055 綿まつりと大樹の杜人(1)
一章 三十一話(1)
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「C級魔物がみんな森の奥に向かっています」
「穴叩きが集団で2層に向かっています」
「間違いないな、明日の朝、綿が降る」
「よし、今年の綿まつりが始まることを関係各所に知らせろ」
綿まつり監視官のその指示で、E級案内人達が賢魔鳥に乗って散っていった。伝令は彼らが適任だ。
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しばらく、ダンジョン勝負の話題で騒がしかった入り口の町も、綿まつりが近づくにつれ、その話題で盛り上がりを見せ始めた。
「やっと、落ち着いてきたよ。ホントに貴族ってしつこいよな」
ベニザクラ号の中で、私が伸びをしながら愚痴をこぼすと、
「そりゃーそうだよ。おまえを取り込めって上から命令されれば、必死にもなるさ」
そう言って、諦めろと諭すイグニス。
「でも、この町にいるから冷たくあしらっても文句を言わないけど、町の外では権力を盾に脅してくるわよ」
マーレさんが顔をしかめてそう言う。
「貴族も、一匹いたら百匹系、姉様に頼んで駆除してもらおう」
クエバさんが真顔でそう言う。
「はい、もう使い方を間違えません。ボクに任せてください」
リーウスがそう言って、「振動波発生装置」の制御盤を持ち出した。
いや、それは十分使い方が間違っているだろ。
「振動波発生装置」は、そのままベニザクラ号の標準装備になった。強力な魔物相手なら、十分兵器になるからだ。
「みなさん、そろそろスタート地点ですよ。準備をしてください」
サクラさん声が御者台から聞こえたので、そそくさと風の森パーティーのメンバー達はそれぞれの装備を調え始めた。
「スタートは、3層からなんですね」
「ああ、1層、2層は低ランクの冒険者専用になっている」
イグニスが答えると、マーレさんが続いた、
「高ランクの魔物達も、より魔素が濃い実を求めて奥の層に行っているから危険も少ないのよ」
リーウスも続く、
「今日だけは、魔物も俺たちを相手になんかしませんよ。より多くの実を食べるために必死なんです」
「今日だけは、うじゃうじゃも出てこない。なぜなら、森が魔物だらで踏み潰されるから……ちっ」
クエバさんだけは、ぶれない。
「綿の実って、人間も食べられるのかなー」
私がつぶやくと、
「食べられるわよ。町の中にもたくさん飛んで行くわ。だから、子ども達が追いかけて捕まえるのよ。地面に落ちる前に捕まえれば、綿のお菓子よ。甘くて美味しいの」
サクラさんが、御者台からやってきた。打合せをするためだ。
「ああ、町の人たちも、この綿のお菓子を食べると冬を健康に過ごせるんだ」
イグニスがそう教えてくれた。
町にも雪のように降るので、誰でも簡単に捕まえられる。そして、地面に落ちると雪のように消えてしまう。
きっと、魔素の雪なんだろう。そうやって、1年に1度、地面に魔素を届けるんだろうな。私にはそう感じた。
「それでだ、森の中は穏やかじゃねえぞ、戦場だ。魔物対人間、魔物対魔物、人間対人間、全てが敵だ」
イグニスの表情が真面目になった。
「森の中の実は、綿になる前の実だ。大きさは拳ぐらいだ。そして、なぜか空中にいる間はふわふわ浮きながら飛んでいる」
マーレが続く、
「ええ、浮きながら1層に向かっていくの。1層につくと、はじけて綿になるわ」
クエバが続く、
「実は深度が深いほど青い。8層では真っ青、7層で青緑、6層で緑色、5層で黄緑、4層で黄色。そして、3層では橙色で2層で真っ赤になる」
「ああ、8層深部だと、コバルトブルーの実もあるらしいが、俺は見たことがない。まあ、いつかは手に入れるがな」
最後は、イグニスがかっこよくしめた。
「おれらの大事な収入源なんです」
リーウスがそれをぶち壊した。
イグニスに殴られて「痛いですよ」と涙目で抗議するリーウス。
「まあ、ぶっちゃけそうなんだ。ここで稼いでおかないと、どのパーティーも、この冬が越せない」
イグニスがそう白状すると、マーレさんも、
「そうなのよ、だから、案内人が見つからなくて、本当に困っていたのよ。本当にありがとね。サクラちゃん、カナデ君」
といって、手を合わされた。
「感謝」
クエバさんも手を合わせた。
まあ、案内人が見つからなかったのは、ラウネンの悪巧みだったんだけど、それは黙っておこう。
「でも、風の森パーティーのみなさんは、『残り物には福がある』ですよ。このベニザクラ号なら、今日なら8層の近くまで行けるかも知れませんよ。魔物も襲ってきませんし……(ねこちゃんもいますからね)」
サクラさんがそう言うと、風の森パーティーの顔が冒険者にもどった。
「8層、マジか」
「うん、確かにそうね」
「勝利」
「おれ、頑張ります。冬越しのために」
「スタート時間は、6時頃ね。朝日と共に実が舞い始めるはずよ」
「サクラ嬢ちゃん、一気に行くだろ、7層へ」
「もちろんよ。6層までは風の道で突っ切るわ。6層で戦闘型よ……。シンティ、いい加減起きなさい」
サクラさんがソファーで爆睡しているシンティを揺り起こす。
今日は、みなさん朝3時起きなのだ。
「ふわー、もう着いたの。さすが、サクラの風の道ね」
「そろそろスタートよ。6層で戦闘型になるわ。白は任せたわよ」
「ええ、任せて、こっちのサポートは本当にカナデでいいの」
「ええ、私には、ねこちゃんがついててくれるから全く心配はないわ」
そんなやりとりを「何で猫が……」と不思議そうに見つめる風の森パーティーのメンバー達。
「作戦の最終確認だ。紅と白が50メートル位離れて先行する。その間を俺たちパーティーが進む。そして、俺たちに近づき獲物を横取りしようとする奴らを。紅と白が触手で排除する。でいいな」
「ああ、それでいい」
「様子をみて、カナデも実の確保に動くでいいな」
「ああ、初めてだからしばらく戦力にならないぞ。たぶん」
「はは、そこは全く心配してないさ。直ぐに俺たちよりもうまくなるからな」
本当に何だろう。この信頼感は……。
「世界樹の枝」
ベニザクラ『白銀』が、静かに浮いた。
朝日が昇った。それと同時に、いつからそこにあったの……と言うタイミングで、橙色の実が無数、本当に空が橙色になるぐらい、浮かんでいた。
「すげえー」
初めて見る景色に見とれていると、突然、橙色の実が後ろにすっ飛んで行った。
ベニザクラ号が、いきなりのハイスピードで飛び出したのだ。
同じように、ベニザクラ号よりも数十メートル上を飛んで行く樹魔車両が複数台見える。A級B級の樹魔車両だ。
今回、S級は参加しない。S級はお金には困らないし、何か事故があった時の為に待機している。
ベニザクラ号は、さらに加速し、A級達を追い越した。
大樹の森に速度制限も高度制限もない。樹魔車両の性能と案内人の実力が全ての世界だ。
日本なら「ベニザクラ号がトップで独走しています」そんなアナウンスが流れそうなほど、ぶっちぎりのトップでベニザクラ号は6層に着いた。
「紅、白、戦闘型よ」
ここからは、時間との勝負だ。
だいたい、午前中で全ての決着がつくようだ。午後は、強い魔物達が満腹で動けなくなっている隙に、弱い魔物達がお零れをいただくことになる。
もちろん、実力がない冒険者達もこのお零れの仲間だ。なので、B級以上の冒険者は、午前中が勝負だ。
作戦通りの布陣で6層を深部めがけて私達は進み始めた。
「くそ、てめえ、それは俺のもんだ」
イグニスが,猿型魔物「お調子者」と獲物を取り合っている。数では「お調子者」の方が多いので苦戦している。
「火の玉」
マーレさんの火魔法が炸裂する。お調子者も魔物だ。火には本能で避けてしまう。その隙に、周りに浮いている青緑に近い色を選んで高速で手を動かすイグニス。
「マーレありがと。ここは終わりだ」
イグニスとマーレが移動を始めた。
「すまん、数が多くて防ぎきれなかった」
私が謝罪する。
「いや、いつもに比べたら半分以下だ。さすがはカナデだ」
イグニスがニカッとして手をあげる。
「リーウスがすごい。私の出番がない」
クエバが頬を膨らませている。
「隠密行動はあいつの十八番だろ。しょうがないだろ」
イグニスが慰めている。
ベニザクラ号は、6層深部に入り込んでいた。普段なら、強い魔物達の領域だ。
「白って本当に優秀だわ。触手で敵を排除しながら、実も集めているわよ」
シンティが、あきれている。だいぶ余裕が出てきたようだ。
「よし、このまま7層に行くぞ。実の色はできる限り青を狙え。他の色は大体必要数が確保できたからな、ここからは、高く売れるのを優先だ」
イグニスがそう指示を出す。そして、
「カナデ、おまえも参加だ。ここからは俺たちではちょっときつくなりそうだ。役割交替だ。俺たちが後衛になる」
と言って、パーティーメンバーに指示を出した。
サクラさんが、紅で近づいてくる。
「カナデさん。ねこちゃんが白と合流しろって、そして、カナデさんが8層へ行けだって」
さすがはつくも(猫)、イグニスと同じ考えだ。
「わかった。なら、つくも(猫)も行くんだね」
「うん、もう行っちゃた。9層に行ってくるって」
マジですかー。まあ、つくも(猫)なら心配ないけどね。
紅と白が10メートル程の間隔で並んで進み出す。その間に、風の森パーティーがいる。そして、彼らがいる場所に入ってこられる魔物はいなくなった。
近づけば、全て触手で排除されてしまうからだ。
「なあ、マーレ。おれ、りんごを摘むみたいに実が採れてるんだけど、気のせいかな」
「気のせいじゃないわ、私もそうだから」
「右に同じ」
「ボクもです……」
これなら心配なさそうだ。
サクラさんに、危険が迫ったら歩行型になってベニザクラ号の中で待っているように伝える。何しろ、この大陸で一番安全な場所だからだ。
「よし、俺も暴れてくるか」
そう言って、神装力第三権限の力を解放した。
普段はめったに見ない、鹿型魔物『角あり』が、お得意の魔法攻撃をして、他の魔物達を分散させている。
角ありは、群れを作って行動し、その中に幼体と思われる個体が確認されている。なので、子育てをする魔物ではないかと考えられている。
「うわつ、容赦ないな。お調子者達がみんな氷漬けになってるよ。白い角のやつが氷魔法の使い手だったよな。うん、近づかないようにしよう」
角ありたちの集団を避けることにした。魔法を使う魔物を相手にするのは面倒だからだ。
よし、7層の青は、だいぶ確保できたな。
面倒なので、「神装結界」で気配を消してひょいひょい青い実の確保に努めた。
「さて、8層に行ってみますか。あいつ(まだら)には、まだ会いたくないけどね」
フンと、地面を蹴り、風になる。
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