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024 音研究所とサクラの姉

本日3回目の投稿です。

 一章 十四話


 白い建物に近づくと、サクラさんはトンと荷台から飛び降りた。ノックも無しに扉を開け、大きな声で奥に向かって呼びかけた。


「ツバキ姉様、サクラです。起きていますか。ツバキ姉様いますか」


 ……ん、姉様? もしかしてサクラさんのお姉さんですか……。


 サクラさんが何回も呼びかけていると、奥からビオラ様に似たエルフの女性があくびをしながら登場した。


 髪はボサボサで、服にはしわが目立つ。メガネも少しズレている。きっと、メガネをしたまま、作業着のままで寝ていたのだろう。


 音研究所という位なので、きっと、研究者である。前の世界での自分の生活を思い出し、妙な親近感を感じてしまった。


 サクラさんは、変わった人だと気にしていたが、自分としては全く気にならない部類に入る。


「あら、サクラじゃない。なんか久しぶりよね。どうしたの」


 サクラ姉は、椅子に逆向きで座り、背もたれに寄りかかった。


「やっぱり忘れていますね。今日は、樹魔(じゅま)の音合わせだと連絡がいっているはずですが」


「あー今日だっけ。ごめんごめん」


「まあ、ちゃんと研究所に居てくれたのでよかったです。それよりも、1人なんですか。他の研究員さんはいないんですか」


「みんな出張中よ。しばらく帰ってこないわ」


「……」


「ご飯いつ食べました」


「えーと、しばらく前に多分食べたような……」


「……つまり、しばらく食べていないんですね。今すぐ用意しますから食べてください」


「そんなにお腹減っていないからいいわよ。それより、双子の樹魔に会わせてよ」


「だめです。まずは食べてください」


「えー面倒だわ」




 サクラ姉が椅子の背に両手を乗せてダラーと下に垂れ下がると同時にサクラさんの眉がピクピクしながらつり上がっていく。


 これはまずい。と、私が間に入ろうとした時に、つくもが「にゃ」と鳴いて、サクラ姉が居る椅子の背に飛び乗った。


「えっ、ねこちゃん。来てくれたの」


 サクラ姉が、飛び上がった。


「うわー久しぶりじゃない。全然来てくれないから心配していたのよ。さあ、美味しいご飯たくさん作るからね。一緒に食べようね」


 サクラ姉は、つくもを抱き上げると、そのまま奥の部屋に走って行ってしまった。




「ハアー、ごめんね。ツバキ姉様は、いつもあんな感じなの。研究とかわいい動物にしか興味がない人なの……」


 サクラさんがため息をつきながら、姉が消えた方を見ながら謝罪した。


「大丈夫です。あんな感じの人には慣れていますから」


 私も同類ですとは言えなくて、何となく罪悪感を感じてしまった。




 私達は、サクラ姉が戻ってきたら直ぐに音合わせが始められるようにと、研究室に双子の樹魔を連れて行った。


 研究室には、整然と音源になる木琴が並べられていた。また、樹魔車両の作業場と同じ台座もあった。


 棚には、いろいろな素材やサンプルが入った箱ががきれいに整頓されている。


 研究者としてはすごく几帳面で有能なのだということが分かる部屋だった。




 サクラさんは、双子の樹魔を呼び車台の上に横たわるように指示を出した。それから「はあー」とため息をひとつ吐いて、にっこり笑い、


「カナデさん。ツバキ姉様が戻ってくるまでお茶でも飲んで待ちましょう」


と言うと、お茶を取りに部屋の奥に行ってしまった。




 1時間ぐらい経っただろうか。満足したような顔で、つくもを抱いたツバキさんが研究室に入ってきた。


 つくも(猫)お手柄だよ。というか、つくも(猫)の縄張りがどんどん広がっていることにびっくりだよ。




「このねこちゃん。サクラのお友だちなの」


 ツバキさんの興味は、まだつくもだった。


「いえ、カナデさんのお友だちよ」


 そう言って、サクラさんが私の方を見た。


「ああ、あなたがサクラのパートナーのカナデ君ね。ごめんね。あいさつがまだだったわね。サクラの姉のツバキよ。よろしくね」


「はい、カナデです。よろしくお願いします」


「で、このねこちゃんあなたのお友だちなの」


「はい、友達というか、とても大事な家族……ですね」




つばきさんは、つくも(猫)を抱えたままじっとこちらを見て、何かを探るようにしばらく黙っていたが、ふっと、息を吐くと、あきらめたように呟いた。


「あーあ、その様子じゃ、ちょうだいって言っても無理そうね。あきらめるわ」


「つばき姉様、馬鹿なことを言っていないで、早く仕事をしてください」


 サクラさんは、そう言うとつばきさんからさっとつくも(猫)を取り上げてしまった。


 つばきさんも、あきらめたのか、メガネの縁をくっと持ち上げて位置を直すと、すっと、研究者の顔になった。




「ふーん、これが双子の樹魔なのね。確かに見た目はそっくりね。さて、性格はどうなのかしら」


 つばきさんはそう言うと、壁に掛けられていた黒い板の中から何枚かを選び、それを机の上に並べはじめた。


「サクラ、この樹魔を見つけたのは、森のどの辺りなの」


「それが、どこから来たのか分からないんです。いきなり私の目の前にいたんです」


「ふーん いきなり目の前にねぇ。そんなこと、可能なのかしら。ねえ、カナデ君」


 姉様、そんなジト目で私を見ないでください。


 思わず心の中で叫んでしまった。


「えーと、詳細は報告書にして、ラウネンさんに提出してあります……」


「なるほど、いろいろ訳ありなのね。分かったわよ。あとで直接ラウネンを問い詰めるわ」


 うわー、呼び捨てだ。ラウネン頑張れ。




 そのあと、ツバキさんからは、どの音に反応するかで、だいたいの樹魔の性格が分かることをとても詳しく説明された。


 やはり、研究者としてのツバキさんは優秀であることを実感できた。それと、この人とは、何となく気が合いそうだとも思ったのだ。




 結局、その日はツバキさんの樹魔と音の関係の講義で終わってしまった。


 私としては、結構興味深い内容だったし質問もいくつかでき有意義な時間だったが、サクラさんにとっては、退屈な時間になってしまったようだ。




 双子の樹魔は、しばらくこの研究所に泊まり込みになるらしい。サクラさんもちょくちょく顔を出し、細かな打合せや調整をしていくことになった。


 ただ、ツバキさんとのやりとりの中で、いつの間にか私もいっしょに作業をしていくことなっていることに気がつき、「どうしてそうなった」と首をかしげてしまった。まあ、楽しそうだからいいけど。




 つくも(猫)抱いたまま、私達を見送ろうとするツバキさんからサクラさんがつくも(猫)を取り上げて、やっと帰路についた。







 サクラさんはすっかり疲れ切っていたので、特に会話も無く魔鳥車(まちょうしゃ)は案内人ギルドの前まで私達を送り届けてくれた。


 サクラさんは、「姉がいろいろ失礼なことをしてごめんなさい」といいながらため息を一つ吐き、自宅に帰っていった。




 自宅にっ戻った私は、今日知った事や考えたことをノートにまとめることにした。


 今までのことも、研究者の端くれだった経験から、知り得たことを事実のみと考察に分けて記録を残している。


 ノートもすでに3冊目だ。ただ、バラバラにならないようなノートになると、かなりしっかりした作りの本のような物になってしまうので値段も結構高い。


 なので、本当に必要なことのみを意識して日本語で記述している。


 意識しないと、自然にこの世界の言語に翻訳されて記述してしまうからだ。保管は異次元収納の中なので他者の目に触れることもまずないだろう。







カナデの研究ノート


1 樹魔と音の関係について

(1) ツバキさんの説明[サクラさんの姉]

①現在確認されている樹魔は1番~24番の音[音番]のどれかに反応している。

②強い樹魔は、小さな音番(低い音)に反応する。

③賢い樹魔は、大きな音番(高い音)に反応する。

④樹魔が反応する音は、樹齢2万年以上の樹魔で作った木琴だけ。

⑤樹魔が変形する音番の順番は、音の高さの違いはあるが、ほぼ同じ順番で出した音。

⑥樹魔にも個性がある。また、強い衝撃を受けたときは調整木琴でのリセットが必要

⑦20文字までの定型文による指示を理解している。




(2)考察

・①の音番は、音階と同じ。1番はドレミ表記では[ド]になる。2番は半音上がった音。

・②③については、音の周波数が関係しているだろう。

・④については、世界樹の誕生と何らかの関係があるだろう。

・⑤の音番の順番は、メロディーの事だろう。

・⑥⑦については、今後事例を集めたい。

・魔木と樹魔は別個体であることは、まだ発表されていない。

          以下空白




 記録を書き終えると、めずらしくつくも(猫)が、書き終えた文章を読んでいた。


 そして、瞳孔を丸くしたまん丸目で私を見上げて、何か言いたそうにしていた。




「つくも(猫)、何か気になることがあるの」


「私の権限で検索すれば、いろいろな事が分かるが、おまえはきっと望まないんだよな」


「うん、そうだね。簡単に知ってしまったら、きっとつまらなくなるよ。自分の力で調べていくのが楽しいんだ」




 つくも(猫)は、まばたきを2回して、そのまま、アンモニャイト姿で寝てしまった。



明日は15話16話を3回に分けて投稿する予定です。

時間は、7時、12時、17時を予定しています。

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