思いつきも大事
「この村を立て直すかどうかは、あんた達次第だ」
「……私は、やるわ」
スッと一歩前に出たのは、シャナだった。覚悟を決めた顔をしている。
「この子を安心して暮らせる村にしたいの。何も怯えなくていいように」
「おれも! かあちゃんのお手伝いする!」
シオンも元気よく手を上げた。そんな2人に感化されて、子供がいる家はポツポツと後に続いた。数人があたしの意見に賛同したのだ。様子見や反発心が垣間見える者もいるが……。
充分だ、今はまだ。
「よし、早速やろう!」
まずは男と女子供チームに分けた。
女子供は5人。伸び切った草をかき集め、村を囲う柵に被せていく。飛ばないよう茎でしっかり縛りつける。これが完成すれば、外から村の中は見えにくくなり、獣を足止めする効果も期待できるだろう。人数が少ないから時間がかかるのは仕方ない。
指揮官役にフィオナとルーシィを抜擢した。あたしのイメージする完成形を伝え、実際に手本も見せた。あの2人なら再現率は高いだろうし、あたしの意図も汲み取ってくれた。それに力が必要になったらフィオナがいる。
……柵を壊さないかだけが心配だが。
村の強化はあのチームに任せて、あたしとルーカス、グレイ率いる護衛軍団は、村の男3人を引き連れて池の周りに集まった。
「この池の水を、どうにかするのが先ですが……」
グレイはそう呟いてあたしを見た。
「何も策などないんだろう?」と実際には言ってないが、その目が雄弁に物語っていた。策なら閃けばいいだけだ。
「汚れてる水は……そうだ、無くそう! いい案だろ?」
完全なる思い付きだが、今日はいつもより頭が冴えているんじゃないか?
「深さはかなりあるように思われますが、水はどのように処理されるのでしょうか?
この周辺に大きな池も見当たりませんし、離れた場所まで手作業で運ぶとなれば、かなりの負担になるかと」
ルーカスが池の底を覗いている。さすが、着眼点が鋭い。
「ここに穴を掘って、池の汚い水は埋めたい」
周辺の土は柔らかい。池の近くだからか水分が多いのか、掘るのに苦労することは無さそうだ。あたしは池から少し離れたところの土を踏んで印をつけた。
「なるほど、埋めてしまおうと……具体的にはどのような方法で?」
「……埋めたい」
みんなが呆れているのが分かる。が、そんなすぐに思いつく頭じゃないからな。完成系は描けているのだが。
「――では、縦長に掘るのはどうでしょう。人が3人ほど入れる幅で下へ掘り進めます。完成後、池と穴を繋ぐ通路を掘り、開通させます。
池の水をそちらへ移行し、残った泥も同じ穴に入れ、最終的に何も無かったようすべて塞げば……元通りになります」
「それだ、それ! 採用!!」
あたしが指差すと、ルーカスは嬉しそうに微笑んだ。その光景にグレイだけが、あからさまに不満そうな顔をしていた。そんな男に茶々を入れる。
「ん? なんだ? まさか不満でもあるのか?」
「……いえ、ルーカス様がお決めになったこと。不満などありません」
口ではそう言っていても、苛立ちは隠せていなかった。グレイは相当ルーカスを慕っている。あたしの思いつきに、ルーカスが知恵を貸したのが気に入らないのだろう。
それを口に出せるはずもなく、グレイは無言で作業を始めた。
必要なものをグレイの部下が村に取りに行き、皆で役割を決めて取り掛かる。村の男達も力仕事は流石に慣れているようで、指示の元、テキパキと動いていた。
あたしはルーカスと座り込んで、『池をキレイにしよう作戦!』の次の構造を練っていた。
「ミリア嬢、次の段階に進むには、あの村に無いものが必要になりますが……」
その通りだ。この村にあるものだけでは、あたし達が作ろうとしているものは完成しない。材料を王都から調達しなければならないが……ルーカスの父を説得して援助してもらうのは、現段階では厳しいだろう。
となると、兄に頼むのが無難だろう。(暇そうにしているだろうし)
必要な物を手紙に書き出し、ルーカスの護衛を一人使いに出した。きっと最速で用意してくれるだろう。そんな確信があたしにはあった。




