049 戦闘型とダンジョン勝負(1)
一章 二十八話(1)
10層への到達。それは、冒険者が果たさなければならない試練だと言われている。
世界樹を休眠から目覚めさせたと言い伝えられている『カロス・エニュオン』は、確かに10層に到達したのだろう。
だが、10層にどうやって入ったのかは、記録に残っていない。
そして、まだ魔物の生態すらはっきり分かっていない9層をどうやって通り抜けたのだろうか。
また、9層深部にあると言われている、結界をどうやって突破したのだろうか。
それ以前に、7層からの強力な魔物達から、どうやって身を守ったのだろうか。
現在、人類がわかっているのは、世界樹は結界で守られていて見えないが、確かにそこに行けばあるということ。
8層には、A級、S級の強力な魔物が確かにいるということ。
そして、ダンジョンには、10層へ転移できる魔方陣が存在しているのではないかと信じられていることだ。
ベニザクラ号は、最新型の樹魔車両だ。ギルド機密で守らなければならない最新技術がてんこ盛りなのだ。
今日は、樹魔である紅と白の単独行動の練習をかねて、4層にあるD級ダンジョンに向かっている。
「カナデはどうするの。入り口で待っている」
シンティが御者台から聞いてくる。
「うーん、それも暇だなあ。ダンジョンて歩いても入れるのかなあ」
「入れるわよ。ただ、永遠に洞窟が続いているだけだからつまらないわよ」
前の座席でつくも(猫)の背中を撫でながら、サクラさんが答える。
「出てくる魔物は、たしか昆虫系とは虫類系だっけ」
私が自信なさげに言うと、
「それで合っているわよ」
と、シンティが教えてくれた。シンティの間の抜けた喋り方は、やっぱりわざとやっていたらしい。その方が都合がよかったからとのことだ。今は普通だ。
あまり知られていないが、大樹の森にもダンジョンはある。では、なぜ、知られていないのか。それは、必要ないからだ。
そもそも、ダンジョンに出現する魔物達からは素材が取れない。全ての魔物が霧散して魔石になってしまう。
魔石をエネルギーとして利用しているストラミア帝国などでは貴重な魔石だが、生活で使う物以外は魔道具をあまり利用しない国の人たちにとっては、必要な量は、大樹の森で確保できる。
だから、わざわざ虫系魔物がひしめいているダンジョンには潜らないのだ。
「確保できるのは、EとDの魔石だけなんだよね。そりゃ、この森の冒険者達は見向きもしないよなー」
そう、たぶん、そこには誰もいない。だから、新型車両のテストにはもってこいなのだ。
大樹の森4層のD級ダンジョン。そこに、あいつはいた。
「お待ちしていました。サクラシア様」
ストラミア帝国C級スター冒険者の『イローニャ』だ。そして、その後ろにある布で隠してあるものは何だ。
「……」
「なんであんたがこんなところにいるのよ」
シンティの容赦ない口攻撃がでた。
「うっ、おまえはシンティ、おまえこそ、なんでサクラシア様と一緒にいる」
イローニャの顔がこわばる。すごいぞシンティ。
「うるさいわね。友達なんだから一緒で当たり前でしょう。それよりも、あんたがなんでいるのよ」
「それこそ愚問だ。私はサクラシア様の正式なパートナーだぞ。サクラシア様がダンジョンに潜るとなれば、そこに私がいるのは当然ではないか」
そう断言すると、イローニャはシンティを素通りしてサクラさんの前に来ると跪いた。そして、深々と頭を下げて口上を述べた。
「サクラシア様、長らく時間がかかってしまいました。やっと、サクラシア様にふさわしい、ダンジョン探索魔道車が完成しました」
そう述べると、さっきから気になっていた布を、近くで待機していた取り巻き達がぱっと取り除いた。そこには、真新しい魔道車が鎮座していた。
「……」
さすがのシンティも、どう突っ込んだらいいのか分からないようだ。
「なんで魔道車がここにあるのよ。どうやって持ち込んだのよ」
入り口の町の出入り口には、樹魔の結界がある。魔道車は通れない。絶対に持ち込めないのだ。
「さっきからうるさいぞ、ここで組み立てたに決まっているだろう」
確かに、部品なら持ち込めそうだ。
「……」
「いったい幾日かかったのよ」
シンティがあきれながらも尋ねる。技術者として、ちょっと気になったようだ。
「4ヶ月だ。この町に部品がほとんどないので苦労したぞ」
なるほど、しばらく見ないと思っていたら、そんなことをしていたんだ。
「では、サクラシア様、魔道車にご案内します。お手をどうぞ」
と言って、自分の右手を差し出す。
「……」
「ささ、パートナーなんですから、遠慮はいりません」
イローニャが催促する。
「……さっきから、何か勘違いしているみたいですが、私の正式なパートナーは、ここにいるカナデさんですよ」
サクラさんが無表情でそう言うと、すこし、こめかみがピクリとしたが、
「ささ、サクラシア様。最新型の魔道車ですよ。サクラシア様専用車です。こちらへどうぞ」
と、続けた。どうやら、都合の悪いことは聞こえない特別な魔道具を使っているらしい。
「あんた、アホじゃないの。パートナーはカナデだって、サクラが言っているじゃない。聞こえないの」
シンティがさらに突っ込む
「おまえは黙っていろ、これは、正式なパートナーである私とサクラシア様の問題だ」
ぎろっと、シンティを睨んでから、私を初めて見た。
「おい、おまえ、いつまでサクラシア様の隣にいる。付き添いは終わりだ。ここからは私がお世話するから、とっとと帰れ」
と、言い放った。
「馬鹿じゃないの、帰るのはあんたよ」
シンティがすかさず突っ込む
「さっきからうるさいぞ」
「うるさいのはあんたよ」
うー。とにらみ合う2人。
このふたり、コンビを組めばおもしろい漫才ができるんじゃないだろうか。そう思うとおかしくて笑いをこらえてブルブル震えていると、
「ガチャリ」
魔道車のドアが開いた。
「イローニャ、いつまで待たせる。早くサクラシア様をご案内しろ」
目が細く、ガリガリに痩せた背の高いボサボサ頭の男が白衣を纏って降りてきた。
その男を見たシンティが、警戒した顔になる。
「ストラミア帝国の魔道機関技師が、何でここにいるのよ。グライヒグ……」
「ふん、マルモル家のシンティか」
シンティを興味ないという態度で一瞥すると、
「サクラシア様、その樹魔車両では、ダンジョンには潜れませんぞ。魔道車なしで、どうするつもりなのですかな」
冷たい目でサクラさんを見下ろした。
大樹の森はダンジョンも広大なのだ。身体強化ができない限り、魔道車無しでは移動するのにかなり時間を取られてしまう。
「もちろん、この樹魔車両で入るわよ」
「……」
「いや、すみません。今幻聴が聞こえたので……考えてしまいました」
ボサボサの頭をカリカリと手で掻きながら、無表情でそう言うと、
「その大きさでは、入り口にも入りませんよ。ふざけているのですかな」
と、リムジン型のベニザクラ号を見た。
「入れるわよ。2台に分かれるんだから」
そう言って、制御木琴を奏でた。
双子の樹魔は、結合していた部分を解除した。そして、するすると車体を縮めていく。
樹魔車両が真ん中で割れた。そして、割れた部分を装甲板が広がり塞いでいく。
車軸は、片輪が12本の触手になりそれが4つに集まりねじれる。
そこには、4つの触手を持つ2台の戦闘型樹魔車両が整然と立っていた。
「なっ、非常識な」
理解できない。そんな顔をしたストラミア帝国の魔道機関技師グライヒグ。
「なんだこれは、これも樹魔車両だというのか」
冒険者の顔で樹魔車両を見つめるイローニャ。
「どう、これななら問題なくダンジョンに入れるでしょう」
そう言うと、サクラさんはひょいっと『紅』の戦闘型に乗り込んだ。
「んじゃわたしもっと」
そう言って、『白』のほうに乗り込むシンティ。
「カナデどうするか決めた」
窓から顔を出し、シンティが聞いてきた。
「ここで、ペンテとテネリといっしょに待ってるよ」
(こんな変な奴らがいるところに、ペンテ達を置いておけないよ)と、シンティに表情で伝える。
「わかった、サクラ、カナデここにいるって」
「わかった。じゃ、私達だけで行ってくるわね」
サクラさんはそう言い残して、さっさとダンジョンの中に入ってしまった。
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