まだ終わらない
夜になり、村は静まり返っていた。
数人の男が交代で見張りに立ち、少し離れた場所では、グレイ達が焚き火の赤い光に照らされている。
「いやぁ、一気に問題が片付いたな。大変だったけど、やり甲斐はあったわ」
「あぁ、ミリア様も結構やるんだな。
ルーカス様を殴った時は驚いたけど、あの方が執着するのも、なんか分かる気がするよ」
部下の会話は聞こえているはずだが、グレイは輪の端でもたれかかり、目を閉じたままだ。彼が何を考えているのか、その場の誰にも分からなかった。
輪の中にいたハマルも、その一人。
……いや、この男の場合は、自分のことしか考えられないのだ。
「そんなことよりさぁ、シャナさんと一言も話せてないんだけど俺!! 話しかけようとするたびに、雑用任されるしさぁ!!」
「まあ、それだけお前を必要としてるってことだろ」
「帰ってくるなり、これからはがっつかないって宣言してなかったか?」
「そうだった……まあ、必要とされて悪い気は……しなくもねぇ」
この男は、単純な男でもあった。
「今夜も何も起きないといいな」
「もう猪は倒したわけだし、見張り役もいる。俺らが見張る理由もないと思うんだけど、ルーカス様は、ミリア様のことを心配されているからな」
「何かあったら俺等が扱かれるもんな」と、談笑していた時だった。
チリン……と微かに鈴が鳴った。
柵にぶつかれば鈴が大きく鳴るようになっていたが、今のは、聞こえるか聞こえないかほどの小さな音だ。
だが……確かに、何者かがこの村に侵入した合図だった。
「おい、今の――」
「鳴った、よな?」
「むおおおぉぉーーーー!!!」
入口近くにある家畜小屋から、呻き声が響き渡った。
松明を握りしめた護衛達。
そして、グレイが即座に動いた。
見張りが指差した場所へ駆けつけた。
数メートル先の家畜小屋に、複数の影が見えたが、生憎今日は新月だ。
もっと近寄らなければ姿は見えない。
暗闇の中で光るものが、こちらを向いていた。
近付こうと、足を踏み出した瞬間、それはその場を離れていった。目にしたのは、ほんの一瞬のことだった。
松明の火をかざした時、そこにいたのは――。
倒れ伏した牛だった。
地面には血と、引きちぎられた中身が散乱していた。
「うっ、これは……」
「ルーカス様に報告しろ!!」
グレイがそう叫んでいた。
あたしがその騒ぎに気づいたのは、起こされてからだった。
フィオナも連れて行こうとしたが、ルーシィが小さく首を振った。
「家畜が襲われたのです。それを見れば、フィオナは卒倒しかねません」
あたし達はフィオナを寝かせたままにして、ルーカス達の元へと向かった。
村人が集まっているのが見えてきた。その少し先で、ルーカスが護衛達と何か話している。
松明をかざしている様子から、飼っていた牛がやられているのだと分かった。
「ルーカス!」
「ああ、ミリア嬢。見ても平気ですか?」
ルーシィはこちらに近づけないようだ。ハンカチを当て、目を逸らしている。
「……あたしは平気だ。それより、猪がまだいたのか?」
「足跡が違います。それに、村の柵も見に行かせましたが、壊された形跡はありませんでした。
鈴の音も僅かしか鳴っていなかったことを踏まえると、突撃したのではなく、飛び越えて侵入した可能性が高いですね」
「飛び越えて……では、他の獣だと?」
「ええ。それしか考えられません。
解決したと思ったのですが……また振り出しに戻ってしまいましたね」
ルーカスが天を仰いだ。
「帰る予定は中止になってしますが……」
「ああ、分かってる」
このまま帰れるわけもない。
村長の件もあるしな。まあ、ルーカスにそれを話すのは……この件が終わってからでいいだろう。
しかしよく見ると、この家畜……引き裂かれ、食い荒らされている。
敵は肉食ということか。家畜や人間を襲っていたのも、そいつの仕業で間違いないだろう。
「……おかしくないか? 猪や他の獣なんて、今までこの村に出たことはなかったんだろう。それが、なぜここ最近で現れるようになったんだ?」
「それは、私も考えておりました。この村に何か変わったことがあったのではないかと……」
あたしは、ハッとして顔を上げた。
「……おい。獣に襲われ始めたのは、2ヶ月前だと村長が言ってたよな。
鉱石を見つけたのは……いつだ?」
「確か、3ヶ月だと思いますが……」
ルーカスと目を合わせた。
「鉱山を掘り始めてからでしょうか。被害が出るようになったのは」
「……行こう。そこに答えがある」




