座ってもらうことに成功した。
「はぁ……。それに、問題続きで匙を投げられていた村を立て直しただけではありませんわよね。
作物の栽培も軌道に乗せ、井戸なるものの建設まで始められたとか。領民の暮らしも、以前とは比べものにならないほど豊かになったと聞いておりますわ。
近頃では狩りにも力を入れ、猪や鹿を仕留め、税の代わりに納めているそうではありませんか。鉄鉱石の採掘も順調……まったく、結構な成果だこと」
「ふーん。そんな事までしてんのか」
「ええ。伯爵家の当主が村の男達を兵士として召し抱えたがっているそうだけれど、ルーカス様がお許しにならないとか」
ふむ。それはあたしも反対だ。
働き盛りの男手を持っていかれたら、残された女子供だけで生活していくのは難しいだろう。
「最近では、他領から内情を探りに来る者までいるそうですわね」
「……他領から?」
「ええ。どうやらルーミア村は、あなたが思っている以上に注目されているようですわよ」




