気付かない執着心
「……寿司」
あたしの言葉に、アレインは抑えていた手を離した。
「……さ、サーモン、マグロ、玉子……」
「おっ、お前っ!!」
がしっとアレインの肩を掴んだ。
この世界の誰とも共感できなかった言葉を、目の前のこの国の王子が当たり前のように口にしたのだ。
「ひぃっ……! す、すみません、すみません!!」
貴族達がぎょっとして此方を見たが、当のあたしはそんな事を気にする余裕はなかった。アレインは震える声で続けた。
「ぼ、僕も……転生、っていうか、気づいたらこの体になってて……! ずっと、ずっと誰にも言えなくて……!」
「……日本人、か?」
アレインは何度も頷き、泣きそうになっていた。
「は、はい……! 日本人です……! 東京の、ただの高校生で……!」
「あ、あたしもだっ!」
ついに堪えきれず、アレインは膝から崩れ落ちた。
「よかったぁ……! 僕だけじゃなかった……!」
第三王子の威厳もなく、子供のように泣き出す。
「ここじゃ目立つって……」
「ーー随分と、親しそうだね。
私の婚約者は、第三王子アレイン殿下と」
ぴたりと、アレインとあたしの動きが止まった。
後ろを振り向くと、ルーカスが笑みを浮かべてワイン片手に立っていた。
「お、おおー、ルーカスじゃないか。いつから、そこに?」
「……ひとまず、その手を離そうか。陛下の護衛達が此方を見ているからね」
ハッとして、あたしはアレインの肩から手を離した。
「で?なんの話をしてたの、2人で」
「え、あ……いや、話が盛り上がりすぎてな」
じっとあたしの顔を覗き込む。
「へぇ……話が盛り上がった“だけ”で、殿下が涙を流される、なんて。
どんな話をしたのか、聞かせてほしいな」
声は穏やかだが、ルーカスの言葉には見えない棘がある。
アレインはルーカスの言葉を訂正しようと、
「ほっ、本当です!僕が感極まってしまっただけで……」
ルーカスの眉がぴくりと動いた。
「今宵は楽しいひと時でした。国王陛下にも宜しくお伝えください。
では、私共はそろそろ失礼致します」
ルーカスはアレインに短く一礼して、あたしの手を引いた。
「あ……」
アレインは何か言いかけたが、ルーカスの気迫に押されたのか、追っては来なかった。
馬車の中では、ルーカスとは一言も話さなかった。
初めてだな。いつもはいろんな話を振ってくるのに。
イザベラから離れた事、そんなに怒っているのか?
まあ、考えてもしょうがない。
あたしは窓の外を見上げた。
夜会での収穫は間違いなくあった。
あたしと同じで、この世界に来た奴がいる。
近いうちに話したいが、王族じゃあ、簡単に会う事は出来ないだろうしな。
さて、どうしたものか。
ルーカスはミリアを送り届けた後、自室へ戻っていた。
「……おい」
影から1人の男が姿を現す。
「ルーカス様、お呼びで御座いますか」
「ミリアの護衛を増やせ」
「護衛を……。
しかし、すでに優秀な者を2名、常に付けておりますが――」
「足りん」
低く、断ち切るように言い放った。
「5人だ。こちらが手薄になっても構わん。
どんな些細なことでも、報告を怠るな」
「……承知」




