鬼姫、参上!
「うっしっし……今宵も実に豪勢じゃなぁ。
噛めば噛むほど脂が出おる。村の連中が見たら、泡を吹いて倒れるじゃろうて」
村長は皿を見下ろし、満足そうに目を細めた。
灯りに照らされた食卓には肉と酒が並び、村人に分け与える気など、さらさらなかった。この男にとって村とは、守るべき存在ではなく、使い潰すための道具にすぎない。
しかし、この肉もあと数日で尽きてしまう。
引き続き、伯爵家に物資を懇願しようにも、村の問題は解決に向かっている。
「……じゃが、村の者共を盾にすれば、貴族の奴等も首を縦に振るしかあるまい」
バァーーーーーーーーン!!
突如、凄まじい音と共に扉が吹き飛び、食卓の灯りが大きく揺れた。
「な、なな……なに事じゃ!!?」
「やあやあ、村長。豪華な食事のところ失礼するぞ」
ドアだった残骸を踏みつけて、片手をひらひらさせながら入ってきたのは、ミリアだった。
「なっ……!! こ、これはこれは、ミリア様! い、いやぁ、これはですな、偶然小者が罠に――」
「誤魔化しはいらないぞ村長。全部知っている。お前が好き勝手していることもな」
「……ふっ、ふふ。ふふふ……」
村長は肩を震わせ、高らかに笑った。
「ははははっ!! いやはや、これは参りましたなぁ! 隠し通せると思っておったのですがなぁ……。
じゃが、これは全てわしの物。村の小汚い連中に、分け与える義理など、これっぽっちも無いわ!」
部屋の隅に、酒や肉を押し込み、首から下げていた小さな笛を吹き鳴らした。数秒後、男が2人、あたしの背後から現れ、両腕をがっちりと固定された。
「ふははは! 一人で乗り込んでくるとは、やはり貴族は世間知らずよの」
おお、ムカつくことをペラペラと。自分に知性が備わっている前提か。
あたしが黙っていると、ニヤリと笑みを浮かべた。
「抵抗など、出来まい?
命乞いをするのなら、助けてやらんでもないが……条件がある。あの馬鹿息子に、今後も援助を続けると誓わせるのじゃ。
縋るだけなら、おぬしでも出来よう。女というのは、媚びることしか脳がないからのぉ」
ほうほう、随分と舐められたもんだな。
あたしの中の何かがブチりと切れた。
「ん? なんか音したか?」
男が隣の仲間に確認しようとしたが、相手はすでに床に突っ伏していた。
あたしが鳩尾に叩き込んだ一撃で、意識を失ったみたいだ。
両手の拘束は外れた。つまり、あたしは自由になったわけだ。
「なっ、何?」
男は異常に気付いたみたいだが、あたしがこの一瞬で何をしたかは、理解できなかったらしい。
「まさか、お前が……どうやったかは知らんが、大人しく――」
「はい、二人目」
男の手が肩に触れる前に、あたしの回し蹴りが決まった。
床に転がった2人を見て、村長は小さく悲鳴を上げた。
「おっ、お前ら! 小娘1人に、なんという無様な姿じゃ! わしが食料を分け与えてやったというのに……おいっ、あやつはまだか!」
屈強な男が、出口を塞いだ。
「呼んだか? 村長様」
「おっ、おお……遅いぞ!
何をしておる! 早く、そいつをやってしまえ!!」
2メートル近くある男が、あたしを見下ろした。こんな大男どこで匿っていたのやら。
「っち……女かよ」
いかにも怠そうに舌打ちをすると、男は力任せに右手を振り下ろす。
――が、その手があたしに届くことはなかった。
ドサっ……。
残りは村長ただ1人。
「ひぇっ!! な、なんじゃ、おぬしは!?」
「あたしか? そうだな……」
一歩、また一歩と踏み出す。
後退りする村長に、あたしの影が落ちた。
「あたしは……そう、鬼姫だ」




