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鬼姫と呼ばれた元ヤンが気弱令嬢に転生した件〜令嬢ライフも、意外といいものだな!〜  作者: seika


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17/30

問題が多すぎる件

 やっと村が見えてきた。

 出発して約5日。長い旅だった。

 村の名はモスア村と言うらしい。

 想像よりずっと小さな村だ。

 家が疎らに建っているが20軒あるか、というところだ。


 ルーカスが馬車から降りて、あたしの手を引いた。

 あまりに自然な動きで、迷わず手を掴んでしまった。


 辺りを見渡すが目立ったものは無く、木の枝で人工的に組まれた柵が、村を囲むように設けられていた。高さは、せいぜいあたしの腰くらいだ。一体何の意味があるのだろうか。


 村の奴等が集まって、あたし達を出迎えに来たみたいだ。


「やっぱり来たぞ……」


「どうせ何もしねぇくせに、また威張るだけ威張って帰るんだろ」


 ん? 歓迎ムードではないようだぞ。


「……すまない、村の者達は貴族を快く思っていない。失礼な言動を取ることもあるかもしれないが、どうか許してほしい」


 またしても頭を下げるルーカス。

 失礼なこと? 上等じゃないか。

 貴族のネチネチ攻撃に飽きていたところだ。

 喧嘩ぐらい、買ってやろう。


 村人の中には幼い子供の姿もあった。

 怯えて母親にしがみ付いている。

 余所者が押し掛けてきたんだ、無理もない。

 よく見るとガリガリの奴らが多いな。

 ルーカスの父がこの村に支援をしていたんじゃなかったか?


 食べ物は寄付していなかったとか?

 服もボロボロで何年も着ているみたいだ。

 洗ったりもしてないのか?


「これはこれは、ルーカス様。いやぁ、またお顔を拝見できるとは、皆も喜んでおりますぞ。

 

 して、その……次の物資は、いつ頃になりますかな?」


 ニヤニヤした笑顔で近づいてくる60歳くらいの胡散臭そうな男。


「ああ、村長。そのことで詫びなければならない。

 そちらの支援は打ち切られた。なので私がこれからの対処法を考える為、こちらに再び出向いたのだ」


「なっ、なんですと!! それは、いやはや……食料を頂けぬとなれば、村の者は餓死してしまいますぞ」


 見たところ畑はある。自給自足はしているようだが、作物が全然育っていない。あたしに農業の知識はないが、一般的に見て、この状況は壊滅的だろう。


「おい、水はどこにある」


 村長にそう尋ねると、誰だこの小娘は。みたいな顔をした。


「こちらは、ミリア・アッシュガード男爵家令嬢。私の婚約者だ」


「なんとっ、貴族の方でしたか! ルーカス様の婚約者で……それはそれは」


 村長は上から下まで値踏みするように、あたしに視線をやった。

 今回ドレスではない。

 平民が着るような軽装で来たから、貴族だとは思わなかったのだろう。

 だが、露骨すぎる。急に態度を変えやがった。

 裏があるジジイだ。


「で、水はどこか聞いてるんだが」


「おお、これは申し訳ない。ささ、私めがご案内いたしますゆえ、ついて来てくだされ」


 胡散臭い割に、やけにキビキビ動くな。

 あたし達は村長の後ろに続いた。







「……これは、どうしようもないな」


 案内された場所には、大きめの泉が姿を現した。

 そこに広がっていたのは、綺麗な池ではなく、まるでドブのような水たまりだった。


 命の繋ぎであるはずの水が……泥で覆われている。

 ゴミも浮いているし、魚も住めるような状態では無いのは、一目見て分かった。とてもじゃないが、使いようがない。


「池に溜まった水はここしかないのですが、なにぶん汚れておりまして……」



 あたし達は池を一周見て回った。

 底が見えない。この中に落ちたら見つからなさそうだ。

 ルーカスから詳しい話を聞くと、水が汚染されている原因は二つあった。

 一つ目は鉱山だ。上流にある鉱山から流れ出た泥が、雨などによってここまで運ばれてくる。二つ目は、川の水が流れ込まず、ほとんど動きのない溜め池になっていることだ。その為、長期にわたり水の入れ替えが出来ていない。


「よくもまあ、ここまで放置したものだ」


 ルーカスが溜め息をついた。

 全くもって同感だ。


「し、仕方なかったので御座います。ここには滅多に外から人も訪れませぬゆえ、私共の知識や労力ではどうにもならず、気づけば長年の歳月が経ってしまったのです」


「飲み水はどうしてるんだ?」


「雨水を溜め、それを少しずつ使っておりますぞ」


「……雨が降らなければ?」


「飢えや渇きに耐えきれぬ者は、池の水を飲む者もおりますな。大抵は腹を壊し、運が悪ければ、命を落とす者も見て参りましたなぁ」


 あたし達は言葉を失った。

 想像以上にヤバい状況だな。


「とりあえず、ほかの場所も案内して貰おう。

 私は一通り確認しましたが、ミリア嬢にも見て頂きたい」


 ルーカスの言葉に、村長はまたしても先陣を切って歩きだした。





 そして日が沈み始め、あたしの足元に影が落ち始めた。

 大体の問題点は把握した。

 一番大事なのは水と食料の確保だ。



 そして……もう一つ。

 正体不明の獣の存在。

 それは、不定期でこの村に現れるようになったらしい。


 対策は、村の者たちで行った。

 獣を防ぐ為、簡易な柵を建てたのだ。

 そう、村の周囲を取り囲んでいた、あのボロい柵である。


 だが、それはほとんど意味をなさなかったらしい。

 何度も破壊され、そのたびに修繕されてきたという。

 まあ、あれに怯えて逃げ出す獣など、いるはずもない。


 獣は夜の闇に紛れて活動し、畑を荒らす。

 困ったことに、誰一人として、その姿を見た者はいないそうだ。



 そして翌朝。

 飼っている家畜が死体となって転がっている。

 運が良ければ原型は残っているが、悪ければ、そこらじゅうに食い荒らされているという。


 ……だが、最も恐ろしいのは、それが家畜だけに留まらないことだ。

 人間もまた、同じ目に遭っているらしい。

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