盗賊団のボス
ミリア様に家族だと言ってもらえた。
それだけで、私の秘密なんてどうでもよく思えた。
私は昔から可愛い女の子に憧れていた。物語に出てくるお姫様は可愛くて、か弱くて、悪者から王子様に助けてもらう存在だ。私もお姫様になるんだ! と両親に宣言したくらいだ。
でも、現実は甘くなかった。
生まれが平民の私は、どう足掻いてもお姫様にはなれない。
だからメイドになった。華やかな世界に足を踏み入れたかった。可愛いメイド服は着られるし、平民では身につけられない礼儀作法も教えてもらえる。愛嬌の良さのおかげか運よく採用され、働かせてもらえるようになった。
まだ8歳だったミリア様を一目見て、思った。
――この方こそ「私の理想のお姫様だ」と。
ミリア様は可愛くて、優しくて、そして重いものを持てない“か弱さ”を持っていた。守ってあげたくなる、まさにお姫様。私はミリア様みたいになりたくて、仕草や立ち居振る舞いまでこっそり真似をした。
けれど、私には生まれつきの欠点があった。
他の人より……力が強いことだ。
少し力を入れただけで、持ったものを壊してしまう。
だから私は、それを自分だけの秘密にした。
ルーシィさんにも内緒で、誰にも知られないように。
こんな力、使い道なんてない。
何より可愛くない。
ミリア様に知られてしまったら、私のイメージが壊れて幻滅されてしまう気がして……それが怖かった。
でも――
最近のミリア様を見て思った。
かっこいいお姫様も、最高に素敵なんだと。
最高だ、フィオナ。
強いメイドとか好感度爆上がりだろう。
誰に……とは言わないが。
あたしは周囲をざっと見渡した。
まだ数人残っていたが、これならすぐ片付くだろう。
そう高をくくっていたのがいけなかった。
赤鴉があまりにあっけなく倒されたから油断していたのもあるが、この世界で平和に過ごしていたせいで、あたしの危機感が鈍っていたのかもしれない。
組織を相手にするってことは、常に複数の事態を予想しなければならなかった。危険なことをしでかしている連中なら、なおさらだ。例えば赤鴉をまとめるボス、つまり司令塔が存在する可能性を――。
「……何してんだ、テメェら」
「ミリア様……」
突如現れた赤髪の男。
ルーシィが……人質に取られた。
しかも、拳銃を持っている。
赤髪はルーシィの両手を背後から拘束し、こめかみに銃口を押し当てた。
「テメェら女相手にこのザマか。ろくに仕事もできねぇのか。あ?」
「おっ、お頭!! すみやせん!!」
怯えたように頭を下げる下っ端。お頭と呼ばれた男は、軽装には似合わない豪華な指輪やブレスレットをしていた。概ね貴族から奪った品だろう。いま姿を現したということは、さっきまで高みの見物でもしていたのか。
あたしは、じり……とそいつに気付かれないように、少しずつ距離を縮める。
「おっと、嬢ちゃん。さっきはうちのもんが世話になったな。お礼、せんとな?」
ルーシィに突きつけられていた銃はカチリ、と引き金が引かれ撃鉄が起きる。
さっきの奴等とは違う。
本気で撃ちそうだ。
完全に……詰んだ。
「さぁ、どうする?」
「――その手を、離せ」
その時。
突如として現れたルーカスによって、その場が一変した。
「がっ……!?」
赤髪の腕が捻り上げられた。
銃を落とし、男の手がルーシィから離れる。
ルーカスの容赦ない回し蹴りがボスの頭に直撃した。
「なにっ!? お頭!!!」
残りの奴等は狼狽えた。
だが、遅い。
ルーカスの背後から見慣れた護衛達が現れ、見事な連携で残りの奴等を次々に制圧していった。気付いた時には、赤鴉は全員縄で縛り上げられていた。
「全員拘束、完了しました!」
護衛の一人がビシッと敬礼して、ルーカスに報告した。
「王都の詰所に引き渡す。あれで連れていけ」
あたし達が乗ってきた馬車に盗賊集団は放り投げられた。うちが手配した馬車を勝手に連行用に使いやがって。
「あれには乗りたくないでしょう。私の馬車にご案内します」
まあ、こいつの意見には賛成だが。
「お前、強かったのか」
「伯爵家ですから。当主になる為、小さい頃から嫌というほど訓練させられました」
「……へぇ」
そういうものなのか?
うちの兄はずっと怯えていて、一人も倒せそうになかったが。
ルーカスは考え事をしているあたしの耳元で囁いた。
「言ったはずです。私が命を懸けて、あなたをお守りすると」
「なっ!!!」
「あはは、ミリア嬢の拳はもう見切りましたよ。殴られるのもたまには良いでしょうけどね」
怒りと羞恥心で顔が熱くなっているあたしを見てルーカスは微笑んだ。
「とりあえずこちらへ。話は中でしましょう」
不覚だが、ルーカスの馬車に便乗することになってしまった。




