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023 樹魔車両工場と屋台のねこ(2)

本日2回目の投稿です。

 一章 十三話(2)


 板の振動が段々と収まり、やがて振動が止まった。


「やれやれ、軽く弾いてこれかい。おまえ、何者だ。S級魔物の生まれ変わりかなんかかい」


 親方は驚いたというよりかはあきれたという顔で聞いてきた。


「いえ、人族のはずなんですが……」


「まあ、見た目はそうだな。まあいい。力は本物だ。おまえ。俺の弟子になれ、いい鍛冶職人に育ててやる」


「……は?」


「――カルコスさん。カナデさんは私の大事なパートナーだって言いましたよね」


 いつの間にかやってきていたサクラさんが怖い顔で親方に詰め寄った。


「あいや、才能あるやつを見るとついな……」


 親方が髭の上にタラタラ脂汗を流して後ずさる。漫画みたいな現象ホントにあるんだ。


「だめです。カナデさんは絶対に渡しません」


 サクラさんが激おこである。でも、なんか嬉しい。




「親方ー。この樹魔どうするんすかー」


 本当の弟子らしき人が親方に声を掛ける。隣には、樹魔が2本立っていた。きっとサクラさんが異次元収納箱から出したんだろう。


 樹魔を見た親方は、別のスイッチが入ったように顔つきが変わった。


「おお、これが双子の樹魔か。今までの樹魔より一回り大きいな。それに賢く強そうだ。うん、いい樹魔だ。サクラ、カナデ、見事だ」


 豹変した親方を見て、サクラさんも仕方ないわねとあきらめ顔だ。そして、


「当たり前です。私とカナデさんが見つけに行ったんですよ。最高の仕事をしてくるのは当然です」


 と、宣言して胸を張る。




「よし、早速採寸を始めるぞ。おい、イエロ、みんなをかき集めてこい」


 イエロと呼ばれた職人は、


「了解っす」


と言って、どこかに走って行った。


「カナデ、俺の弟子になれとは言わねえ、だが、おまえ達の専用車になる仕事だ、時間がある時でいいから手伝いにきな。サクラ、それなら文句ないだろう」


「仕方ないですね。確かに、親方の技術をカナデさんが覚えたら、旅先で何かあったときに助かります。分かりました。ただし、本当に手が空いている時だけですからね」


 サクラさんが腕組みをしながら念を押した。


「まあ、ギンギツネ号のドアをその場で道具も使わずにあれだけに仕上げられるんだ。俺の技術なんか必要ないかも知れねえがな」


 親方は、そう言ってにやりと笑った。




 カルコスさんの工場には、新たに3人のドワーフ職人と1人の人族職人が集まっていた。


 工場は、樹魔車両を組み上げるための機材が置かれている。素材は、隣の鍵が掛かる倉庫に厳重に保管されているらしい。


 かなり貴重な素材もあるので、念のためとのことだ。比較的治安が良いこの町でも、盗難騒ぎは時々あるのだ。


 工場の真ん中には、重量挙げのバールを置く台をかなり大きくしたような装置が2つ置かれている。樹魔をその台に横になるように置くためだ。


「さて、始めるぞ。サクラ、樹魔に伝えてくれ、横になるってな」


 カルコスさんがそう言うと、職人達は後ろに下がって盾のような物で体を隠した。どうやら、時々言うことを聞かない樹魔が暴れるので身を守るためらしい。




 サクラさんが1体の樹魔に触れてささやいた。


「大丈夫。安心して、横にするだけだから」


 すると、2体の樹魔が同じように根を使ってスリスリと動き出し自分で台の上に横になった。それを見ていた職人達が目を丸くした。


「おいおい、自分で台の上に乗ったぞ。こんなの初めてだ」


 一番年配かと思われるドワーフの職人がびっくりしてつぶやいた。


「ああ、たまげたな。賢いとは思っていたが、ここまでとはな……」


 カルコスさんもびっくりしている。


「おいらよりも賢いんじゃないすかね」


 弟子のイエロさんもびっくりしている。ちなみに、イエロさんは人族だ。


「サクラとの意思疎通は問題ないようだな。助かるぜ。これで仕事がはかどる。サクラ、おまえはどのぐらい通えそうだ」


「しばらく仕事は入れてないから、2ヶ月ぐらいは大丈夫のはずよ」


「わかった。それだけあれば十分だ。7日後から車体作りを始める。他の者もいいな。この7日間で今受けている仕事を終わらせろ。そして、向こう3ヶ月は新しい仕事を受けるな。それから、この工場はこれから機密保持のために結界で封鎖する」


 どうやら、双子の樹魔を使った車体作りは前代未聞らしい。まだ、誰も成功させていない。作業工程が漏れることがないように厳重に管理されるようだ。




 カルコスさん達は、その後、3時間位時間を掛けて、いろいろな調整をした。


 樹魔の幹の直径を測り、どのぐらい伸縮できそうかの計算をする。この伸縮具合によって車体の大きさを決めるのだ。


 次に樹魔の根と枝の長さや本数を測る。この根や枝が車輪になるので、地面からの高さが決まる。




 最後に、今までにない作業になるのが幹の真ん中部分を変形して伸ばせるかだ。


 これができるかどうかで縦幅の伸縮が決まる。もしできないときは、従来の樹魔車両と同じように魔道具で代用することになる。


 ただ、これは、樹魔の調教をする専門の職人に全てを委ねることになる。




 この工場で今できることは全て終わった。時間は丁度12時だ。


 職人達は自分の工場にあたふたと戻って行った。後7日間で、今受けている仕事を終わらせなくてはならない。


 カルコスさんも、何か用事があるらしく、そそくさと出て行ってしまった。


 弟子のイエロさんにどこに行ったのか聞くと、3ヶ月分の酒を飲みに行ったらしい。ドワーフの酒好きは、どこの世界でも共通なのだろうか。


 私達も、いったん町に戻ってお昼を食べてから次の場所に向かうことにした。


 双子の樹魔は、ここでの調整が一通り終わったので異次元収納箱の中に戻っている。







 お昼は屋台で軽く済ませることにした。どこの屋台に行っても、つくもは人気者なので私達も好待遇だ。


「ねこちゃん。スープの新作だ。どうだ」


 屋台のお兄さんが、つくも専用のほどよく高くなったお皿にほどよく冷めたスープを少量入れて差し出す。

 

 つくも(猫)は、クンクンと臭いを嗅いでから舌でチョロッと舐めてみる。しばらくその姿勢のまま止まってから、ぷいっと顔をお皿から離して、後ろ足で耳の辺りを掻く。


「だめだったかー」


 屋台のお兄さんがその場で崩れ落ちた。周りで事の成り行きを見守っていた野次馬達が、「うーん残念」「次がある。頑張れ」と励ましている。


 同じ商売仲間達は「ちょっと味見させてくれ」「おい、これでもだめなのか」「いや、確かにちょっと塩気が強い」などと、味を確かめて盛り上がっている。


 つくも(猫)さん。神装力(しんそうりょく)第三権限の力の使い所、間違っていませんか……。




 つくも(猫)のおかげで屋台のお兄さんとその仲間達から、たくさんのサービスを受けてお腹がいっぱいになった私達は、満腹感に浸りながら次の場所に向かっている。


「サクラさん、次の場所はどんな所なんですか」


「この子達の変形を調整する場所よ。そこでは、この調整木琴を使うの」


 自分の携帯型異次元収納箱から調整木琴を取り出した。


「ああ、変形するときに時々鳴らしている音ですね」


「ええ、そうなんだけど、まあ、そっちは心配ないのよ。ただ、他のことでちょっと心配なこともあるの……」


 サクラさんは少し考え込んだ。




「えっとね、これから行く場所にね、ちょっと変わった人がいるのよ。びっくりしないでね……」


 サクラさんはそうつぶやくと、さてどうしたもんかという感じで考え込んでしまった。




 魔鳥車は、樹魔車両の工場がある区画からだいぶ離れた森の中に向かっていた。


 しばらく広葉樹が茂る森の中を進むと、やがて白い建物が見えてきた。入り口の看板には『音研究所』と書かれていた。




本日3回の投稿予定です。

次の投稿は17時の予定です。

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