ルーカス視点
村の者達を集めてくれとミリアは言った。自信に満ちた表情で。
何をしようというのか、まるで予測がつかない。だからだろうか、こんなにも目が離せないのは。
ローゼンベルク伯爵家で行われたお茶会に、ミリアが参加していた事を社交新聞で知って驚いた。これまでは私の傍で小さく縮こまって、同年代の令嬢と軽い挨拶を交わす事さえ拒んでいた。正直、鬱陶しいと思っていた。
だが今のミリアは、これまで会ったどの令嬢よりも輝いている。何からも縛られずに自由で、我が道を行く。そんな言葉が似合う令嬢。
「……皆集まったな」
ミリアがみんなの前に仁王立ちして、村人を見渡した。
急に集められた村人達は少し困惑しているようだった。
「聞け、村人共! 一つだけ言っておく。
お前達を……この村を救うために、全ての事をする気はない」
ミリアは堂々とそう宣言した。
村人の反応はというと……もちろん納得するはずもなく、呆れ果てる者もいた。隣に立っていたグレイも腕を組み、大きく溜め息をついた。
「やっぱり貴族は…」
「あんたら、この村を立て直すために来たんじゃないのか!」
「そうだ、そうだ!」と、村人たちから非難の声が飛んだ。
良くない風向きだ……皆が反発している。このままではミリアに全員分の罵声が浴びせられてしまう。私が前に出て宥めるしか……。
「――人任せにするな」
芯のある声が響いた。踏み出し掛けていた足が、止まった。
「自分の命を他のやつに委ねるな。生きようとするのはいい、仲間と助け合うのも必要なことだ。だが、この状況を変えたいと本気で思うなら、自分で行動を起こせ。
この村に必要なのは改善じゃない。全員が“生き延びる方法を知ること”だ」
「生き延びる……」
ミリアの言葉がスッと入ってきた。
村人達の非難の声はもう聞こえない。彼女が次に何を言うのか、誰もが耳を傾けている。
「まず水だ。飲み水は今まで通り雨水だけに徹底する」
「で、でも……それだけでは、足りないのですが……」
少し躊躇しながら、女性がおずおずと手を上げた。
「村全員で分け合う為に、あの池は貯蓄用の池にする。準備が大変になるが、やれば出来る!!」
全くと言っていいほどノープランだった。
根性論で押し通すつもりなのか。
「次に夜の見張りだ。当番制にして、村を見渡せる場所に二人ずつ配置しておいた方がいい。獣が出たらすぐ分かるようにな。ボケッと寝てないで村を守れ」
「獣と戦えっていうのか! そんなこと、村人の俺たちには無理だ!」
「今までだって、そうしなくても生活出来てたんだ! そこの護衛が倒してくれれば、それでいい話だろ!」
「……そうやって何もしないから、いま狼狽えている。すでに死人も出た。それに、仮にそいつを倒したとしても、別の獣が来たらどうする? その度に人を呼ぶのか? それとも、村が全滅するのをただ見ているつもりか。
ここで生きるのはあたし達じゃない。あんた等だろ」
そうだ。私がなんとかしようと奮闘しても……意味がない。
無知は毒だ。知っているのと、知らないのとでは天と地ほどの差がある。
彼等は今その代償を払っている。
その事に気付かされたのは、私だけじゃない。
グレイも珍しく口をぽかんと開けていた。村人達もまさに目から鱗といった様子だ。誰一人動こうとしない。いや、動けない。
この少女の前では。
圧倒的なリーダー感。ただ指揮を執っているわけでもない、一番位が高いわけでもない。だが、妙に納得してしまう。ついていきたくなる。いや、従いたくなる。
――目の前にいるのは、本当にあの気弱なミリアなのかと疑ってしまう程に。




