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鬼姫と呼ばれた元ヤンが気弱令嬢に転生した件〜令嬢ライフも、意外といいものだな!〜  作者: seika


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14/30

事故発生

 初めて参加したお茶会は、こうして終わりを告げた。



 ――かと思われた。


 どこからか、ミシッという音が聞こえた。


「……?」


 周りを見渡すが、庭園は穏やかでなんの変化もない。

 気のせいだろう。


 ミシ……ミシミシッ。


「な、なんの音ですの……?」


 これはみんなに聞こえたようで、令嬢達はざわつき始めた。


 あたしの視線は、イザベラの斜め後にあるものに引き寄せられた。

 さっきまで、何事もない顔でそこに立っていた石造りの馬。

 その足元に、細い亀裂が走っている。

 そのことに誰も気付いていない。


 イザベラが執事に何か指示を出そうと、体を横に向けた。


 その瞬間。

 イザベラの元に、大きな影が落ちた。




 ドシャアァァァン!!!


 粉塵が舞い上がり、辺りが白く染まった。

 馬がその原型をなくし、足元に破片が散らばっている。


「けほっ! 何が起きたの……」

「お嬢様っ!!!」


 叫び声と咳き込む声が重複するなか、屋敷の者達がイザベラがいた場所に駆け寄った。そこにいたのは、イザベラを抱き寄せたまま、寝っ転がっているあたしだった。


「……無事か?」


 あたしがゆっくり起き上がってそう聞くと、イザベラは小さく肩を揺らし、戸惑った表情であたしを見上げた。


「……ええ。怪我は……ありませんわ」



「そうか」


 あたしはようやく大きく息を吐いた。

 どうやら呼吸するのを忘れていたらしい。


「あ、あの、もう離していただけますか……?」


 掴んでいる腕に力が入っていたことを忘れ、手を離した。あたしが掴んだイザベラの白い腕に、うっすら跡が残っている。


「わ、悪い……」


「いっ、イザベラ様っ!! すぐに手当を……」


 さっきまでの余裕はなくなり、慌てている執事。

 令嬢達は呆然とした顔でこちらを見ていた。

 どうやら他の令嬢は無事のようだ。

 イザベラの近くで待機していた騎士があたしに近づいてきた。


「イザベラ様にお怪我をさせるとは……! これは、罪に問われるぞ!!」


 罪か? 跡をつけたことは悪かったと思うが、それとこれとは話が違うだろう。

 あたしがそいつに言い返そうと、口を開いた時。


「……待ちなさい」


 あたしを隠すように、イザベラがゆっくりと間に入った。


「あなたは解雇よ」


「はい?」


 クビを言い渡された騎士はポカンとしている。


「な、何を仰るのですか……お嬢様がお怪我をされたのは、この令嬢のせいで――」


「黙りなさい」


「あなたの務めは何? 私を守ることではなくて?

 けれど実際に身を挺してくださったのは、ミリア嬢でしたわ。それを詫びることもせず、この方を責め立てるなど……アッシュフォード家の名を汚す行いですわ」


「そ、そんな……」


「執事長。この者と、管理責任者も含め、全員解雇なさい。今日中によ、いいわね?」


「承知いたしました」


 深々と一礼すると、執事は騎士を連れて屋敷へと戻っていった。


 あっという間の対応だ。

 さすが、伯爵令嬢といったところだろうか。


「ミリア嬢。このたびは、我が家の不手際で不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。そして、私の命を助けてくださったこと……心より感謝いたしますわ」


 上品にドレスの裾をつまんで、イザベラは優雅に頭を下げた。

 イザベラのドレスはボロボロだが、彼女の心は美しいのだろう。


「この御恩は忘れませんわ。私にできることがありましたら、何なりと、お申し付けください」


 ん?

 なんだこの展開は……。

 なんか違和感あるな。

 まあ、なんでもと言っているんだから、聞きづらかったことでも聞こう。


「わからないことが一つある。


 イザベラ……様とあたしは、どんな関係なんだ」


 その言葉を聞いた途端。

 申し訳なさそうにしていたイザベラの目が、三日月のように細められた。


「そうですわね、お友達……かしら」


 ふふっと楽しそうに笑った。

 イザベラから発せられた「友達」という言葉

 その違和感だけが残った、お茶会だった。


 そして、この事件が明日の社交新聞を賑わせることを、ミリアはまだ知らない。

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