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セイテイノア  作者: みか
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24/32

セイテイノア24

「何か言うことがあるんじゃないの?」

田中莉子は出入り口を塞ぎ、遮られた廊下から複数人の声が聞こえる。

彼女の協力者だろうか。

どうやら俺を意地でもここから逃がさないつもりらしい。

「・・・。」

俺になにか言えたもんじゃない。

俺には、なにも。

「・・・何か、言いなさいよ!!誰のせいでこんなことになって・・。説明する義務くらいあるでしょう!!綾乃先輩は璃莉先輩と会って少し回復したけど、未だにあんたのことは忌避してる。ごめんなさいごめんなさいって、いつもいもしないあんたに謝ってんの。わかる?先輩の痛みが。いったいなにをしたらあの優しかった先輩がこうなるって言うのよ!!」

「・・・言えない。」

どうやって説明しろと言うのだ。

悪魔がやったとでも言えばいいのか?

何処からともなく現れた悪魔が乗客を操り、電車を脱線させたって?

「言えないって・・あんたいい加減に!!」

俺の煮え切らない態度にイラついた田中が今にも殴りかからんと迫ってきたとき、「ん。」と眠っていた彼女が目を覚ました。

それは田中の奇声にも似た発狂で目が覚めたのか、なにか運命的なもので俺が来たことを察知したのかわからないが、白髪の彼女は眠そうな目をこすりながら辺りを見回す。

初めに田中を、そして次に彼女と対面している相手にゆっくりと目を向けるのだが、それが俺だと認識した途端、「あ、ああ。」と明らかに動揺し始める。

目の焦点が合わなくなり、肩が震え始める。

その様子は俺を完全に恐怖の対象とみなしているようで、さっきまで俺に釘付けだった田中も明らかな彼女の異常さに困惑する。

「先輩、いつも寝たら全然起きないのになんで・・。」

「ああ、あああ、ああああああああああああああああごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいもうあんなことしませんから助けてくださいお願いしますなんでもしますからどうか見捨てないでくださいお願いします!!」

入院続きでうまく身体も動かせないだろうにベットから崩れ落ちて俺に縋り付いてこようとする彼女を「落ち着いてください!!大丈夫大丈夫。」となだめ、なんとか戻そうとする田中。

しかし肝心の当人は錯乱していて必死に語り掛ける声は全く彼女に届いていないようであった。

暴れる彼女を押さえつける田中の目は光が一切入り込む余地がないほど黒く濁っており、たまに俺を見るときそれは敵意に満ち溢れているようだった。

「・・・なんで説明してくれないんですか?説明もできないほどひどいことをしたんですか?璃莉さんは助けて先輩は見殺しですか?」

「違う。俺は、助けようと・・」

そこまで言って俺は口が止まる。

果たしてあのときの俺は本当に助けようとしていたのだろうかと。

他の乗客と同じように等しい命として救おうとしていたか?

俺はその命に価値をつけていなかったか?

そうでなければのあが俺を抱えて脱出する際に一言でも言ったはずだ。

まだ助けられる命があるって。

だが、俺はそれを言わなかった。

それは状況が切羽詰まっていてとても言える状態じゃなかったとか、彼女を助けられる状態じゃなかったとかそういうことじゃない。

彼女の周りには悪魔どころか、邪魔をするオリジンもおらず、ただ少しのあから見えづらい位置にいただけ。

俺が素早く伝えていれば、のあの足と腕力ならば人一人くらい増えたところで背後から迫っているノーフェイスに追いつかれることなくなんなく電車から飛び降り、無傷で生還できたことだろう。

俺は余計なことを言ってのあに負担を背負わせたくなかったのか?

いつもやってもらってばかりだから遠慮した、のか?

余計なことって言っても人間の命だぞ?果たして余計なことか?

・・・いや、もしかしたらのあは気づいていたけど間に合わないと判断して見捨てたという判断を取ったのかもしれない。

彼女は命の取捨選択ができる、そういう人だ。

今までだって一人でたくさんの命を救ってきた。

俺よりもずっと優秀で、経験もあって。

きっとそうにちがいない。

・・・でももし気づいていなかったとしたら?

電車の椅子の間に座り込む彼女の存在にただ気づいていなかっただけだとしたら?

あの事件について俺は彼女とあれ以来ほとんど話していない。

だから確証はない。

あのなんでも一人で完璧にこなしてのけるのあがそんなミスをするとは思えない。

思えないが、あのときの彼女は珍しく焦っていた。

服もボロボロになっていたし、俺のお守りをしながらの戦闘は彼女にとって重りになっていたのだろう。

人は余裕がないときにミスをするもの。

もしそうだとするなら、俺がのあの足を引っ張り、余裕がなくなったのあがした珍しいミスを俺は知っていながらも見過ごしたことになる。

考えたくはないが、考えずにはいられない。

もし俺があの電車に乗っていなければ、のあは全力で戦えて、いや、あの魔将は何故か俺を狙っているからそもそも現れないのか?

俺がいなければ目の前で必死に頭を下げる彼女に限らず、今頃あの電車に乗っていたほとんどの人は・・・。

・・・。

俺はこの世界に必要あるのか。

俺のせいでノーフェイスや神田は攻撃を仕掛けてきてて、のあは本気を出せなくて、肝心の俺はろくな戦闘力もなくて。

足枷以外の何物でもない。

なぜ俺は生かされているのだろう。

それは単に俺が殺せないからなのか、人間としての人権を尊重してくれているのか。

こんなにも厚い介護をされるほどの人間なんだろうか俺は。

『君が神なんだよ。何故か今は記憶を失っているようだけど。』

神田の言葉が思い出される。

俺が失っている記憶とやらを思い出せば、もっと力が付くだろうか。

何か変わるだろうか。

もっとみんなの足を引っ張るだけでなく、のあみたいにみんなを引っ張るような人に・・・。

そうして俺はゆっくりと自分の首に手を伸ばし始めたとき、鍵がかかっていたはずの扉が勢いよく開き。

「・・・これは、どういう状況?」

このどうしようもない状況に恐れ知らずにも介入してきた彼女は、学校に置いてきてしまっていたはずの如月だった。



扉を紙屑のように破壊し入ってきた彼女は、発狂している田中ともう一人、その他もろもろを放置し、俺を窓から連れ出した。

「あの一般生になにしたのあんた。」

振り返り聞いてくる彼女だが、すぐに「いや、やっぱりいいや。」と再び前を向くと、その後はずっと黙って前を歩いてくれている。

正直その気遣いはとてもありがたいものだった。

今は、なにも話したくない。

どうして自分がああいう行動を取ろうとしたのかもわからない。

首を絞めたところで俺は死にはしないからあの夢の続きも見れないって言うのに。

「・・・あのさあ、あんたって自己肯定感異様に低いよね。」

しばらくして彼女側から声がかかる。

「・・・実際足手まといだしな。」

「本気で言ってんのそれ。」

彼女は信じられないという風に呆れた声音で、少しイラついているようにも見えた。

「本気じゃないことがあると思うか?俺はこっちの世界に足を踏み入れてから何の役にも立てていない。むしろのあや真木さんの足を引っ張っているばっかで。」

「あんたの周りが異次元すぎるだけでしょ。」

「でも、そうじゃないと俺はなんのために・・・。」

不死身とかいう人類の夢のような力を持っていてなにもできていない俺はいったいなんなのだ。

時折そんな感覚に襲われる。

のあや真木さんなど誰かに助けられた後だと特に。

俺が一人で解決しなければならない問題じゃなかったのか?

そしてそれができるに足る力は本来持っているのではないか?と。

「不死身なだけなんて対して強くもないよ。」

あたしでも殺せる。

前を歩いていた彼女は唐突に振り返り、言う。

自信満々に言い切って見せる。

そして「良いサンドバックだよ。」と恐ろしいことを続けて口にする彼女は、夕方なのもあり影がいい具合に降りていてほんとうに不敵に笑う悪魔のように見えた。

「そもそもあんたは所謂オリジンじゃないんでしょ。それでそんなに身体能力が高い方がはっきり言って異常だよ。」

「でも、これじゃあ・・・。」

「不死身で、亜人化した人を治せて、まだ物足りないの?」

嫌味っぽく笑いながら言う如月。

違う。これは俺の力じゃない。

「ただ、運が良かっただけだ。俺はたまたまこんな力を持ってしまったただの一般人で、正直言うとこの力はもっとふさわしい人のところに行くべきだった。のあや、真木さん、それでなくともお前らみたいな力をもった人間のところに・・・。」

急に力を与えられても困惑するだけだ。どうしたって自分の力とは思えない。

この力で何かを成し遂げてもなにも嬉しくないし、それに結局俺はこの力を活用しきれていない。

「この力も元はあんたのそれと同じなんだけど。あたしにこの身体能力を捨てて、それを取れって?」

「・・・別に俺以外ならだれでもいい。俺じゃあだめなんだ。」

のあがもしこの力を手に入れていたら文字通り正真正銘の最強の戦士が生まれていたことだろう。

でも、そうはならなかったのは俺が引き当ててしまったからだ。

俺みたいな一般人がこんな大層な力を手に入れてしまったこと。

俺が裁かれるには十分過ぎる理由だ。

「あんたが不死身じゃなかったらみかをかばったときにそのまま死んでるけどそれでいいの?」

「いいよ。俺は本来そこで死ぬはずだった。俺の役目はそこで終わりのはずだった。」

そこからこの意味わからない特性のせいで生き永らえてしまってからだ。

自分がこんなにみっともなく感じるようになったのは。

虎の威を借りているみたいだ。

本当にあの時に死んでおけばこんな思いをせずに済んだだろうか。

もし俺がいなければ誰か別の人にこの力は渡っていたのだろうか。

もっとふさわしい人に。

「・・・じゃあさ、残されたあたしはどうすればいいの。」

・・・?

気づくと彼女は俯いて、ぽつりとそう言った。

「あんたがもし不死身じゃなくて、あのときそのまま死んでて、残されたあたしは誰に感謝を伝えたらいいの?」

「・・・。」

どうしたんだこいつ?

急に雰囲気が・・。

「あたしはあんたが生きててくれてうれしいって思ったけど?

 あたしは頭が悪いからあんたが何をそんなに悩んでいるのかわからないけど、またみかのときと同じ目で勝手に助けられて助けられっぱなしで終わるんじゃないかってどうにかあんたを助けようと必死だったんだけど?

 そういうあたしの気持ちはどうなるの?それに別にあんたに助けられたのはあたしだけじゃない。  

 みかもそうだし、あんたのクラスメイトもそうなんじゃないの?

 それも他の人が代わりに助けてくれただろうって?あんた以外誰も動いてなかったのに?

 別にあんたがその力をうまく扱えなくても、私はあんたがその力を持っていてくれて良かったって思ってる!!だからー」

二度とそんなこと言わないで。

人を殺せそうなほど低い声でそう言ったかと思うと、彼女はどこかに行ってしまった。

それは議論の余地もない拒絶で、俺は一人住宅街に取り残される。

彼女の言いたいことはわかる。

もちろん励ましてくれているのもわかる。わかるが、でもそれでは恐らく駄目なんだ。

きれいごとでは世の中は回らない。

世界は、守れない。

彼女は何も知らない。

恐らく俺以上に。

今人類は恐ろしく楽観視できない状況に立たされていて、とても猶予なんてないんじゃないか?

終始Arkの人は忙しく動いていて、亜門のあの絶望の仕方、神田の話、俺をかばいながら戦い苦戦するのあの姿、ボロボロな真木さん。

嫌な光景が思い出される。

もしかしたら、彼女らでも力不足なのかもしれない。

のあは余裕そうにしていたけど、彼女でもいったいどこまで耐えられるか。

俺を守りながらではかなり苦戦しているように見えた。

未知の悪魔どもの力は強大で、底が見えない。

数がどれほどいるのかもわからないし、魔将とやらがどれほどいるのか。

真木さんは俺らに弱さこそ見せないが、最近はどこかぴりぴりしている。

のあは目的地も告げずどこかに行っちゃうし。

これらは急にピタッと止んだ悪魔の進行と関係がないはずがない。

彼女らは理解し、備えているのだ。

2.23事件以来の大災害が起こることに。

あのときでさえ、市民への被害は抑えられずに4桁の被害者が出ている。

次またあのような猛攻が来るとどうなるか。

それまでに俺がのあや真木さんに匹敵する力を手にしておかなければならないのだ。

彼女ら二人では圧倒的に人手が足りない。

誰もが欲しがる不死身の身体を持つ俺ならば彼女らの代わりになれるはずなのだ。

だから彼女らも俺に投資と言う形で直接目をかけてくれているのだろう。

俺はその期待に応えなければならない。

応えなければならないのだが、どうしてもそのビジョンが見えない。

彼女らはそれを経験だと言っていたが、俺にはそれ以外にも足りていないものが多すぎる。

そう、俺は焦っているのだ。

以前と比べてさらに友達が増え、守るべき対象も増えた。

そのどれもが同じ命で等価値だ。

これには意義を申し立てる人がいるかもしれないが、俺はそう信じている。

友達の命も、家族の命も、恋人の命も、他人の命も、皆等しく同じ命で等価値だ。

助ける際には優先順位などあってはいけない。

そう信じてきたのに、今の俺の手のひらからそれは零れ落ち始めている。

守るべきもの、守りたいものが増えすぎて、とてもじゃないが今の俺では守り切れない。

その最たる例が母親で、加藤綾乃で、田中莉子だ。

だから如月には悪いが、俺は現状でとどまっているわけにはいかない。

もっと強く、みんなを守れるほど強くならなければならない。

それがもしダメだったなら俺に生きる価値はない。

これだけ人間離れした力を持っていて一番大事な戦闘で役に立たないなんて、どれだけ才能がないんだ?

俺は人一人を救うので精いっぱいだし、それですら失敗するような人間。

世界なんて、重過ぎる。

とぼとぼと自分の不甲斐なさに沈みこんだ気持ちを引きずりながら歩いていると、ふと俺は隣に彼女がいないことを思い出し考える。

そういえばなんで如月は俺の場所がわかったのだろう。

あれほど報連相が大事だと真木さんに叩き込まれたにも関わらずなにも連絡せずにのこのことついていってしまった俺だったが、見事に後輩に助けられてしまった。

発信機でもつけられているのか?と思い、カモフラージュ用に持ち歩いている通学バックの中を少し探ってみるが、もちろんなにもそういったものは見つからない。

それに今日の成果も聞いてない。

これは俺がとてもそういうことを話せる状況じゃなかったからなのかもしれないが。

まあいいか、明日如月に聞けば。

とても今日の感じでは口もきいてくれそうになかったが、すべてまとめて明日聞けばいいやと開き直った気持ちで俺は帰宅する。

しかし、明日やろうは馬鹿野郎とはよくいうもので、自分の考えはすぐに甘かったと気付かされることになる。

どうしてすぐに彼女を追いかけて聞かなかったのだろう。

報連相を守らなくても結果的になんとかなったからと余裕ぶっていたのだろうか。

「芦塚さん?今日は来てませんけど、彼氏なのに連絡きてないんですか?」

次の日の放課後、上谷は昨日の今日で切り替えが早く、みんなの前で若干含みのある言い方で煽ってくるが、俺はとてもそれに構えるメンタルではなかった。

嫌な予感がして、急いで自宅の場所を仕事場に聞いて向かうが、昨日の夜から帰っていないようだった。

どこに行ってしまったのかわからない。

みかに聞いても真木さんに聞いても何も聞いていないようで、それだけでただならぬ事態だと俺は知覚する。

集団自殺事件のことについて調べていたし、事件性のあることに巻き込まれたとしか思えない。

なにか核心に触れてしまったか?

そういえば昨日の彼女はなにか言いたそうにしていたような気がする。

・・・彼女が俺にそれを言わなかったのは、なぜだ?

それは俺が頼りなかったからか?

きっとそうだ。

俺がとても仕事ができるようには見えなかったから彼女はあえて一人でそれを遂行したのだ。

みかやArkのメンバーにも協力してもらい、如月を探して街中を駆け回ること半日、ついに彼女は見つかった。

学校近辺の森の中に血まみれの状態で。



「彼女がここまでやられてしまうなんてね。」

病院の一室にある椅子に並んで座り、隣でそう言うのは真木さんだ。

如月はなんとか一命は取り留めたようで、今は機械につながれて意識不明のまま横たわっている。

彼女を見つけて、助けてくれたのは要井夾希さん(ちゃん?)らしく、どうやら彼女はオリジンと戦闘していたのだという。

彼女には感謝の気持ちがあふれてやまない。

「・・・本当に申し訳ありません。」

「どうして君が謝るんだい?今回のは彼女の独断と先行だと言うのに。」

「俺が、頼りなかったからです・・。」

これで俺の知り合いが意識不明になったのは二人目だ。

俺がこの仕事を始めてこの短い期間で母さんと如月、二人が被害にあっている。

それは本来俺がする仕事だった。

俺がちゃんと昨日聞いておけば・・・。

「・・・俺、この仕事向いてないかもしれないです。」

「どうしてそう思うんだい?」

「俺の不甲斐なさで如月をこんな目に合わせてしまいましたし、他にも璃莉や、華音ちゃん、加藤のことだって・・・。」

なにをしても空回ってばっかりだ。

事がどんどん悪い方に転がって行っている気がする。

俺はもう何もしない方がいいのかもしれないと思うほどに。

どうしてこうなった?

俺はただみんなを守りたかっただけなのに。

気づけば周りが傷ついていく・・・。

それはほつれた糸先のように崩れていって、取り返そうとすればするほどより被害が拡大していくようだった。

「そうあまり自分を責めるものでもない。この世界の歪みはとても大きいからね。人一人でどうにかなる代物ではない。」

私ですら手をこまねいているんだと少し寂しそうに言う彼女。

「それに他の人はともかく、初めにも言った通り今回のこれは彼女の問題でもある。相手が相手だからと油断でもしていたのだろう。君がそんなに気にすることじゃない。」

相手が相手・・?

俺はその言葉にピクリと反応する。

なんだそのまるで犯人が誰かわかっているかのような口ぶりは。

もしかしてもう犯人が特定できているのか?

「確定ではないが、類推はできる。」

「類推・・・。」

「元々あの学校には神田の手先が忍び込んでいるという話があったんだよ。その人物が今回の集団自殺事件を引き起こし、窓を作ろうとしていたと思われていたんだ。彼女はその人物に強襲されて、殺されかけてしまったわけだけれども、要井ちゃんのファインプレーでそれは防がれ、そして、情報も残された。」

お礼なら彼女に言いなよと真木さんは言う。

「潜伏していた手先は山田雛という名前のオリジンで、長い黒髪に、不思議な雰囲気を持っていたらしい。心当たりはあるかい?」

確か如月が気になるというようなことを言っていたやつだったと思う。

第一発見者だかんだかで。

特徴が長い黒髪に不思議な雰囲気。

そんな当たり障りのない特徴が当てはまる人物などあの学校にだけでもごまんといるだろうが・・・多分彼女なのだろう。

何の根拠もないが、なぜか俺は昨日の彼女に違いないと確信をもっていた。

「それと彼女のほかにもう一人、仲間がいたらしい。」

「仲間・・・?」

「そう。そいつはオリジンではなさそうで遠くから見ているだけだったみたいなのだけど・・・。」

あるものを持っていたみたいなんだよね。

そう言って彼女が懐から取り出したのは一冊の本。

「この本は、呪いの本と言って、見た人を死に至らしめることができる。」

デスノートみたいものだと彼女は言う。

「といっても、デスノートほど万能なものでもない。言った通り、殺すにはこのノートのあるページを見させることが必要で、それは自分にも効果がある。」

「よくそんな危険なものを持ち歩いてますね。」

「別に常に持ち歩いているわけではないんだけど、これはこの前君に捕えてもらった石川君から押収したものなんだ。」

ああ、あのときの先生。

「そして殺した人間の血を吸って、こちらとあちらを繋げる窓を作ることができる。そういう代物なんだこれは。」

そうやって窓を作っていたのか。

「別にこれだけじゃないけどね。ノーフェイスが持ち込んだ魔道具がこれというだけ。そしてこれらの道具を用いて窓を作った場合、それは普通より長く頑丈な窓を作ることができる。それが意味することは、もうわかるね。」

「・・・はい。」

たくさんの悪魔がやってくるということだろう。

「2月の再来だけは防がないといけないからね。この本の中を今見せるわけにはいかないけど・・・いや君にならいいのか?」

「そんなお試し感覚で人を殺そうとしないでください。痛みはありますよ。」

「いや私殺(や)って慣れるタイプだから。」

「変換ミスってますよ。それだと事件ですから。」

「百聞は一見にしかずと言うだろう。」

「見たら死ぬんですよね?」

俺説明聞き間違えた?

「そんなに見たくないのなら仕方がない・・・。」

「俺をやる気がない学生みたいに言うのやめてください。」

誰だって死ぬのは嫌だよ。

意味がないのならなおさら。

「とまあともかく、その協力者はこの呪いの本を持っていたという報告が上がっている。恐らく彼女の容態からもこれにやられ、自殺未遂をしたと考えられる。」

「そいつらを捕まえるんですか・・・。」

「そういうことになる。」

まるで簡単なことのように言うが、如月を殺しかけたオリジンと見ただけで人を殺すことのできる本を持った協力者、どう捕まえるというのだ。

「そこでここからが君へのお願いというか質問なんだけど、君は、その呪いの本を持っている人物に心当たりがあるかい?」

「心当たりがあるかと言われても・・・。」

当然あるわけがない。

「まあ、そりゃあそうだろうね。」

「・・・でも、当てならあります。」

「当て?」

「はい。なんとなく、そんな気がするだけですが。」

何の根拠もない。ただの賭け。

普通なら十中八九違うだろう。

もし違っていたらその人物にはとても失礼なことをしてしまうことになる。

でも俺は何故かこれが大きく外れているとは思えなかった。

もしその人物が直接的な犯人ではなかったとしても何かしらの情報は落ちると、そう確信していた。

だが、あまりに根拠が希薄すぎて作戦に組み込めるレベルではない。

それに俺はやらかしすぎて、とてもじゃないが・・・。

「生憎、こちらが狙っていることがばれた以上向こうも確実に手を打ってくる。あまり時間がない。」

情報を集める時間もないか・・・。

「今は引き続き要井ちゃんに山田を追わせているんだけど、呪いの本があると少し厄介だ。見ただけで人を殺すなんて飛んでもない代物だからね。だが今回わかっている情報としては、相手のオリジンは一人、いて二人。どうにかして彼女らは別々に分断して捕えたい。」

「どうして俺にそんなこと言うんですか。」

「・・・?君にもこの作戦に参加してもらうためだけど。」

「俺が参加しても足手まといになるだけですよ・・・。」

「いや?そうはならないよ。」

「なんで確信できるんですか。」

「君向きの仕事があるからだよ。山田じゃない方の協力者、呪いの本を持っていた人物は、オリジンでない可能性がある。死なない君にとっては、適任だろう?」

あくまでも可能性、話だけれども。

「他の人が行くとリスクがありすぎるから。大人数で行けば行くほど、ね。だから。」

彼女はそう言って振り向く。

「だから・・・その呪いの本を持っている人物は君に任せたよ。」

彼女はこんな俺にまだ期待してくれているようだった。



血を吸収する本。

現場の血はきれいさっぱり消えている。

そして被害者は全員自殺している。

ここまで証拠がそろえばその本が介入しているのは間違いないだろう。

問題はそれを誰が持っているかだが、俺には一人心当たりがあった。

正確に言えばそれしか知らない、が正しいのだが、何故か俺はそれが犯人だろうと確信していた。

普通に考えれば全校生徒600人はいそうな学校で俺は片指で数えられるほどしか知らないのであれば、他のその他590名に目を向けそうなものだが、その時の俺はどこか頭がおかしかったのだろう。

しかし、結果として見ればそれは正解だった。

本が好きで、昨日アリバイがなくて、何故か現場の情報を持っていた人物。

驚いた表情で大事そうに本を抱える高橋祐奈の姿がそこにはあった。

「その本をこちらに渡してくれないか?」



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