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鬼姫と呼ばれた元ヤンが気弱令嬢に転生した件〜令嬢ライフも、意外といいものだな!〜  作者: seika


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18/30

最初の被害者は

「……つい先月の出来事で御座います。

 村の若い男が、夜に家を抜け出したそうでしてな。朝になりますと、畑の端で手足が引き裂かれた状態で見つかりまして。実に惨い有様でしたなぁ」


「ひいぁぁぁ!!! 私こういうのダメなんですぅ!! 早く帰りましょうよぅ!!」


 びええ! と大泣きしているフィオナをルーシィが慰める。

 側から見れば、姉妹に見えるな。

 だが、フィオナの背中を摩るルーシィの手は少しだけ震えていた。


 小さな村がこれほどの問題を抱えているとは……。

 逆によく、村の奴らがこれだけ残っていたものだ。

 全部合わせても、15人ほどしかいないだろう。

 放っておけば、この村から誰もいなくなるのも時間の問題だ。



「人を喰らう獣、か……」


「私共と致しましては、腹を空かせた熊の仕業では無いかと思うのですが」


「くっ、熊ですかぁ!!?」


 フィオナが発狂している。

 熊がいる、と言うことは、生き物は向こうの世界と変わり無いのだろう。


「いや、恐らくだが、熊の類いでは無いだろう」


「それはなぜですかな?」


「亡くなった村人と家畜の状態だ」


「……と言いますと?」


 村長は、ルーカスの言葉に困惑したように首を傾げた。



「死体が、置き去りにされていたからだろう」


 あたしの発言に皆の視線が集まる。

 ルーカスの眉が、ピクリと動いた。


「熊は、人間の死体を自分の巣穴に持ち帰り、何日かに分けて喰う。しかも、人の味を覚えたら、止まる事はない。ここの村人全員が既に喰われていても可笑しくない」


 だが、襲われたのは1人だけ。

 熊の可能性は消える。



 周りが静かになった。誰も発言していない。

 不思議に思って顔を上げると、皆が目を丸くしている。

 村長さえも。


「なんだよ、急に黙るな」


「ミリア嬢は、どこでそのような知識を得たのですか」


 どこでって。


「幼少期からお仕えしている身として申し上げますが、ミリア様はそのような獰猛な生き物を、見るのはもちろん、話を聞くことさえ嫌がっておられたと、記憶しておりますが」



 ……どうすんだこの空気。

 お嬢様……ってか、ミリアが熊の習性を知ってる筈ないよな。

 何も考えずに話してしまった。


「そ、それはアレだ! 知らないままじゃ良くないと思ってな、図書館で読んだ本で覚えたんだ!」


 皆の先ほどまでの驚いた表情は安堵に変わった。


「なーんだ、そうだったんですか! ミリア様、勉強熱心ですねぇ」


「でしたら、先にマナーを覚えられるのが宜しいかと」


 最後の言葉は聞かなかったことにしよう。


 実際なんでこんなことを知っているかって?

 あたしはカッコイイ物が好きだ! 

 熊とか鮫は、王道のかっこよさ。

 もちろん、それ関連の映画やドキュメンタリーは欠かさず観ていた。そりゃあ、自然と覚えるってもんだ!




 ルーカスが場を整えるように、軽く咳払いをした。


「ミリア嬢の言った通り、私も別の存在だと考えている。だが、畑や家畜も襲うとなると少し違和感がある。今夜は見張りを立て、確かめることにしよう」


 綺麗に纏まった。が、

 ルーカスの護衛の何人かの表情が曇ったのが見えた。

 正体不明って、恐ろしいよな。


「グレイ、お前が指揮を取れ」


「ハッ!!」


 指揮官を命じられたのは、いつもルーカスの側にいる護衛だ。

 あたしがルーカスを殴った時、真っ先に剣を向けてきた男でもある。

 皆のまとめ役、というわけか。

 よほど信用されているのだろう。


 グレイと呼ばれた男は、ルーカスよりも頭一つ分背が高かった。

 見た目筋肉マッチョだ。

 鎧を着ていても、体格の良さが伺える。


 ふと目があった瞬間。


 ……睨まれた。

 ルーカスの周囲を警戒している。

 あたしに対しては、敵意も含まれているのだろう。

 誰かが動くたび、グレイの容赦ない眼光が飛ぶ。

 味方でさえ、身動きが取りづらそうだった。


 ルーカスがこちらを振り向いた。


「ミリア嬢達は、向こうの家で寝泊まりしてください。私たちは隣の家にいるので、何かあったら呼ぶように。見張は二人付けておきます」


 ルーカスが指差した先には、髪を一纏めにした女の人がいた。

 こちらに向いて、丁寧にお辞儀をした。

 その足元には小さな男の子。

 村に来た時、最初に目に入った親子だった。


「あの、こちらへ……」


 ルーカス達と別れ、その親子について行った。

 着いた先は、どうにか雨風を凌いでるって感じの家だ。

 台風でも来たら吹っ飛ばされるのは確実だな。


「き、貴族様が泊まるような場所ではありませんが……少しの間だけ辛抱ください」


 女は、あたしの顔色を伺いながらそう聞いてきた。

 子供はキッと、こちらを睨んだ。


「いや、寝床を貸してくれるだけありがたい。すまないが、世話になるぞ」


 貴族からお礼を言われたのが意外だったのか、分かりやすく驚いている。


「それと水だ。食料は少ししかないが」


 屋敷から用意してきた物はまだ残っている。

 世話になるのだから、ケチらずにこれくらいは出さないとな。


「あ、ありがとうございます……」


 女は深くお礼をし、まずは子供に与えた。


「……おいしい。かあちゃんもたべてみてよ」


「ええ、美味しいね」


 腹を満たすための干し肉だったが、この親子には美味しかったようだ。

 その光景を見て、フィオナは涙ぐんでいた。


「この家には、2人だけか?」


「……はい。主人は1月程前、獣に……」


「すると、村長が話していた、被害にあった若い男というのは……」


 女は小さく頷いた。


「私とこの子は家にいました。主人は、腹を空かせた私たちに何か食べさせようと、夜中にも関わらず外に出て、食料を探しに行ってしまったせいで……」


 彼女は口を押さえ、堪えきれずに涙を浮かべていた。その時、あたしのズボンの裾が何かに引っ張られた。


「とうちゃんはっ、いきてるんだっ! 


 おれとかあちゃんの、しょくりょうをさがしてて……すぐにもってかえってくるんだ!」


 涙目になりながら反論している。その子供の姿に、流石に胸にくるものがあった。


 あたしだけじゃない。この場にいた全員が言葉を失った。

 フィオナはもちろん、ルーシィもだ。

 この問題は、何がなんでも解決しないといけない。

 皆の意見が一致した瞬間だった。

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