一件落着
馬車の中では、ルーカスと兄が向かい側。
こちら側にあたしとルーシィ、フィオナの順で座った。
三人は狭いけど我慢だ。
あいつの隣よりはまだマシだろう。
そう思ったのだが……。
ルーカスが徐に自分のジャケットを脱ぎ出した。
警戒していたあたしは、その動きに真っ先に気付く。
「な、なにしてんだっ! お前!」
ふわりとあたしの膝にルーカスのジャケットが被せられた。
フィオナが「きゃーー!」と声を上げる。
「今日は、随分と奇抜な格好をしてるんですね。誰に見せるおつもりで?」
「だっ、誰に見せるとかじゃない! あたしの勝手だろ!」
ルーカスはふーんと納得していないようにあたしを見ている。
その視線にいたたまれなくなり、あたしは腕を組んだ。
「……そういうお前は、なんであたし達がいる場所が分かったんだ。教えてもないのに!」
「ああ、そのことですか。ミリア嬢が今どこにいて、何をしているのか……把握していて当然でしょう?」
さも当たり前な口ぶりに、さっきの盗賊よりもルーカスの方が恐ろしく見える。フィオナなんか「ひっ!」と小さく悲鳴を上げ、ルーシィに抱きついた。そのルーシィでさえもフィオナを抱き寄せながら、ルーカスを見る顔が引き攣っている。
兄はというと……涙ぐんで感激していた。
恐ろしいと思ってないのかよ。
空気読め、裏切り者め。
兄に気付かれないように悪意に満ちた顔で盛大に睨んでおいた。
そしてそして。
なんやかんやあったピクニックは終わりを告げ、無事に(?)屋敷へ戻ることができた。
お風呂から出て、寝る準備をしていた時。
兄が部屋に入ってきた。
「今日は怖い思いをしたね。幸い、フィオナ達に怪我はなかったそうだよ」
「……そうか」
落ち着いた兄の声。
さっきまでの騒ぎが嘘みたいだ。
「それでさ……。
僕、感動しちゃったよ。ルーカス様がミリアのことをあんなに想ってくれていたなんて」
あれをそう解釈する兄も、だいぶイカれてる。
「実はね、ミリアが目覚めた日からずっと考えてたんだ。なんでそんなに変わってしまったのかって……」
ん?
「だけど、今日やっと分かったよ」
なんだと?
これはやばい展開だ。
あたしが本物のミリアじゃないことがバレて――。
「ルーカス様に好かれる作戦でしょ!」
……は?
「は?」
「あはは、やっぱり。ミリアは昔からルーカス様の気を引こうとしてたもんね。その為にマナーを覚えたり、政治や勉学に励んだり……本当に人一倍、努力してた」
懐かしむように話す兄の顔は、やけに嬉しそうだった。
「まあ、その努力がちょっとズレちゃって、ルーカス様の一日のスケジュールを把握して、屋敷に張り付いて望遠鏡で覗いてたこともあったけど」
なんっだそれ!
いい話かと思ったら騙された。
ただのストーカーじゃないか。
そんで懐かしむように言うな。
保護者なんだから止めろ。
「そんな健気な想いも届かずに、ルーカス様はミリアのことを邪険に扱いだして……」
当たり前だろ、あたしでもそうするわ。
ミリアは大人しい子だと思ってたのに、とんでもない地雷だったわけだ。
ルーカスに同情する。
「でも! 以前と真逆の性格になるって作戦で見事! ルーカス様を振り向かせたんだね!! マナーも勉強も出来ないフリまでして……確かに効果あったね!!」
「さすが僕の自慢の妹!」
満面の笑みの兄。
……えーっと。
「そ、そうだ! さすが兄、よくぞ見抜いた!」
「いやー、ミリアには敵わないなぁ」
あたしも兄の発想力には敵わない。
だが。
これで一件落着だ。
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