054 決着とそれぞれの国の思惑(2)
本日2回目の投稿です。
一章 三十話(2)
妨害者達が覚えていたのはここまでだ。全員、白目をむいてその場に座り込んだ。
「それでは金額を発表します」
「イローニャさん、214万9千5百ペタです」
「カナデさん、なんと、丁度500万ペタです」
「うおーおおおおおおおお」
「すげーぞカナデー」
「何じゃその金額はー」
野外訓練場がビリビリと震えた。
「質の勝負はカナデさんの勝ちです」
「よって、2つ勝利のカナデさんが、ダンジョン勝負の勝者となりましたー」
「やったー」
「勝ったぞー」
「おい、イローニャに賭けてるやついねーぞ。賭けになってねえぞ」
「信じてたぞ、カナデ」
「奇跡のカナデだー」
「おう、奇跡のカナデだー」
「カナデ、カナデ、カナデー」
もう、誰も止められない。大騒ぎだ。
「ふざけるなーあああああああー」
「シーン」
「はあはあはあ、そんな馬鹿な金額がなぜ出る。数は力だぞ」
すげえ、グライヒグ。止めたよ。
「そうじゃなあ、大陸公認の適正金額だから、秘密にする事はないのう、ほれ、これが査定書じゃ」
魔術学院の学園長が1枚の書類を見届け人に渡し、見届け人がそれを読み上げる。
「E、D、C、Bの魔石なし、A最高品質魔石が50個で、2百75万」
「S、えっSですかぁ、うおほん、S最高品質魔石3個で75万、SS、エスエスーだとー……。おほん、SS最高品質魔石1個で50万……。角、S級魔物の狂乱状態の角が1個で、100万……」
「合計で、丁度500万です」
「……」
「どっひゃああああああああああああー」
全員たまげて、声も出なかった。
見届け人が査定書を読み上げている間、グライヒグは辺りをキョロキョロと見渡し、落ち着きがない。
「ちっ、あいつらは何をもたもたしている。私が時間を稼いでいる間に早く暴れろ。そして、サクラシア様を確保しろ」
小さくつぶやいた言葉だが、聴力を強化した私にはよく聞こえた。
「ん、サクラシア様、そういえば、サクラシア様をまだ見ていないぞ」
グライヒグが突然大きな声を上げた。
「ん、サクラさんなら、邸宅で俺の祝勝会の準備をしているけど、何か用事でもあるの」
しれっと、そう言うと、
「……貴様はカナデだったな、今回は、貸しにしといてやる。しかし、覚えておけ、貴様は、我が国の敵対者として今後マークされることになるとな」
グライヒグはカナデをひと睨みし、その場から去って行った。その去り際に、
「その力は危険だ、排除が必要だ……」
と、つぶやきながら。
さて、全部終わったし、ミイラ(グライヒグ)も帰ったし、お腹も減った。帰るとするか。
そう思って、立ち上がると、目の前にイローニャがいた。
その顔は、何か憑き物が落ちたようにスッキリしていた。
「おい、カナデ、やってくれたな。まさか、ここまで徹底的に力の差を見せつけられるとは思っていなかったぞ」
そう言って、自分のギルドカードを渡してきた。
「俺の負けだ、好きにしろ」
「見届け人さん、確か、ダンジョン勝負を受けた方が勝った時は、賭けるものを変更できるルールでしたよね」
「よく知っていますね。その通りです」
「なら、私は、あれがいいです」
没収? した、魔道車を指さした。
「うっ、さすがにそれは、私の一存では決められない」
イローニャが首を振る。
「私が許すわ。持っていっていいわよ」
突然、後ろから女性の声がした。
「初めまして、カナデさん。勝利おめでとう。すごいわね君、S級エリアまで、どうやって移動したの。すごく興味があるわ。ああ、ごめんなさい。自己紹介していなかったわね」
その女性はペロッと舌を出した。
「私は、ストラミア帝国情報機関所属のミラーシです。以後よろしくね」
ん、以後、何それ。それと、情報機関って、それ、スパイって事だよね。ばらしてもいいのかな。
「一応、あれ、最新型だから。機密もあるのよねー。どう、ベニザクラ号の秘密と交換ってのは」
私が黙って、考え込んでいると、女スパイがウインクしながら、しだれかかかってきた。
私は、それをヒョイと避けながら、
「いいですよ。自由に探ってください。でも、樹魔に吹っ飛ばされても文句は言わないでくださいよ」
そう言ってから、
「ああ、そうだ。ミラーシさんでしたっけ、イローニャはどうなるんですか」
ミラーシさんは、ちょっと、真面目な顔になる。
「本国には返さないわ。私の預かりにします」
ミラーシさんはイローニャをチラッと見て、ラウネンの所に行ってしまった。
「私に、貴様と話をする時間を作ってくれるようだな……」
そうつぶやくと、
「なぜだ、カナデ、どうして本気を出した。貴様なら、その力を隠したままでも、余裕で勝てただろう」
「おまえが、この森の冒険者だったからさ」
「……」
「B級の魔物、残してくれただろ」
「ああ、そうか。わかった。そうだな」
そうつぶやいてから、こう言った。
「気をつけろ、おまえのその力は危険だ。グライヒグはそう判断したはずだ。そして、できればサクラシア様を巻き込むな」
ああ、イローニャ、おまえはそう考えられるようになったんだ。なら、おまえは、こちら側にこられるかもしれないな。
「イローニャ、さっきの質問のもうひとつの答えだ」
私はイローニャの目を見据えた。
「俺は、サクラを10層に連れて行く。それが、力を隠さなかった理由だ。おまえはどうする」
そう言って、颯爽と去ることにした……。
「すまん、イローニャ、あの魔道車、どうやって動かすんだ」
「……後で教えてやる」
イローニャは颯爽と去っていった。
★ ★ ★ ★ ★
その日、各国専従のS級案内人達の樹魔車両が一斉に入り口の町から自分の国に向かって旅立った。
速度制限無しの超高速ゾーンは、大陸暦が始まって以来の賑わいだったかもしれない。
S級案内人達は、みな、ある書簡を、特別な処置で自分以外取り出すことができない携帯型異次元収納箱にしたためていた。
そこにはこう書かれている。
サクラシア様の正式なパートナー選びに決着がついた。
勝利したのは、カナデという冒険者。
その者は、C級ゴールドスター冒険者である。
その者は、何か秘めた力を隠し持っている。
そして、追伸には、こう書かれていた。
追伸
10層に動きあり、至急、検討されたし
以上
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エレウレーシス連合王国
「やっと、決着がついたか」
「ラウネンの言った通りだな。よし、予定通り、我が連合王国はカナデ君に最大限の協力をする。そして、10層にサクラシア様を届けてもらう」
「各州国に通知を出してくれ、『至急攻略隊のメンバー選びを進めるように』とね」
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カロスト王国
「カナデ、誰ですかそれは」
「サクラシア様のパートナーは、イローニャなのではないのですか」
「コーチスの話とだいぶ違いますね。詳しいことを至急調べなさい」
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アルエパ公国
「カナデか、確か、マルモル家のシンティが親しくしている冒険者だったな」
「なるほど、そのカナデってやつは、わが家に欲しい人材だな。なんとかならんか」
「まあいい、そのうちこの国にも来るだろう。会うのが楽しみだ」
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マイアコス王国
「やはりカナデ君に決まったか。ジェイドも喜ぶだろう」
「10層か、さて、我が国は、10層よりも先にやらなければならない事があるからな」
「そうだ、ジェイドにした事への償いをさせる」
「ああ、もはや容赦はしない」
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ディスポロ商業連合国
「みなさい、私の言った通りでしょう。やはりあの『まちぼうけの角』を落札しておいてよかった」
「そうです。彼との繋がりができました。彼を何としてでも取り込みなさい」
「やはり、彼はただ者ではないですね。何か秘密を持っています」
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ストラミア帝国
「そうか、イローニャは、届かなかったか」
「魔道機関のやつらは、どう動くと思う」
「そうだろうな、排除しようとするな」
「イローニャはどうなった」
「うん、それでいい。彼女に預けよう」
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メダルクシア神国
「くくく、サクラシア様。お待ちしていますよ。魔方陣はここにありますよ」
「あいつは邪魔ですね。駆除しなさい」
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入り口の町冒険者ギルド所長室
「B級エリアのイローニャはどうだった」
「そうか、魔物を残したか。やはりな、あいつはこの町で過ごすうちに、少しずつ変わっていったからな」
「S級エリアの調査はどうなった」
「そうだろう、やっかいな爬虫類型は全て霧散しろと頼んでおいたからな」
「よりにもよって蛇型か。あいつらは温度でも探知できるからな。隠匿も効かないやっかいな奴らだ。霧散してなければ調査はできなかったな」
「そうか、やはりなかったか……。ということは、8層にあるのか。未発見のダンジョンが、10層への転移魔方陣はそこか」
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この日を境に『10層へ』と言う冒険者達の試練が動き出した。
それぞれの国の権力者達は、2000年の試練を乗り越えるために、自国の利益を得るために、既得権を得るために、自らの願望を叶えるために動き出す。
最終話は35話になります。7月25日7時投稿予定です。




