ルーミア村、誕生
「ミリアっ!!!」
悲鳴を聞きつけ、村長宅へ押し入る。
大勢の足音とともに、グレイたちを押し退け、先陣を切って飛び込んできたのはルーカスだった。
だが、床に伏せた男たちと、村長の胸倉を掴み、腕を振り上げているあたしを目にした瞬間、ルーカスの足が止まった。
「これは、どういう状況だ……?」
「ミリア様っ……! ご無事で……ひゃあっ!」
フィオナは床に転がった男に躓きそうになったが、グレイが腕を引いて支え、転ばずに済んだ。
ルーカスは一瞬額に手を当てたが、判断は早かった。
「ーー後始末をしろ」
「ハッ!!」
ルーカスは、あたしから村長を引き剥がした。
グレイ達は男どもを縄で縛り、家の外へ放り出した。
「いやぁー、やっぱり運動しないと、腕が鈍るな!」
あたしはできるだけ明るく、「大した奴らじゃなかったぞ?」という雰囲気で言ってみたが……。
「ミリア嬢、君が強いことは分かった。
だが、頼むから……一人で殴り込みに行かないでくれないか?」
「ミリアさまぁっ!! 心配したんですよう!!
ルーカス様から『殴り込みに行った』とお聞きした時は、心臓が止まるかと思いましたぁ!」
「……危ないことは極力お辞めください」
三人に諫められたあたしは、ようやく落ち着きを取り戻し、バツが悪そうに頭を掻いた。
「……悪かったよ。心配かけたみたいで」
喧嘩一つで心配される。こういうことには、まだ慣れていない。
ここでは皆、あたしを女として扱ってくるから。
「詳しいことはルーシィから聞いた。村長が元凶だったとは……ミリア嬢が気付いてくれて助かった」
ルーカスは、あたしの頭にそっと手を置いた。
「君は、この村のヒーローだな」
ゴツゴツしていて、大きな手だった。叱る訳でも、縛るでもない。
ただ認めるような、その重みが心地よかった……言葉には出さないが。
あたし達はこの村を出る。
――しかし、すんなり行かないのがお約束というものだ。
村の名前はどうするのか?という議論が上がった。
当主が名付けて良いそうだ。正当な手順を踏むから、承諾されるまで時間は要するらしいが、村の奴らは大喜びで、何十個も候補を上げていた。
「ルーカス村とか?」
「いや、ミリア村だろ!」
「「いやいや、グレイ村だ!!」」
あたしとルーカスより、グレイの人気が高いらしい。
ちなみに名前を村につけるのは却下したい。
「ルーカス様とミリア様で、ルーミア村とか?」
「おおっ! センスあるな、お前!」
「ハマル村とかいいっすよね!」
「「却下」」
首を突っ込んだハマルがやられたらしい。
あの中に入っていくとか勇者だろ。
「こいつらを警察に突き出さなければならない、さっさと決めろ」
ルーカスの指が、ぐるぐる巻きにされた村長達を示した。
あんなに威張り散らかしていたのに、今じゃ、借りてきた猫状態だ。
「……では、ルーミア村ということで」
「「さんせーーーーい!!」」
結局それになるのか。
微妙なラインだが、ルーカスは何故か満足気味に頷いた。
「よし、私たちは立ち退くが、これで少しは穏やかな暮らしができるだろう」
村の奴らが、あたし達に次々と礼を言いに来る。
そして……シオンが不安そうにあたしに近づいてきた。
「ミリア……また会える?」
「ああ、また会えるよ」
「私の領地になるんだから、ミリア嬢もここにはいつでも来られる」
「ルーカスの領地に?」
「ああ、そう決めた。父上には私から頼む。
いろいろ報告もあるし、この問題を解決できたのは、ミリア嬢の力もあってこそだ。鉄鉱石は父上に献上するという形にすれば、文句も無いだろう」
「それはいいな! だが辿り着くのに5日もかかるのは、勘弁してほしい」
「それはまた、ゆっくり考えていけば良い」
シオンは瞳を輝かせた。
「じゃあまた来る!?」
あたしが頷くと、ぱあぁ! と、シオンが笑顔になった。
「じゃあ! じゃあさ……」
ガサゴソと懐を探り、紫の花を一本差し出した。
「大きくなったら、おれとけっこんして!」
……可愛い。なんだこの生物は。
「きゃーー!! ミリア様、プロポーズされてますぅ!!」
フィオナが興奮気味だ。
「……シオンくん? ミリア嬢は私と婚約しているのだが?」
引き攣った笑顔のルーカスが、あたしとシオンの間に入った。
「こんやく?」
「つまり、ミリア嬢は将来、私と結婚するんだ」
「……ミリアと、けっこんできないの?」
今にも泣き出しそうな顔をしている。
「ルーカス様サイテーですぅ」
「……子供相手に大人げありませんね」
ルーシィまでもが畳み掛けた。
村の女達からも、冷めた目で見られている。
最後に好感度だだ下がりだな。
とりあえず、ルーカスに一発蹴りを入れる。
それから泣いているシオンの頭を撫で、花を受け取った。
「ありがとうシオン!
また来るからな。シュナ守れるくらい、強くてかっこよくなるんだぞ」
「うんっ!! つよくて、かっこよくなるっ!」
「フレイも……村の皆のこと、頼んだぞ」
この村の次の村長は満場一致で、フレイに決まった。
本人は狼狽えていたが、最終的には、村を守るという使命感から承諾していた。
「もちろんです……シオンやシュナのことも、俺が守ります」
周りから冷やかしの声が聞こえ、フレイは顔を赤くして頭を掻いていた。
シュナは微笑むだけだった。
分かっているのか、いないのか、読めない奴だ。
ハマルは相当なショックを受けていた。どんまい。
この村はまだ発展途上だし、一ヶ月したら様子でも見に行こうか。
次に来るときは、もっと住みやすくなってるだろう。あたし達がいなくても。
*
物資を送り届けて、3週間。
ミリア達が任務へ向かってから、もう2ヶ月が経とうとしている。
まさか、考えたくはないが……何かに巻き込まれているのでは……。
「カルモ様落ち着いてください!」
「離してっ! 僕は、ミリアを助けに行かないとっ!」
「カルモ様が、今から向かわれても無駄です!
それより、手付かずの書類の山を終わらせてからにして下さい!」
ミリア達が屋敷に帰還した時には、ボロボロになったカルモが飛びついてくることになるが、それはまだ少し先の話であった。
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