062 ねこちゃん印と魔術学院(2)
本日2回目の投稿です。
トイレを連想させる表現があります。食事中、苦手な方はご注意ください。
三十四話(2)
ああそうだった。ランタナさんにエルが作った試作品渡す約束していたんだった。
それにしても、ランタナさんは、どうやって今回のこと知ったんだろう。不思議だ。
エルの魔道具は、結局同時進行で工場建設をする事になった。ランタナさんが試作品を行政区の町役場に持ち込んだのだ。
その効果に驚いた行政職のみなさんが、あれよあれよという間に工場建設と量産化の計画を立てて実行に移してしまった。
この世界、いや、この町の行政官は、本当に優秀な人たちだ。
来年の4月には、どちらの工場もフル生産に入るらしい。
紙の原料となる魔力草集めも、今後E級、D級冒険者の安全な仕事になりそうだ。これは、喜ばしいことだ。
1月に入った。1月に入ると、本当に雪が降り続いた。10日ほど降り続き、積雪は2メートル程になった。
なるほど、これでは行政の仕事が止まるわけだ。
行政職は、12月末から3月末まで、母国に帰ってゆっくりするらしい。単身赴任の出向者も多いので、まあ、長い冬休みだ。
12月の末には、出国ラッシュ、いや出町ラッシュが起きた。
案内人と冒険者達は、出向者達の母国までの護衛や輸送の仕事で大忙しだった。
そんなわけで、人口の3分の1がいなくなった入り口の町はとても静かになった。
「なんで、こんなに頻繁に帰ってこられるんですか、ランダナさん、ナツメさん。外は大雪ですよね」
私はと言うと、冬の間はカボーグ家にお世話になることにした。出向者用住宅は、雪に埋もれているし誰もいないし、不便だからだ。
また、猫に会いたい、カボーグ家の女性陣達の圧に負けたからだ。
「何でって言われてもね、S級案内人に雪は関係ないからね」
ハイ、空からやってきますからね。ナツメさん。
「愚問だ、サクラがいる場所が私の場所だ」
身体強化して雪掻き分けてきましたよね。ランダナさん。
「カナデ君、あの○○○洗浄機、快適だね。4月から増産始まるんだろ。100個ほど注文しておいたよ」
お買い上げありがとうございます。
「パチン」とランダナさんが指を鳴らした。
「ん、合図はランダナか。めずらしいな。サクラがいる場所で自分から入れ替わるなんて」
ランタナさんに人格が入れ替わった。
「ああ、なるほど、このメンバーなら、私が適任だ」
「ランタナさん。今回は、いろいろアドバイスありがとうございました」
私は、頭を下げる。
「私は、切っ掛けを作っただけだよ。それに、製品がよくなければ行政職は動かないよ」
うなずく私。
「それよりも、本当にアイデア料は徴収しないのかい。ちゃんと取れば、莫大な利益を生むよ」
ランタナさんが不思議そうに聞いてきた。
「はい、アイデアっていっても、こんなの作れないーっていう程度です。試行錯誤して作ったのは職人ですから」
私がそう言うと、
「いや、その発想ができるできないが、大事なんだと私も思うよ」
ナツメさんも、腑に落ちないようだ。
ぶっちゃけ、私のアイデアではない。前世の誰かのアイデアだ。とてもじゃないけど、威張れない。
「実は、もっと、あくどいことを考えているんです」
私が悪い顔でそう言うと、
「ほう、どんな悪巧みだい、興味深いね」
ナツメさんが食いついた。
「私にも聞かせておくれ、その悪巧みを」
ランタナさんも食いついた。
夜が更ける。男3人の悪巧み談義が盛り上がる。
その話は、突然だった。
「え、私が留学ですか」
サクラさんが本当にびっくりしている。なぜなら、オロオロしているからだ。
「ああ、ナツメが持ってきた魔法学院からの書簡に、サクラをぜひ受け入れたいと書いてあったんだ」
ナツメさんもランタナさんも、その学院を卒業している。サクラさんにその話が来ても、確かに不思議ではないな。
「でも、兄様達は、2周期の時でしたよね」
ん、2周期って何だろう。
私の頭の上に?マークがあるのが見えたようで、カルミア様が説明してくれた。
「エルフは、人族よりも3倍ほど寿命が長いのは知っているよね」
「はい、人族がだいた100年から150年です。だから、300年から450年位の寿命ですよね」
この世界の人族は寿命が長い。たぶん、魔素が関係している。
「そう、だから、1周期が50歳頃まででその間にナツメは案内人1級になり、100歳までの2周期目で、魔法学院卒業と案内人S級になったんだよ。そして、今の3周期目で冒険者A級になったというわけさ」
なるほど、一度にではなく、時間をおいて少しずつランクを上げていったわけだ。通りで全てが完璧なわけだ。納得だ。
ん、ということは、ナツメさんは少なくとも150歳は超えているということだ。
えっ、サクラさんは16歳。つまり、130歳以上年が離れているということか。
ランダナさんも同じぐらいなら、重度のシスコンになるわけだ。
「ナツメさん達の実力が高い理由がよく分かりました」
満足そうにうなずくカルミア様。で、あなたは何歳なんですか?気になります。
「話を戻すよ」
う、残念。
「実はね、この推薦留学を受けるには理由が3つあるんだよ」
カルミア様が3本の指を立てた。
「1つ目は、学院側の事情だよ。来年度の入学生に、5つの国の王太子が集まるんだ。極めてめずらしいことだよ」
一呼吸置いてから、
「そして、その婚約者も一緒に入学してくる」
嫌な予感しかしない。この後の話を聞くのが怖い。
「つまり、学園が荒れるんだよ」
はい、やっぱりです。セルビギティウムの名で仲裁しろってことですね。
「セルビギティウムの名を借りたいんだよ。学院が……」
そう言って、ひとつため息をついた。
「2つ目だよ。これは、カナデ君も関係する」
ん、何ですかー。
「王太子と仲良くなっておけば、今後、10層への試練を達成するときに味方になってくれる」
なるほど。その通りだ。恩を売っておけということですね。
「3つ目だよ。これはサクラとカボーグ家の事情だ」
何だろう。
「すまなかった、サクラ。おまえの学生生活を3ヶ月で終わらせてしまった。罪滅ぼしと言うことではないが、10層の試練の前に、学生生活を楽しんできなさい。カナデ君も一緒に行ってもらうから、何の心配もないよ」
え、私が行くの決定ですか。というか、駄目だと言われても行くつもりではいましたが……。
「カナデ君、サクラのことを頼むよ」
「はい、もちろんです。それに、その王太子達にセルビギティウムの名の格の違いを見せつけてやりますよ」
私がそう断言すると、
「お父さん、カナデさん。ありがとう。嬉しいです。わたし、学生になります」
そう言って、サクラさんは、笑いながら涙をたくさん流していた。
「なあ、カナデ、なんで俺らもその魔法学院に行かなければ行けないんだ」
イグニスが、心底わからないという顔だ。
「護衛だよ護衛。俺の他に、シンティとエルも行くことになったから、護衛が足りないんだよ」
私がそう言うと、
「A級への指名依頼、第一号」
クエバさんが、指を一本立てた。
そう、風の森パーティーは、ツバキさん、ロギスさん、ランタナさん達の推薦による審査の結果、無事、A級冒険者に昇格したのだ。
私とサクラさんの留学のことを聞きつけたパーソンさんが、良い機会だからとエルとシンティも留学できるように学園に掛け合った。
学園も、サクラさんに無茶なお願いをしていることもあり、友人枠として快く了承してくれたらしい。
私の扱いは、サクラシア様の正式なパートナーとしての役割と、姫を守るナイトとしての仕事も兼務するらしい。
シンティは、サクラシア様の側近みたいな役割をするとのことだ。
エルは、パーソンさんの知り合いの研究室に入るとのことだ。
学院の入学式は4月末になる。それまでにやって置かなければならないことがたくさんある。
まず、一番に必要なのが、芸術分野の基礎知識だ。ツバキさんもそうだったが、サクラさんも、和音すら知らない偏った知識であることが判明したからだ。
幸いなことに、この入り口の町には、母国に居づらくなり避難してきた芸術家達がたくさん居住している。
サクラさんは、その人達からみっちりと個別の英才教育を受ける事になった。
元々スペックは高いサクラさんなので、あっという間に、芸術家達の知識と高いスキルを身につけてしまった。
「サクラシア様、合格です。これ以上は私達では教えることができません。サクラシア様としての個性を磨いてください」
「カナデ君も付き合ってくれてありがとう。でも、なんて言うか、カナデ君の芸術スキルも知識も、私達とは違う世界のもののように感じるよ。不思議だね」
いえ、その通りです。すみません。
「ダンスは、学院でも必ず必要になるから、しっかり身につけておくと良いよ。ダンスが上手だと、一目置かれるからね。また、その反対もあるよ。へただと舐められる」
「まあ、今の君たちの動きは、一流と言ってもいいほど磨かれているから心配はしていないけどね」
そう言って、天才達は去って行った。
シンティはというと、意外なことに実家で超英才教育を受けていた……。
季節は3月になった。雪は、一月末にはやみ、それ以降は、安定した天候が続いた。町の住人も慣れたもので、降り積もった雪の上で問題なく暮らしている。
魔鳥車も、車輪の代わりにそりを付けて普通に運行していた。賢魔鳥は足下にかんじきのようなものを付けて、難なく雪の上を走っている。
これからどんどんと雪が解けていく、4月からは、またにぎやかな町の風景が戻ってくるのだろう。
あの、横笛の検証は延期になった。今は、サクラさんの魔術学院での生活に専念しなさいとカルミア様が言ってくれた。
そして、もう直ぐ、私とつくも(猫)がこの世界に来てから1年が過ぎる。
次回が最終話になります。




