ルーカスの悩み
「ふあぁっ……」
寝不足だ。
護衛達と一緒に外に陣取って見張っていたが、
『ミリア様!? 見張りは私どもに任せて、どうかお休みください!』
と、見張りをしていた連中に言われた。
あたしが無視を決め込んでいると、自分たちではどうすることもできないと悟ったのか、護衛の一人がグレイに告げ口した。そして、隣の家から出てきたグレイに首根っこを掴まれ、部屋の中へと放り投げられてしまった。
貴族令嬢相手に容赦ないな。その方が張り合いはあるが。
大人しく寝られるはずもなく、そのまま朝を迎えた。
昨夜は獣の被害はなかったそうだ。
朝食後あたしが向かったのは、あの池。辿り着くとその場に腰を下ろした。相変わらず池は汚いままだった。
あたしには日本にいた頃の記憶がある。
文明だってこっちよりかは進んでいたのだから、使えるアイデアがきっとあるはずだ!
……問題は、あたしの頭が悪いということ。
こういう時、誰か頭のいい奴があたしみたいに転生してこないかと考えてしまう。そんなことはあり得ないと分かっているが、あたし一人じゃ解決策は一つも思い浮かばない。
「ミリア嬢、いつもと違って難しい顔をしていますね」
あたしの隣にルーカスが人一人分の距離を空けて座った。こいつが突然現れるのにも、すっかり慣れてしまった。
「別に。解決策を考えているだけだ」
「解決策……村の者達は、この状況下で暮らしていたのですね。我慢していたのか、諦めていたのか。自分の生活がいかに恵まれていたかを、目の当たりにした気分ですよ。
ミリア嬢はこの村をご覧になって何か感じられましたか?」
「あたしか? あたしも……そう思う。
だが、そこで生まれ育っていく以上は生きる為に動かないとな」
「……最もですね」
「まあ何も心配なく、安心して暮らしていけるように手は貸す」
「それでこそ、私のミリア嬢です」
「お前のものになった覚えはない。虫唾が走る」
「はは、手厳しい」
あたしに罵倒されて笑っている。
が、通常運転なので放っておく。
「ルーカス、お前も協力しろ。頭はいいんだろ?」
「自慢する訳ではありませんが……伯爵家の人間として、恥ずかしくない程度の知識は身につけてきたつもりです。ですが、このような事態への対処までは学んでおらず……有効な解決策も思い浮かばない。情けない限りです」
どうしようもなさそうに笑った。
「大丈夫だ。あたしがルーカスの足りないところを補う。だから知識を貸せ」
「……以前、ミリア嬢は『ルーカス様の側にいて恥ずかしくないよう、完璧になります』とおっしゃっていました」
ルーカスは小さく息を吐いた。
「私にはそれが負担でした。完璧だと見せかけるのが上手いだけなので。だから……今の貴方といると、息がしやすい」
「出来ないことは、無理だって言えばいい話だ」
「言えれば……いいのですが」
ルーカスは困ったように笑った。
自覚はしていないようだが、不器用すぎる。
こうして見ると年相応の悩みを抱えた普通の男の子だ。だが、悩みを抱えること自体が許されない立場なのだろう。迷いなく決断していくことを求められる。愚痴や悩みを誰かに聞いてもらう事など、考えたこともないような口ぶりだった。
「何かあったら言え。話だけなら聞いてやらんことも無い」
ルーカスは嬉しそうに微笑んだ。今度はふにゃっと緩みきった顔で。




