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セイテイノア  作者: みか
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セイテイノア5

そりゃあ見つからないわけだ。

彼女の影にずっと隠れていたなんて。

何でもありにもほどがある。

おそらく芦塚が治してくれる人を待ちきれずに寝てしまったときに入ったのだろう。

実質結界のようなものだ。

俺は状況が呑み込めていない芦塚を横目にぎりぎりと締め上げてくる海峰の手をなんとか外そうと躍起になっていたが、もちろんびくともしない。

がはっ。い、息が・・。

芦塚、は、やく。

「いやー灯台元暗しとはよく言ったもんだよね。」

聞き覚えのある声がしたとたん俺の首を絞めつけていた痛みが消えた。

のどが開放され新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。

げほげほと咳き込むが気にならない。

酸素が補給され落ち着いた段階でなんとか顔を上げるとそこにはあの女が立っていた。

ほんと、来るの速すぎだろこの人。

あまりの速さに笑いが出る。

「ああ、この街は私の庭みたいなものだからね。このくらい朝飯前さ。」

それにしたって限度がある。

目の前の芦塚が動くよりも速かったぞ。

「もう影には返さないよ。」

そう言って彼女が戦闘態勢に入ったとき、芦塚の横にぼとっなにかが落ちた。

芦塚がそれを見て悲鳴をあげた。

つられて俺も目をやるとそれはみかの腕だった。

おそらく俺を助ける際に切り飛ばしたのが今になって落ちてきたのだろう。

というかまずいぞこの状況。

海峰が殺されちまう。

海峰は切り飛ばされた腕と切られた切断面から黒い線を出したと思うと、それが結ばれた瞬間まるで掃除機のコードを巻くときのように勢いよく巻き取られ、切断された腕が修復される。

如何にも化け物じみているが、女はそんな様子を余裕そうに笑みを浮かべて眺め、自分の身長ほどもある刀を振り回す。

これにも動じないのか、この女は。

・・・みかをどうにか逃がさないといけない。

直感的に実力差を感じ取った俺はまず呆然としている芦塚の元へ向かった。

「おい、目を覚ませ!みかをどうにか逃がさないといけない。お前の力が必要だ!」

そう言いながら身体を揺さぶるとようやく現実を理解したのか、流れていた涙をぬぐい、うんと

しっかりとした返事が返ってきた。

「お前はあの戦闘に介入できるか?」

目の前で行われる激しい戦闘に目を向ける。

もう女は海峰を捕えようなどという気持ちは一切なく、攻撃を先制で仕掛けたはずの海峰の腕や足が豆腐のように切られていく。

「その再生、いつまでもつの?」

必死に再生を繰り返し抵抗する海峰だったが、傍から見てもどちらに軍配が上がっているかは一目瞭然だった。

「足止めくらいなら・・。」

芦塚が自信なさげに答える。

そんなときカンッと海峰が女の刀を跳ね飛ばした音が聞こえた。

先日の戦闘で奪っても意味ないことを学習したのか、彼女の自慢の刀は遥か後方にカランと音を立てて落ちた。

これでなんとか肉弾戦に持ち込める!

殴り合いの消耗戦なら回復のある海峰のほうが分があるのではと思ったが、ワンチャン勝てる!?という淡い希望は女の次の行動で簡単に打ち砕かれた。

近接戦闘を仕掛けに行った海峰を足で軽々しく蹴り飛ばしたのだ。

きれいなカウンターの回し蹴り。海峰は民家の塀に打ち付けられ動かなくなってしまった。

おいおい・・肉弾戦も強いのかよあいつ・・。

返り血を受けて赤く染まり不気味にたたずむ彼女の姿は死神そのもので俺は思わず足が竦んでしまった。

そんなとき、俺の横を芦塚が横を勢いよく走り抜け彼女に向かっていった。

あいつ・・・。

それを見て俺も遅れてみかの元へ向かう。

あいつが気を引いてる間に俺がなんとかみかを逃がさないと。

塀にもたれかかって動かないみかをなんとか引きずりだし、背負って逃げようとしたが遅かった。

「君はなぜそこまで固執するんだ?彼女ほど思い入れもないだろうに。」

そこに死神は立っていた。

芦塚は!?

あまりにも速すぎると思い芦塚を探すと、目の前に立ちふさがる女の背後にあの時の海峰と同じように地面に打ち付けられている姿が見えた。

あの刀は海峰が跳ね飛ばしたはず。いったいなぜもう手元に・・。

「じゃまだから離れてくれない?一緒に殺しちゃうよ?」

海峰を彼女から庇うようにしゃがみこんでいる俺に対し見下ろすように冷たい目が向けられる。

その目からはまるで生気が感じられない。

「・・・駄目だ。みかは殺させない。」

死ぬかもしれない恐怖に口が震えるが、眼差しはしっかりと女をにらみ返した。

俺は一歩も引く気はないぞという意思表示。

諦めてくれ!という願いも空しく、無情にも刀が振り下ろされる。

死ぬ。

そういえばみかに助けてもらったときもこんなこと思ったな。

五日前か?

こんなに短いスパンで二回も真に死ぬかもしれないという経験をしたのは恐らく俺が人類で初だろう。

そんな他愛もないことを最期の時まで考えていた自分が可笑しくて可笑しくて。

最後に見たのは必死になにか叫ぶ芦塚の姿で。

走馬灯というものは別段特にないらしい。



「・・・代。神代!!起きて!!」

なんだ?耳元で芦塚の声が聞こえる・・。

うるさいな。

俺は切られて死んだんだはず。

死んでもなお声は聞こえるんだな。

こんな状況でも新たな発見に感動する自分に驚きながら俺は目を開けた。

目を開くとそこには辺り一面花畑で地上に存在しない生物が自由に飛んでいる、まさに楽園と言える場所・・・なんてことはなかった。

まず真っ先に涙を流しながら俺を見下ろしている芦塚の顔が映った。

鼻水も垂らしているが気にする素振りも見せずに泣き腫らしている。こんな顔みかには見せられないだろ。

俺は生きているのか?確かに切られた感触はあったが・・。

生々しい感触がはっきりと残る首をさする。

これは今膝枕されているのか?

芦塚はまだ俺が意識を取り戻したことに気づいていないようで、俺は状況が呑み込めず顔を横に向ける。

すると誰かと頭がぶつかった。

反対側にだれかいるようだ。

身体を起こしてそれを確認すると、それはみかだった。

身体に浮かんでいた黒い痣が消えている。

すやすやと気持ちよさそうに寝ているみかをしばらく呆然と眺めていたが、とてもそのようなことをしている場合ではないことを思い出す。

「そうだ!あの女は!?」

「ここにいるよ。」

急いで逃げる準備をしようとしていたところに背後から声が聞こえ背筋が凍る。

「まったく、そんな怯えなくてもいいじゃないか。一度は助け合った仲だろ?」

果たしてそんなことがあっただろうか。

助けられはしたが助けたことなんて。

もしそれが俺を囮にしたことであるならばまことに遺憾であると言わざるを得ない。

「・・・一体何が起こったんですか。確かに俺はあんたに殺されたはず・・・。」

まさかこいつ人を蘇らせたりもできるのか?だとするならまさしく神の所業で死神とはかけ離れているが。

「そう、私も殺したはずだった。」

でも、君が勝手に生き返った。

?

俺が、勝手に?

「あんたの力じゃないのか?」

恐る恐る聞く。

「人を蘇らせるなんてそんなことできるわけないよ。それはこの世界のルールに反することで、もしできたとしてもどれだけの代償を支払うことになるか。」

「じゃ、じゃあ俺はなんで今生きて・・。」

「私にもわからないよ。私も万能じゃないんだから。」

そして彼女はお手上げだと言わんばかりにやれやれというポーズをとって見せる。

「神代がそういう力を持っていたってことでしょ。」

ここでようやく話せるほどには落ち着いたのか芦塚が話に入ってきた。

「そういう力って?」

「不死身ってこと」

そんなことってあるのか?

そんな反則みたいな力が実際に与えられることなんて・・。

「で、でもそういう力っていうのはこの病気にならないと得られないって!」

俺はこんな病気になった覚えはないと反論するが、芦塚に私だって病気のときの記憶はないと返される。

「それにみかの再生力だってみたでしょ。乃庵だってそんな力があってもおかしくない。」

海峰の再生力は限度があったようだが、あれは死んで復活というより死なないように治してるような。

それに俺はこの病気になった記憶はほんとにない。

海峰は自分で何かおかしいことに気づいていたようだが、俺にはそれもない。

本当にまっさらだ。

今まで生きてきた分の記憶に抜け落ちているような箇所があるとも、ましてやそれに気づかないなど、そんなことが・・。

俺は自分自身に降りかかった新たな謎に頭を悩ませていると、海峰が目を覚ました。

俺は即座に戦闘態勢に入り、彼女に目を走らせる。

海峰のすぐに近くに立っている彼女は海峰が起き上がるその様子をただ眺めていた。

そういえばなぜこいつは俺が気を失っている間に海峰を殺さなかったんだ?

なぜだかわからないが今がチャンスだと思っていると、起き上がった海峰が周りをキョロキョロと不審そうに見回す。

「ここは・・。」

!?

意識が、戻っている?

意識を取り戻した海峰に芦塚がものすごい勢いで突進していき、その胸に飛び込んでいく。

どういうことだ・・?

「おい、これは自発的に治ることはないって・・。」

俺はそう言っていたやつに問いただそうと彼女のほうを向くと、彼女も態度には示さないが、目を見開きその様子を凝視しており、驚いているように見えた。

・・・。

なんなんだこれは。

一体何が起こっている。

誰もが状況を理解できず呆然としている中、芦塚だけは意識を取り戻した海峰と再会して心の底から喜んでいるようだった。

しばらくその状態が続いた後、沈黙を貫いていた彼女が急に笑い出した。

「まったくこれには私も予想外だと言わざるを得ないよ。」

まさかこんなことが起こるなんてと。

彼女が笑う顔は初めて見た。

「君はその力には今回で初めて気づいたのかい?」

「その力って、不死身のことですか・・?」

「違うよ。これ。この亜人化を治してしまう力さ。」

は?

それも俺なのか?

「まさかこれも俺の力だって言うんですか?」

「ああ、君は意識を失っていたとき自分が何をしたか知らないのか。」

何をしたかって。意識失っていたら何もできないだろ。

「身体からなんかすごい光が出てたよ。その光が乃庵とみかの傷を治してて。」

芦塚が当時の状況を説明してくれる。

どうやら俺が死んだときに身体から出てきた謎の光が海峰の痣まで消し去ってしまったらしい。

そのときに芦塚があっと何かに気づいたようなしぐさをする。

「神代が実は治してくれるその人だったの?」

芦塚があらぬ期待を俺にかけてくるが、全力で否定する。

「ああ、彼じゃない。ちゃんと他にいるよ。私はそいつと顔見知りだからね。」

彼女がしっかりと否定してくれるが、それを聞いた芦塚は少し悲しそうに見えた。

「君たちはもう帰った方がいい。もう時間も時間だしね。海峰君と沙奈ちゃんは二人で積もる話もあるだろうし・・・。あー、今はもう違うのか。みか君は上の名前、なんていうの?」

「月代(つきしろ)。」

「月代みか君か。いい名前だね。」

月代・・・?

海じゃなくて月?

俺はこのやり取りの意味がわからず、そのまま帰っていく二人をただ眺めていた。

今は違うってどういう意味だ。

違うのが苗字だから離婚とか・・?

離れていく二人の考えこんでいるときに少し離れた位置にいる芦塚が振り返り、俺を呼んだ。

「私の本当の名前、如月って言うの!如月沙奈!本当にありがとう!」

いやお前も偽名だったんかい。

今更明かされる未だに信頼されていなかった事実に崩れ落ちそうになる。

できれば知りたくなかったのだが。

「こらっ。彼女の必死の告白をそんな風にとらえちゃかわいそうだよ。」

頭をこずかれる。

「彼女も別に君に嘘をついていたわけじゃない。芦塚というのもちゃんと彼女の名前だよ。」

ただ彼女は如月という名前のほうが大事だったんだろうと続ける。

「・・・?苗字が二つってことですか?・・・離婚とかそういう話ですか?」

それだとみかの場合のタイミングが変な気がするが。

今はもう違う。

彼女の言葉の真意は・・・。

「そこらへんもちゃんと説明してあげないとね。今回はかなり助けられたわけだし。」

そのために君を残したんだと、そう言って彼女は話し始める。

俺の知らなかった世界のこと。

そして今この世界に訪れている危機について。



「いったいどこから話したもんかな。

 この世界が今攻撃されていることは知っているかな?

 まあ、知らないだろうね。

 ああ、別に気にしなくていいよ。

 知らなくて当然なことだから。

 むしろ何も知らない一般人だった君がここまで踏み込めていることが普通はおかしいんだ。

 まあそれも君がその力を持っていたことからしても必然だったのかもしれないけど。

 私は運命という言葉があまり好きじゃないんだけど、本当に偶然ならそうとしか言い表せない。

 世界が危機に陥った時に自然と抑止力となるものが現れるとも聞くしね。

 話ができすぎて何者かの関与を疑うことの方が丸いけど。

 誰か心当たりはない?

 あの不吉な男は無しで。そこら辺は私も知ってるから。

 わからない、か。

 とすると、ほんとに偶然?

 私も考えを改めないといけないか?

 ・・・ん?ああ、ごめんごめん。何に攻撃されているかの話ね。

 少し脱線したね。話を戻そう。

 さっきは攻撃されてるって言ったけど、正確には侵略のほうが正しくて。

 今この世界は侵略を受けているんだ。

 宇宙人?う~ん。まあそういう言い方も間違いではないんだろうけど、少なくとも私たちはその残虐性からこう呼んでいる。

 悪魔、と。

 イメージしやすいだろう?

 宇宙人でもあながち間違いではないんだろうけどね、宇宙とかいうスケールの話じゃないからね。

 まあこの辺は後々話すとして、その悪魔によってこの世界に未知のウイルスが持ち込まれているようなんだ。

 人を狂暴化させるウイルス、みたいなもの。正確には違うんだけど、今はそれでいい。

 そう、それが彼が発症していたものだ。

 私はこの症状になった人を亜人と呼んだりもするんだけど。

 それだけならまだいいんだが、厄介なことにこのウイルスには、例え治ったとしても副作用かわからないが、記憶に障害が起こるんだ。

 それにかかると今までの記憶に別の記憶が上乗せされる。

 塗り替えられるとでも言うのかな?

 彼らが言うには、どうやら病気が克服された瞬間に、前世の記憶とやらに目覚めるらしい。

 そして、自分たちのことをオリジンと名乗っている。

 記憶を取り戻した私たちこそが真の人間だと、そう主張しているんだ。

 ピンと来てない顔だね。

 まあこれは私も人のことを言えないんだけど。こればっかりは当事者になってみないとわからないのだろう。

 君はピンと来ていない以上目覚めていないということでいいのかな?

 ああ、やっぱり。

 やっぱり君は私と似ているのかもね。

 あなたもってそうだよ。私もピンと来ていない。だって私もその病気とやらになっていないからね。

 だから私も最初は彼らが何を言っているのか理解できなかった。

 亜人化の副作用か洗脳かなにかで頭がおかしくなっているのかと。

 でも別に他に異常は見つけられなかった。

 性格はがらっと変わってしまう人もいたが、かといってみんな悪化するというわけではなかった。

 最初こそ困惑するもすぐに適応する人、気にもしない人、幼い子は記憶がおぼろげであまり影響がなかったりもした。

 しかし、中にはやっぱりおかしくなってしまう人もいて、異常行動をとってしまうそれらの引き金となるものはだいたい前世の記憶とやらだった。

 不法侵入や不審行動、殺人とかもね。

 彼らは決まってこういう「俺私の記憶では・・。」「こんなはずでは・・。」と。

 おそらく前世とやらはこの世界ととても似たようなところにいたのだろう。

 ん?ああ、結構多いよ。克服してから異常行動をとる人。

 前世とやらと現世が重なってそういったことを招いてしまうのだろうが、ここで疑問なのは彼らのいう前世というのがすべて同じ世界観を示していることなんだ。

 まるで示しを合わせたかのように。

 しかし、彼らにはそういったつながりや人間関係は見られないのがほとんどなんだ。

 あの二人は結構珍しい例だよ。二人とも前世でつながりがあって二人ともが克服できた。

 彼らはおそらく大丈夫だろう。

 彼女だけだと危うかっただろうが。

 月代君は君のおかげだよ。本当に助かった。

 殺したのは悪かったよ。

 でも生き返ったことだしさ、そんな不服そうな顔しないでよ。

 あれは合意の上だったじゃん。

 何故かここ数日、本来の治すやつが姿を消してね。

 そうなんだ。ぱたりと姿を現さなくなった。

 何があったのかはわからないが、私はそいつが好きではないから別にそいつがいなくなったこと自体には何も思わない。むしろラッキーだ。

 しかし、問題はそいつが勇逸無二の能力を持っていたということ。

 ほんとにろくでもない奴だが、その力だけは優れていた。

 ああ、あの神社の男でもないよ。

 あいつは・・腐れ縁というか。おかしくなった人の一人だ。

 まあそんなことはどうでもいい。

 どうでもよくないのはそんな時に君が現れたということ。

 それこそ示しを合わせたかのようにその力をもって。

 タイミングが良すぎて恐怖をも感じたね。

 神は実在するのかと思ってしまうほど。

 前置きが長くなってしまったんだけど、つまり。

 君に代わりになってほしいんだ。

 君に、亜人化した人を救ってほしい。」



そんな言葉とともに彼女のトークはいったん幕を閉じた。

俺が代わりに・・?

「いやいやいや俺は自分がどうやって治したのかもわかってないんです。できません。」

そんな責任重大なこと自分には無理だと反射的に断ろうとする。

「まあ、強制はしないけど、君が拒むということはどういうことかわかってる?あの症状は今のところ君にしか治せない。それ以外だと殺すしかないんだよ?」

・・・。

それはそうだ。

俺が治さないと犠牲者が。

俺はこれから行方不明者のニュースを見るたびに、彼女の姿を見るたびに頭の脳裏をこれがかすめ、自己嫌悪するようになるのか?

「君はすでに知ってしまった。君の性格では・・まあ無理だろうね。」

その通りだった。

彼女は俺に選択権があるかのような言い方をしていたが、初めから俺に選択肢なんて用意されてなかった。

すでに俺は彼女の手のひらの上。

彼女は最初からこうなることはわかっていたのだろう。

だからこんな話をした。

こういう流れで話した。

「・・・やります、やらせてください。」

気づけばその言葉が口から洩れていた。

うまく誘導されたものだとは思うが、不思議と悔しくない。

「うん。じゃあこれから仕事について説明するね。」

わかりきっていたようによし決まりと手を叩いて意気揚々と話し出す彼女を余所に、俺はかすかな高揚感を感じていた。

俺はずっとこれを待っていたのかもしれない。

俺にしかできないこと、まだ知らないこと。

退屈な日常を壊す、嵐が訪れることを。



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