セイテイノア7
母さんを返せって。
迷子か?
自分の母さんを探してくれってことか?
ちょっと意味が伝わりにくいのだが。
「あんたが神代乃庵だろ。俺の母さんを返してもらいに来た。」
「確かに俺は神代乃庵だが、母さんを、なに?言ってる意味がわからないんだが。」
頭のおかしいやつに絡まれたなと俺は頭を掻く。
「え〜と?君は?何歳?どうして俺のことを知っている?」
「理由は言えないし、言わないほうがいいよ。」
なんなんだこいつ・・・。
不良?
「知らないほうがいいこともある。まぁ、知っても意味がないと思うけど。」
・・・まさかこいつ夫の方に引き取られた俺の兄弟とかか?
彼の態度からただの不良ではないと思い、一旦考えられる可能性を考えてみる。
俺の母さんを返してもらいに来た。
これがもし本当にそのままのことを言っているとしたら、考えられることはなんだ?
夫の話はあまり聞いたことがないけど、まさか本当にそういう話か?
それとも隠し子?
親権を選択し直したいとかそういう話か?
俺は混乱してさまざまな憶測が脳を駆け抜けていく。
あの母さんなら、ありえなくもないような。
そこらへんも適当そうな性格だし、男運なさそうだし・・・。
「一応贋人のお前にも話しておこうと思ってな。母親がいなくなるってこと。」
夜逃げしたと思われてもめんどくさいしなとその少年は悪びれもなく続ける。
「贋人・・・?いや、意味がわからないんだけど?母さんを君が連れ去る犯行予告ってことか?」
冗談になってないけどと俺は苦笑いしながら答える。
「まあそういうことになるかもな。母さんから来ることになるだろうが一応お前の面子も保ってやるよ。」
本気で言ってんのか?
なんなんだこいつ。
そういえば昨日母さんが中学生からナンパされたとか言っていたな。
もしかしてこいつがそうなのか?
なんかこう、言いずらいのだが、だいぶいっちゃってると思うのだが。
「あのー、一緒に警察に行こう?」
「は?殺すぞ。」
こわっ!
なるべく刺激しないように優しい声で語りかけたつもりだったのだが、むしろ逆効果だったようだ。
血の気が多いなあ。
最近の中学生はみんなこうなのだろうか。
とりあえず話合わせとくかと俺は「なんでお母さんをさらうの?」と聞いてみるが。
「なんなんだお前のその話し方。いらいらすんなあ。」
・・・如月のときにも言われたな。
相手の目線に立って話してるつもりなのだが、なめてると思われてる?
要らない気づかいか。
まあ、中学生はもう精神的には大人か。
俺も当時こんな感じだったような気もする。
そんな俺の人をなめたような態度にもめげずに説明はしてくれるようで。
「なんでって、元々お前の母親じゃねえんだよ。」
・・・俺が養子だとでも言うつもりか?
そんなことは聞いたこともないし、もしそうだったとしてもこんなやつが知ってるとも思えないが。
「違えよ。あーこれ説明すんの面倒くさ。まあいいや、騒がれても面倒だから一応断りを入れに来ただけだし、これで。」
何を言っているんだこいつは。
新手の不審者か?
まるで会話が進まない。
自分だけで会話が完結されすぎだろ。
宗教勧誘でもないようだし、ほんとに目的がわからない。
そもそも普通自分の家族がさらわれるのに断りを入れたらおーけーということはないと思うのだが。
どんだけ丁寧な犯罪者なんだそれ。
想像してあまりのシュールな絵面に吹きだしそうになる。
そしてその新手の不審者はそれじゃ強く生きろよと言い、これでやっと開放されると安心したのもつかの間、そいつは塀の上に飛び乗り、さらに電柱の上に飛び乗った。
そしてそのまま電柱を経由して飛び去って行く。
・・・は?
俺はそれを見てやっと脳が働きだす。
えーと?
普通の人間には今のジャンプできないよな?
え、もしかしてギネスレベルならできる人間いる?
いや、流石にいないよな。塀の上からとはいえ電柱の上に飛び乗れる人間なんて。
有に5mくらいは飛んだぞ。しかも垂直に。
そこで俺はようやくある事実に気づく。
もしかしてあいつ、亜人化から解放された人間か?と。
如月やみかと同じような
亜人化から解放された人間はその力の一部を使うことができる、だったよな?
ということは、普通の人間では到底できない芸当も簡単にすることができる。
うん辻褄が合うな。
そして確かのあが言っていた。
前世の記憶とやらが蘇っているみたいだと。
だから誰かと俺の母親を勘違いしている。
これもありうる。
そして、前世の記憶とやらが戻ってから異常行動をとる人は多い・・・。
今まで意味不明な戯言だった彼の言葉が、あの身体能力一つ見せるだけでパズルのピースを埋めるように当てはまっていき、意味のあるものに変わっていく。
そして俺の脳は次第に理解していく。
だとすると今までの彼の発言はほんとうにこれから行うことで・・。
もしかして俺は今とんでもないほど危機的な状況にいて、とんでもないやつを目の前からむざむざ逃がしてしまったのではないかと。
そしてそれは俺がとりあえず急いで家に帰ろうと帰路に身体を向けた時にさらに状況は悪くなっていることに気づく。
あれ?あいつの向かった方角・・。
俺の家の方角だ。
家までもう突き止めてるのか!?
まずい。
今日母さんは午前出勤でこの時間ならもう家にいるはずだ。
そこまで把握されているのか?
唐突過ぎた危機に俺はさっきまでなにも危機感を感じていなかった。
変な人に絡まれたな~程度に思っていた。
あの人ならざる脚力を見るまでは。
それに気づいてから自然と家に帰る足が速くなり、途中から全速力で走りだす。
あのスピードで家に向かわれると物の数分でついてしまう。
それに電柱の上だから移動遮る信号や遮断機もないため、そういった事故は期待できない。
俺の足ではやつには到底追いつけないだろう。
だが、それでも・・。
走りながらおもむろに携帯を取り出して、母さんに電話をかけるがつながらない。
それならばとメールを送る。
『にけみて』
くそっ。走りながらだと文字を打ちづらい。
何度も打ち直そうとするもそのたびになにかを誤タップしてしまい、うまくいかない。
たった三文字でいいのに!
ああ、もう!
もうこれでどうにか伝わってくれることにかけて後は走るのに邪魔な携帯をしまって走る。
ひたすら走ること20分。
人生で初めてこんなに必死になって走った。
信号もいけそうなところは無視したし、遮断機は運よく引っかからなかったからよかったが。
信号を意図的に無視したことなんて今までなかったというのに・・。
とんだ大悪党になってしまったものだ。
自宅の門は開いている。
まだ母さんは無事か・・?
汗だらだらで呼吸も整わぬまま自宅の門を潜ろうとすると、すぐ目の前を何かがものすごいスピードで通り抜けていった。
そしてそれは反対側の塀に勢いよくぶつかり、煙を立て、止まる。
何事かと思い、それをよく見るとどうやら飛んできたのは人間だった。
ただでさえ心拍数が異常に早くなっているというのに、俺を殺す気か。
しかし、大丈夫ですかと(息が切れてまともな声にならなかったが)状態を確認しようと近寄ると、そこに伸びているのはさっきあれだけ啖呵を切っていた中学生だった。
どうなってるんだ?
状況が呑み込めずにとりあえず彼が飛んできた方向に目を向ける。
自宅の敷地内から誰かが出てくる。
母さんではないようだ。
だんだんシルエットが浮き彫りになり、ついに出てきた彼女は待ちくたびれたかのようにその言葉を口にする。
「やあ、遅かったね。」
もっと速く走れるだろうにとも言われる。
いや、これが、全速力、ですけど・・・。
まだ息切れしていて突っ込む余裕すらないが。
この声、このしゃべり方。
「どうして、ここに・・。」
こちらに歩いてくるのあに問いかける。
用事があったはずでは・・?
「これも用事の一つだからだよ。君の護衛という名のね。」
「俺の護衛・・?」
君ほどの人材を放置するわけがないだろう?と言うが、俺はついさっきあんたがいないときに有用性が証明されたばっかりなんだが。
30分もたっていない。
それに護衛対象その間に一回死んじゃってますけど。
そんなセルフ突っ込みを心の中でしていると、のあから補足が入る。
「君が特別だと予め確信していただけの話だよ。」
そういうことか。
だからここまで行動が早いと。
「だから私は君の邪魔になるものを排除してまわっていたのさ。」
ちょうどこの子のように。
そう言ってそこで伸びてしまっている中学生の頭を掴む。
「おい、まさか殺すんじゃないよな?」
俺はその光景に最悪の事態を想定する。
相手は中学生だぞ?
それに対しのあはキョトンとした表情でこちらを見てくる。
「君が殺されてもおかしくなかったのにそんなことを言う余裕があるんだね。」
「俺は不死身なんだろ。」
ついさっき証明された事実を持ち出す。
「それで余裕があるのか。」
のあは妙に納得したように顔を中学生に戻した。
「でも、周りはそうじゃないよ。」
例えば今そこで慌てて外に出てきている人とかと、彼女は玄関で立ち尽くしている俺の母親を顔は動かさずに指だけで刺す。
母さんは家の前で起こった非現実なことにどうすればいいかわからずおろおろしているようだった。
「母さんは無事じゃないか。」
「私が来たからね。」
食い気味に割り込んでくる。
「それに彼はこれから・・「とりあえず殺しは無しだ!未成年に対しての処罰としては重過ぎる。」
少年法というものも存在しているぐらいなのだ。
殺人未遂で死刑はいささか重過ぎるだろう。
それに俺がそんな光景を見たくない。
こいつは確かに今危険だが、中学生だ。
いくらでも更生の機会はある。
思春期にこんな力を持ったら全能感に酔いしれるのも仕方ないだろう。
数十分前の自分ですらそうだったのだから。
「じゃあ彼は更生施設行きでいいかな?」
更生施設・・?
その言葉に違和感を感じた俺を余所に彼女は、中学生に意識がないことを確認すると携帯を取り出して文字を打ち込みだす。
「え、警察に引き渡すとかじゃないのか?」
「あのさあ、警察のような一般人に彼を抑えられると思ってる?」
いったん君の今までの常識からは抜けだそうよと呆れがちに彼女は言う。
その言い方には少しばかりむっとしないこともないが、それもそうだと自分を諫める。
確かにほとんどが一般人で構成された組織では彼を抑え込むことはできないだろう。
刑務所の壁なども簡単に飛び越えてしまうだろうし。
それなりの彼専用の施設が必要になってくるのか。
というよりは、亜人化から開放された者達専用の。
常駐する人にももしものことを考えて力のある人がいるだろうし、結構な組織が必要になるだろう。
力を持つ者を抑え込むのって結構大変なんだなと、そこでようやく彼を拘束することがどれだけ困難かに気づいた。
「あの、もし人が足りなければ俺、手伝うよ。」
「いや、君には君のやるべきことがあるだろう。」
それに人は足りていると続けるのあ。
人足りてるの?
俺がほとんどのあしか実際に動いている人を見てないから勝手に力を持った人は少ないと思っていたけど、案外多いのか?
「私の代わりに真木が人を集めてくれているんだ。私はそういうの向かないからね。」
え?
「真木さんはその組織の長的な・・?」
俺は恐る恐る聞いてみる。
「そうみたいだね。同じ境遇の仲間とか言って、必死にオリジンを勧誘して結構大きくなってるらしいよ。」
あいつそんなに偉い人だったの?
ごりごりに嫌われてたけど俺これから社会で生きにくくなったりしないよな?
さっきまでかいていた汗とはまた別の汗がだらだらと出てくる。
あいつそんなに偉い奴だったのにこんな現場まで出てきてたのか。
現場まで見て回る熱いタイプなのか。
いや、あれはのあが来ることになっていたからか?
そんな気がしてきたな。
のあも彼女の姿を見た瞬間嫌そうな顔していたし、元々別の人が来る予定だったのでは・・。
立場を利用して先ほどの先ほどの様子ならば強制チェンジ、やりかねない。
そう考えるとあんまり良い上司でもなさそうだなと俺は苦い顔をする。
ていうかそんな組織ができていたんだな。
どれくらいの規模なのだろう。
どのくらいの強さの人がいて、どれほどの人が収容されているのだろう。
流石にのあ程の強さの人はいないだろうが。
「というか、のあは入らないのか?その組織とやらに。」
あののあ信者の真木のことだ。喜んで迎え入れるだろう。
「私は組織的に動けないんだ。昔からずっとこのスタイルだし、一人で好き勝手するほうが楽だ。」
必要な時だけ連絡をとるようにしている。今回のようにね。
なるほど。
組織は色々しがらみも多そうだしな。
これで慣れているのならそれがいいのだろう。
実績もあるわけだし。
その組織の人がどれだけ働いているのか知らないが、その組織の代表である真木が彼女に助けられたと言っているのだからおそらく今までに積み重ねた実績はトップだろう。
俺はこの界隈のものすごい人と知らず知らずのうちに関わっているのかもしれない。
俺もその組織に入ったほうがいいのか?
のあと一緒にいてもあまり戦闘面では期待できないし、おんぶにだっこになってしまう。
連絡があったときだけ向かうのようなスタイルのほうがのあに対しあまり負担にならないしと真木さんの組織に興味を持ち始めた俺に対し、のあは「君は私と一緒に来てもらう。」と告げた。
「なんで!?」
「私以上に君を守れる適人が他にいるか?」
・・・。
いや、もしかしたらいるかもしれないよ?
知らないだけで。
というか自分でそれ言うのか。
この人ちょっとナルシストなのだろうか。
「事実を言っただけなんだけど。それにそんなできたての組織に君のような重要人物を預けられるわけないでしょ。」
「え?その組織ってそんなに最近なんですか?」
「2年ほど前からだ。」
2年って結構長い気もするが、それは俺が子どもだからなのか?
「でも真木さんが経営してるんですよね?」
今日初めて会ったときは敵意丸出しで嫌な人かと思ったが、ふたを開けてみれば子どもにちゃんと向き合ってて常識のある人だった。
のあを介すると何も他のことが目に入らなくなるのは治した方がいいとは思うが、信用はできそうな人だ。
確かにいきなり不死身だとか言われても普通は信用しないよな。
彼女の最初の不信感は至極最もだ。
真木さんという人物のことを分析している間に、のあは「彼女に集客の才能はあっても人を動かす才能があるかどうかは別の話だ。」と言い放つ。
まあそれはそうだが。
そんな組織をつくれるほど人を集められたなら、その集まった人たちは彼女の理念かなにかに共感したからそこにいるんじゃないのか?
そんなに心配することはなさそうに思えるが。
その組織は具体的にどういう仕事をしているのだろう、のあと同じような事件の予防とかその後のケアとかその辺だろうかと考えを巡らせていたところに元気な声が響く。
「Arkの要井來希、到着しました。朝風壮馬を回収しに来ました。」
Ark・・。
これが真木の組織だろうか。
さっきどこかに連絡していたと思ったのはこれだったのだろう。
ていうかこの少年そんな名前だったのか。
「ああ、どうぞ連れて行って。」
「了解です!」
俺は元気の良い子だなあと朝風を回収しに来た少女を眺める。
俺より年下だろうに。
中学生くらいか?この子も。
親とかはこの年から働くことをよく許可してくれたな。
うちの親は許可してくれるだろうか。
こんな危険な仕事と知っていて。
さっきから俺の背後でなんとか状況を理解しようと俺たちの会話に必死に耳を傾け、えーとやうーんと唸っている母親を見る。
どうにかこうにか自分で理解しようと頑張っているようなのだが、その頭からすでに蒸気がでているのが見える見える。
まあ、わからんわな。
俺も今でもそうだもん。
この世界には知らないことが多すぎる。
そうしている間にその中学生の子は手際よく伸びている男の子を背負ったかと思うと、「お疲れさまでした!」と勢いよく駆けていってしまった。
「さて、これでこの仕事は終わったから次に行きたいんだけど。」
その姿を見送った後、彼女はそんなことを口にする。
まだこの人は働く気なのかと呆れながらも連れていかれるのを覚悟していたところ、その前に君はと言って、のあは俺の背後に指を刺し言う。
後はそこでショートしてしまっているお母さんに事情を説明してあげなよ。
母さんに理解させるのには中々骨が折れた。
俺はまだファンタジー的なことにあこがれがあったので受け入れがしやすかった方なのだと認識させられた。
事あるごとに質問が投げかけられ、それに俺は苦しめられた。
なんでそんな力があるの?
なんでそんな病気になってしまうの?
なんで乃庵だけそれを治せるの?
など俺もわからないことに無知故に純粋な鋭い質問が飛んでくる。
その度に俺は「いや、そこはまだわからない」と答えるしかなかった。
最後にはしぶしぶ納得してくれた様だが、消化不良感は否めないようだ。
やっと終わったかと思ったがまだこれからが本番であったことを思い出して気が滅入りそうになる。
そう。
俺はこれから母さんを説得しなければならないのだ。
この仕事をしてもよいかどうか。
これだけ危険な仕事だと示したばかりだというのに。
しかも、学校にはまともにいけなくなるというおまけ付きだ。
まともな親は許可しないだろう。
助けを求めて窓から家の門を背にしているのあを見るが、暇そうに携帯をいじっているだけでこちらのことには興味もなさそうだった。
まあ、あの人はそういう人か。
あまり深入りはしない、自分のことは自分で解決しろというようなタイプだろう。
どう切り出したものかと頭を抱えていると、母さんが先に口を開いた。
「いいよ、行ってきて。」
え・・?
「それは、どういう・・。」
「乃庵がしたいことなんでしょ?自分の人生は自分で決めていいのよ。」
行ってらっしゃいと優しい口調で送り出してくれる。
意外にもすんなり許してくれるんだな。
俺の考えていた色々な説得パターンが音を立てて崩れ去る。
もっと粘るかと思っていた。
そしてお互い譲る気のない百日戦争が起こるものだと。
母さんは今までもずっと俺の意思を尊重してくれていたが、ここまでとは思っていなかった。
案外人命がかかっているとなればこんなものなのか?
それはそれでさみしい気もするが。
「いい?いかに力を持っていたとしても、不死身?だとしてもあなたはただの人間だから。別に普通の人間のように傷ついたりするし、うまくいかないときもある。もしそれで辛くなったら遠慮なく母さんに言いなさい。そのために親はいるんだから。」
「わかってるよ。」
「助けることが当たり前になってはだめよ。それは立派なことなんだから。助けてもらって当然みたいな人にはしっかり怒りなさい!!」
「はいはい。」
いざ見送るとなると急に早口になる母さんに雑に手を振り、家の門で待機していたのあと合流する。
のあは俺が近づくと案外早かったねと言い、開いていた携帯を閉じる。
「じゃあ、出発しようか。」
そう言って俺を担ぎ上げる。
それじゃあ、母さん。行ってきます。
かっこつけて言うにはにはいささか態勢が情けなかったかもしれないが、まあいいだろう。
俺がこれからする仕事はこういうことで。
かっこよさでは人を救えないのだから。
「力のある者はその力を崇高な目的に行使すべき。」
「?」
「そんな考え方が乃庵にはあるでしょ?」
「・・・まあ、ある、かもしれない。」
「それは、力のある者が言うセリフであって、力のない守られる側が言うセリフではない。」
「と、いうと?」
「もし乃庵が回りからの圧や期待でそうなっているのならその圧や期待は振り払っていいって事よ。」
「・・・いや、それはまずいだろう。その人は公のために尽くすべき、とまでは言わないけど、もったいないよ。」
「そう?私はそうは思わないけど。」
「なんで?」
「人間だからよ。無償の愛を与え続けるだけの存在なんて、もう人間じゃないわ。
・・・乃庵、あなたは私の子ども。人間なんだから無理して背伸びする必要はないの。もし辛くなったらいつでもその役を降りることができる。それを忘れないでー




