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セイテイノア  作者: みか
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26/32

セイテイノア26

「で、なんであんたがここにいるわけ?」

「なんでって事の顛末を知らせに来たんだが!?」

俺は今見舞い兼仕事の報告に入院している如月の元を訪れているのだが、しょっぱなからひどい言われようである。

「みかと二人っきりにさせてよ。仕事内容なんてどうでもいいんだから。」

「もうほんとみかのこと以外でどうでもいいんだなお前は。」

仮にも自分が殺されかけた相手のことだぞ!?

今となっては意識も回復し、元気になっているみたいだがこうまでして割り切れるもんか。

こういった切り替えの早さは見習うべきなんだろうが、如何せん真似できる気がしない。

最後が最後だっただけに俺も結構勇気を出してきたんだが?

俺のせいでもあることだし、怒鳴られる覚悟も当然あった。

それだというのに彼女は・・・拍子抜けもいいところだ。

「そいつはもう沙奈になにもできないし、する気もないんだよね?」

そう言ったのはみかだ。

相変わらず何を考えているのかわからないが、なんだ。

もし高橋が未だに本を手放していなかったらどうするつもりだったんだ?

その様子を想像して、俺は心底彼女を一般人に戻せてよかったと胸を撫で下ろす。

身内から犯罪者を出さなくて良かった。

「まあ例の本は回収したしな。今はただの女子高生だ。」

正直真木さんの考察を聞くまでは田中莉子を疑ってしまっていたことはこの際黙っておこう。

「それにお前をそこまで追い詰めたのはあの山田とか言う女なんだろ?」

「そうだけど・・・別にあの本がなかったら負けてなかったし。」

「あいつは、どうなったんだ・・・?」

「あの女は捕まえたって真木さんが言ってたよ。窓を作ろうとしているところを作られる前に拘束できたって。」

「それは良かった・・・。」

俺も頑張ったかいがあったというものだ。

「真木さん一人で捕まえたのか?」

「いや、複数人で捕まえたらしいけど、それそんなに重要?」

「いや、真木さんなら一人でもいけそうだな・・・って。」

「別にあたしも一人で行けましたけどね。」

「あ、いやいやそう言うつもりで言ったわけじゃなくて・・・。」

「なんなら余裕でしたけどね?」

いや、それはどうだろう。それにしては生傷が絶えていないと思ったが。

「オリジンの力関係があまりわからないから、ちょっと気になっただけだ。」

「まあ命の奪い合いなんてそうそう起こるものじゃないしね。あたしもよくはわからないけど・・・みかはだいぶ強いと思うよ。彼氏補正抜きで。」

そうなんだ・・・。

「もちろんのあさんを除いてだけどね。あの人は論外。」

「3対1でぼこぼこにされたからな。」

「2対1ね。」

「あーはいはい、俺は1にもならないですよー。」

「まあ今は、0.5ぐらいはあるんじゃない?」

今0.5ってそのときの俺はどれだけ弱いんだ・・・。

いや、あのときはほとんど一般人だったから当然か。

寧ろ今が小数点が一つなだけ温情だろう。

「というか、その本ってどうしたの?まさかそのまま持っているわけにもいかないでしょ。」

あんたなら多少は信頼できるかもしれないけどと恥ずかしげもなく終わりに付け加える彼女。

俺の手に負えるわけないだろ。

どんだけ俺を買いかぶっているんだ。

「真木さんに渡したよ。彼女なら安心だろ。」

「まあ妥当ね。」

自分の手元からあれが消えた時は心底安心したもんだ。

「ああいうのって真木さんは各地にばらけてるっていってたけどどれくらいあるもんなんだろうな。まさかあの一冊ってわけでもないだろうし。」

「さあ。あの人のことだしもうほとんど集めきってたりするんじゃない?」

ありえるな。

一つであんなに恐ろしい兵器になるのならそれすべて使えば世界征服でもできるんじゃないか?と俺が冗談交じりに言うと、「笑いごとじゃないんだけど。」と彼女が怪訝な顔をする。

そういえば如月は真木さんのことをあまり好いていないんだっけ。

まだみかと一緒に仕事を割り振ってくれなかったこと根に持っているのか?と思いつつも、これによって犠牲者が出ている以上笑って流せる話ではないことは確かなので、素直に謝る。

そういえばあの時俺の血は床になかったが、どうなったんだ?

あの本はその特性で殺した者の血を吸い取るようだが、俺は蘇生するときに体と分離した部位は消えてしまうし、どっちの判定になったのだろう。

俺が蘇生したから消えたのか、それとも・・・。

まあ当の本は回収したし、そんなに心配することじゃないか。

「真木さんは今どこに?」

「あの人は、なんかまたどっかいったよ。なんでも別の場所でも窓が開かれそうかもしれないって。」

「なんだそりゃ。大事件じゃないか。」

「でも確証はないらしい。あの女が言ってただけだから。」

「あの女?」

「山田とかいうやつ。まあ、あれ偽名だったらしいけど。」

「何を言っていたんだ?」

「詳しくは聞いてないけど、なんか後はお願いしますみたいな後に託す系の言葉を残したから一応って調べてるらしいよ。」

あの人も大変だな・・・。

「念には念をだって。」

「それが大事だよ。」

窓が開くと、2月のときようなことになるんだろ?

それは、慎重にもなるだろう。

「ていうかもう用事は終わったでしょ。帰って。」

「買えって何をだ?何が食べたい?」

「ちげえよバカ。今すぐにこの部屋から出ていけって言ってんの。」

「おいおい、あの時はあんなことを言ってくれたのに寂しいよ。」

「おいマジで黙れ。殺すぞ。」

「あんなことって何?」

「聞いてくれみか、こいつ俺と二人きりで任務中に涙を流してな・・・。」

俺の横を何かが通り抜けた。

「それ以上言ったら殺す。」

「・・・。」

背後の壁にびぃーんとまるでダーツのように突き刺さったシャーペンは俺の口を止めるのには十分だった。

「全く、バカップルが・・・。」

彼女に病室を追い出された俺は、まあとりあえず仕事は無事終わって良かったと伸びをしながら病室から離れる。

後は、璃莉のこととPTSDになっている加藤とその介護の田中さん、それと華音ちゃんとの仲直りだな。

とりあえず目の前の課題は。

璃莉には本当のことを言おう。

俺がみかに情報を探らせて真木さんに知らせたって。

それで俺が嫌われたってしょうがない。

受け入れよう。

母親を思う娘の気持ちを汲み取れないで独断行動をとった俺が悪い。

田中さんならまだしも加藤に対して俺ができることはほとんどない。

加藤はまだ落ち着いて話せる段階ではないようだし、田中さんにちゃんと説明するくらいしかできることはない気がする。

信じてもらえないかもしれないが、誠意として悪魔のこと、俺の仕事のことを彼女に話して謝罪しよう。

それで少しでも彼女の気が楽になればいいんだが、恐らく一朝一夕にそうはいかないだろうな。

でも多分これが彼女達に俺にできるベスト。

最善策だ。

誰か代わりに俺の役割をやってくれる人に出会うことを祈るしかない。

華音ちゃんは・・。

どうやって仲直りしたもんかな。

誤解でもないしなあ。

凝視していたのは事実。

その目的が偉いなと思って見るのかとエロいなと思って見るのかの違いでしかない。

一文字違うだけでここまで意味が180度変わるもんかと思ったが、当人にしてみればどんな目で見ていたかなんてそんなことどうでもいいもんな。

どうしたものかと頭を抱えながら廊下を歩いていると目の前から華音ちゃんが歩いてくるのが見えた。

まずいな。

考えすぎて幻覚まで・・・。

知らず知らずのうちに疲れがたまっていたのかと一回俺は眼を擦り、もう一度その場所を確認するが、そこにはちゃんと少しうつ向きがちに向かってくる華音ちゃんの姿が映っていた。

・・・え?

どうすんの?

俺どうやってすれ違えばいいの?

声かけた方がいい?

それとも無言で知らないふりか?

誰に聞かせるわけでもないのに俺は高速でこの場を抜け出すために頭をフル回転させ、自問自答をする。

いや、ここは前の反省を生かしてあまり見ずにぎりぎりまで近づいてから初めて気づいたていでいこう。

それが一番無難だと信じて俺は向こうから歩いてくるのが丸見えの華音ちゃんにあえて気づかないふりをする。

そのあまりの不自然さに彼女も首を傾けるがそれでも俺は気にしない。

そろそろ気づく体の良い距離かなと思っているとその距離に入る少し前に彼女から声がかかった。

「あ、あの・・。」

「あ、え、うん?」

彼女から声がかかってくるなんて予想だにしていなかったので俺は頭の中で作り上げていた会話パターンが崩壊し、思わず素の疑問が出てしまう。

そして次に彼女から出た言葉さらに予想していなかったことで。

この前はごめんなさい、だなんて。

「・・・どうして華音ちゃんが謝るの?」

「傷つけてしまったと思って・・。」

「で、でもそれは俺がじっと凝視したのが悪いんだし・・・。」

思いもよらずぺこりと頭を上げる彼女に慌てる俺の言った発言に対し、彼女は?と首を傾げる。

「凝視・・?」

・・・?

俺が凝視したから嫌な気持ちになったんじゃないのか?

そんな風に邪推し、首を傾げ返す俺に対して彼女は小さな声で呟く。

「あのときは、神代さんが私を恐れているように感じたから・・・。」

今も少し、そんな気がすると。

それを聞いて俺は遅れて理解する。

それはあまりにも遅すぎる理解だったかもしれないけど。

どうして彼女があのとき帰って、何を不快に感じたか。

それは俺の事案を恐れていた態度が華音ちゃん自身を恐れていると勘違いしたからだと。

彼女は人一倍恐れには敏感だった。

それは彼女の境遇からわかってもよさそうなもんだった。

亜人化中の暴走によって実の両親からも恐れの感情を向けられる彼女のことだから。

それは治した俺が一番よく知っていたんじゃないのか?

どうして理解してやれなかったのだろう。

「・・・ごめん。確かに俺と華音ちゃんの間にはそんな遠慮要らなかったよな。」

俺は俯く彼女の目線にまでしゃがみ込んで、しっかりと彼女の目を見て話す。

「そんな、遠慮・・?」

華音ちゃんはまだ目は合わせられないようで、ちらちらとこちらを見るぐらいだったが、俺は気にせず話す。

「恥ずかしい話、俺は事案を恐れていたんだ。」

「事案・・?私自身じゃなく・・?」

俺の恐れていたという言葉に反応して恐る恐る顔を上げ、こちらを見てくる彼女。

「そう。華音ちゃんと距離が近すぎると嫌がられるんじゃないかって、ね。」

「そんな・・・別に・・・。」

「そう。別に華音ちゃんは特に気にしないよね。でも大人の世界にはいろいろ面倒ごとがあって・・ってこれも言い訳か、ごめん。・・・なんか謝ってばかりだな俺。」

俺のその言葉に私と同じですねと少し笑って見せる彼女。

釣られて俺も笑いそうになり、少しばかりの静寂が辺りに訪れる。

「じゃあ、仲直りってことで。これからもよろしくな。」

そう言って手を差し出す俺の手を彼女は「はい。」と言って握り返し、俺は事実上の仲直りを果たせたのだった。

「そういえば、華音ちゃんはどうしてここに・・?」

「真木さんが神代さんならここにいるだろうって仰っていたので・・・。」

なるほど、初めから俺に会いに来ていたのか。

てっきりまた誰かのお見舞にでも来ているのかと思ったが。

俺は以前俺の母親の病院を訪れていてくれたことを思い出す。

「あ、そうだ。お詫びとしてはなんだけどなにか買ってあげるよ。」

何か欲しいものとかない?なくて困っているものとかと俺は彼女に尋ねる。

無駄に高い給料が生かされる時がついに来た。

今の両親には頼みづらいこともあるだろう。

俺がその分親代わりになってやらねばと張り切り、俺は財布に手をかける。

小学校の高学年女子が欲しがるものはパッと想像は付かないが、どんなもんでもかかってこい。

なんだ?リカちゃん人形か?プリキュアのグッズか?

いや、真面目な彼女なら勉強道具かな?と様々なものを想像し推測を立てるが、しかしその程度の子ども理解ができていなかった俺にとって華音ちゃんが次に放った言葉は驚くべきものだった。

「え、あ・・げ、現金がほしいです・・・。」

生々しすぎる。

何度か言葉に詰まった後にすごい言いづらそうにそう切り出す彼女に俺はひどいジェネレーションギャップを感じていた。

予想の斜め上の答えが来たな。

夢も希望もあったもんじゃねえ。

急に現実を叩きつけられた気分だが、ファンタジー世界に入り込んでいたのは俺だけだったのか?

もしかしてもう最近の子はそういうの興味ない?

俺が小さいころは怪獣とかヒーロー物を集めていたものだが、女子は違うのだろうか。

確かに最近の子は動画媒体の発達と普及によって、昔とはがらりと変わり、将来の夢が動画投稿者なんて言い出す子も少なくはないと聞く。

昔はサッカー選手やお笑い芸人とかだったというのに時代の移り変わりは激しいものだ。

それと同じように欲しいものも変化して、今はこれが普通、なのか?

まあそうは言っても現金を求めるのはさすがに普通ではなく、子どもらしくないのではないだろうかとも思うが。

子どもらしさというとまた押し付けるなだのと鋭い意見が飛び交いそうだけど。

これも親に甘えられない影響、なのだろうか?

親に甘えられない環境が自立しなきゃと急かしているみたいな。

家計が火の車で明日の暮らしの目途も立っていないって感じには見えないし、そうだとするとこれはあまり良い影響だとは言えない気がするが。

「ち、ちなみに、どんな用途でお金が必要なのかな・・?」

俺は恐る恐る聞いてみる。

これで貯金とかいいだしたら本当にまずい気がする。

子どもはそんなことを気にするべきではないのだ。のびのびと元気にしてればええ!と思い、これが祖父が孫娘を心配する心理かと妙に納得する。

もうこの際動画用機材を買うからとかでも良い。

将来の夢や値段については何も言わないからどうか年相応の無邪気なことを言ってくれ!と必死に祈る内面を隠し、彼女の答えを笑顔で待つが、一向にそれは帰って来ない。

・・・なんだ?

なにか言いづらいことなのか?

は、まさかいじめとか!

恐喝でもされているのか!?

華音ちゃんはオリジンに目覚めたことで他の児童より運動神経もいいだろうし、親との溝も埋まっていないし浮いていてもおかしくはない。

最近のいじめはSNSの普及により陰湿化して教師も見つけづらいと聞く。

いじめでなくとも友達と話を合わせるために話題の物をそろえようとしているとか、いろいろ後ろ目たいことは考えられる。

話を合わせなければならない友達とは友達止めた方がとも思うが、何も知らない俺がとやかく口を挟むのもな・・。

とにかくなにかのっぴきならない事情があるのは確かだ。

「華音ちゃん!俺は何があっても絶対に君の味方だからね!」

「え、あ、はい・・・。」

とりあえず俺はもじもじと言いづらそうにしている彼女の手を取り熱い意思表示をする。

こういうときは俺の持論だが頼れる相談相手だと強く味方意識を持たせるのが一番いい。

彼女が本当に耐えきれなくなったときのセーフティネットとして立っていようと俺は彼女の行動を尊重する選択をする。

これには彼女も顔を真っ赤にして感激して声にならないようだった。

やれやれまた一人救ってしまったぜと得意げな顔をしていると、小さい声で彼女が何かつぶやいた。

「・・が・・。じ・・・・・・で。」

彼女はうつむきながら小さい声で話すので、よく聞こえない。

自分から打ち明けてくれる気になったか?

そう思い俺は自分から距離を近づけ彼女の発言を汲み取ろうとするのだが。

「違・ます・・。その、実は、生理が来て、その・・・あと顔近いです。」

「・・・。」

・・・うん?

そこで俺はもしかしてとんでもないことしでかしてしまったのかもしれないということに気づいた。

今生理って言った?

言ったよな?

もしかして今俺が当ててる漢字以外の意味がこの文脈でもあるのではと思考をめぐらすが、少なくとも俺の小さい脳では見つけられず、すぐにどうすればこの状況を切り抜けられるかに思考を切り替える。

・・・・。

誤解がないように言っておくと、俺は別にこれを彼女の口から言わせたかったとかいう変態的な犯罪者予備軍の思考の持ち主と言うわけじゃなくて、普通に頭から抜けていた。

この年頃の女子の事情という物が。

だって仕方がないじゃないか!

女でもなく姉妹もいないし、彼女だっていないんだから!

わからなくても仕方ない!そう仕方なかったんだ!

・・・そう言うことにしておこう。

「え、えーと・・・とりあえず、ごめんなさい。」

親との仲も回復しきっていないため、親には頼みづらかったのだろう。

そして誰にも頼めなくて困っているときに俺が都合の良いことを提案してくれたと。

いじめじゃなくて良かったが、俯いて顔を上げない彼女を見ると罪悪感で胸がいっぱいになる。

さりげなく顔が近いって拒否られたし。

一度ならず俺は二度までも・・・。

本気で俺は彼女に嫌われたかもしれないと思うと、数週間は立ち直れない自信がある。

「な、なんで土下座してるんですか!?」

「ほんとに悪気はなかったんです。こんなバカな私目をどうか許してください。」

恐らく今の俺を璃莉が見たらドン引きすることだろう。

小学校高学年少女相手にみっともなくジャパニーズ土下座をする18歳高校生。

相手がスカートなのもあって見ようによってはどうにかしてパンツを見たがっているロリコンの図にも見えるかもしれない。

ひどく見たくない絵面だ。

当事者で良かった。

いや、良くはないが。

「と、とりあえず顔を上げてください!!別に気にしてませんから!!」

「ほ、ほんとか・・?」

俺は半信半疑で顔を上げ、屈んで俺を起き上がらせようとしながら周りをキョロキョロと気にしている彼女を見る。

「はい、ですからもういいです。・・・さっきの話も無かったことに・・。」

彼女は顔を赤らめ、今にも沸騰しそうになっている。

それほど恥ずかしかったのだろうか。

「いや、無しってわけには・・、とりあえずお金な。はい。今手持ちにある分だけど良かったら。」

足りなかったら言ってくれと俺は財布から諭吉を二枚出した。

女子の事情のことはよくわからんが、これだけあれば多分足りるだろうと手渡そうとするのだが。

「こんなもらえません。精々1000円で十分です。」

と彼女は札の種類を見て遠慮し、受けとろうとしない。

それに対し俺は「いいよ、細かいのないし。それに前俺の母親の見舞いに来てくれてたろ?あれのお礼ということで。」と言って強引にそれを押し付けようとする。

少しかっこつけすぎたか?

見舞いに来てくれていたことは事実だし、我ながらうまいこと考えたなーと、さっきかっこ悪いとこ見せた分しっかり帳尻を合わせ、彼女が遠慮なくそのお金を受け取れる状況を作る。

なんとできるお兄さんなんだろうと自分で自分を褒めていると、次に彼女が発した言葉は予想外の言葉だった。

「え?見舞い・・?なんのことですか?」

彼女は困惑した顔を見せる。

俺はその瞬間、彼女のその言葉からただならぬ嫌な予感を感じるが、この時の俺はそれが何を表しているのかを理解することができなかった。

なんのこと、とはどういうことだ?

覚えていないわけはないと思うが・・・。

俺は不意に先ほど如月が言っていたことを思い出した。

『あの女が後はお願いしますみたいな後に託す系の言葉を残したって・・・。』

夕刻、華音ちゃんの影が伸びて俺の足元にまで届く。

その影がやけに不気味に見え、俺は目の前のことに精いっぱいで、いつの間にか魔の手が水面下から迫り、すでに喉元に届かんとしていたことにすら気づいていなかったのだ。



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