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050 戦闘型とダンジョン勝負(2)

本日2回目の投稿です。

 一章 二十八話(2)


 サクラさんはそう言い残して、さっさとダンジョンの中に入ってしまった。 




 そこに残ったのは、「理解できない」「非常識な」とブツブツうるさいストラミア帝国の魔道機関技師と「なぜ、樹魔(じゅま)車両がダンジョンの中に入れるんだ」と、頭を抱えるイローニャ。


 取り巻き達は、そんな2人の側でオタオタとしている。




 私は、「関わるのは嫌だな」と、そーとその場から離れようと試みる。


「おいおまえ、説明しろ。樹魔車両は、ダンジョンの中に入れないんじゃなかったのか」


 私のささやかな抵抗は見事に失敗しました。イローニャに肩をつかまれ、引き戻される。


「樹魔車両がダンジョンの中に入れないというのは、正確な言い方じゃないですよ」


 私がそう言うと、「ん」と首をかしげるイローニャ。


「正確には、『入れない』じゃなくて、『入らない』です。樹魔達は苦手なんですよ。虫系、爬虫類(はちゅうるい)系の魔物達が……」


「苦手だと、ただの燃料ごときに、そんな意志があるわけないだろうが、馬鹿にしているのか」


 ブツブツ言っていた、帝国の魔道機関技師が、ここでは絶対に言葉にしてはいけない「燃料」という言葉を使った。


「言葉には気をつけてください。『(さば)き』を受けたいのですか」


 私がそう言うと、今にも飛びかかってきそうな顔で睨んできた。


「たかがC級ごときがつけあがるな。おまえこそ言葉を選べ、我が国でその言葉を言ってみろ、命はないぞ」




 私と魔道機関技師がにらみ合っていると、シャカシャカと戦闘型の(べに)(はく)がダンジョンから出てきた。


「まさか、ここまで嫌がるとは思わなかったわ」


 サクラさんが「ふー」と息を吐く。


「でも、気持ちは分かるわー。ゲジゲジ出てくるあいつら見たら、私だってぞっとしたわよ」


 そう言ってから、ひときわ大きな声で、


「あんなダンジョンに喜んで入っていく人たちの気持ちが分からないわー」


と、言った。絶対わざと聞こえるように言っている。でも、いいぞ、もっと言ってやれ。


「で、カナデ、この険悪な雰囲気はなんなの」


 シンティがしれっと聞いてきた。


「ちょっと、不謹慎な言葉が出てきたのでお仕置きをしようかと……思っていたところです」


 私が、態度が悪い某国の魔道機関技師を睨んでそう言うと、


「ふん、ねんっっっっ、うっ」


 紅の鋭く尖った触手が、グライヒグの喉元1センチ前でピタリと止まっていた。


 すげえ、俺でもここまで正確に間合いを計れないぞ。


「帝国の魔道機関技師、それ以上言ったらゆるしませんよ」


 サクラさんがうっすらと微笑みを浮かべながら低い声でそう言った。


「うっ、樹魔が人を襲うのですかな。国際問題になりますぞ」


 グライヒグが冷や汗を流しながら声を絞り出す。


「樹魔は、この森に住む全ての生き物を襲わないわ。調子に乗っている子にお仕置きするだけよ」


 サクラさんがそう言ってにっこり微笑む。


「同じ事だろ、このねん うぐっ」


 ドカーン


 グライヒグが遙か後方にすっ飛んでいった。


 うん、自業自得だ。それに、仮にも帝国の技師だ。身を守る魔道具ぐらいは身につけているだろう。




 成り行きをポカンとして見守っていたイローニャが、「はっ」となり、


「何をしている。早く助けに行け」


 そう言って、取り巻き達に命令をする。

取り巻き達も、「はっ」となって、わらわらと、魔道機関技師がすっ飛ばされた方に走っていった。


「くっ、グライヒグの発言を謝罪する。我が国のしかるべき機関に連絡し、処分を受けさせる」


 イローニャが真顔で謝罪をする。この森であの言葉を言ったら、どんな裁きが起こるか分からない。冒険者なら誰でも知っていることだ。当然だ。


「謝罪は受け入れます。しかし、父には報告します」


 サクラさんが表情のない顔でそう言うと、


「くっ、それは、ゆるしてもらえないだろうか」


「だめですね」


「そうか……。わかった」




 そう言ってから、私を見た。その顔は真剣だった。


「カナデ、私と勝負をしろ、ダンジョン勝負だ」


 そう言って、腰につけた携帯型異次元収納箱から、自分のギルドカードを取り出した。


 C級スター冒険者のカードだ。


 それを、片手で持って頭上にあげた。




 ダンジョン勝負、この入り口の町ではめったに行われないが、他の国ではよく行われている冒険者同士の正式な戦いだ。


 勝負を言い出した方が、賭けるものを提示する。つまり、C級スターのギルドカードを掛けろということだ。


 もちろん断ることができる。断っても、誰からも責められない。


 私は、黙って、自分の携帯型異次元収納箱から出したふりをして、アイテムボックスから(ゴールド)スター冒険者のカードを出した。そして、同じように頭上に掲げた。


 これで、勝負を受けたということになる。


「勝負は5日後、場所は、4層のB級ダンジョンだ」


 そう言うと、くるっときびすを返し、去って行った。




 おい、この魔道車どうするんだ。もらってもいいのか。




「カナデ、断ってもよかったんだよ」


 成り行きを黙って見ていたシンティが話しかけてきた。


「うん、でも、顔が真剣だったから、きっと、何か事情があるんだよ。帝国の事情ってやつかな」


「たぶん、そうね。彼には帰国命令が出ているわ。きっと、このままでは帰れない事情があるのよ」


 サクラさんもそう感じたようだ。


「まあ、カナデさんなら絶対負けないから心配はないですけどね」


 サクラさんがそう言って、にっこり笑った。


 もちろん、私も1ミリも負けるつもりはない。やるからには徹底的に心を折りに行く。


 いろいろ失礼なことを言われてきたんだ、容赦はしない。




 結局取り巻き達も現れず、魔道車だけがぽつんと残った。


 ここで組み立てたにしろ、違法車両である可能性があるので、とりあえず第3世代異次元収納箱に入れて持ち帰ることにした。




 案内人ギルドに戻り、事の顛末を説明するために、サクラさんはギルマスの部屋に向かった。


 私はシンティと一緒に、ラウネンの部屋に行くことにした。




「というわけで、ダンジョン勝負受けました」


 私が、そう報告すると、意外にも


「そうか、まあ、仕方ねえな」


 ラウネンが怒らなかった。


「あれ、怒らないんですか。C級スターのギルドカードを勝手に賭けたんですよ」


 私が不思議そうにそう尋ねると、


「イローニャな、もう、そうするしかねえんだよ」


 ラウネンが静かにそうつぶやいた。そして、


「で、カナデ、手加減するつもりはねえんだろ」


 そう言って、にやっと笑った。




 ダンジョン勝負について、私もそれほど詳しくなかったので、ラウネンから教わることにした。


「ダンジョン勝負は、基本1対1だ。だが、相手が明らかに力不足の場合は、すっけっとを用意することもできる」


「だが、今回は、同じC級だから、それは認められない」


「勝負の内容は簡単だ。魔石の質、魔石の数、確保時間、この3つで争う」


 そこまで言ってから、私を見る。


「相手はあの面倒な国の冒険者ですよ。公平な勝負になるんですか」


 私がそう愚痴をこぼすと、


「勝敗の部分については公平だ。たくさんの証人が見ている中で、決着をつけるからな」


「ただし、勝負までの期間。勝負の間については、公平じゃねえ。ずるいやつは、いろいろと妨害工作をする」


 だよなー。と、私は天井を見る。


「もちろん、監視はするので、できる妨害には限度があるがな」


「でだ、5日後って言ったんだな」


「そうよ。ダンジョンはB級指定よ」


 シンティが代わりに答えた。


「B級ダンジョンか。なるほど、イローニャが最も力が出せるダンジョンだな」


 しばらくラウネンが考え込む。




「まあ、どんな妨害があっても勝負でカナデが負けるはずねえから、そっちの心配はしねえぞ」


 なんだろ、この周りからの信頼感は、俺って、そこまで規格外なの。


「勝敗を決める場所での言い逃れができねえように、いろいろ根回しは必要だな。おう、そっちのことは俺たちに任せておけ」


 そう言って、ラウネンはそそくさと部屋から出ていった。いったい、どこに何をしにいくんだろう。不安だ。




 没収?した魔道車をギルドに預け、シンティと案内人ギルドに向かった。


 案内人ギルドがカルミア様の冷気で凍っていないか心配したが、無事だった。


 食堂に行くと、サクラさんが待っていた。


「カルミアさん、すごく怒ったでしょう」


 シンティが心配して聞くと、


「私がしっかりお仕置きしたから大丈夫よ」


 サクラさんがパンチをしながらそう言う。まだ、怒っているようだ。そして、


「父が容赦するな、徹底的にねじ伏せろ。って言ってたわ」


 サクラさんが悪い顔でそう言った。







 次の日、ストラミア帝国のやり方で公正な勝負をしますよ……という、明らかに嘘くさい書簡が冒険者ギルドに届いた。


 なるほどねえ、ストラミア帝国のやり方ですか。


 なら、私は、神装力(しんそうりょく)第三権限の力を惜しみなく使ったやり方で、勝負をさせてもらうとしますか……。


 密かにそう決心をした。


 ダンジョン勝負まで、後4日だ。



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