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036 王子とカナデ(2)

本日2回目の投稿です。

 一章 二十一話(2)


「……分からないんだよ。だから、やっかいなんだ」


 そう言うと、ナツメさんは黙って考え込んでしまった。




 旅は順調に進みもう直ぐ入り口町『(すい)木戸(きど)』に着く。

 ジェイド様も外の景色とつくものモフモフを十分に堪能して子どもらしい姿ではしゃいでいた。


 ナツメさんとも、とりとめの無い話をしながら、


「今回ぼくは、サクラの暴走を止めるためのお目付役だからね。ジェイド様の依頼には関わらないよ」


と、やんわりと「何もしないからね」と念を押されてしまった。


 まあ、確かに、S級が手伝ったなんていう事になったら、困るのはジェイド様だ。


「水の木戸まで後1キロメートルです。止まります」


『水の木戸あと1㎞ 止まれ』


……しっかり看板が出ている。きっと、通り過ぎる案内人もいるんだろう。


 慣性の法則を無視した、減速無しの停止で止まった。


 初めはなんか落ち着かなかった。もう慣れたけど……。


「ベニザクラ『白銀』高速形態解除して」 

「シュパッ」という音が聞こえそうな速度で樹魔(じゅま)達が車軸に戻った。解除の時は、制御木琴の合図はいらない。


 車体がゆっくりと地面に着地すると、風の渦がスッと消えた。


 ペンテとテネリは、「もう終わり」という残念そうな仕草で、羽をたたんだ。




 入り口の町は、樹魔の壁で正五角形に覆われている。


 大樹の森の中にある人が関わる施設も全て正五角形の壁で覆われている。


 この世界でも、正五角形は何か特別な意味を持つ形のようだ。


 入り口の町の出入口は五角形の頂点にある。ただ、別の国から入るための入り口は、水の木戸だけである。


「ジェイド様、いったん『水の木戸』で入って、一番近い『もくの木戸』で大樹の森に出ます。町の中では風の道が使えないので、アルベル湖に着くのが少し遅くなります」


 そう言って、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げるサクラさん。


 でも、7時間の予定が5時間弱で着いている。


 ペンテとテネリのコンビがとても相性が良く、サクラさんにかかる負担が減ったので休憩も最小限で来られたからだ。




 サクラさんとナツメさんがいるこの樹魔車両を念入りに調べる勇気がある入町管理官はいないので、ほぼ素通りで入り口の町に入る。




 五角形の壁の1辺がだいたい20キロメートル位だ。水の木戸から木の木戸までを、その壁沿いに進むので片道約20キロメートルの距離になる。


 2頭立ての樹魔車両の速度が時速30㎞位なのでだいたい40分ぐらいで木戸に到着するだろう。


 そして、木戸からアルベル湖までは50キロメートル位だ。風の道を使っての到着時間は、丁度5時頃になりそうだ。


 ベニザクラ号は、なんのトラブルもなく、予定通りの時間に、今日の宿泊地であるアルベル湖に到着した。







 つくも(猫)のおかげもあり、私はジェイド様にかなり懐かれてしまった。


「カナデ、王族仕様ではなく、普通の装飾が体験したいぞ」


 第5王子様がまた無茶を言う。


「ジェイド、無茶を言わないでください。それに、これは私の今後のための練習でもあるんです」


 ものすごい押し問答の末、根負けした私は、この4人だけでいる時という条件で「ジェイド」の呼び方をさせられている。ナツメさんも苦笑いだ。


 私はサクラさんの方をチラッと見てから、ジェイド様にそっと耳打ちする。


「ジェイド、この装飾はサクラさんがジェイドのためにと用意した内装なんだよ。だから我慢して」


「なるほど、わかった」


 この王子様は本当に聞き分けがいい。




 夕食は、つくも(猫)の試練を突破した、コパンさんの味付けだ。すごく美味しい。


「美味しいな。何だろう、この上品な味付けは……。お城の料理のようなしつこさがない」


 いや、この味付けをそう表現できるアタナがすごいです。本当に10歳の子どもですか?


「ねこちゃんの試練を乗り越えた自信作だそうです。仕出し弁当としても売り出したので、いま案内人の中では毎朝そのお弁当の争奪戦です」


 サクラさんが嬉しそうにお品書きを説明する。


 うんうん、おもてなしの精神がこの世界にもだいぶ浸透してきました。


 つくも(猫)はと言うと、もう食べ飽きたという表情で、アンモニャイト状態だ。贅沢な猫め。




 パルトさん作の豪華な内装の中で上品な料理を堪能した私達は、幸せな気持ちで明日からの打合せを始めた。


「ジェイド様、魔石はD級3個で間違いないですか」


 サクラさんがそう尋ねると、ジェイド様は少し困った表情で、


「実は、3個というのはC級なら3個でいいということらしい。今はD級だと、8個以上という慣例になっている」


「ですよね。高ランク冒険者がお膳立てするなら、D級3個は簡単すぎますよね」


 サクラさんがうなずく。


「きっと、高ランク冒険者たちがどんどんハードルを上げてしまったんじゃないかな」


 私がそう言うと、


「ああそうだね。確かジェイド様のお兄さんはD級5個ぐらいだったらしいな。もちろん、実力でだ」


 ナツメさんが同意した。


「カナデさん、C級だとどんな魔物がお勧めですか」


 サクラさんが期待を込めた目で私を見てきた。


「うーん、C級の魔物……となると、3層より深い場所に行かないとそもそも見つけられないですよね」




 私は腕組みをすると、目をつぶって背もたれに寄りかかった。


 実は、ある解決策を思いついてはいたのだが、それを提案して良いものかどうを考えていた。


「ナツメさん。本人が実力で獲得した魔石だという証明書みたいなものをギルドで出す事ってできるんですか」


 突然話をふられて「んっ」と?マークを出していたがちょっと考えてから、


霧散(むさん)ではなく活動停止状態で取り出すなら、ギルド本部で処理すれば発行できるよ。たぶん……」


 自信は無いようだ。あまりその制度を利用する人はいないのだろう。


「そうなんですね。たぶんでも、できるかもしれないと、なら、1ついい方法があるんです」


 そう言って、私はにやりと笑った。




 私は、少し眠そうにしているジェイド様を見て、


「ジェイド、今日は長い距離の移動だったから疲れただろう。寝室で寝ていいよ」    

と、提案した。ジェイド様は、「まだ大丈夫です」と頑張っていたが、つくもが寝室にトコトコと歩いて行ったのを見て、サクラさんから「ねこちゃんと一緒に寝ると暖かいわよ」と言われて、陥落した。


 ジェイド様が、つくもをしっかりと抱いたまま完全に眠りについたのを確認してから、3人の悪巧みが始まったのだ。




「で、そのいい方法とはなんなんだい」


 ナツメさんが、ワクワクしながら聞いてきた。


「実は、この方法はラウネンさんから絶対に口外するなときつく言われている私が見つけた裏技なんです」


「ああ、それでジェイド様を寝るように誘導したのね」


 サクラさんが「ポン」と左手をパーで右手はグーで上から叩いた。


「ええ、どうやったのかを尋ねられても嘘を言わなくていいようにです」


 うんうんと2人がうなずく。


「なんと、この方法なら、あるDランクの魔物の魔石をCプラスに底上げできるんです」


「……」


 エッという顔をして、2人が固まった。


 私の詳しい説明を聞いてから、ナツメさんがつぶやいた。


「これ、他の冒険者が知ったら、1層2層のそのD級が根絶やしになるな。ラウネンが口外禁止にするわけだ」


「はい、なのでこのことはご内密に」


 私が「ウヒヒヒ」という顔でそう言うと、


「カナデさん。いつになく悪い顔になってますけど、何かあったんですか」


と、サクラさんが不思議そうに聞いてきた。なので、国境での側近達の態度を話すと、


「そうですか。カナデさんに対してそんな態度だったんですか。ふーん。やっちゃいましょう。徹底的に……」


 サクラさんが静かにそうつぶやいた。怖いよー。


「ほう、サクラの初仕事にそんな戯れ言を言っていたのか。カナデ君。早速明日本部に行って、その制度の確認をしてくるよ。なに、もしなかったら、父を動かして、新しく制定してくるよ」


 ナツメさんが、半目になっている。怖いよー。







「ふーん。そうですか……」


「ほうー……、ほうー……、ほうー」




「ふーん。そうですか……」


「ほうー……、ほうー……、ほうー」




「ふーん。そうですか……」


「ほうー……、ほうー……、ほうー」




 しばらくこの声がベニザクラ号の車両内で静かに響いていた。



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