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056 綿まつりと大樹の杜人(2)

本日2回目の投稿です。

 一章 三十一話(2)


「さて、8層に行ってみますか。あいつ(まだら)には、まだ会いたくないけどね」


 フンと、地面を蹴り、風になる。


「うお、A級がうじゃうじゃいるぞ。さすがは8層だ。できればコバルトブルーの実ってのを見つけたいな」


 移動しながら。大きめの青い実をひょいひょいつかんではアイテムボックスへ送るを繰り返していく。どのぐらい確保できたかは、もう数えていない。


「8層のだいぶ奥まで来たな。なんか、実も少なくなってきているぞ」


 その時、目の前をコバルトブルーの実がふわふわと浮かん飛んで行くのが見えた。


「見つけた」


と、手を伸ばそうとしたとき、『瞬間自動神装結界』が発動した。


「う、なんだ」


 そこには、A級魔物『魔獣王(まじゅうおう)』が爪を伸ばして立っていた。熊型魔物だ。ただ、私を見てはいなかった。コバルトブルーの実しか見ていない。


 爪は私の頭上で結界に阻まれて止まっていた。


「うわー。『魔獣王』か、全く気がつかなかったよ」


 それもそうだ、殺意が全くない。赤玉も出ていない。ただ、実を食べるために手を振っただけなのだ。


「結界がなかったら、やばかったぞ」


 私は冷や汗を流した。


 さてと、次をさがしましょうか……。


 移動しようと顔を上げた時に、目の前に緑に白が混じった髪の毛のエルフが立っていた。




「なんじゃ、その結界は、無意識に張っているのか」


 その、エルフが聞いてきた。


「……」


 私が固まっていると、


「ああ、すまん。びっくりさせたかな。なに、おぬしが危険じゃったから助けようとしたんじゃよ。じゃが、わしが動くよりも早くその結界が張られたから、ちょっと気になったんじゃよ」


「そうだったんですか。すみません」


「で、あなたは誰ですか。あっ、私はカナデです。冒険者です」


「おう、知っとるよ。わしは、ネポスじゃ、目覚めの杜人(もりびと)一族の者じゃよ」


「ああ、カルミアさん達と同じ一族ですか」


「ああ、そうじゃ。今日は、おまえさんを里に招待しようと思ってな、迎えに来たんじゃよ」 


「里って、もしかして、『大樹の杜人』の里のことですか」


「ああ、そうじゃよ。何しろおぬしはその里で育ったんじゃからな」


 そう言って、ネポスさんは、ニヤッと笑った。




 前を歩いていたネポスさんが、スッと見えなくなった。


 何も言われないので、そのまま後を追って進んでみた。


「ズン」


 軽く衝撃が来た。どうやら、『瞬間自動神装結界』が発動したみたいだ。


 おいおい、てことは、命の危険があったって事だぞ。勘弁してくれ。


 里は、9層と8層の間ぐらいのところにあった。そして、なんと、世界樹の結界と同じ結界が張られていた。


 そりゃ、見つからないはずだ。そこにあると認識できないんだから……。


 結界は、正五角形に張られている。里の広さは、五角形の一つの辺の長さが3キロメートル位だろ。


 住んでいる人は、多くはないようだ。出歩いている人がいない。




「いつもなら、もう少し人がいるんじゃが、みんな実を取りに行ってしまったんじゃよ。なにしろ、貴重な保存食だからの」


「え、保存できるんですか。すぐ、劣化しちゃうって聞きましたけど」


「青やコバルトブルーの実は、大丈夫じゃよ。10年位は『次元箱』の中で保存できるかのう」


「なるほど、そうだんたんですね」 


 家は、全て太い枝の上に作られている。

「おお、これぞエルフの家だー」と感激していると、


「さて、今日の要件じゃ、そっちも時間がないだろうから手短に済ますぞ」


「はい、おねがいします」


「名前じゃ、おぬしに名前をやろう」


「……」


「ん、いらないのか。あった方が便利じゃぞ」


「いや、状況がよく分からなくて」


「ああ、そうか、すまんすまん。説明してなかったの」


「カルミアが、おぬしがこの里の出身者だということにしてほしいとお願いにきた時にな、他の者達が心配したんじゃよ」


 ですよねー。あやしい転生者ですから。


「でだ、綿まつりのときに8層に行くから試験をしてくれって言われてたんじゃよ」


 これからするの?どんな試験なの?


「で、合格したから名前をあげるんじゃよ」


「……ぼく、いつ試験したんですか」


「ん、この結界内に普通に入れたじゃろ、それが試験じゃよ」




 納得です。




「わかりました。名前下さい」


「ん、さて、どんな名前がいいかのー」


「『カナリズマ』が、ぴったりだと思いますよ」


 奥から、緑色の髪の毛を持つ女性のエルフが何か飲み物を持って出てきた。


「私はプリズよ。目覚めの杜人の一族よ。カナデさんよろしくね」


「なるほど、カナリズマか、うん、ぴったりな気がする。それにしよう」


『カナリズマ・デ・ソピステラ』


 古代エルフ語で『学者の子守歌』のことをこう言うとのことだ。







 由来を教えてもらった。


 昔、ある高名な学者がいた。その学者はとても音楽を愛していた。その学者は、紅色の横笛をいつも持ち歩いていた。


 夜になると、その横笛で美しい音色を奏でた。


 すると、どんなに泣いていた赤子も、どんなに疲れていた大人達も、みんなぐっすりと眠ることができた。


 そして、いつしかその紅色の横笛の音色は、『学者の子守歌』と呼ばれるようになった。




 由来を聞いて、なるほどと、私も納得した。横笛奏者、奏でる、学者など、私を連想する言葉が出てくる。


「この里は、あなたの故郷になったのよ。いつでも遊びに来ていいわよ」


 プリズさんにそう言ってもらい。ちょっと、嬉しくなった。


 この世界に、『入り口町』と『大樹の杜人』の二つの故郷ができた。




「それから、カナリズマこれを預けておくわ」


 プリズさんはそう言うと、右手を差し出した。


「世界樹の横笛」


 プリズさんの右手に紅色の横笛が乗っていた。私が神楽(かぐら)の演奏でよく使っていた横笛によく似ていた。


「なんとなく、これからのカナリズマに必要な気がするの」


 そう言って、私に横笛を渡してきた。


「いいんですか。大事な物なんじゃないんですか」


 私がそう言うと、


「今この里にこの笛で音色を奏でられる人がいないの。たぶん、カナリズマには吹ける気がするわ。時間がある時に試してみて」


 そう言って、プリズさんが優しく微笑んだ。


「わかりました。やってみます。では、サクラさんも心配するので戻ります」


「ええ、カナリズマ・デ・トゥーラまた来なさい」


「はい、ありがとうございます」


『カナリズマ・デ・トゥーラ』




 これが、この世界での私の本名ということになった。『トゥーラ』は、目覚めの杜人の子孫一族が名乗ることができる名の1つということだ。


 ネポスさんとプリズさんも『トゥーラ』だ。


「コバルトブルーの実は、今年は11時55分ごろ30秒だけたくさん湧いてくるわよ」


「この実はね、いろいろと役に立つのよ。取れるだけ取っておきなさいね」


 プリズさんが微笑んだ。


「わかりました。ありがとうございました」


 2人のエルフに見送られて、結界を出る。







 時間は11時50分だ。しばらく待っていると、言われた通り、コバルトブルーの実がいくつも空から湧いてきた。


 そう、空間に湧いて出てきた。まるで異次元収納箱みたいだ。


 数が多くて面倒なので、浮かんだ瞬間にアイテムボックスへ送ることにした。


 30秒でその実はふっと消えてしまった。


 急いでベニザクラ号に戻る。


 時間はもうすぐ12時だ。お昼にしよう。







 ベニザクラ号は、リムジン型になっていた。車内に入ると、


「おう、カナデ戻ってきたか。俺たちはもうお昼食べたぞ」


 ティカップを片手に持ち、くつろぐ風の森パーティーの面々がいた。


 がっくりする。緊張感も何もない。まあ、このベニザクラ号の中にいたら、そうもなるか。


「で、成果はどうだった」


「ええ、バッチリです。そちらはどうですか」


「ふふふ、聞いて驚け、なんと、コバルトブルーの実を1個、つかんだんだよ。この俺様が、わっはっはっは」


 ふんぞり返ってどや顔をするイグニス。


 私のアイテムボックスの中に、数え切れないほどその実があることは、この際だから黙っておこう。


「つかんだけど、お調子者に盗られた」


 クエバさんが真実をボソッと言う。


「そうなんだよ、くそ、あのやろう。今度あったらただじゃ置かないぞ」


 悔しがるイグニス。やっぱり、1個ぐらいあげようかな。


「サクラさんつくも(猫)は帰ってきているの」


「ええ、そっちのソファーで、マーレさんと昼寝しているわよ」


「……」


 ここ、7層だよね。大丈夫かな。この人達。ベニザクラ号にすっかり骨抜きにされちゃったぞ。




 私もお昼をいただき、紅茶を飲みながらゆったりとくつろぐ。ああ、私も骨抜きにされている。


「午後はどうする。もう、実は十分集まったぞ」


 イグニスがみんなに相談する。


「帰るでいいんじゃないですか」


 私がそう言うと、


「賛成に一票」


 クエバさんが真っ先に賛同した。そして、他のメンバーも、うなずいた。


「じゃあ、帰りますか」


 サクラさんの宣言で、帰還が決定した。




    ★ ★ ★ ★ ★




 時間は少しさかのぼる。




(ねこちゃーん、おひさー)


(……軽い精霊だな。威厳はどうした)


(今日はいいのよ。大サービスの日なんだから。それに、その姿のあなたには言われたくないわね)


(……)


(で、何の用だ。世界樹の精霊)


(9層には、数百年に一度白銀に輝く実が降るのよ。で、今年がその日なの。でも、人族はここまで来られないからいつもS級達が食べちゃうのよねー)


(別にいいではないか、魔物達に魔素を食べさせるのが目的だろ)


(まあ、そうなんだけどね、最近、生意気なのよS級が……)


(……)


(でね、あまり強くなられても困るの、結界内に入ってこられたらやっかいなのよねー)


(なるほど、そっちが本題か。よしわかった、俺様に、そいつらのお仕置きをして欲しいって事だな)


(ピンポンピンポンピンポ-ン)


(……)


(じゃ、よろしくねー。ちなみに、人間がその実を食べると、第二権限の神装結界張れるようになっちゃうから気をつけてねー)


(ふん、行ったか。回りくどい奴め。サクラにその実を食べさせろって事だろう。初めからそう頼め)


(まあいい)


(サクラ、白と合流だ。カナデに8層へ行けと伝えてくれ)


(さて、お仕置きタイムだ)







 9層、そこは、強者のみが生存することを許されている魔物達の頂点がいる場所である。


 生物の中で、最強とは何だろう。


 熊型『魔獣王』を代表とする哺乳類型。


 トカゲ型『ゴルラ』を代表とする爬虫類(はちゅうるい)


 そして、


 ムカデ型『千本足』を代表とする昆虫型。


 この中で、最強生物は、昆虫型なのだ。


 蟻が、10メートル程の巨体だったら、その蟻に勝てる生物はいるだろうか。







「ほう、この俺様がもらってやろうとしているこの白銀の実を横取りしようというのか」


「ギチギチ」


 10メートルはある巨大な蟻が小さなねこを威嚇している。


「ふん、蟻型か。本当に生意気なやつだ」


「ねこパンチ、かなりきつめ」


 10メートルの蟻が一撃で霧散した。直径が50センチほどの魔石が残る。


「ん、カナデの魔道車で使えそうだな。一応回収しておくか」


 巨大な魔石がふっと消える。


「さて、次はどいつだ」




 この日、9層の魔物達は思った。


「調子こいてすみませんでしたー」 




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