赤髪のキース
「あの方は確か、ジュラシック公爵家のご令嬢でしたわ」
「まあ、公爵家を敵に回してしまわれたのね」
ひそひそと、憐れむようでいて、どこか楽しげな声が背後から聞こえてくる。
人の修羅場を酒の肴にでもしているつもりなのだろう。
「ミリア……その、すまない……」
「何に対してのすまないだ、それは」
あたしの言葉に戸惑いながら、ルーカスは不安気な表情を浮かべた。
「お〜、ルーカスじゃん。相変わらずお堅そうな顔してんな」
張り詰めた空気に似つかわしくない、軽い声が割り込んだ。
手を振りながらこちらに歩いて来るのは、ルーカスとは違うタイプのイケメンだった。赤髪に人懐っこそうな笑み。身なりは整っているが、どこか遊び慣れた雰囲気がある。
一言で言うと、チャラそう。
「さっきは修羅場だったな〜。
最近は、随分大人しくしてるって聞いたけど……」
赤髪は楽しそうに笑いながら、あたしに目を向ける。
「ミリア嬢も、久しいな」
視線が、遠慮なく上から下へ。
顎に手を当てて人の身体を品定めでもするみたいに、じろじろと見てくる。
「ふぅん……」
口角を上げ、面白いものを見つけた子供のような顔をした。
「ミリア嬢が身に纏っているもの、お前が用意したんだろ。相当入れ上げてるな」
「見せ物じゃない」
赤髪の前に立ったルーカスに遮られ、あたしの視界はその背中で塞がれた。
「おー、怖い怖い。
そんなに睨むなって、減るもんじゃないだろ?」
両手を軽く上げ、からかうように笑った。
ルーカスは答えない。ただ、視線だけで「これ以上近づくな」と語っていた。
「……ま、いいや。それより俺の武勇伝もう聞いたか?
アンデッド国に攻め入ったんだぜ。軍を率いて、隊長としてな。その功績を讃えられて、今夜はご招待ってワケ」
やれやれと首を振る仕草とは裏腹に、表情はどこか誇らしげだった。
まあ、此処では殺し合いも普通みたいだし。戦争で他国に攻め入る事が功績と崇められるわけか。実際はそう命じた奴がいるんだろうけど、政治のことはあたしには分からん。
「なぁ、ミリア嬢はどう思う?
女の子ってさ、こういう話を野蛮だとか、逆に格好いいとか……いろんな反応するだろ?」
早速試されているな。
ここの奴らは人を試すのが好きみたいだ。
「おいっ、キース。いい加減に――」
「……威張り散らすのは感心しないが。
大勢の軍を率いるというのは、相当な覚悟と実力がなければ出来ないことだ。引き続き、精進するんだな」
「え、!? ちょっ……今、褒められた? ってか評価?
そんで、なんで上から目線なんだよ! 上官でもあるまいし!」
慌てふためきながらも、キレの良い突っ込みを入れる赤髪。
「……まあ、悪い気はしないけどさ」
困ったように首の後ろを掻き、気まずそうにあたしを見た。
「変なやつだな。前はルーカスの後ろに隠れて、俺とろくに目も合わせなかったのに」
「行くぞ、ミリア」
言葉を遮るように、ルーカスがあたしの腕を掴んだ。
「おいおい、急かすなよ」
ルーカスの肩に手を置き、顔を近づけた。
「興味出てきちゃったな。ミリア嬢に」
「……っ、貴様!」
「ねぇねぇ、キース様〜! 早くいらして?」
「あー、はいはい。
じゃ、呼ばれたから行ってくるわ」
ひらひらと手を振り、キースは笑いながら女達の輪へと戻って行った。その背を見つめたまま、ルーカスはあたしを掴む手にわずかに力を強めた。
あいつが何を吹き込んだのかは聞こえなかったが、この夜会で厄介な奴等が増えた気がする。




