051 神装力第三権限開放とイローニャ(1)
一章 二十九話(1)
ここは、フーニス湖から300キロメートルほど東に行った場所にある4層のB級ダンジョンだ。
おまつり?なんで屋台まであるの。4層とはいえ、大樹の森だよここ。
ダンジョンがある小高い崖の周りには、さまざまな樹魔車両が止まっていた。
案内人ギルド以外でこんなに樹魔車両を見たのは初めてだ。
「カナデ、あんな国の奴らには、きつーいお仕置きが必要だぜ。遠慮はするな」
イグニス。聞こえたらどうする。
「外から妨害できないようにはしといたぞ」
出がけにラウネンがニヤッと笑ってそう言っていたが、たしかに、これだけ監視の目があれば、今からの妨害は無理だろう。
今回サクラさんは案内人ギルドでお留守番だ。万が一を考えての対策だ。
「ふん、逃げずに来たか。だが、この騒ぎは何だ。真面目にやる気があるのか」
イローニャが顔をしかめている。お堅い国の人には分からないんだろうな。冒険者は、ノリだよノリ。
「冒険者って、いつもこんな感じだろ」
私がポーカーフェイスでそう答えると、
「まったく、これだから冒険者は嫌いなんですよ」
包帯でぐるぐる巻きにされたミイラがいや、某国の魔道機関技師が出た。
あれだけ吹っ飛ばされて、これだけの怪我で済むととは、よほど性能のいい護身用の魔道具があるんだな。
どこで売っているんだろ。教えて。
「あんた、よく顔出せたわね。ここ、樹魔達がいる森よ」
シンティがあおる。
「ふん、調子に乗りおって、小娘が。まあいい、明日になれば、こいつはただの小僧だ。そして、イローニャが正式なサクラシア様のパートナーだ」
そう言い捨てると、賢魔鳥が引く車両でそそくさと帰っていった。
やーい、ホントは樹魔が怖いんだろー心の中で舌を出す。
「悪いが、私はどうしてもこの勝負に勝たなければならないのだよ。C級ごときに負けるわけにはいかないのだよ。全力で行かせてもらう」
自分がB級の実力がある冒険者であることをもう隠そうともしない。
グライヒグのあの自信は、すでに準備できる妨害工作は全て配置済みということだろう。まあ、いいけどね。
「では、C級スター冒険者イローニャとC級Gスター冒険者カナデ、のダンジョン勝負の説明を始めます」
ん、あの人たち、確か、C級昇格試験の時の試験官だった人じゃ……。
「我々は、公平な勝負を実現するために、ストラミア帝国とエレウレーシス連合王国の推薦を受けて、見届け人として今日ここにいます。どちらの陣営もその事を忘れないように」
マジですか、何で2つの超大国が推薦人で出てくるのよ。
その時、「まかせとけ」と言って、そそくさ出ていったゴリラの顔が思い浮かんだ。
「あいつか……」
でも、本国の推薦できた試験官達の前では、さすがにごり押しの言い逃れはできないか。うん、ラウネンやっぱりありがとう。
「ダンジョンの中にいられる時間は、午後6時までです。ダンジョンに入る時間は、自由です」
「身につける物は、ギルド支給のこの携帯型異次元収納箱と、魔石回収用の異次元収納箱です」
「携帯型異次元収納箱には、3日分の食料と飲み水が入っています。武器と魔力回復、体力回復のポーションは私達が見ているところで、入れ替えてください」
「収納箱の大きさは大、中、小から選べますが、重さ軽減の魔道回路はついていません。つまり、箱の重さに加えて、魔石を入れれば入れるほど、重くなります」
「ダンジョンを出るときに、この回収用収納箱だけ預かります」
「この箱は、厳重な封印がされて、明日の朝まで行政区の金庫の中に保管されます」
「勝敗は、ダンジョンにいた時間、魔石の数、魔石の質で決まります」
「時間は、短い方が勝ちです」
「数は、魔石のランクに関係なく多い方が勝ちです」
「質は、換金金額で多い方が勝ちです」
「最後に、これはストラミア帝国方式の特別ルールです。ダンジョン内で起こった事に関しての抗議は一切認められない」
「以上です。質問は認めません」
「では、それぞれ装備を受け取り、準備ができた方から、ダンジョンへ入ってください」
「ダンジョン勝負の始まりです」
冒険者達からは、当然「そんなルール認められるか」「横暴だ」「卑怯者」などなどの、さまざまなヤジが飛ぶ。
そんな声を一切無視して、
「さて、私はもちろん、大きい方だ」
イローニャは、大きい箱を背負う。一応背負える構造にはなっている。
「持ち込むのはこれだけだ、確認してくれ」
「はい、確認しました」
「では、お先に失礼する」
イローニャはそそくさとダンジョンに入っていった。
何か打合せでもあるのかな、中の妨害者達と……。
「では、私は速度重視なので、軽い小さい方でお願いします」
嘘である。本当は、全ていったんアイテムボックスの中に入れる予定だから、重さは関係ない。
ただ、かなり深い場所まで潜ることになるだろうから、早く戻ってきた時の言い訳用だ。
「持ち込みはこれだけです」
「はい。確認しました」
「では、行ってきます。シンティ、つくも(猫)をよろしく」
「任せて、行ってらっしゃい」
つくもには、ここの人たちの安全を確保してもらうために残ってもらう。
さて、行きますか。
(真色眼発動)
うーん、この場所には赤玉なしか。以外だな。人質盗って脅してくるかと思っていた。
では、ダンジョンの中はどうでしょう。
中に入ると、いるわいるわ、赤玉だらけだ。何人いるの。
これだけの人数の相手はさすがに面倒だな。
(神装力第三権限開放。神装結界発動)
世界樹の結界と同じだ。そこにあるのに見えない、いや、認識できない結界だ。
「いつくる」「早く来い」「痛い目に遭わせてやる」そんな感情が赤玉から漏れている。
その中を、悠然と歩いて行く。
第1陣の妨害者達を通り抜けるまでに30分程かかってしまった。
本当に、どこまで用心深いんだ、あの魔道機関技師は……。
なので、一気に深部まで行くことにする。赤玉の配置を見ると、第2陣がB級が生息しているエリアに集中して配備されている。
そして、第3陣が、A級エリアの入り口にいる。そちらの人数はそれほどいない。ここまでは来られないだろうということか。
そして、予想はしていたが、E級D級C級の魔物は、1匹もいない。すべて、妨害者達がこの5日間で取り尽くしたようだ。
予想していたとはいえ、その徹底ぶりには敬服する。たぶん、あの魔道機関技師の指示だ。
相手の作戦はたぶんこうだ。
C級、D級の魔石はたぶんあの妨害者達が持っている。出る直前にイローニャに渡すことになっているはずだ。
E級は、もう処分してしまっただろう。
B級のエリアでは、怪我をして動きが鈍い私の妨害をするのだろう。怪我は、さっきの奴らが仕掛ける予定だったはずだ。
A級のところにいる奴らは、もし来たら邪魔してやろうぐらいのつもりだろう。
そして、B級の実力があるイローニャは、自分で、B級、A級を倒して魔石を確保する。まあ、こんなところだろう。
さて、こちらも今回は手加減無しだ。
「神装力第三権限開放。神装身体強化発動」
誰もいないから、声に出して言いました。ちょっと、かっこいいかも。
普段つくも(猫)から貸与されている神装力は、冒険者が限界まで出せる力の約10倍までに制限している。
今回はつくも(猫)の力を上限無しで使えるようにしてもらった。
くっ、相変わらずのでたらめなエネルギーだ。制御が難しい。
つくも(猫)の普通が今の私の100とする。今出すのは20のイメージだ。イメージしろ……。
私はそっと、地面を蹴った。
そして、風になった。
途中で監視をしている妨害者達は、ダンジョンの中で風が吹きびっくりする。しかし、目の前には何もない。首をかしげる。
B級エリア、イローニャが魔物と戦っている。さすがはB級実力者だ。手際よく霧散させている。
おや、魔石を回収しているのは取り巻きさんですか。気をつけなさい、落とすと価値が下がりますよ。
ほら、落とした。おやおや、回収箱を担いでいるのも取り巻きさんですね。
ご苦労様。
一気に、B級エリアを抜ける。目指すのは、A級エリア、そして、S級エリアだ。
大樹の森は広大だ。なので、ダンジョンも広大なのだ。
A級エリアは、ダンジョンの入り口から100キロメートルほどの深部にある。
ストラミア帝国の魔道車をつかっても、3時間はかかる距離だ。
その距離を私は50分で到達した。
A級エリア入り口にいた妨害者達は、風が通ったぐらいにしか思わない。
このB級ダンジョンは、この森で唯一哺乳類型魔物が生息している。
なので、普段は冒険者達もちらほらといるのだが、今回は1人もいない。
まあ、そうなるよな。でも、この状況は、私にとっても好都合だ。
「数はと、哺乳類型が100ってところか。ほとんどが狼型か。爬虫類型が、150ってところだな。うわー、巨大トカゲ型かぁ」
トカゲ型は、切っても再生する。面倒なやつだ。
「ラウネンが、哺乳類型は残しとけって言ってたな」
時間も貴重だ。一気にいきますか。
「神装力第三権限開放 神装挑発、適用トカゲ型」
効果はてきめんだった。
次々に向かってくるトカゲ型、急所である喉仏に手刀を入れ霧散させる。
そして、魔石が地面に落ちる前にアイテムボックスへ送る。
ダンジョンでは、魔素は直ぐに回収される。なので、魔石も地面に触れると直ぐに魔素の回収が始まってしまう。
だから、落ちる前に確保するのだ。
3分の1の50体で終わりにする。
E級D級の魔物は、いつの間にかどんどん増えていくが、C級から上のランクは、個体数が減りすぎると復活できなくなる。なので、これ以上は乱獲になる。
それに、巨大トカゲの魔石は貴重だ。高値での取引になる。
ここでの狩は終わりだ。
再び風になる。目指すのはここから120キロメートル離れたS級エリアだ。
次の投稿は12時の予定です。




