030 お披露目会と精霊のお願い(2)
本日3回目の投稿です。
一章 十八話(2)
5メートル四方のの部屋はそれなりに広い。10人位なら余裕で入れる。
「ずいぶん広いな。これで簡易型かぁ」
ラウネンさんが、あきれている。今までの樹魔車両だと、最大広さの宿泊型でこれぐらいの広さだ。そりゃぁあきれるだろう。
「この部分の内装は、今までとそんなに変わっていないわね」
ツバキさんが、つくも(猫)を抱きながらぐるりと部屋を見渡してつぶやく。この部分は常設設備だ。確かにそんなには変わっていない。
「奥が寝室です。その部屋にあるベッドは、パルトさんが作ってくれました」
「パルト最後の作品かー。売れば高く売れるぞ」
ラウネンさんが良からぬ事を考えている。それから、パルトさんは健在です。
「なるほど、二段ベットね。5個あるから10人まで泊まれるのね」
冒険者のパーテーは、大体が3人から5人だ。なので、2つのパーテーが組んでの依頼にも応じられる設備になっている。
「この設備なら、本当に8層の本格的な調査に向かえそうだね」
カルミア様はいつも冷静だ。
「カナデ君、あれもお披露目して」
シンティさんが、私の脇腹をつついてくる。痛いって。
「みなさん、ちょっとこの部屋から出てください。部屋の模様替えしますから」
みんなが期待に満ちた顔でうなずいた。そう、これが本日の主役だ。
「これの説明は、パーソンさんとエルでお願いします」
私がそう言うと、パーソンさんがエルの背中を押して、「任せた」と耳打ちしている。
「無理無理、パーソンさん。お願いします」
「形状記憶樹魔繊維の説明は、エルがやりなさい。この発見は、異次元収納箱の革命になるよ。誇りなさい」
そう言われればやるしかない。うん、エル顔つきが変わったよ。
「わかりました。それでは、まず寝室部屋の設備を収納しますね。2番部屋収納」
そう言って、エルが基本形の部屋の壁に並んでいるボタンの1つを押した。
すると、部屋の床の壁際に広がっていた黒い縄がうすく光だし、それに合わせて床全体がベッドごと下に沈んでいった。
そして、全てが沈むと、その黒い縄がするすると縮んでいき、やがて小型の異次元収納箱とおなじ大きさになった。
エルはその箱を持ち上げて片付けると、別の異次元収納箱を持ってきて床に置いた。
「2番部屋、会議型セット」
エルがまた、別のボタンを押した。
すると、黒い紐がするすると伸びていき部屋の隅まで広がった。そして、淡く光り出し、床ごと会議用の机と椅子が浮かび上がってきたのだ。
「これで部屋の模様替えができました。この黒い縄が僕たちが開発した『形状記憶樹魔繊維』です。この縄は、この大きさからこの大きさまで広がれと例の木琴の曲でセットすれば、その通りに動きます」
そう言ってから、次に、操作パネルの蓋を開けた。中には4つの小型の異次元収納箱があった。
「このサクラ号は、4つのブロックに分かれています。そして、各ブロックごとにこの異次元収納箱が割り当てられています」
エルは、『2番部屋』と書かれているボックスから、厚さが3センチほどの真四角なパネルを取り出した。
「これが、さっき皆さんが見ていたベッドが収納されたボックスです。この厚さなら箱1つに、3つまでセットできます」
「いや、事前に説明はされてはいたけどね。実際に見ると壮観だね」
カルミア様が、めずらしく興奮した表情だ。
「今までの異次元収納箱が第2世代だとすると、これは第3世代と言っていいね。もはや別物だよ」
パーソンさんが誇らしげにエルの方を向いてそう言った。
お披露目会は無事終了となった。ツバキさんが、まだ質問があると粘っていたが、カルミア様に一括されて黙った。
「さて、これからのことを相談するよ」
カルミア様が、真剣な表情でそう告げた。
「見てもらった通りに、サクラ号は当分は公開できないような最新技術が搭載されている。それもだ、軍事転用されたら大変危険な技術もある」
大容量収納の小型化に伴い、異次元収納箱の中に別の収納箱を入れる技術まで備わっている。
他国の軍関係者が知ったら技術を奪うための争いが起きるかもしれない。
「そこで、私とラウネン、そしてトリコン様と相談した結果、当分この技術だけを秘匿することにした」
みんながうなずいた。予想される危険はみんなが感じていたことだ。
「本当はね、サクラ号そのものを封印するべき何だろうが、それだとこれからのサクラのためにならない。そう判断したよ。それと、兄たちがいろいろとうるさいだろうしね」
そう言って、カルミア様はサクラさんの頭を撫でたのだった。
「では、これより冒険者ギルド、案内人ギルドの責任者として私とラウネンが最上級封印結界によって技術を秘匿する処置をする。なお、この術式には、神獣『ルーサス』様の加護も付与されている」
カルミア様が、スクロールを開いた。そこに、ラウネンさんが手を置いて、自分の魔力を流し込む。
カルミアさんも加護の力を流し込む。
スクロールが赤く輝きだし、スクロールに書かれていた術式が空中に浮かび上がった。
やがて、輝きが白銀になったところでゆっくりとサクラ号に向かって移動し、サクラ号がすっぽり入る大きさまで広がると、そのまま下に向かって降りていく。
白銀の輝きが消えると、そこには白く銀色に輝くサクラ号があった。
しばらく、誰も動かなかった。誰もが、白銀に輝くサクラ号を見て、「やりきった」という高揚感に包まれていた。
トットット、軽やかな足音がする。音のする方に目を向けると、ツバキさんの腕の中から抜け出した。猫がいた。
猫は、そのままサクラ号の屋根に駆け上がる。屋根の上で前足を伸ばしてお尻をあげてしっぽをピンと立てて大きなあくびをする。
「かわいい。癒やされる」
そんな言葉が漏れそうな、ほのぼのとした光景だ。
猫は、そのまま、ひょこっと座り立ちをすると、前足を振り上げた。
(あっ、これねこパンチだ)
私がぼんやりそう思っていると、
「ニャッ」
と一声鳴いて、屋根にねこパンチきつめを叩きつけた。
「パリーン」
何かが壊れる音がした。
サクラ号に施された最上級の封印結界が粉々に粉砕されていた。
「なあぁぁぁぁぁー」
みんなが現実に戻された。
「てめえ、アホねこ、何てことしやがる」
ラウネンが吠えた。
猫が、後ろ足で耳を掻いた。
「ふざけるなよ」
ラウネンが容赦ない威嚇を飛ばした。
それを猫がしっぽをふって霧散させた。
「てめえ、もう容赦しねえ」
ラウネンが一歩踏み出したとき、
「ちょっとそこでおとなしくしていろ」
つくも(猫)が、前足をちょいと動かして、威嚇返しをする。ラウネンは動けない。
「ねこがしゃべったー」
まあ、こうなるよね。私とサクラさん、カルミア様以外のみんなが固まった。
「これは、精霊のおねがいだからな。特別に、この俺様の神力で結界を張り直してやろう」
そう言うと、つくも(猫)は、前足で、複雑な術式を空中に描きだした。
そして、それが完成すると、神装力第三権限の神力を注ぎ込んだ。
神力が高まるにつれて、その波紋が広がり広場全体に張られた結界がビリビリと震えた。
そして、術式は、紅色だが白銀色を帯びた神秘的な輝きを放ちながら、サクラ号全体を包み込むように広がって行った。
やがて、桜吹雪が舞うようなイメージで、術式が霧散していった。
そこには、紅色だが白銀色に輝く、全体的に丸みを帯びたサクラ号があった。
明日からは1日2回投稿になります。
最終話まであと16日ほどです。




