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鬼姫と呼ばれた元ヤンが気弱令嬢に転生した件〜令嬢ライフも、意外といいものだな!〜  作者: seika


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29/30

現場の男達

 洞窟の中では、採掘を生業(なりわい)とする男達が作業をしていた。


「ふぅ……やっとこさ、入り口の掘りが見えてきたな。とはいえ、今回の採掘は何十年かかることやら」


 親方を任されているゲルンは、幾つも分かれている空洞を見つめ、溜め息を漏らした。


「じゃが……食い物も水も、全て用意してもろうとる。この生活が続いたところで、儂らには、そう困ることもないがの」


 伸び切った髭を撫でながら、バルドは笑った。

 そんな中、洞窟の入り口に影が落ちた。

 男達が気付いて、振り向くと――。



「……手を止めろ」


 ルーカスの低い声が、静まり返った洞窟内にこだました。


「なんじゃ、お前さんは」

「今作業中だぞ、見てわかんねぇか?」


 現場の男達は、作業を中断されたことへ対して、あからさまに不機嫌になった。


「邪魔をしてしまい申し訳ない。私はルーカス・アシュフォード。あんた達の雇い主だ」


 ルーカスの一言に、男達の表情が強張った。

 あたしとハマルは息切れして、そんな緊迫した場面に辿り着いていた。



 ルーカスの今の服装は軽装だ。

 ここへ来たときは、いつもの貴族らしい豪華な服装だったが、作業しにくいということで村人の服を借りていた。新しいものを用意して貰ったそうだが、一見では、伯爵家の坊ちゃんには見えない。


 鍛え上げられた体躯のロクスが前に出て、ルーカスを値踏みするように見下ろした。


「そうは見えねぇがな。俺たちを騙して、鉄鉱石を奪おうって腹じゃねぇのか?」


 ルーカスはロクスを真っ直ぐ見上げた。

 その眼は、全く動じていなかった。それどころか、腰のベルトから短剣を引き抜いた。


 ちょ、おいおい。

 まさか、ここでやっちまうってことは……。


 ハマルを見ると、こちらも剣を握っていた。

 洞窟内に、先程とは違った緊張が走る。


 ……が、ルーカスは短剣を差し出し、ロクスは警戒しながらも、それを受け取った。短剣に刻まれた鷹の紋を見た瞬間――。




 彼等は一斉に、頭を地面へ伏せた。


「「「もっ、申し訳御座いません……っ!!」」」


「……っ、まさか、本当にアシュフォード伯爵家のご子息とは……無礼を働きましたこと、深くお詫び申し上げます。責任はすべて私が負います。どうか、この場は……」


 大の大人3人がルーカスに土下座して震えている。

 責任がどうのと言っている男は、ここのリーダー的な奴なのだろう。

 あいつ等が見た鷹の模様は、アシュフォード伯爵家であることを示す証だったのか……カッコいいな、あれ。水戸黄門みたいで。


 ルーカスは小さく息を吐いた。


「いや、このような格好をしているのだ。それについて罰を与えるつもりはない」


「さ、左様で御座いますか……この老いぼれには、身に余るお言葉でございます」


「私が言いたいのは、この鉱山のことだ。一日中ずっと掘っているのか?」



「……おっしゃる通りで御座います。この鉱山は、そう簡単な代物ではありませんのじゃ。

 奥が深く、掘り尽くすには、何十年もかかりそうな代物ゆえ。少しでも早く終わらせるように、と依頼されておりますのじゃ」


「そうか……状況は分かった。

 では、簡潔に言おう。この作業を始めてから、領地内の村に被害が出ている。森で暮らしていた動物達にも、影響が及んでいるようだ」


「動物達……?」 

「あぁ、そういやあ……この下の水場に、鹿だの獣だのが集まってきてたんだが、最近は影も見ねぇな」


「はぁ、動物たちの居場所を奪っている自覚を持ってもらわねば困る。食べたものやゴミは池に捨てるな。土に埋めるなりしろ。作業で出た土や石も、下に捨てるのはやめろ」


「はっ、はい!!」




 ……拍子抜けするほどあっさりだ。

 まあ、雇われ主が伯爵家じゃ、逆らえるわけもないか。


「あと……作業は日が昇っている間に限定してもらいたい」


 ゲルンは勢いよく、顔を上げた。


「な、なんですと! それは難しいですな。

 伯爵様からも、休まず続けるよう言われておりますゆえ。我々がくたばるまでには掘り尽くしておかねばならんのです。今のペースでも、かなり厳しいのですぞ!」


「……私が父に掛け合い、人員を増やす手配をしよう。

 だから頼む。明日からは、その条件でお願いできないだろうか?」


 私とハマルも、ルーカスにつられて頭を下げた。

 正直こんな奴等、殴って大人しく従わせれば良いと思うのだが、ルーカスは納得してもらおうとしている。信頼関係を築くつもりなのだろう。


 貴族、それも護衛にまで頭を下げられては、断れる者はいないだろう。


「……お父上に、必ず増員を。

 我々は、作業が計画通りに終わりさえすればよいのですから」


 ルーカスは短く、しかし確かに礼を言った。

 まさに鶴の一声、といったところか。

 状況を説明して、改善案を示したうえで交渉を持ちかける。頭を使ったやり方だな。あたしにはできない。見事なものだ。


「……これ、俺が来た意味あったか」


 隣でハマルが、ポツリとそう呟いたのだった。

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