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セイテイノア  作者: みか
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31/32

セイテイノア31

「はあ・・はあ・・。」

なんだこいつ。めちゃくちゃつええじゃねえか。

人間の赤ちゃんの声で釣るぐらいだから戦闘面は大したことないと思ってたのに。

俺は目の前に横たわる四枚羽の悪魔を眺めながら、その悪魔の骨を自分の心臓に当てて、勢いよく貫く。


・・・じゅわ、じゅわじゅわ。


俺はぱちりと目を開け、意識を取り戻す。

時間にしてほんの数秒だろうが、毎回この後目を開けるときは恐怖心に駆られる。

失われた自分の右腕が再生していくのを見ると今のリセットは仕方がないことだとは思うが、どこから敵が来るのかわからない状況での数秒間の意識喪失と視界不良はいささか難点だ。

汗や身体にこびり付いていた体液も身体の再構築に伴って消え、すっきりとした頭で俺は考える。

今の戦いで俺は何回死んだ?

覚えていないぐらい死んだ気がするが・・・圧倒的に俺より格上の敵だった。

俺が不死身でなかったり、こいつにもう少し知能があったら俺は負けていただろう。

例えば俺を殺すのではなく気絶させてどこかに閉じ込めるとか、眠らせてドラム缶に詰めて海に沈めるとか、そういうことをされれば俺は基本ただの不死身なだけの人間なので成す術がないのだ。

身動きとれず死んでは復活して死んでは復活して、一生どんな拷問よりも恐ろしい生き地獄を味わうことになる。

それを想像すると震えが止まらない。

不死身と無敵は違う。

のあから散々言われたことだ。

不死身に驕るな。

敵の目の前で意識を失うなど本来あってはならないことで、精々死なないことは保険や隠し玉程度に思っておかなければと、俺は塀の傍らに横たわる人であったものに目を向ける。

これで少しでも彼女の無念は晴らせただろうか。

俺は彼女の元に行き、手だけ合わせてみかの元へ戻ろうと立ち上がる。

そしてこのままみかと合流しようとも思ったが、俺はそこでふと考える。

みかは恐らく一人でも大丈夫だろうし、俺は気にせず病院を目指すべきか?と。

元の位置に戻ったとしてみかに会える保証はないしな。

生憎この結界の中では電波も通じないらしい。まあみかは元々連絡可能なものを持っていないだろうが。

結局俺はみかを信じて病院を目指し片足を踏み出すのだが、そのとき俺の目の前の路地を一匹の人型の悪魔がものすごい速さで駆け抜けていった。

俺はあまりのことに一瞬呆気にとられぽかんとしてしまう。

しかし俺のその動かない身体とは裏腹に頭はフル回転していた。

悪魔が目の前にいた俺を無視したという事実。

それ自体で違和感は十分だが、これはまだ俺に気づかなかったという可能性がある。

しかしそれとは別に気になることがもう一つ。

一瞬のことではっきりとは見えなかったが、嫌な光景が見えた気がするのだ。

その悪魔は大きめの荷物を抱えており、俺の見間違いでなければわきに抱えられていたあれは恐らく、小さな子どもだ。



俺は必死でさっき目の前を横切った悪魔の後を追う。

やつは人型の二足歩行をするタイプのようだが、遠めでもわかるぐらいにものすごいフォームで走っている。

首ががくがくと揺れ、手足の関節もあらぬ方向に曲がっている。

しかしそれでも走れるのが悪魔の異常なところで・・・。

とかそんな分析をしている場合ではない!!

こいつ速え!!

塀や建物を飛び越えながら全力で追うのだが、まったく距離が縮まらない。

そりゃあ自分の足が速いと思ったことはなかったが、それでもこの仕事をしてから一般の人と比べると比にならないほどの速さは持っているはずなのだが。

俺は次第に焦りが募っていく。

病院とは正反対の方向だし、そしてこいつはいったいどこまで逃げるんだ?

この狭い結界の中では逃げ場なんかないだろうに、そう思ったところで俺は一つのことに思い当たる。

もしかしてこいつが向かっている先って、窓か?

この子どもを自分たちの世界に連れて帰ろうとしているということだろうか。

その連れて帰った先は想像したくもないが、だとすると窓まで案内してくれるのは助かる。

窓を閉じてしまえばこの醜いやつらともおさらばだ。

取り残されたやつらはこの世界の空気が肌に合わないのか、勝手に干からびていき倒す手間が省ける。

とはいってもその間あの子どもはいつ食べられるかわからない恐怖にずっとさらされないといけなくなるわけで。

早く助けだしてやらねばと思う気持ちが一層強くなる。

少なくとも窓を潜り抜けられる前に。

そうは思うのだが、如何せんやつの足が速すぎる。

なんであんな無茶苦茶な走り方であんな速度が出るんだ!!

悪態をつきながら遠くに映る悪魔の背中を必死になって上から追いかけていると、ふとその先にまた少女が立っているのが見えた。

まずい。また彼女もさらわれると俺は彼女に大声に逃げるように言うのだが、当たり前のようにこの距離では俺の声は届かない。

それにもし届いたとしてもこの現実離れした状況を瞬時に判断して逃げられる人がどのくらいいるだろうか。

恐らくほとんどの人がこの状況を理解するために一瞬動きが止まるだろう。

ましてや相手は少女。

俺は彼女もきっと攫われると覚悟を決めていた。

なんならあわよくば両脇に子どもを抱えることにより重量が増加し、足が遅くなってくれないかと次のことを考えていたくらいだ。

しかしその少女は自分に向かってくる悪魔を見て、屋根上を走ってくる俺を見、そしてその一瞬で目の前に迫る悪魔をまたしっかりと見据えた次の瞬間、その悪魔の身体が真っ二つに切れていた。

悪魔もまさか反撃がくるとは思っていなかったのか、そのまま絶命し勢いあまって上下に分かれた2つの身体ははるか前方へと投げ出されていく。

俺は子どもは無事かと目を凝らすが、少女はそれによって投げ出された子どももしっかりと抱きかかえていた。

その幼い子ども同士が抱き合う光景は、こんな状況でなければ心を内からを温めてくれるものだったけれど。

惜しいものだ。

しかしこの少女、あの素早い悪魔の動きをしっかりとらえて子どもは躱して攻撃を当てたのか。

武器が見当たらないが、いったいどうやったのだろう。

まさか手刀じゃあるまいなと思いながら、俺は意識を失っている少女とそれを支えている少女の元にようやく到着するのだが、近づいてみると俺はその少女に見覚えがあることに気づいた。

「あれ?來希ちゃん?」



はい!お久しぶりです神代さん!!と元気よく答える彼女は、以前朝風相馬を取り押さえた時に来てもらった子だった。

その時はこんな幼い子が・・・と思ったものだが、今さっきのを見た後だとそんな言葉口が裂けても言えないな。

よくよく思えばそれ以来ずっと面識がなかったのか。

俺は意識を失ってしまっている少女を介抱していると、その少女は神代さんの噂は常々聞いていますよと口にする。

「噂?なんだそれは。」

「真木さんに色目を使っているとか、のあさんの腰ぎんちゃくとか。」

碌な噂がないな。

まあ噂とは本来そういうものなのかもしれないが。

そういった俺の心境を感じ取ったのか彼女は私は噂は当てにしませんので大丈夫ですよとすかさずフォローを入れてくる。

できすぎだろこの子。

この歳にしてこの大人の考え方。

容姿と器のギャップに頭がショートしそうだ。

どうかあの子ども(灰原)も見習ってくれと思わずにはいられないが、まあどちらかと言えばあれが正しい子ども像なのだろうな。

はっきり言って気持ちが悪い。

根拠のない憶測程愚かなものはないが、どうしてもその後ろにある暗い背景を想像せずにはいられない。

「その少女はどうしますか?安全なところまで運びましょうか?」

「安全なところって、そんなところ知ってるのか?」

この狭い結界内に安全な場所なんてとてもあるとは思えないが・・。

「はい、なにやら結界に穴ができたようでして市民の方々はもう避難を開始していますよ。そこの誰かに預ければ・・・。」

あの結界の穴まだ残っているのか。

てっきりすぐに閉じてしまうものだと思っていたが、それなら話が早い。

問題は誰か信頼できる人にこの子を預けられるかどうかだが、いやとりあえずこの結界の中から出せるんであれば気にすることではないか?

「私が送って来ましょうか?」

そう言って彼女は丁寧に少女を担ぎ上げる。

今の猫の手でも借りたいほどに戦力が足りていない状況で彼女が抜けるのはもったいないとは思うが、仕方がない。

「ああ、助かる。」

「窓はあの天使が飛んでいる上空の真下ですので、どうかよろしく願いします。」

後で合流しますんでと言って彼女は行ってしまった。

まだ如月を見つけてくれたことのお礼すら言えていないというのに。

相も変わらず仕事人間だな。

彼女は前から真木さんの指令をよく受けていて、ほとんど直属の部下のようになっている。

年齢の割に働きすぎだと思うが、なにが彼女をそんなに駆り立てるのだろうか。

というか窓の場所を教えてくれたが、俺は窓に向かう気はなかったのだが。

後で合流と言われてもな・・。

そう思って俺は指さされた空の方角を見るが、確かに遠くで天使のわっかのついた化け物が巡回しているのが見えた。

あそこがそうか・・・。

どうする?

窓に向かうか病院に向かうか。

耳を澄ますとさっきの場所より窓に近づいたこともあって、悪魔どもの雄叫びと悲鳴がはっきり聞こえる。

・・・。

ここからでは病院より、圧倒的に窓の方が近い。

それに窓を閉じることができれば、芋づる式に病院を襲っているであろう悪魔どもも元の世界に引き戻せる。

病院に今すぐにでも駆けつけてどうなっているのかこの目で確認したい気持ちをぐっとこらえ俺は窓に向かう決意をする。

ごめん、母さん。

直ぐにそっちに向かうから。

そう心に決めて俺は恐らく病院の防衛をしてくれているであろう真木さんにすべてを託し、おぞましい悲鳴の響き渡る阿鼻叫喚の地へ足を踏み入れるのだった。



辺り一面ひどい有様だ。

先ほどまでの光景が可愛らしく思えるぐらい。

そこら中に無残に食い散らかされた死体が転がっていたり、壁や地面に血が張り付いている。

3か月前のときですらここまでひどい有様じゃなかった。

あのときは電車の脱線に見せかける程度の工作はしてきていたが、今回は隠そうとする気配を微塵も感じない。

これはもう隠蔽がどうかいうレベルじゃない。

どう足掻いたって隠しきれない。

今回のが一旦落ち着いたとしてもその後世間が大荒れするのが目に見える。

「ふぅ・・。」

俺は目の前のゴキブリの姿形をした身の毛もよだつ悪魔を仕留めて、とりあえず一息つくのだが、如何せん数が多すぎる。

ここに来るまでに何体の悪魔を倒した?

そのどれもが幸い低級で俺でも倒せるものだったが、全部こんな感じなわけはない。

俺が戦った赤ん坊に擬態していた悪魔のような力の強い悪魔もいることだろう。

それに低級悪魔だっておびただしい数で襲い掛かられれば一たまりもない。

遠くから窓の付近の様子を偵察してみると、どうやらビルの中に窓があるようで、中から無尽蔵に沸いて出てくる悪魔の様子が見られた。

それでいて新たに出てくる悪魔のほとんどは窓の周辺に張りついて次に出てくる第2陣が来るまで窓の防衛に努めている。

今までの悪魔どもと違い明らかに統率が取れており、裏で指示を出している力の強い魔将がいるのだろう。

そしてそれは十中八九あいつだ。

ノーフェイス。

そこで俺はこの悪魔の群れにむやみやたらに単身突撃しても到底勝てるわけがないので、どうにか近くに行って情報を集め、あわよくば隙を付けないかと考えるのだが。

せめて仲間がいてくれればと思わずにはいられない。

來希ちゃんは後からきてくれるようだから、それまでにできるだけ数は減らしておきたいのだが、他に誰かいないのだろうか。

窓が開かれ悪魔がなだれ込んで来たときは真っ先に本体の窓をつぶすことが先決のはずなのに。

誰もそれにあたっているようには思えない。

もしかしてもうやられてしまったのか?

嫌な想像が頭をよぎるのを必死で振り払いながら俺は窓に向かって悪魔の目をかいくぐりながら向かっていると、ひっくり返った車、放置された車や倒れた信号機など痛々しい光景に目に飛び込んでくる。

そんな中にそれはいた。

羊の顔にスーツと見るからに典型的な悪魔という悪魔が公道のど真ん中に堂々と立っているのが見えた。

なんだこいつ・・。

そいつは明らかに俺の姿を視認しているはずなのに微動だにしない。

目が見えていないのか・・?

ならこのまま横を素通りできそうだが・・・。

そう思って俺がその大通りを横切ろうとした瞬間、目の前に足が現れた。

俺は避けることもできずそれに思い切り蹴とばされ、ものすごい音ともに壁にめり込む。

がはっ・・いったいなにが・・。

そう思い状況を確認しようとするが、その間もないままに俺は再び目の前に現れた足によりものすごい衝撃が頭に響き渡る。

あ・・これは死ぬ・・。

脳が揺さぶられ、身体の自由が利かず崩れ落ちる俺をその羊頭の悪魔は追い打ちとばかりに首をもって拾い上げ、ぎりぎりと締め上げる。

意識を失う最後に見たニタニタと不気味に笑うそいつの姿は、まさしく悪魔とはどういうものであったか体現しているようであった。



「ふんっ!!」

俺は先ほどされたことの仕返しにと、背を向けているこの悪魔の首を後ろから両腕でぎりぎりと締め上げる。

羊頭の悪魔も完全に殺したと思っていたやつがそのまま起き上がって反撃してきたことには驚いたようで、「ぐぎぎ!?」と悲鳴のようなものを上げる。

ああ、完全に死んでいたよ。

さっきは、お前の勝ちだ。

だが、今回はどうかなっ!?

俺はごきごきと嫌な音を立てながらも未だ抵抗を続ける悪魔の首を全身全霊で締め続けていると、その場で悪魔は勢いよく回転した。

パルクールの動画とかでよく見るあれだ。

その場でななめに宙返りするあれ、の勢いが比にならない版。

俺はあまりの遠心力の強さにしがみついていた身体から引っぺがされ、地面に転がる。

何回転したのだこいつは。

片足できれいに傾いた信号機の上に着地し、首をこきこきと左右に振り何事もなかったかのように再びこちらを見るそいつを見て俺は確信する。

こいつは今までとはレベルが違うと。

俺では手に追える気がしなく、どうするか迷った瞬間にそいつは一気に間合いを詰めてきた。

はやっ!?

俺は当然ろくなガードもできないままに見事なアッパーカットをもらい、頭の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。

そしてあまりの衝撃に立っていられず、よろけているところに鋭い蹴りが横腹に突き刺さる。

それによって俺は勢いよく壁に叩きつけられ、目の前に迫りくる拳を動くこともできず眺めるままで再び意識を失うのであった。

・・・。

意識を戻すとそいつは目の前に座って俺の顔を覗き込んでいた。

不思議そうに俺を眺め、首を傾げている。

目に色がなく、空虚なその虚ろは俺に恐怖を感じさせるのに十分だった。

俺は勢いよくそいつを蹴って振り払い、気を失っている間になにか変なことはされていないかと身体を確認する。

顔を触り、次に腕、足と視線を移していく。

大丈夫だ、なにもされていない。

しかしそうして周りを見回している中で俺は背後にあった壁が崩壊していることに気が付く。

さっきまでここに柱があったはずだが・・・こいつがやったのか?

俺がそれに目を奪われていると、少し離れたところでなにか考え込んでいるように止まっていたそいつは、あっとなにかをひらめいたような素振りを見せたかと思うと次の瞬間再び向かってくる。

速い、が俺もそう何度もやられるほど馬鹿ではない。

二度も死んである程度は慣れた。

俺はそいつの拳を両手で受け止める、のだが。

おっもっ!!

この細腕から生まれる異常な威力に抑える両腕がカタカタと震える。

悪魔は俺が両腕なのに対し、空いているもう片方の手で追撃を仕掛けようとそれを振りかぶる。

しかし、俺は今までのお返しとばかりにそのタイミングを狙ってそいつを引っ張り、地面に引き倒す。

馬乗りになって形勢逆転かと思われたが、そいつはその体勢からも上半身だけをねじった動きの反動から生み出されるエネルギーだけで俺をどかすに足りる。

やはり人間時代の優勢の指標は全く当てにならないなと内心笑いつつ、力ではまだまだ悪魔に勝てないことを実感する。

だが、だんだん見えてきた。

相手の動きが。

最初は直撃もらっていたやつの攻撃をだんだん受け止め、かすり、避けれてきている。

俺も成長しているということ。

悪魔も急に当たらなくなった俺の動きの変化に驚いているようで、しばしば不快そうな表情をする。

とはいえ俺の攻撃も悪魔に大したダメージを与えられていないようでこれでは決着の付きようがない。

どうしたものかと考えていると、悪魔の方から先に動いた。

先ほどと変わらない拳だ。

俺はそれを難なく避け、前のめりにむき出しになった上半身に膝を入れる。

流石にこれは効いたようで、苦しそうなうめき声とともに悪魔の身体は一瞬宙に浮く。

俺はそのまま悪魔を蹴り飛ばすと、どさりとそいつは受け身も取れず地面に横たわった。

それを見て俺はすかさずチャンスだと追撃をしに近づいたのだが、これが間違いだった。

さっきまで一切効いていなかった俺の攻撃が急に効くなんてことがあるわけがなかったのだ。

そいつは俺がとどめとばかりに目の前まで来た瞬間、顔を上げたかと思うと地面からなにか黒い物が飛び出してきた。

俺はそれを躱すために身体に急ブレーキをかけ、なんとか仰け反ってそれを躱すのだが、その瞬間悪魔の腕が俺の首を捕える。

今日二回目のその感覚に俺は顔を顰めるが、力ではどうしようもない。

まんまと釣られ、してやられたと素直に今回の負けを認め次生き返った時の戦い方をどうするかと思考を巡らしながら意識を失う。

しかし、再び目が覚めた時俺はまだやつの手中だった。

・・・あれ?

まだ、苦しい・・?

目が覚めたと思って足を動かそうとするが、地面がない。

呼吸もしづらい・・・。

そう思って目を開けるとそこにはニヤニヤと不敵な笑みをしながら俺の首を縛り上げる悪魔の姿があった。

こいつまさかずっと俺の首を絞めつけていたのか!?

こいつ、学習してやがる!

これでは俺はリセットしてもずっと悪魔から逃れられない。

成長するのは俺だけではないということか。

このままだと再び気を失い、次気を失うと今回に味を占めたこいつが何をするかわからないと俺はどうにか力を振り絞り、自分の浮いている足を締め上げる悪魔の腕に絡ませ、悪魔の首をお返しだと言わんばかりに締め上げ返す。

ぎりぎり鈍い音が鳴り、なんならこのまま切り取ってやろうかとお互いに我慢比べが始まっていたところで、先に耐えられなくなったのは悪魔の方で、首から手を離し俺を遠くに投げ飛ばす。

「がはっ。がはっ・・。」

俺は首を押さえながら、なんとか着地し態勢を整える。

こいつ、ほんとに強い。

恐らく今まで俺がまともに戦った悪魔の中では一番。

悪魔は不快そうに締め上げられた首をさすりながらこちらを見据える。

だが、これではだめだ。

こんな相手に苦戦しているようじゃ、俺は神田を、ノーフェイスを倒せない。

のあや真木さんに追いつくこともできない。

ここから窓への距離はそこまで近くはない。

つまりそれは、そこまで強くないということだ。

普通は破壊されれば元の世界に返されてしまう窓を守るのに強いやつを置くはずだ。

それこそ空を哨戒していたあの天使のような。

そうでないこんな路地で会うようなこいつは恐らくそこまで今回やって来た悪魔の中では強くない部類だということ。

それに苦戦しているようじゃ、とても無理だ。

守りたいものも守れやしない。

「ふぅー。」

息を大きく吐いて考える。

俺はもっともっと強くなって真木さんを、そしていずれのあを超える。

そうすれば彼女らの負担も軽減できるし、そうなれば彼女らも人並の人生を送れるようになるかもしれない。

地下鉄も乗ったことがない彼女と海の上の小舟のようなこの世界で最前線で戦う彼女。

俺にはどちらも不幸に見えた。

「・・だから俺はお前なんかに躓いている暇はないんだ。」

悪魔が痺れを切らして勢いよくこちらに向かってくる。

窓のある場所へ、彼女らの見る景色へ、そしてその先へ。


「力を貸してくれ、みか。」


俺がそう言うと俺の影の中から黒い帯のようなものが出て、それは一瞬にして悪魔を捕え地面に拘束する。

悪魔は抵抗して暴れるが、その帯はさらに絡みついてほどける様子を見せない。

これはのあの変形する剣とみかの影を使ったあれこれとこの悪魔のさっきの攻撃から着想を得た合わせ技だ。

前々から影を自由に動かせるようにはなっていたのだが、実際に使う場面がなかった。

こんなにうまくいくとは・・・。

俺は悪魔を捕えているネット状に広がる帯に閉じろと命じるとそれはさらに悪魔を締め上げ、地面に微動だもできず張り付けにする。

そしてその黒い帯からのあの持つ武器のように分離させると、それを剣の形にして俺は言う。

「三敗一勝で、俺の勝ちだな。」

悔しそうに見あげる悪魔を尻目に俺は無慈悲にもそれを振り下ろす。

慣れない嫌な感触を体いっぱいに感じながら、俺はそれが確かに動かなくなったことを念入りに確かめると、再び窓を目指すために足を進める。

疲れた。

悪魔一体に時間も労力も割きすぎた。

まあ今の俺にはこれが精いっぱいなのだが。

やれやれと思い身体を引きずりながら俺はそういえばと、來希ちゃんのことを思い出す。

後で合流すると言っていたが、何かトラブルでもあったのだろうかと心配になり腕時計を見るが、まだ5分ほどしかたっていないようだった。

嘘だろ?まだ5分?

この腕時計壊れているんじゃないかと思って携帯を開くが、変わらない。

ほんとに5分なのか・・・。

この羊型の原初の悪魔との闘いも、有象無象の低級悪魔との闘いも。

俄かには信じがたいことだが、それを肯定する事実ばかりが浮き彫りになり、信じざるを得ない。

とすると窓もまだ開き続けるわけで、俺はやはり窓に向かわざるを得ないようだ。

ここから先はあんなやつがごろごろいると考えた方がいい。

いちいち戦っていたら身が持たない。

極力戦いを避けてどうにか一目拝みたいものだがと思いながら、俺は先ほどのようなミスはしないように周りを異常に警戒しながら窓の付近を一望できそうな場所に登り立つ。

あそこが、窓の開かれた建物か。

空には遠くから見えた天使型の悪魔が哨戒し、陸には我こそはと多種多様な悪魔がひしめき合い、窓のある建物を中心にして円を描くように座っている。

そのどれもから並々ならぬオーラを感じ、俺は少したじろんでしまう。

可能なのかと。

一体一体おびき出してなんとか倒したとしてもすぐに補充が来るから意味がない。

それを上回るスピードで数を減らし続けるしかないが、そんなことが可能なのはのあと真木さんぐらいだ・・・。

しかしその二人は今ここにはいない。

それにこんなに統率が取れている悪魔なんて見たことがない。

今までは好き勝手に暴れるだけだったというのに雲泥の差だ。

明らかに背後に統率者がおり、そしてそれはこれだけの悪魔を押さえつけることのできる力の持ち主。恐らくあの魔将だろうが・・・。

・・・これは、みんな諦めるわけだな。

完全にやられた。

ここまで固められてしまうと手が出せない。

俺はArkのメンバーがこの重要拠点を放置している理由を理解し、これ以上は近づけそうにないのでどうしたものかと頭を抱えていたところで。

大気が振動するのを感じた。

なにが起こるのか分からず、俺は屋上でばれないように身をかがめ、辺りの様子を伺うが、悪魔たちも何やら怯えているようだった。

しかしそれ自体は直ぐに止み、いったいなんだったのか不思議に思っていると、東の空に黒点が浮かんでいるのが見えた。

そしてそれはゆっくりと地面に落下していく。

まるでインクのように。

あっちは確か、母さんの入院している病院が・・。

やがてそれが建物に隠れ見えなくなると、辺りはいつものように静けさを取り戻し、狼狽えていた悪魔たちも何事もなかったかのように定位置に戻っていく。

なんだったんだいったい・・・。

いったいあの下で何が起こっている。

俺もあっちに、病院に。

そう思って自然と動き出す足を腕で強引に止める。

いや、俺は彼女に頼まれたはずだ。

お願いしますと。

自分の都合で好き勝手に動くわけには行かない。

少なくとも彼女が戻ってくる間に情報ぐらいは集めておかないと。

大したことはできないかもしれないが・・・と思いながらも振り返った時、その瞬間近くで再び大きな衝撃音が鳴り響いた。

まるで何かが破壊されたような。

その音源を振り返ると例の建物の入り口の扉が吹き飛んだようで、悪魔たちも何事だとその一点を凝視している。

いったいなにが・・・。

しばらくそこを眺めていると建物の中からさらになにかが飛び出てきた。

悪魔たちはざっと横にずれることで避けるが、飛び出てきたそれはずたずたに引き裂かれ見るも無残になった悪魔の死骸で、ぎょっと息を飲み、一気に警戒心を露わにする。

壊された扉の方にキーキーと鳴いていた悪魔が抑えきれなくなったのか建物の中に突っ込んでいく。

しかし次の瞬間には無残にも惨殺されたものが外に投げ出され、それを首切りに他の悪魔もビルの中になだれ込んでいく。

凄い数だ。

なんだ?同士討ちか?

なにが起きているのかさっぱりわからないが、とりあえず見守る。

情報を持ち帰るのだ。

ビルの中から今まで聞いたことがないような悲鳴と血が飛び出してきており、見るに堪えない光景が辺り一面に広がる。

腸が、首が、腕が、血が。

尽く返り討ちになっていく悪魔たちを上から傍観しながら俺はこれはチャンスなのでは思い始めた。

今なら窓に近づけるのではと。

ビルの中で暴れてくれている何者かに気づかれず、そのままどこかに行ってくれればあるいは。

一体一体は俺では手に負えないほど強いはずなのだが、ものすごいスピードで見る見る悪魔の数は減っていき、残された悪魔たちは半ばやけくそで向かって行く。

彼らも自分たちの帰る場所がないと、環境が適応しないこの世界ではただ死を待つのみなので必死なのだろう。

半分ほど減ったかというところで、中から先ほどから暴れているものの影が現れた。

外で待機して先ほどの一部始終を傍観していた悪魔もそれを迎え撃とうと臨戦態勢になり、いよいよ正体のお披露目かというタイミングで、俺の携帯からけたたましい音が鳴り響く。

誰だ。こんなときに。

俺は若干のいら立ちを覚えながらももしかして真木さんの方で何かあったのではと、急いで誰からか確認するのだが、その相手はなんとのあであった。

今までどこに行っていたのだ。

場所も知らせず勝手にふらっとどこかに消えて、こっちはこんなに今大変だというのに。

今どこにいるのかと文句の一つでも言ってやろうと思って携帯を開くと、以前のあからもらって携帯に付けていたお守りがふと視界に入った。

それは彼女は位心伝心と言っており、持っているもの同士のお互いの位置が感覚的にわかるようになるという道具だったはずだが、なぜか今それを強く感じる。

「ああ、今どこにいる?無事?」

電話口から聞こえてくるその声はいつもの無機質な声で、久しぶりなのも合間見合って少し懐かしく思う。

このような危機的な状況だというのに余裕ある呑気な言い草に、今がどういう状況で、今までいったい何をしていたのか問いただそうとした。

しかし何やら電話口から変な音が聞こえてくるのに気が付き、口が止まる。

動物の唸り声のような、なんだこれ。

「あの、今いったいどこにいるんですか?」

「あー今は、この世界だねー。」

いや世界って広すぎだろ。

「あのですね、今こっちはかなり大変でして、悪魔の軍勢が攻めてきて窓を囲っていてですね・・。」

俺は若干早口で今までの状況を説明しようと先ほどまでの眼下の景色を見下ろすと、ちょうど先ほど暴れていた者の全貌が明らかになるところだった。

その姿をみて俺は驚愕する。

金髪に、長身、長刀を担ぎ、見づらいがもう片方の手に持っているのは携帯だろう。

それで通話しながら片手間に悪魔を退治しているのだ。

返り血に染まって日も落ちていて、かなりの距離があるというのに俺にはわかる。

彼女は「それはもう片付くからいいんだけど、とりあえず君の場所は?」と繰り返し俺の安否を気にしているようだ。

そんなもの自分が渡した位心伝心を見ればいいというのに、この機械音痴が。

まったくのあというこの女は、と半ば諦めたようにため息が出る。

どうしてこんなにも劇的な展開を望むのか。

人類の希望であり、死神でもある彼女はさぞ偉く立派な演出家になれることだろう。



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