波乱の予感?
数人の令嬢が、一斉にルーカスを取り囲んだ。
獲物を見つけた肉食獣のようだな。
「ルーカス様ぁ! 最近お顔を拝見できなくて寂しかったですわ!」
「お忙しいのは存じておりますが……まさか、あの噂、事実ではありませんわよね?」
「……なんの噂だ」
「あら、イヤですわ。そちらの“婚約者様”に、熱を上げていらっしゃる。などという噂が立っている事を、ご存じないのですか?」
「そうですわ! 夜会では話題になってますのよ!」
チラリと、あたしに向けられた敵意。
「ルーカス様のパーティーでお目に掛かりましたけれど……随分と雰囲気が変わられましたわね?
確か、気を引くために自ら毒をお飲みになった。という噂もお聞きしましたわよ。わたくしには、考えられませんわ。そこまで落ちぶれる必要などありませんもの」
好き勝手言いやがって。
あたしを……ミリアを馬鹿にした笑い方、気に食わない。
ミリアは気を引く為じゃなくて、本当に死んだんだ。
その言葉が喉まで出かかったが、拳を握って耐えた。
こういったパーティーも、ミリアが心をすり減らす要因の一つだったんだろう。
甘えた声と、それに比例するような香水の匂いが纏わりつく。その中の、いかにも金を注ぎ込んだようなドレスを身に纏った女が、黙っているあたしを見て勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ルーカス様。ご無沙汰しておりますわ。
最近、お訪ねしてもお留守で……少し、寂しゅうございましたの。
――ねぇ。今夜は、如何かしら?」
もはや布の意味を成していないほど大胆なドレスで、ルーカスの腕に、自らの胸を押し付けた。
「黙れ」
空気が凍った……のは、気のせいではない。
令嬢の表情も凍りついている。
ルーカスは令嬢の腕を振り払い、氷のような視線で女を見下ろした。
最近は見なくなっていたが、あたしがミリアになる前に向いていた目だ。
「いつの話をしている。私にはミリアという婚約者がいる。二度と触れるな」
ざわっ!
「あのルーカス様が、女性に声を荒げるなんて……」
「まさか、本当にあの令嬢に入れ込んでいらっしゃるのかしら」
信じられない。という視線がルーカスに向けられる。
当然だろう。婚約者を蔑ろにして他の女と遊んでいた奴が、半年程でこうも変わるとは、誰も想像しなかったのだろう。
「……言えるんじゃないか」
あたしの口から、言葉が零れた。
なんで……あの頃のミリアには、そう言って守ってやらなかったんだよ。
「ミリア? 大丈夫だ。此処にいるから」
ルーカスの手が、あたしの頭に触れた。
セットした髪を崩さないように優しい。それが、酷く虚しく映った。
「嘘よ……! その女に、何か吹き込まれたのでしょう? わたくしのこと……あの夜は、あんなにも可愛らしいと――」
「黙れ、と言ったのが聞こえなかったか?」
ルーカスの有無を言わさぬ声に、女はびくりと肩を震わせた。
誘いを拒否され、自分より婚約者を優先され、公の場で恥をかかされた。
その怒りの矛先が向かうのは、当然ルーカスではない。
「……覚えておきなさい。ミリア・ヴァルディス」
彼女はドレスを翻して立ち去り、取り巻き達がその後を追った。




