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鬼姫と呼ばれた元ヤンが気弱令嬢に転生した件〜令嬢ライフも、意外といいものだな!〜  作者: seika


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獣の正体

 獣の正体……それは猪だった。


 柵の破壊音で侵入に気づいたグレイの部下達が駆けつけ、畑を荒らしていた猪を一匹捕らえたらしい。まだ数匹いたが、一匹しか足止めできなかったと嘆いていた。猪を捕まえるだけ凄いと思うが。


 数分後、周囲の見回りに出ていた部下が戻ってきた。

 報告によれば、柵が壊れていたのは一ヶ所だけで、残りの猪が出ていった形跡はないという。


 あたしが声を掛ける前に、すでに動きがあった。

 ルーカスとグレイは二手に分かれ、皆の手には槍のようなものが握られている。いつの間に作ったんだか。


 そして、残りの猪が見つかった。やはり、逃げずに他の作物を荒らしていたのだ。石を投げ、怒った猪を開けた場所へ誘い出した。



「構え!!」


 その場には、先回りしていた数人が槍を突き出し、待ち構えていた。

 猪の大きさは、男たちの腰の高さにまで達していた。突進されれば大怪我は免れないだろう。だが、村の男達の動きに一切の迷いは無かった。


「いまだ!! 突け!!」


 ルーカスの掛け声と共に、槍を一斉に突き出す。


 何本もの槍が刺されば、立っていられるはずもない。猪はそのまま勢いを失い、倒れた。グレイの方も向こうで同じ方法で倒していた。統率が見事に取れている。訓練の賜物だろう。


 倒した瞬間、男達は歓声を上げ、その表情は自信に満ち溢れていた。数日前、自分達には無理だと弱音を吐いていた姿はどこにも無かった。


 それを見た女達の目が変わっていたのは、言うまでもない。

 子供も増えれば少子化対策にもなるな、などと無粋なことまで頭に浮かんでいた。


 仲間意識も芽生え、連携も出来ていると確認できたし。


「これで、獣問題は解決したな!!」


 だが、倒れている猪を見ているルーカスの顔は晴れやかでは無かった。


「どうした。まさか、こいつらの仲間がまだいるのか?」


「いえ、その可能性は低いでしょう。足跡は三体分しか確認されていません。仮にいたとしても、村の男たちで対処できるはずです」


「じゃあ何でそんな浮かない顔してんだ?」


「……猪が作物を荒らすことは珍しくありませんが、人や家畜を襲う例が、これまでにあったのかと思いまして……」


「んー、凄い勢いだったし、追突された勢いでやられた、とかじゃないか?」


「……そうでしょうか」


 その会話を遮るように、村の奴らが興奮冷めやらぬ様子で、あたし達のもとへ詰めかけてきた。


「ルーカス様、ミリア様、ありがとうございます! おかげで、夜も安心して眠りにつくことができますよ」


「グレイ様も素敵だったわ!」


 夜中に獣が出るということによっぽど怯えていたのか、皆が感謝の言葉を口にした。収拾がついたのは夜明け前、騒ぎが始まってから3時間ほど経っていた。


 戻るとフィオナやルーシィ、シャナに加え、シオンまでもが部屋であたしを待っていた。


「ミリア様! ルーカス様とグレイ様も大活躍だったそうですね! 見にいけなくて残念ですぅ」


「……お怪我など、していませんか?」


「大丈夫だ、あたしは何もしてないしな」


 実際、見てるだけで終わってしまったのだ。



 シャナは手で口を押さえ、静かに涙を流していた。


「本当に、何てお礼を言えばいいか……これで主人も浮かばれます」


 シオンは唇をきつく結び、目を赤くしていた。獣が出たと聞いて泣いたのだろうか。


「ミリア……おれ、分かってた。とうちゃんが、もういないってこと。


 おれがあげた石を、とうちゃんはいつもはなさずにつけてくれてた。それがにぎられてたって聞いて、ケモノにやられたのが、とうちゃんだって……。


 でも、それを口に出したら、ほんとうにいなくなる気がして……」


「シオン……」


 子供のペンダントにしては大きく、不恰好な形をした紫色の石を、ぎゅっと握りしめていた。

 あたしはシオンの前にかがみ込み、銀髪(シルバー)にそっと手を置いた。


「大丈夫だ。お前の中に父さんはちゃんといる。いなくなるわけじゃない」


「うっ……ぐす……」


 シオンはしゃくり上げながら、何度も頷いた。


「ミリア、おれ、がんばってる。だから……村をよくしないと、ゆるさないから……」


 泣きながらも真っ直ぐにあたしを睨むその目。嫌いじゃない。


「約束するよ」


「や、やくそくやぶったらダメなんだからな」


 顔を真っ赤にして、小さい体を震わせていた。

 微笑ましくなって頬が緩んだ。








 猪騒動から数日、穏やかな時間が流れた。

 と言っても、みんなで力を合わせながらの作業は続いている。


 あの時、壊された柵も少し修繕するだけで済んだ。まだ覆い被せていない骨組みから突き破って入ってきたのが幸いだった。池の作業も佳境に入り、汚れた水を流し込んで穴は完全に塞がった。



 そして、兄に使いを出した護衛、ハマルが戻ってきた。

 あたしが注文した品を馬車いっぱいに詰め込んで。


 ハマルは相当疲れていたようで、着いた途端、倒れるようにして寝てしまった。


 あたしは馬車に積まれている中身をチェックした。

 今日でここへ来て2週間くらいだから、逆算すると2日程度で用意出来たのか。おまけに水や食料の追加まで入っている。当主の仕事もこんくらい気合入れれば早く終わらせられると思うのだが。まあいいか。



 こうして、あたしとルーカスの計画は第2フェーズへ突入したのである。

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