031 カナデの事とサクラの事(1)
一章 十九話(1)
つくも(猫)が放った神装力第三権限の力の余波で案内人ギルドの広場に張られた結界がビリビリと震えている。
その広場の中央には、紅色だが白銀に輝く最新型の樹魔車両が静かにたたずんでいた。
誰もが言葉を発しない。その神秘的な色に魅入られていた。
つくも(猫)は、屋根の上で、んーと前足を伸ばしてから大きなあくびを1つし、香箱座りで目をつぶった。
一番最初に意識を覚醒させたのは、カルミア様だった。
「カナデ君。神獣様が今何をしたのか説明できるかい」
その言葉でみんなが「はっ」となる。
「シンジュウサマ……」
そう、この大陸の人なら誰もが知っている。言葉を操る強獣は皆『神獣様』と呼ばれていることを。
「ねこパンチで、最初に張った結界を壊しました。そして、新しく神力で結界を張り直したように見えました」
「やっぱりね、私にもそう見えたよ」
「ねこちゃん。『精霊のおねがいだから』って言ってたわ」
サクラさんがつくも(ねこ)を見る。
「カナデ君。一体どうなっているの。しっかり説明してもらうわよ」
ツバキさんは、私の肩をつかんでゆさゆさと揺らしながら目をつり上げている。
「いや、これにはギルド機密がいろいろ絡んできて、私の一存では……」
と言って、チラリとカルミア様を見る。
「……わかった、説明は私とラウネンでしよう……」
しばらく考えてからそう言って、ラウネンさんを見るが、まだ、つくも(猫)から受けた威圧の影響が残っているのか、一歩踏み出したまま固まっていた。
気持ちは分かるよラウネン。
ツバキさんに後ろからお尻に蹴りを入れられて覚醒したラウネンとカルミア様がしばらく何かを話し合っていた。
その間に、私はつくも(猫)と念話で詳しい状況を確認する。
どうやら、精霊が去り際に、双子の樹魔を守ってほしいこと、サクラさんは資格持ちだからいろいろと助けてやってほしいということをお願いしたようだ。
それから、神様(高次元情報生命体)とのことはどこまで話してもいいかを相談すると、どうやら「多言語翻訳君」は、話してはいけない禁則事項には、話せなくなるような機能が働くらしい。
これには思い当たることがある。
ツバキさんの圧に負けて、ぽろっと宇宙のことをしゃべりそうになった時に、頭の中にもやがかかったようになり、うまく説明できなかったことがある。
なるほど、ならば、言葉にできることは禁則事項ではないと言うことだ。これなら安心だ。
「さて、これから私達が話すことは、ギルドと言うよりももはやこの大陸にとっての最重要機密と言ってもいいことだよ」
カルミア様は、ラウネンさんを見た。
「あのアホねこが神獣様というのは、認めたくねえが事実だ。みんなも、とんでもねえ神力を見ただろう」
ラウネンさんは、くやしそうに屋根の上で目をつぶっている猫見る。
「じゃぁ、カナデ君は探求者様なの?」
シンティさんが聞いてきた。
「まあ、そうなるな」
「なるほどね。なら、あのでたらめな力や知識にも納得するわ」
ツバキさんがうなずく。
「それでだ、いいか、これは決定だ。いいろいろ言うんじゃねえぞ。これから、おまえ達には機密保持のための特別な契約を結んでもらう。この契約をすると、ここで話したことは、このメンバー以外の人間と話したり考えたりすることができなくなる」
みんなは黙ってしまった。しかし、理解している。もう、どっぷり関わってしまった。逃げられない。
「まあ、なんだ。俺も、伝説級の鍛冶師の事なんて他ではしゃべりたくねえし、ばれていろいろ聞かれるのも面倒だから、話せねえようにしてもらった方が安心だな」
ずっと黙っていたカルコス親方のこの言葉で、みんなも体に入っていた力が抜けた。
「いいわ、契約するわ」
ツバキ姉様がそういうと、みんなもうなずく。
「だから、初めから拒否権なんてないんだって言ってるだろ。まったく」
ラウネンさんからも余計な力が抜けた。
こうして、スクロールに描かれた青白い術式が1人ひとりの頭からつま先までスキャンをするように降りていくと、契約がなされた。
「では、まず、カナデ君のことだ。つくも(猫)君が神獣様であるなら、カナデ君は探求者だ。これは、この大陸の理だ。しかし、カナデ君達は、どうやらこの大陸の人間ではないかも知れない」
「ごくり」
みんながつばを飲み込んだ。
「ああ、カナデたちは、ある日突然、大樹の森の7層より深い場所に現れた。と言うより、何者かの力によって転移されてきた。本人達は、その前のことをはっきり覚えていない。そうだなカナデ」
ラウネンさんが私を見る。
「はい、転移される前のことを説明しようとすると、頭の中にもやがかかって説明できません」
嘘ではない。その事は禁則事項らしい。
「つまりだ、この大陸のどこかの国のダンジョンから転移してきたのか、この大陸ではない他の大陸から転移してきた……ということだ」
「ごくり」
また、みんながつばを飲んだ。
「ちょっと、まってよ。大陸移動説が絡んでいるってこと。とんでもないやっかいごとじゃない」
ツバキさんが取り乱している。
「そうだ。だから、みんなには契約してもらった」
「納得したわ。私達の安全を守るためね」
ツバキさんが、カルミア様を見ると、静かにうなずいた。
大陸移動説は、この大陸では話題にしてはいけない事柄らしい。
どうやらナダルクシア神国が絡んでいて、迂闊に話をすると粛正の対象として目をつけられてしまうらしい。
「次は、サクラのことだよ」
今度は、カルミア様が話を始めた。
「カナデ君の報告書に、精霊がサクラのことを『資格持ち』と言っていたと書いてあった。そのことで、ちょっと気になることがあったので、トリコン様とルーサス様に話を聞いてみたんだ」
カルミア様は、サクラさんの方を向いて少し心配そうな顔をした。
「サクラ、今から話すことはサクラの今後を決めるとても重要なことだよ。」
と前置きをしてから話し始めた。
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