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048 風の森の実力とツバキさん(2)

本日2回目の投稿です。

 一章 二十七話(2)


 つくも(猫)の神装力(しんそうりょく)第三権限の結界で守られたベニザクラ『白銀(はくぎん)』に手出しができる魔物はこの世界に存在しない。この世界でいちばん安全な空間だ。




 ゆっくりランチを食べ、おいしい紅茶を飲みながら、午後の打合せを始めた。




「実験は成功よ。これ以上の実験は必要ないわ。私の仕事は終わりよ」


 ツバキさんは、ゆっくりと紅茶をすすりながら、つくも(猫)の背中をさすりさすりしている。


「まんまるは今4体だ。依頼は5体だから、後一体だな。どうする。この場所ではもう無理だぞ。移動するか」


 イグニスがみんなを見た。


「正直、移動は面倒ですね。後一体なら、さっきの方法でいけるんじゃないですか」


 リーウスがウズウズしている。


「まあな、どうするツバキ」


 イグニスがツバキさんを見る。確かに、ツバキさん次第だ。


「そうねえ、もうちょっと範囲を広げた時の反応も、この際だから確かめておこうかしら」


 ツバキさんの興味にスイッチが入った。  

 結局、後1体をさっさと捕獲して、任務を終わらせてしまおうという事に話はまとまった。


 また、ラウネンからは、できれば6体あると、在庫的には余裕が出るということを聞いていたイグニスが、私と一緒に2体捕獲してしまおうという提案をし、了承された。




 『振動波(しんどうは)発生装置』は、午前の狩りのままで設置されている。あとは、目盛りをセットして振動を流すだけだ。




 今回は、私とイグニス2人で仕留める。さっきの様子だと、1人1体が限界だ。




「リーウス、M3そのまま、M2(100×100)よ」


「了解です」


 リーウスがM2を(100×100)にセットする。 


「圧力10にセット」


 ツバキさんが追加の指示を出す。


 リーウスが、目盛りを打ち込もうと数字を1,0、とセットした時に、それは起こった。


「ガサッ」


 後ろで音がした。いつもなら、常に周りの気配に気を配りいつでも動けるように注意をしているリーウスだが、ベニザクラ号の快適さに慣れてしまい、ここが6層だということを忘れていた


「なんだ」


 びっくりして後ろを振り返った。


 木の上から、何かが落ちた音だった。


 ホッとしたその時、うっかりもう1つ、0を打ち込んでしまった。10ではなく100と……。




 誰でも使える装置にするなら、安全装置を組み入れる。しかし、これは試作品。なのでそんな物はない。だから、私が隣で確認した。


 その確認もない。事故とは、こういうミスの積み重ねで起こるのだ。


「リーウス、流して」


「スイッチオン」


 ズオオオオオオオオオン


 10000㎡、小学校の校庭ぐらいの広さに地響きが起きた。砂が波打っている。幸いにも、一気に魔力を使ったので、魔石の方が壊れた。地響きは直ぐに止まった。




 惨状は目を覆うものだった。




 砂の上には、活動停止状態のまんまるが数十体転がっていた。たぶん、この地帯にいた全てのまんまるだ。




 何が起こったのか理解できないまま、固まっていたツバキさんが、復活した。


 装置に近づき、目盛りを確認する。そして、何が起こったかを正確に理解した。


「つうっ……」


 その表情は、カナデがいなかったのだから、確認は自分がするべきだったという自責の念だった。


 リーウスも、理解した。自分がミスをしたことを……。




 砂上に転がる数十体のまんまる達。もはや、「これで活動停止だ」の宣言も必要ない。完全に活動を止めていた。


「おい、カナデ、こいつらどうする」


 イグニスが、聞いてくる。


「このままにして置いてもやがて霧散(むさん)して魔素になるので問題はないですが、せっかくですから持ち帰りましょう。ラウネンに頼んで、向こう10年、まんまる捕獲禁止令も出してもらいましょう」


「そうだな。それがいいな」


 ベニザクラ号に積んできた,予備の特大型異次元収納箱が3つある。一つに3メートル級なら5体入る。


 それで15体だ。それと、パーソンさんの第3世代型異次元収納箱も数台積んである。そこにも入れれば、30体は収納できる。


 残った5メートル級の大物は、つくも(猫)に念話で頼んで時間停止のある異次元収納にそっと入れてもらった。それが15体ほどだ。


 やはり、この場所にいたまんまるは、全て捕獲されたようだ。







 待機場所であるワルト湖までは、戦闘態勢だ。もともと、無駄話はしない緊張した時間だ。


 それを差し引いても、ベニザクラ号のなかの空気が重い。


 一番重いのがツバキさんだ。つくも(猫)の背中に手を置いたまま、ずっと下を向いて黙り込んでいる。


 次に重いのがリーウスだ。口をポカンと開け、魂が半分口から出ている。


 その次に重いのが、なぜかクエバさんだ。じっと、何かを考えている。


 他のメンバーも、それぞれ視線をずらし、黙っている。







「さて、すんだことは仕方ないです。向こう10年、まんまるの捕獲は必要なくなりました。前向きに考えましょう」


 ワルト湖の待避場所に着き、あまりにも元気がない姉様達にそんな言葉を掛けるサクラさん。でも、その通りだよツバキさん。


 前向きに考えましょう。

  

と、口では簡単に言えますが、ミスとはいえ、1つの種族を絶滅させかねない兵器を作ってしまったことに気がついたのだろう。


 セルビギティウムの名を持つ一族として、今ツバキさんの心の中は、混沌としているだろう。


「わたしはこう思う」


 同じく重たい表情で、じっと黙っていたクエバさんが口を開いた。


「いつの間にかうじゃうじゃ増えるやつらは、いなくなっちゃえばいいと思う。穴叩き達のことは、まあ、許せるけど、うじゃうじゃだけは、どうしても許せない」


 うん、私も日本にいたとき、ヒアリは完全駆除すべきだと思ったよ。


「ツバキの新兵器があれば、あいつらを何とかできるかもって考えた……」


「でも、兵器は使い方を間違えると、危険なもの、今日はじめて知った」


 しばらく下を向いて沈黙するクエバさん。


 あっ、リーウスの魂がさらに抜けていく。


 クエバさんが、顔を上げてつぶやいた。


「わたしはこう思う」


「使い方を間違えなければいい」


 クエバさんは、ちょこんと床に座った。


「そうだぞツバキ、あのとき、ツバキが自分で言ったじゃないか。これで、冒険者の負担が少なくなるって、そういう思いで、これ、作ったんだろ」


 イグニスが静かにツバキさんに語りかけた。


「もう、絶対油断しません。すみませんでした」


 リーウスが復活した。


 この『風の森パーティー』は、本当にいい人たちだ。なら、私も続くか。


「ツバキさん。出発までに時間があったから、ギルドでまんまるのこと調べたんです。ここ10年の記録を見たら、年平均6体の捕獲です。10年で60体です。今回は、それより少ないです」


 ツバキさんが顔を上げた。


「そして、まんまるを捕獲するときに怪我をした冒険者の数が10年で100人程です。中には、冒険者を廃業するほどの怪我もありました」


 ツバキさんの目に光が戻ってきた。


「ツバキさんおかげで、向こう10年、冒険者達は怪我をしなくて良くなりました」


 しれっとした顔でそう言うと、


 ツバキさんが、フラフラと立ち上がり、ちょこんと座り込んでいるクエバさんを抱きしめた。


「うわーん。ありがと、クエバ。そうよね、二度と、使い方を間違わなければいいのよね」


 ツバキさんの涙に誘われて、クエバさんもポロポロと大粒の涙を流した。2人で抱き合って、わんわん泣いた。







「そうよね。うじゃうじゃは、人類の敵よね。全て駆除しましょう」


 ツバキさんの物騒な言葉が聞こえてくる。


「賛成、姉様お願い」


 クエバ、いつからツバキさんがおまえの姉になった。


 抱き合ってわんわん泣いた2人は、すっかり打ち解けてしまった。




 ここは、リムジン型になったベニザクラ号の車内だ。後ろ半分には『まんまる』が容量限界まで詰め込まれた異次元収納箱が積まれている。


 マグロ漁なら、大漁の旗を立てた凱旋だが、そこは自重が必要だ。


 ベニザクラ号の歩行型も、今は時速40㎞まで出せるようになっている。樹魔達がどんどん進化しているのだ。




 これ以上の面倒事には関わりたくないので、帰りはつくも(猫)に頼んで神装力第三権限の威圧を少し垂れ流してもらった。


 結果、周りの全ての魔物達が逃げていった。







 何事もなく、入り口の町に帰還した。 ラウネンさんに事の顛末を説明するため、イグニス、ツバキさん、私で冒険者ギルドに行った。




「まったくカナデが絡むとろくな事がないな」


 ラウネンが不機嫌だ。


 え、何、俺が悪いの。ぐれるよ。







 その日の内に、向こう10年の『まんまる捕獲禁止令』が発令された。


 そして、まんまるの素材処理が7日間ほど掛けて行われた。




 つくも(猫)の異次元収納内で時間漬けになっている大物達のことをいつ話そうか……。




 いや、当分やめておこう。


 そう決心した。 


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