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034 兄と妹(2)

本日2回目の投稿です。

 一章 二十話(2)




「キミ、何者だい。どこから現れた」


 そう言うと、ラウネンさんとは違う種類の威圧を出してきた。




 じっとにらみ合う。大丈夫、赤玉も黒玉も出ていない。つくも(猫)も動かない。本気ではない。




「すみません。言えないんです」


 やっと、言葉を絞り出した。


「ぼくは、サクラの兄だよ。どこから来たのかも言えないような者をこれから信用しろというのかい」


「すみません。これは、言ってはいけない決まりなんです」


 無言のまま細目が半目に開く。鋭いまなざしが半分見えた。私はじっと、その目を見返した。


「……」




 実は、私は今日のための準備がほとんどできなかったのだ。


 それは、私が何者なのかを、どうやって権力者に説明するかを2人のギルマスと一緒に考えていたからだ。




 私の異常さは、もはや隠せないという結論が出た。すると、必ず王族の側近や王族本人から、「おまえは何者だ」という質問が来る。


 権力者相手に無視することもできない。また、へたな嘘は通用しない。


 ではどうするか。出た答えが、完璧な偽装だ。大樹の森の8層付近に存在するといわれている謎の里『大樹の杜人(もりびと)』の出身だと言うことになった。


 これなら、突然森の中から現れた説明がつくし、でたらめな力の偽装説明にもなる。


 なぜなら、誰も行ったことがない、謎の里だからだ。「言ってはいけない決まりなんです」この言葉で、大抵は何かを察して引いてくれるそうだ。


 『大樹の杜人』からの許可はカルミア様が、いろいろな裏技を使って、もらったらしい。ギルド公認の偽装工作だ。




 数十秒にらみ合った。


「あっはっはっはっは」


 突然兄が笑い出した。


「ごめんごめん。でも、合格だよ。実はね、ラウネンから頼まれていたんだよ。どこから来たかを尋ねられた時の対応がきちんとできているかをテストしてくれってね。本当にごめんね」


 さっきまでの威圧がふっと消えた。


「兄様、酷いです。それにラウネンさんも……帰ったら抗議します」


 ラウネンさん自業自得です。私も地味な嫌がらせをさせてもらいます。うん、年間予算の4分の1ぐらいの量の素材を持ち込もう。


「あまり脅かさないでください。正直、生きたここちがしませんでした」


「何を言っているんだい。ぼくとしては意識が飛ぶほどの威圧をしたつもりなんだよ。平気な顔でにらみ返してきたじゃないか」


「いや、平気じゃないですよ。怖かったです」


「まあ、いいよ。そういうことにしておこう。それにしても、そのねこちゃんも初めにピクリとしただけで後は寝てたね。ぼく、自信無くすよ」


 そう言いながらも、兄様はすごく嬉しそうに笑った。




 その後、テネリが威圧に怯えて少し拗ねていると言われた兄様は、テネリのご機嫌取りに御者台に行った。


そこでも、


「えー、あの威圧で少しなの」


と、テネリの大物ぶりにあきれていた。


 そして、兄様の名前は『ナツメ』と言うことも教えてもらった。




 大樹の森は、樹魔の壁でぐるっと囲まれている。その壁の総延長は、2000キロメートルにもなる。


 マイアコス王国国境までは、その樹魔の壁沿いに広がるグリーンベルトと呼ばれる草原を通っていかれる。

 

 


 なので、サクラさんの風の道が使用可能だ。道のりにして、だいたい400キロメートル位なので、時速60㎞で7時間位だ。


 1日でも行ける距離だが、簡易宿泊型の予行練習を兼ねて3日の余裕を持たせている。


「兄様、テネリの準備ができたので、風の道で高速移動します。慣れていないので私はテネリの風制御の補助をしますので、御者台任せていいですか」


「ああ、任せてくれ。ペンテを前にするでいいんだね」


「はい、テネリが後ろです」


「いやー 最新型を操れるなんて最高だね」




 ナツメさんは右手を前に差し出した。


「世界樹の枝」


 ナツメさんの右手に小枝が現れた。サクラさんの小枝に似ているがちょっと形が違う。


 その枝を、頭上にあげ、何もない空間を叩く仕草をする。


 ビーン


 空気が振動した。


「めざめよメーム」


 キーン 金属音の澄んだ音がする


「太古のメーム」


 キーン 振動が魔方陣のように広がる。


「自我のメーム」


 キーン 振動が樹魔を包み込む。


「ふるえよメーム ひとつになれ」


「ホスタンツァ ライエン」


 制御木琴を奏でる。


「シャラララーン」


 木琴を左から右へ木の枝で打ち流したした。


「ベニザクラ『白銀』、高速形態だ」


 双子の樹魔車軸が直ぐに反応した。


 後ろの樹魔が車輪の形からそりのような形に変形した。


 前の樹魔が、戦闘機の翼のように三角形になった。


 ここまでの変形に3秒もかかっていない。さすが、ツバキさんの調整だ。


「風の道」


 世界樹の枝を頭の上でクルクルと数回回すとそこに風の渦ができた。


 その渦をボールを投げるように3メートル程手前に放り投げた。


 すごく乱暴そうに見えるがその一連の動きはとても美しかった。




 透明な風のトンネルが静かに数百メートル先までつながって行った。


 その動きに合わせて、ペンテも動く。羽を広げて後ろに伸ばすと、ハングライダーのような姿になった。


 そして、風のトンネルの中で静かに浮かんだ。




 次にテネリが動く。ただ、テネルの背には、サクラさんがまたがっていた。


 テネリも羽を広げ、ハングライダーになる。そして、サクラさんを乗せたまま、静かに浮かび上がった。




「そう、いい子ね。うまく風をつかんだわ」


 サクラさんが、テネリの首を撫でていた。


「発進」


 ナツメさんがそうつぶやくと、衝撃を感じることもなく、周りの景色が後ろにぶれるように飛んで行った。


 えっ、何これ。特撮映画、CG


 昔見た宇宙戦争の映画で円盤がワープする時のような映像だった。


 すごい!これがS級案内人の風の道。


 S級案内人は、グリーンベルト内では高度20メートルまで上がっていいことになっている。


 あっという間にその高度に達すると、ベニザクラ号は時速100㎞の高速移動に入った。


 快適だ、新幹線のグリーン席だよこれ。




 この速度なら、4時間で着いちゃうよ。魔法ってすごいぞ。自分が魔法がある異世界に転生したということを実感した。


 20メートル下には、グリーンベルトと平行している樹魔の壁が見える。


 ベニザクラ号はその間の草原の上空を進んでいる。


 その草原を半透明の風の道が何本か進んでいた。D級の案内人だ。それをあっという間に追い抜いていった。




 サクラさんは、C級に上がったので、風の道の透明度も飛べる高さも1ランク上がっている。


 サクラさんの風の道がどう変わったかも今回見せてもらえるので楽しみだ。







 あの速度が出せるのに、なんで3日も余裕をもったのか理由が分かりました。私が原因です。


 いま、S級案内人であり、(ゴールド)スター冒険者の先輩でもあるナツメ様から、王族対応の仕方をレクチャーしてもらっています。


 いや、これ1日で覚えろって無茶でしょう。




 マイアコス王国貴族のマナーと王族のマナーがどうして違うの……。


 各国でおじぎの仕方がどうして違うの……。


 同じ食材なのに、呼び方を変えるだけでどうして食べていいの……。




 例を挙げれば切りが無い。でも、地球でも同じようなことはあったか。まあ仕方ない。あきらめてコツコツ覚えましたとも。


「おいカナデ、ふざけるなよ。なんで聞いただけで全部覚えられるんだ」


 ナツメさんに怒られました。なんで?


「カナデさんですからね、当然です」


 サクラさんが、どや顔です。




 王族仕様の簡易宿泊形態をほぼ完璧に設置したところで、今回のレクチャーは終了となった。


 経験さえ積めば、A級の実技は問題なく合格できるというお墨付きをもらった。


「これが新人類の実力だというのか……」


 ナツメさんはしばらく頭を抱え込んでいたが、やがて吹っ切れたようだ。







「ところでカナデ君、キミはどのぐらい今回の事情を聞いているんだい」


 夕食の席でナツメさんが聞いてきた。 

「第5王子がいじめられている。ですかね」


「なるほど、ほぼ全てだね」


 それが全てなんかい。


 頭の中でつい突っ込んでしまいました。


「今回は、第5王子のお小遣いで雇える案内人と冒険者と言うことで、C級のサクラとカナデ君が選ばれたのさ」


 おーなるほど。理解しました。


 私がうなづいていると、


「流石だね、それは全て分かったと言う顔だね……思ったことを言ってごらん」


 ナツメさんが興味深そうに体を乗り出した。


「つまり、C級しか雇えなかったから、必ず失敗するだろう……と、相手が考えるわけですね」


「ああそうだね。それでどうなる」


「これ以上の妨害工作がなくなりますね」


「ふふふ、そうだね、そしてどうしたい。サクラ」




 さっきからつくも(猫)の頭を撫でながらキョトンとして聞いていたサクラさんにナツメさんが話を振った。


 しばらく考えていたサクラさんが、「にやっ」と悪い顔で笑ってから、


「完璧な接待をして、3個どころかその10倍ぐらい魔石を持ち帰ってもらいます」


 サクラさんは、両手で握りこぶしを作り、胸の上で激しく振り下ろしてから「ふんぬう」と気合いを入れた。




 約束の時刻は、明日の朝10時だ。


 国境で第5王子たちが待っている。


 きっと、密かに見張りもつけているはずだ。


 私相手ではないので『真色眼(しんしょくがん)』では敵か味方か分からないな。十分周りに気を配るとするか。




 気合いを入れているサクラさんを見ながら私はそんなことを考えていた。



みてみんに『入り口の町」と『大樹の森』のイメージ図を掲載しました。自分のイメージを大事にしたい方はご注意ください。

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