騒がしい
「……はぁ、緊張した」
「お前でも緊張するんだな」
「国王陛下が、あの場でミリア嬢にお言葉を向けられるとは……正直、肝が冷えた」
ルーカスが珍しく疲労している。
国王の問い掛けは、ルーカスにとっても予想外のことだったのだろう。やはり、権力者の気まぐれというものは、下の者の精神を少しずつ削っていくのだな。
「喉が渇いたでしょう。ここで待っていてください」
あたしが答える前に、早々に給仕の所へ歩いて行った。
喉が渇いていたのはルーカスの方だろう。
「……お聞きになりまして? 鬼姫なる者が出たというお話が……」
「聞きましたわ! なんでも、牢屋で捕らえている村長と名乗る男が、酷く戯言のように繰り返しているそうですわ。鬼姫が、来る……殺される、と」
「まぁ、殺されるですって!? 暗殺の類なのかしら、恐ろしいですわ」
ヒソヒソと……だが、隠しきれていない声量で、貴婦人集団が情報交換をしているようだ。
それにしても心外だな。優しくしてやった方なのに。
村長みたいに、免疫がない奴ってのは、少し脅しただけで大袈裟なんだよ。
……なんて、悪態をついていると、
「……あ、あの……も、もしかして……ミリア・ヴァルディス男爵令嬢、で、い、いらっしゃいます……よね?」
気弱そうな奴と、腕を組んだ自信ありげな男2人が声を掛けてきた。
「ぼ、僕と……その……す、少しだけ、お話し……い、いかがでしょうか……?」
「おいおい、抜け駆けは感心しないな。ミリア嬢、まずは私から話をさせて頂こうか」
「あんたらは?」
「これは、失礼致しました。
私はボルデン子爵家のケイティと申します。以後、お見知りおきを」
ケイティと名乗る男は、胸を張り、にこやかに一礼した。
「ぼ、僕は……プラッツ男爵家のブルゾンです……」
「今宵はダンスもあるとか。せっかくですし、一曲お相手願えませんか?」
うげっ、ダンスなんか踊れるわけないだろ。盆踊り程度だっての。
「すまないが、パスする」
「ぱ、ぱす……? とは、どういったお言葉でしょうか?」
「僕も……聞いたことがありません。異国の言葉でしょうか……?」
2人は顔を見合わせ、揃って首を傾げた。
……まずい。
また、余計なことを言った気がする。
「――おい、貴様ら」
頭上から、低い声が落ちた。
「私の婚約者だと知りながら、口説いてるのか?」
あたしの後ろに立つルーカスは、不機嫌さMAXで男達を睨んでいる。
差し詰め、蛇に睨まれた蛙だ。
「ひっ……! めっ、滅相もございません!」
「し、失礼致しましたぁぁぁ!!」
転がるように後退りし、そのまま逃げ去っていった。
何とも呆気ない。
爵位の高さに怖気づいたのか、ルーカスの睨みに屈したのか。
まあ、どっちでもいいか。
「……くそっ、余計な虫が沸く」
ルーカスはそう吐き捨てると、あたしにグラスを差し出した。
「ミリアのグラスには、アルコールは入っていない。安心しろ」
視線を落とすと、ルーカスのグラスは既に空だった。
「お前のには、酒が入っていたのか?」
「ああ、私は成人しているからな」
ルーカスは2杯目に口をつけた。
「成人……何歳だ」
「……なんだ覚えてないのか、今年で18歳になった。
誕生パーティーも開いただろう。あの時は……」
ルーカスの動きが止まった。気まずそうな顔をしている。
どうせロクでもないパーティーだったのだろう。
「……まあ、ミリアはあと3年だな。
その時には私の妻になっていると思うが……」
ふむ。此処では18歳が成人なのか。
あと3年……つまり、ミリアはまだ16歳というわけだな。
今更だが、貴重な情報を得たぞ。
ルーカスはあたしのドレスに視線を移した。
「そのドレスは、ミリアに着てほしくて作らせたものだ。
……だが、失敗だったな。
他の男共の視線が、集まりすぎる」
「次からは、もう少し地味なものを……いや、しかし……色々着せてみたい気も……だが、誰にも見せたくないし……」
普段の「ミリア嬢」がいつの間にか、抜け落ちている。
代わりに、よくわからない葛藤を1人で始めて、ぶつぶつと変なことを口走っていた。どうやら、もう酔いが回ってきたらしい。
そんな酔いが覚めるような、甲高い声がホール内に響いた。
「いたわ!! ルーカス様よ!!」




