現場の男達
洞窟の中では、採掘を生業とする男達が作業をしていた。
「ふぅ……やっとこさ、入り口の掘りが見えてきたな。とはいえ、今回の採掘は何十年かかることやら」
親方を任されているゲルンは、幾つも分かれている空洞を見つめ、溜め息を漏らした。
「じゃが……食い物も水も、全て用意してもろうとる。この生活が続いたところで、儂らには、そう困ることもないがの」
伸び切った髭を撫でながら、バルドは笑った。
そんな中、洞窟の入り口に影が落ちた。
男達が気付いて、振り向くと――。
「……手を止めろ」
ルーカスの低い声が、静まり返った洞窟内にこだました。
「なんじゃ、お前さんは」
「今作業中だぞ、見てわかんねぇか?」
現場の男達は、作業を中断されたことへ対して、あからさまに不機嫌になった。
「邪魔をしてしまい申し訳ない。私はルーカス・アシュフォード。あんた達の雇い主だ」
ルーカスの一言に、男達の表情が強張った。
あたしとハマルは息切れして、そんな緊迫した場面に辿り着いていた。
ルーカスの今の服装は軽装だ。
ここへ来たときは、いつもの貴族らしい豪華な服装だったが、作業しにくいということで村人の服を借りていた。新しいものを用意して貰ったそうだが、一見では、伯爵家の坊ちゃんには見えない。
鍛え上げられた体躯のロクスが前に出て、ルーカスを値踏みするように見下ろした。
「そうは見えねぇがな。俺たちを騙して、鉄鉱石を奪おうって腹じゃねぇのか?」
ルーカスはロクスを真っ直ぐ見上げた。
その眼は、全く動じていなかった。それどころか、腰のベルトから短剣を引き抜いた。
ちょ、おいおい。
まさか、ここでやっちまうってことは……。
ハマルを見ると、こちらも剣を握っていた。
洞窟内に、先程とは違った緊張が走る。
……が、ルーカスは短剣を差し出し、ロクスは警戒しながらも、それを受け取った。短剣に刻まれた鷹の紋を見た瞬間――。
彼等は一斉に、頭を地面へ伏せた。
「「「もっ、申し訳御座いません……っ!!」」」
「……っ、まさか、本当にアシュフォード伯爵家のご子息とは……無礼を働きましたこと、深くお詫び申し上げます。責任はすべて私が負います。どうか、この場は……」
大の大人3人がルーカスに土下座して震えている。
責任がどうのと言っている男は、ここのリーダー的な奴なのだろう。
あいつ等が見た鷹の模様は、アシュフォード伯爵家であることを示す証だったのか……カッコいいな、あれ。水戸黄門みたいで。
ルーカスは小さく息を吐いた。
「いや、このような格好をしているのだ。それについて罰を与えるつもりはない」
「さ、左様で御座いますか……この老いぼれには、身に余るお言葉でございます」
「私が言いたいのは、この鉱山のことだ。一日中ずっと掘っているのか?」
「……おっしゃる通りで御座います。この鉱山は、そう簡単な代物ではありませんのじゃ。
奥が深く、掘り尽くすには、何十年もかかりそうな代物ゆえ。少しでも早く終わらせるように、と依頼されておりますのじゃ」
「そうか……状況は分かった。
では、簡潔に言おう。この作業を始めてから、領地内の村に被害が出ている。森で暮らしていた動物達にも、影響が及んでいるようだ」
「動物達……?」
「あぁ、そういやあ……この下の水場に、鹿だの獣だのが集まってきてたんだが、最近は影も見ねぇな」
「はぁ、動物たちの居場所を奪っている自覚を持ってもらわねば困る。食べたものやゴミは池に捨てるな。土に埋めるなりしろ。作業で出た土や石も、下に捨てるのはやめろ」
「はっ、はい!!」
……拍子抜けするほどあっさりだ。
まあ、雇われ主が伯爵家じゃ、逆らえるわけもないか。
「あと……作業は日が昇っている間に限定してもらいたい」
ゲルンは勢いよく、顔を上げた。
「な、なんですと! それは難しいですな。
伯爵様からも、休まず続けるよう言われておりますゆえ。我々がくたばるまでには掘り尽くしておかねばならんのです。今のペースでも、かなり厳しいのですぞ!」
「……私が父に掛け合い、人員を増やす手配をしよう。
だから頼む。明日からは、その条件でお願いできないだろうか?」
私とハマルも、ルーカスにつられて頭を下げた。
正直こんな奴等、殴って大人しく従わせれば良いと思うのだが、ルーカスは納得してもらおうとしている。信頼関係を築くつもりなのだろう。
貴族、それも護衛にまで頭を下げられては、断れる者はいないだろう。
「……お父上に、必ず増員を。
我々は、作業が計画通りに終わりさえすればよいのですから」
ルーカスは短く、しかし確かに礼を言った。
まさに鶴の一声、といったところか。
状況を説明して、改善案を示したうえで交渉を持ちかける。頭を使ったやり方だな。あたしにはできない。見事なものだ。
「……これ、俺が来た意味あったか」
隣でハマルが、ポツリとそう呟いたのだった。




