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025 サクラの樹魔車両と賢魔鳥(1)

 一章 十五話(1)


今日は、樹魔(じゅま)車両の装甲部分を作るからと、工場に呼び出されている。


 「なんで?」というハテナマークが、きっと私の頭の上にちょこんと乗っているだろう。




「いいか、カナデ。今の力加減で魔力を込めながらこの(うろこ)を拳で叩いてみろ」


 この世界の鍛冶屋は、魔物素材に限ってだが、ベテランになるほどハンマーを使わないで身体強化をした拳で素材を叩く。


 その方が魔力が素材に良く伝わるらしい。そのベテランの技を私に無茶振りしてくるのが、この親方である。勘弁して。




「カルコスさん。俺はまだ魔力の操作がうまくできないんですよ」


 操作どころか私には魔力が無い。あるのは、神装力(しんそうりょく)第三権限貸与の力だ。


「何言ってやがる。ギンギツネ号のドアを叩いて直しただろ。あれとおんなじだ」


 なるほど、あの要領か。ならできそうだ。


「いきます。(ねこパンチ普通)」


 神装力第三権限貸与の力を込めて普通の力で叩くと、波打っていた鱗がが厚さ0.5㎜縦横30㎝の白く輝く平らな真四角の板に変形した。


「やりやがった。この状態の板にするには、熟練の経験が必要だぞ。なんてやつだ」


 カルコスさんをはじめ、その場で作業を見守っていたチームのメンバーは、親方から渡された白く輝く真四角の板を撫でたり叩いたりしながら完成度を確認しておどろいていた。


「おい、シンティ魔力測定しろ」


 カルコスさんが弟子の1人に四角い板を渡すと、その弟子は、何やらバーコードスキャンのような装置を板の上で水平に動かしている。


「親方ーぁ、この機械故障ですかねー。魔力反応がゼロですよー」


「はあぁ そんなわけないだろ。特級の魔力が通った状態だぞ」


「じゃあ、やっぱり故障ですねー。修理に出しときまーす」


「ああそうしろ。チッ役立たずの機械め」


 カルコスさんは、気になって仕方ないという感情を全身で表現しながらブツブツと機械に向かって悪態をついていた。




 ごめんなさい。その機械正常です。私は魔力無しです。心の中で謝って置いた。


「カナデ。特級状態だ。これ以上できるやつは俺を含めてこの工場にいない。この素材は、ぜんぶカナデが板にしろ」


「……分かりました。で、何枚ぐらいあるんですか」


「あー、確か全部で2000枚位だな」


「……マジですか」


 一日50枚ペースで40日かぁ……トホホ。頑張ります。







 作業は10日で終わった。慣れれば単純作業だ。最後の方は、お茶を飲みながらでもできそうだった。流石に怒られそうだから、やらなかったけど。


 その後の、親方の弟子になれの勧誘がとにかくしつこくて困ることになったが、サクラさんのひと睨みで大人しくなった。サクラさん最強です。




 魔力測定をした弟子の1人シンティさんは、サクラさんととても親しい友人だった。


 そのシンティさんがボソッと他の人には聞こえないように私に呟いた。


「あんた、何者。魔力ゼロでどうしてあの特級が作れるの。いつか秘密を教えてね」


と、手をひらひらさせて行ってしまった。


 どうやら、機械が故障していないことに気がついていて、とっさの機転で壊れていたことにしてくれたらしい。


 うーん、油断できない人のようだ。気をつけよう。




 後でシンティさんから聞いたことなんだが、白く輝くのは、100年以上修行を積んだドワーフの熟練鍛冶師レベルの技なのだそうだ。


 しかも、2000枚を寸分違わずとなると伝説レベルになるらしい。


 今回の作業が機密保持扱いの作業じゃなかったら、ドワーフ仲間で私の争奪戦が起こっても不思議ではないと言われてしまった。







 今日は、樹魔達を車輪にする調整の仕上げをするからと、ツバキさんの音波研究所に呼び出されている。


 「なんで?」というハテナマークが、きっと私の頭の上にちょこんと乗っているだろう。




「いいですか、カナデ君。君の魔力を乗せて、この曲を演奏してみて」


 この世界の音師達は、樹魔達の調整に樹齢2万年以上の樹魔個体から作った木琴を使っている。




 木琴と言っても、備長炭のように、叩くとキーンという澄んだ金属音がするのだ。


 そして、それを叩くときに自分の魔力を音に乗せて樹魔達に伝えるのだ。


 その作業は、本来経験を積んだベテラン音師が行うものである。


 それを、私にやれと無茶ぶりしてくるのがこの音研究所改め『音波研究所』所長サクラさんの姉である。勘弁して。




「ツバキさん。俺には魔力がないんですよ。検査して分かったじゃないですか」


 私には魔力が無い。あるのは、神装力第三権限貸与の力だ。でも、これはまだ秘密だ。


「カナデさん。大丈夫です。私も魔力が無いですが、木琴の音に風の加護の力を乗せられます」


 今回は、サクラさんも一緒だ。本来は、仕上げはサクラさんが行うのだが、樹魔車両の装甲を私の力(神装力第三権限)で染めてしまったので、樹魔も同じ力で染めることになったのだ。




 なお、私の力の種類は不明ということになっている。たぶん、まだ認識されていない特別な加護の力ということで今は詮索しないでいてくれる。




「君のその力、私としては今すぐにでも君を分解してでも調べたいのを我慢しているのよ。泣き言いわないでやりなさい」


 まあ、横笛で神楽(かぐら)の神事手伝っていたし、楽器もそれなりに演奏してきたから、何とかなるか。




 音番がただ並んでいる楽譜を、ドレミ表記の楽譜に頭の中で変換しながら木琴をバチで叩いて演奏していく。


 そこに、神装力第三権限貸与の力を音波に乗せるイメージをする。


 自分の神力が、音波に乗って広がっていくのを感じることができた。この木琴の澄んだ金属の音色と神力がまるで数万年一緒に過ごしてきたかのようにシンクロしていく。


 樹魔に変化が起きた。今まで、ただの木の枝と根っこだった部分がクネクネと動き出し、12本ずつの棘のような形に統合されていった。


 そして、それがピンと1回伸びて、きれいな12角形の形になった。


 次に、そのピンと伸びた触手の先がクニッと緩やかな山なりに曲がり、それが合わさって12本の車軸を持つ車輪へと変化した。


「お見事よ。カナデ君。次の曲にいって」


 ツバキさんが、もう1枚の音番譜を渡してきた。そう、今回の樹魔は双子だ。


 もう1本?いや1体いる。もう1枚の音番譜は、今までのよりも少し音が高くなっている。




 同じように演奏をしていく、さっきと同じ事が起こっていく。そして、2体の樹魔車輪が現れた。


「最後の仕上げよ。和音でお願い」


 和音。これは、双子を同期させる為に悩んでいたツバキさんに私が提案した方法だ。


 2つの音程を聞いたときにこれなら和音として一緒に演奏できるのでは……と提案してみたのだ。




 ただ、「和音って何?」から質問が始まり、音波の説明までさせられたのだ。そして、ツバキさんは,あっという間に音の三要素(大きさ、高さ、音色)にたどり着き、研究所の名前を『音波研究所』に替えてしまったのだ。


本日3回の投稿予定です。

次は12時、17時の予定です。

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