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037 D級魔石と奇跡の魔石(1)

 一章 二十二話(1)


1日目


「ジェイド『まちぼうけ』は、魔物としてはすごく弱いけど、その警戒心と逃げ足はC級といってもいいほど捕まえるのが難しいんだ。だからD級認定なんだ」


 今私は、ジェイド様といっしょに魔物と対峙する方法を試している。


 狙うのは兎型魔物『まちぼうけ』だ。大樹の森の魔物達は、ああ、この動物が魔素の影響で魔物化したんだなと一目で分かる姿をしている。


 なので、○○型魔物と分類され、個体名は愛称で呼ばれている。


「カナデ、そんなに逃げ足が速い魔物を冒険者達はどうやって捕まえているの」


 ジェイド様はとても素直だ。分からないことは分からないと素直に聞いてくる。そして、記憶する能力が異常に高い。


「1人では無理だ。だから、パーティーを組み、協力して捕獲するんだ」


「だとしたら、ぼくは難しいね。1人しかいないよ」


「だいじょうぶ。ぼくの考えた方法なら、1人でも捕獲できるから安心して」


 これは、神様から異常な記憶力を授かった私にしかできない方法だが、なんと、ジェイド様ならできるかもしれないのだ。

   

「ジェイド、まちぼうけは、縄張りを作るんだ。まあ、他の魔物もそうなんだけどね」


 私は草むらと木が点在している場所を指さした。


「ここは1層なので、魔物はE級かD級しか生息していないんだ。そして、魔物ではない動物のほとんどは、ここでしか生活していない。なぜだか分かるかい」


「3層より深い場所の魔物は強くなっているからだよね」


「その通り、魔素が濃くなると、魔物は強くなる。魔物じゃない動物は、たとえ凶暴な猛獣でも、C級の魔物にはかなわないんだ」


 ジェイド様はうんうんとうなずく。


「じゃ、話を戻すね。まちぼうけは、あのような草と木が所々に点々と生えている場所を縄張りに選ぶ習性がある」


 私は、木と木の間にジェイド様を連れていった。


「ここを見てごらん。足跡と糞があるだろう」


 私が指さした地面をじっと見てからジェイド様が嬉しそうに「ほんとだ」とはしゃぐ。


 国境の砦で出迎えた時は第5王子の顔だったが、今は、無邪気な10歳の顔だ。


「まちぼうけは、こうやって糞をまき散らして、ここは自分の縄張りだと他のまちぼうけに伝えるんだ」


 私とジェイド様は、その場から30メートルほど離れ、まちぼうけが現れるのを待った。


 10分ほどで、鼻をヒクヒクさせながらちょこちょこと動いては止まり動いては止まりを繰り返す兎に似た魔物が姿を現した。




 まちぼうけの主食は『魔力草(まりょくそう)』だ。といっても、そう言う名前の草があるわけではない。


 魔力を含んだ草の総称が『魔力草』なのだ。


「まちぼうけは、食事をすると糞をする。つまり、糞がある場所は、まちぼうけの食事場所だ」


「だから、カナデは糞を探していたんだね」


 私は答える代わりに、ジェイド様の頭を軽く撫でた。


 側近がいたら目をむいて「不敬だ」と抗議してくるだろう。


「ふふふ、国では頭を撫ででくれるのは母さんと兄様ぐらいだよ。この町は、貴族の特権がない過ごしやすい町だね」


 そう、この入り口の町は、貴族特権が行使できないこの大陸唯一の場所だ。


「ジェイドは、特権がきらいなのかい」


 私がそう尋ねると、


「特権は、ぼくじゃない周りの大人達が使う物だよ。国では、ぼくは周りの大人達の言う通りに動かなくてはいけないんだ……」


 そう言って、ジェイド様は寂しそうに微笑んだ。




「ジェイド、まちぼうけの動きで、線が重なる場所は見つけられたかい」


 私にしかできないと思っていた、魔物の動きを線で繋ぐの意味を、ジェイド様は直ぐに理解した。


 そして、最初は小さな黒板にその動きを縮尺して記録していたが段々と、頭の中にイメージした黒板にその作業を移行していった。


「うん、大体分かった」


「よし、じゃあ、次は罠の張り方を教えるよ」


「うん。おねがい」     


 罠と言っても、その罠に待ちぼうけがかかるわけではない。


 環境の変化に敏感な魔物は、罠には絶対にかからない。まちぼうけもそうだ。


「いいかい、まちぼうけは、人間が作った罠には絶対にかからない。ならどうするか。答えは、罠の罠なんだ」


「……?」


「いつもマーキングをする場所に、人の臭いがする物が置いてあったら、まちぼうけはどうするかな」


「さける……だよね」


「その通り。そして、追いかけられて半分パニックになっていた時にそうなっていたらどうする」


「やっぱりさけるよね」


「そう、本能でさけるんだ。まちぼうけのやっかいなところは、逃げるためにジャンプした時、どの方向にジャンプするか分からないことなんだ」


「わかった。線が重なる。本能で、線が重なったところにジャンプするんだ」


「正解。そこに剣を差し出すだけで、まちぼうけは霧散(むさん)する」


 この方法は、1人しかいない時の話。パーティーで狩りをする時は、高ランクならまちぼうけよりもはやく動いて簡単に霧散できる。






「やったよ、カナデ、これで3つ目だ。すごいよ、ぼく、本当に1人でD級の魔石を確保したよ」


「いや、ジェイド。俺だって初日はいっこだったぞ……」


 ジェイド様は、運がいい。


 いくら方法が分かっても、魔物がいなければどうにもならない。


 運というよりも、魔物がジェイド様に引き寄せられているようにも見えた。


「さて、ジェイド。今日はここまでだ。そろそろサクラさんたちが戻ってくるから移動するぞ」


「うん、わかった。カナデ、またおねがい」


 ジェイド様が私の背中に飛び乗った。




 私は神装力(しんそうりょく)第三権限貸与の身体強化を全身に掛けて、ジェイド様を背負ったまま駆けだした。




 アルベル湖に着くと、そこにはもうベニザクラ号が簡易宿泊型になって待っていた。


「はやいはやい」とはしゃいでいたジェイド様は、異常なほどの集中力で全身の感覚を使った影響がでて寝ている。


 熟睡しているのでこのままベットに直行だ。


「カナデさん。成果はありましたか」


 サクラさんが少し心配そうに聞いてきた。


「D級3つ。実力で確保しました」


「初日でですか。10歳ですよね。それってすごいことなんじゃ……」


「ええ、ジェイド様の集中力と運は、もしかしたら何か加護が授けられているんじゃないかと思えるほど異常です」


 私がそう言うと、


「そうか、実はぼくも時々、ジェイドの聡明さと運の強さにびっくりすることがあるんだ」


 私達の話を、ソファーに寝そべったまま聞いていたナツメさんが、つくも(猫)の背中を撫でながらそう言った。つくも(猫)は前足を投げ出したスフィンクス座りだ。




 ぐっすりと寝て、元気を取り戻したジェイド様と、少し遅い夕食をみんなでいただいた。


 今日は、ガッツリ系の肉料理が中心だ。入り口の町の肉は、冒険者達が仕留めてくる野生の肉と町の中にある牧場で飼育されていた肉の2種類がある。今日は、後者の方だ。


「ボクのお腹はどうなってしまったの。お肉がいくらでも入っていくよ」


 3回目のおかわりをしたジェイド様は、すごく不思議そうに聞いてきた。


「ジェイド、今日はそれだけ頭と体を使ったということだよ。使った分のエネルギーを体が取り戻そうとしているのさ」


 私がそう言うと


「そうなんだ。じゃあ、体がいいと言うまで食べていいんだね」


 と言って、4皿目に手を伸ばした。


「まあ、限度はある」


 ナツメさんが、ハラハラしながら突っ込んでいた。丸くなった弟を見た時のお兄さんの反応を想像したのだろう。




 お腹がいっぱいになったジェイド様は、また、眠気が襲ってきたらしく、うとうととしては目を見開いて顔を激しく左右に揺さぶっている。


 私がチラッと丸まっているつくも(猫)を見ると、「しょうがないなあー」と言う感じで、前足を伸ばしてお尻としっぽを上にピンと向けてグーと伸びてから、背中を猫背にクニャと曲げて1つあくびをすると、トコトコトコとジェイド様の前まで歩いて行った。


「にゃー」


 ジェイド様の足に頭をこすりつけて、スリスリとする。そして、トコトコと寝室に歩いて行った。


 ジェイド様は直ぐに陥落した。


 最近のつくも(猫)の『ねこっぷり』は、神がかっている。というか、そう言えば日本では神様だった。




「それで、魔石の証明はできそうでしたか」


 私がそう尋ねると、


「ああ、問題ない。制度としてはだいぶ形骸化していたが、例の側近の態度のことを父に話したら、そのまま黙って出ていって、帰ってきた時には、全ての書類を揃えて持ってきたよ」


と、半目のまま、感情のこもらない声で言った。


 サクラ父も逆鱗のようです。書類作りに携わったみなさん。ごめんなさい。きっと怖かったと思います。




 とにかく、準備は整った。


 明日は、ジェイド様の身体強化の状態をナツメさんに確認してもらう事になった。


 『本人魔石捕獲証明書』は、活動停止状態でギルドに持ち込まなければ作れない。


 待ちぼうけを素手で捕獲するためには、身体強化が必要になる。不足している部分を確認して、補強しなければならないのだ。


次の投稿は12時の予定です。

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