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052 神装力第三権限開放とイローニャ(2)

本日2回目の投稿です。

 一章 二十九話(2)


 再び風になる。目指すのはここから120キロメートル離れたS級エリアだ。




 1時間程で、S級エリアに到着した。通常、ここまで来られる冒険者はほとんどいない。


 ダンジョンに入ってから大体2時間が過ぎた。ここでの戦闘は、1時間で終わらせる予定だ。


 S級魔物は……。5体だ。


「2体が熊型か、3体が……蛇型かあー、いやだなあー」


「熊型は1体のみで、蛇型は全部だな」


 まずは蛇型からだ。




神装力(しんそうりょく)第三権限開放 神装挑発 適応蛇型1体」




 にょろにょろ……ではない、ジャンプして一気に襲いかかってきた。


 それをひょいと、交わす。蛇型の体長は20メートル位ある。しかも、ジャンプしている。当然、尻尾部分は空中だ。


「何でジャンプするの。馬鹿なの」


 そう言って、尻尾をつかみぐるぐると振り回し、そのまま地面に叩きつける。


 それを3回ほど繰り返すと、霧散(むさん)した。もちろん魔石は、地面に落ちる前にアイテムボックスへ送る。


 結果、後の2体もジャンプした。ホント、馬鹿なの。


 さて、最後は熊型だ。これは気合いを入れないとちょっとまずい。




 S級といっても、ここは4層のダンジョンなので、8層魔物のB級レベルの脅威度になる。それでも、熊型は手強い。


 大きい方と、小さい方、どちらにするか迷ったが、大きい方にすることにした。




「神装力第三権限開放 神装挑発 適応大型熊型魔物 続けて 神装身体強化」




 イメージ、100の内の60だ。


 経験したことのない威力の挑発を受けた熊型は、なんと、狂乱(きょうらん)状態になった。ラッキー、SS級だそれに魔石にプラス評価がつく。


 ダンジョンでは活動停止はない。霧散させるのみ。手加減は必要ない。


 角が生え、目が真っ赤になった熊型が、爪を伸ばした腕を振り回して攻撃してくる。


 爪は、伸びたり縮んだりするのでやっかいだ。間合いがつかめない。


 避けきったと安心していると、そこから爪が伸びてくる。当たれば引き裂かれる。




「神装力第三権限開放 神装超記憶発動」




 熊の動きを線で追う。それを全て記憶する。5分。ひたすら逃げ回る。まだ線が重ならない。10分、15分……。重なった。




「神装力第三権限開放 神装結界発動」




 すまん。少しずるをする。


 熊から見たら、『突然私がいなくなった』だろう。


 恐怖を感じた魔物は、本能で動く。線が重なった動きで攻撃してきた。


 それをひょいひょいと避けながら、熊に近づく。そして、急所である心臓へ。神装身体強化80の力でパンチを入れた。


「ねこパンチ、弱め」


 熊は霧散した。巨大な魔石と角を残して……。




 戦いは終わった。蛇が馬鹿だったので、予定の時間の半分で決着がついた。




 さて、帰るか。これなら、遅いお昼をあの屋台で食べられそうだ。




 神装身体強化80のまま、風になる。


 A級エリアではやっておくことがある。




「神装力第三権限開放 神装威圧発動」




 残しておいた魔物に、神装力の威圧を放つ。神力のこもった威圧を浴びた狼型魔物達は、尻尾を丸めて怯える。トカゲ型は全て隠れた。


「よし、これでイローニャの挑発は効かない。逃げ回る狼型とせいぜい鬼ごっこを楽しむがいい」


 そのまま、B級エリアに向かう。途中、A級エリアに向かうイローニャとすれ違う。


 向こうは、風が吹き抜けていったとしか認識できない。


 B級エリアに着いた。魔物達は半数以上残っていた。


「イローニャ、おまえもこの森の冒険者ではあるんだな。見直したぞ」


 そのまま、入り口に向かう。




「おまえ見たか」

「いや見ていない」

「なぜだ、なぜ、あいつが通らない」


 不思議がる妨害者達。そこに、


「俺ならここにいるけど」


 突然私が現れた。


「なっ、いつからそこにいた」


 びっくりする妨害者達。


「え、今来たとこだよ」


「なんだ、今か、だよなー」

「ずいぶん遅い登場だな。間に合うのか」


 なんと、妨害者達が心配してくれた。


「ん、魔物が全然いないから、諦めて帰るとこだよ」


「……」


「帰るのか」


「うん」


「そうか、なんかすまんな」


「じゃ、行くね」


 すまなそうに見送る妨害者達の前を通って、堂々の凱旋である。




 私がダンジョンから姿を現すと、そこには今回の見届け人である3人が待っていた。


「カナデさん。かなり早い帰還ですが、よろしいのですか」


「ええ、私が確保できる魔石は全て回収しました。これがそうです」


 そう言って、アイテムボックスから移し替えた魔石が入っている小型の回収箱を見届け人に渡した。


「分かりました。では、封印をします。私達3人とカナデさんの4人で封印します。そして、4人そろわないとこの封印は解除できません」


 小型の回収箱を封印箱に入れてそれぞれが持っているカードを掲げて記録する。私のカードはもちろん冒険者カードだ。


 全て終わると、近くで待っていたシンティがつくも(猫)を抱いて走り寄ってきた。


「カナデ、ずいぶん早かったけど、ホントに大丈夫なの」


「ああ、バッチリさ。絶対に負けはない」


 私の言葉にホッとした表情をするシンティ。


「おう、昼飯食ってねえだろ、コパンのやつがわざわざ屋台引いてきてるんだぜ、みんなでお祝いだ」


 いや、まだ勝敗ついてないけど。まあ、この時間勝負で勝ったので、負けることは100%ないけどね。




 その後は、屋台でちょっと遅めの昼食を取る。ダンジョンに入ったのが大体9時だった。


 そして今の時間は丁度2時だ。ダンジョンにいた時間は、5時間だ。


 イローニャは、まだ出てこない。タイムリミットまで後4時間だ。




   ★ ★ ★ ★ ★




「なぜだ、どうしてカナデは現れなかった」


 入り口に、グライヒグが配置した妨害者達が居たことは知っている。


 しかし、あいつの実力ならば、かすり傷一つ追わずに突破できることを私は知っている。


 だから、放置した。


 E級からC級までの魔物を狩り尽くしたやり方には、正直憤慨している。


 魔物の生態系を壊してしまう。そんなことは許されない。


 しかし、グライヒグに言われてしまった。


「それで、勝てるのですかな」


 私は、答えられなかった。


 だから、それも黙認した。


 すでに魔石を取れる魔物はいない、ならば、一刻も早く、B級エリアに駆けつけてくるはずだ。


 その予定だった。


 やつが来たら、私は「おまえの分は残しといてやったぞ」そう言って、A級エリアに行くはずだった。


 しかし、おまえは現れなかった。


 なぜだ、もしかして、あいつらに後れを取ったのか、もしそうなら、失望したぞ。




「なぜだ、どうしてトカゲ型の気配が報告よりも少ない」


「なぜだ、どうして狼型が挑発に乗ってこない」


「なぜだ、どうしてトカゲ型が穴から出てこない」


「なぜだ、どうして狼型が逃げていくんだ。これでは永遠に追いかけっこだ」


 なぜだ、なぜだ、なぜだ、


 まずいぞ、A級の魔石がないと質で不利になる可能性がある。


 このまま狼型と鬼ごっこでは、体力も時間もどんどん削られていく。


 まずいぞ、まずいぞ、まずいぞ、


 ここからS級エリアまで、120キロメートル、今の体力では往復で6時間かかる。戦闘時間を入れると6時には間に合わない。


 仕方ない、不本意ではあるが、B級エリアに戻って、もう少し魔石の確保をしよう。




「来ていないだと、本当にか、本当にカナデは来ていないんだな」


「はい、間違いないです。誰1人、見ていません」


 そんな馬鹿なことがあるのか。


 カナデが来ていない。


 サクラシア様を諦めるのか。


 あいつに、そんなことができるのか。


 どうする、やつが来ないなら、確実に私の勝ちだ。やつが勝てるのは、時間だけだ。


 どうする。どうする。


 なんだ、この不安感は、どうやっても、この状況なら私の勝ちに決まっている。負ける要素が全くない。


 なのに、なんなんだ、この焦燥感は……。




「私は、入り口に向かう。もし、やつが来ても邪魔はするな。もう、どうやっても、やつに勝ちはない」


 本当に、入り口の奴らに負けたのか。




「帰っただと……」


「はい、魔物が1匹もいないから諦めたと言って、帰りました」


「ここで妨害したのか」


「いや、いつまで待っても来なくて、3時間ぐらいしてから、急に現れたんです。帰ると言うから、そのまま行かせました。あのー、まずかったでしょうか」


「いや、それでいい」




 何なんだ、いったいどうなっている。




「あのー、イローニャ様。これがD級C級の魔石です」


 くっ、なんだこの魔石は、傷あり地面との接触ありのくず魔石ばかりじゃないか。


「いらない」


「え、いらないんですか」


「私の勝ちは決まりだ。必要ない」


「駄目ですよ。イローニャ様、グライヒグ様の命令ですよ。万全をきせとね」


「ふん、グライヒグの影か」


「油断するな。ですよ」


「わかった、不本意だが、命令には従う」




 こんなくず魔石、私の実力が疑われるが、仕方ない。




「イローニャ様、終了までまだ1時間ほどありますが、終わりでよろしいのですか」


「ああ、問題ない」


「では、魔石回収箱を預からせてもらいます」 


「ああ、よろしく頼む」




「では、封印のカードを掲げてください」


「これでいいか」


「勝敗は、明日10時に冒険者ギルドのホールで行います」


「わかった、必ず行く……。カナデは本当にもう出てきたのか」


「はい、午後2時頃戻られました」


「魔石は……いやいい」




「終わったのか。これで、私は本国に帰っても、処分されることはないのか」


「本当に、私は勝てたのか……」




****************




 イローニャがダンジョンから出てくる3時間ほど前に時間はさかのぼる。  


「カナデ、やることないなら帰るか」


 屋台で美味しいお昼を食べ終わって、ぼーと、していると、イグニスが声を掛けてきた。


 今日は、ベニザクラ号ではなくイグニスの知り合いの樹魔車両でやってきた。


「そうだな、サクラさんも心配しているだろうから帰るか」


 そういって、腰を上げたとき、やや丸形で桜色だが白銀に輝く樹魔車両が目の前に止まった。


「カナデさん。お疲れ様。迎えに来ました」


 サクラさんが、満面の笑顔でベニザクラ号から顔を出した。


「え、どうしたの。終わったって、よく分かったね」


「ねこちゃんが、終わったからさっさと迎えに来いって……」


 サクラさんが、声を潜めてそう言った。


 そういえば、つくも(猫)の念話は、サクラさんにも届くのだった。


「さあ、帰ったら祝杯を挙げますよ。みんながまってます」


 なんだろう、みんながイグニスに似てきている。だが、まあ、いいか。勝ったのは俺だ。前祝いといこうじゃないか。


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