033 兄と妹(1)
一章 二十話(1)
私とサクラさんはC級の案内人と冒険者である。
C級になると、案内人は配達業務から本来の仕事である冒険者の輸送と現地での後方支援職が主軸となる。
案内人の質の違いは、冒険者達にとっては深刻な問題だ。
休憩、食事、安眠、狩り場の紹介まで、案内人の能力に依存しなければならない事が多いからだ。
なので、経験の少ないC級案内人は、ギルドが斡旋した、トラブルになることが少ない案件を受け持つことになっている。
私とサクラさんはそんな駆け出しのC級案内人である。
「どういうことですか、お父さん」
サクラさんが激おこである。
「あー、サクラ。ここではギルドマスターと呼びなさい」
ギロッ……。
「うっ」
「だから、どうして王族からの依頼なんか受けたんですか」
「いや、王族と言っても、ほら、まだ、10歳だから。子どもだから……」
「関係ありません。王族は王族です。C級は、貴族、有力商人、王族など、身分の高い依頼は受けません。それが決まりのはずです」
「いやー……そこはなんて言うか……。大人の事情というか……」
いつも冷静沈着なカルミア様がタジタジである。
「うー……」
サクラさんが、頬を膨らませて怒っている。リスみたいだ。かわいい。
「本当にすまない。この通りだ」
父は、頭を机にこすりつけた。
「どうしても断れなかったんだ。それに、今回は王族としての対応は一切しなくていいという確約もある」
「ふー。本当ですね。わたし、本当に普通の案内人の対応しますよ。王子様、ほっときますよ。いいんですね」
サクラさんが、父親に詰め寄る。
さて、この世界にも不敬罪ってあるのかな。この町では貴族特権が使えないらしいからよく分からないな。
サクラさんが少し落ち着いたところで、カルミア様から経緯の詳しい説明があった。
王子の国、マイアコス王国は、『世界樹の裁き』後の改変の時に連合王国には加わらずに昔ながらの王国政治を選んだ国だ。
剣技と魔術に重きを置く貴族たちが権力を握っている国である。また、魔道具の開発にも力を入れている。
王子の名前は『ジェイドスター』、年齢は10歳だ。容姿端麗で学問にも秀でたものがあるらしい。
10歳離れた兄がいるが、その兄もとても優秀で、すでに国の要職についている。そして、兄弟仲はとても良好だ。
この2人の母親は第2王妃だが、実は国の政策はこの第2王妃が担っている部分が大きい。
なぜなら、政略結婚した正妃がとんでもなく性格が悪く愚かなのだ。
あまりにも酷いので、困った現国王が選りすぐって選んだのがこの第2王妃である。
そして、母親の愚かさが遺伝したのか環境がそうさせたのか、この正妃の2人の子ども達も性格が最悪だった。
特に年が近い第4王子は、ことあるごとに意地悪をしている。正妃も見て見ぬふりどころか、積極的に加担している。
王室には、慣例となっている取極めがいくつかある。
その中の1つに、10歳になったら大樹の森に行ってDランクの魔石を3つ自分の力で取ってくると言うのがある。
もちろん、建前だ。大抵は高ランク冒険者を雇って安全にお膳立てをしてもらう。
しかし、この王子にはその高ランク冒険者を雇うお金も連絡する手段もない。正妃が財務部に圧力を掛けて予算を出させないのだ。
そして、その状況を見かねた兄が、学生の時の友人であるサクラさんの兄に相談して、今回の対応になったというのが経緯だ。
「なにそれ、ひどい。その第5王子何も悪くないじゃない。もちろん何とかするわ!」
サクラさんにスイッチが入ってしまった。もう、誰も止められない。
さて、初任務がまさかの王族案件だ。子どもといっても相手は王族だ。いろいろと準備はいるはずだ。さて、私は何をすればいいんだろう……。
カラカラカラ……ペンテが軽快に樹魔車両を引いている。
ペンテは本当に優秀だ。新型車両の樹魔たちともあっという間に意思疎通をしてしまった。
カラカラカラ……ペンテがリズムよく車体を引いていく。
段々眠くなってくるのが普通だが、全く眠くならない。いや、緊張と気まずさで目が冴えてきた。
正式名称はベニザクラ『白銀』だが、通常はベニザクラ号だ。
その、ベニザクラ号は今、マイアコス王国の国境に向かっている。そこで王子達と落ち合う予定だ。
メンバーは、私とサクラさん、猫ともう1人……サクラさんの兄がいるのだ。
そして、このお兄様。さっきから外を眺めたまま一言もしゃべらない。
目もずっと閉じているように薄ーく開いたままだ。ううっすごく気まずい。
そろそろ限界……「良いお日柄ですね」と天気の話でもしようかなーと口を開こうとした時、
「いやーこのベニザクラ『白銀』、本当によくできているね。ぼくの『青竹ミカヅチ号』より豪華で性能が良さそうじゃないか。どうだい、サクラ、ぼくのと交換しないかい」
と、サクラさんに話しかけ始めた。
「しません。というか、できるわけないじゃないですか。ギルド機密の塊ですよ。この車両」
「連れないねー。でも、ぼくが送った素材もずいぶん役に立ったみたいだから嬉しいよ」
「今、テネリの訓練中なんです。話しかけないでください」
「えー。いいじゃないか久しぶりなんだから」
「だめです。ねこちゃんとでも遊んでいてください」
サクラさんはさっさとテネリのそばに行ってしまった。
「君がうわさのねこちゃんか。ツバキのお気に入りでもあるんだってね。いや、お疲れさん」
つくも(猫)は、めんどくさそうにしっぽをちょっと動かしてあいさつをした。
その様子をみて満足したのか、次に私の方を見て、感情のこもらない張り付いた笑顔を向けてきた。
「君がカナデ君か。今回のC級昇格試験で歴代最高点を出してトップ合格したんだってね。おめでとう」
おめでとうと言うが、目が全然笑っていないように感じる。こわいよー。
「私1人の力ではないです。みなさんにいろいろ教えてもらったり助けてもらったりしました」
「謙虚だね。それに優等生の模範解答だねぇー。でも、おかげでストラミア帝国との面倒ごともなくなったからね。ここは素直にお礼を言っておくよ。よくやってくれた。ありがとう」
おやっ、この感じは本気だよ。
「いえ、お礼だなんて……」
この後何を言ったらいい。優等生の模範解答は好みじゃないらしいぞ……。
私が必死に次の言葉を探している時、
「ちなみに、君が破る前の歴代最高得点のGスターは誰だったか知っているかい」
「いえ、知りません。誰なんですか」
私が素直にそう反応すると、人差し指を自分の鼻先に向けてから、
「ここにいるよ。君の目の前にね」
と言って、細い目がにやりと笑った……ように見えた。
「えっ……」
私が反応できないでいると、
「いや驚いたよ。あの記録をしかもたった3ヶ月の経験で更新できる人物が現れるなんてね。正直、想像もしなかったよ。すごいね、きみ……」
そう言って、細目を少し大きく開いて私を見てきた。
『ヒヤッ』とした気配が高まった。
赤玉? つくも(猫)もピクッと反応する。
「キミ、何者だい。どこから現れた」
そう言うと、ラウネンさんとは違う種類の威圧を出してきた。
次の投稿は、本日12時の予定です。




