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セイテイノア  作者: みか
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23/32

セイテイノア23

どうやってここまで来たのか思い出せないが、俺は気づいたらArkの社長室の前にいた。

そして俺は導かれるままにそのドアノブに手をかける。

「ああ、そろそろ来ると思っていたよ。」

椅子に深く腰掛けた彼女が首だけこちらに向けて話しかけてきて、俺は彼女の珍しい様子に見透かされたような直前の言葉に対する疑問などとうに消えて「真木さんは、何をしていたんですか・・?」と言う。

「ん?調査だよ、調査。聞き込み調査。」

私も忙しいんだよー?特に最近は、と伸びをしながら言う彼女に俺は調査・・・?と首を傾げる。

所長室に籠っていて一体何ができるのか・・・と思ったが、寝ているようにしか見えない彼女の横に浮いている箱状の物体を見て俺は彼女の特徴を思い出す。

「何か、わかったんですか・・?」

「うーん。わかったこともあるけど・・・まあどっちにしろ君には教えられないね。」

個人情報だからと彼女はいたずらっぽく口に指をあてる。

そして彼女はよいしょと大げさに椅子から身体を起こすと、こちらに向き直る。

「で、来たのはなに?なにか話があったから来たんでしょ?潜入捜査でなにか問題でも起こった?」

顔が青いよ?

そう言って俺の顔をグイッとのぞき込んでくる彼女。

「吾妻、桜木綾香さんは今どうしてますか・・?」

「?なんだ、彼女のことか。彼女ならそこの中にいるよ。」

そう言って彼女は漂う箱状の物に目を向ける。

「・・・話せますか?」

「いや、だめだ。特に君はなおさら。彼女はまだまともに話せる状態じゃないから刺激はできるだけ避けたい。」

安静にする時期なのさともう話しは終わりだと言わんばかりに彼女は俺に背を向ける。

「じゃあ、将来彼女は璃莉の元に戻せそうですか・・・?」

「二人がそれを望んだらね。多分それはないだろうけど。」

「・・・っ!」

俺は言いかけた言葉をかろうじて飲み込み、脱力する。

これで、はっきりした。

俺が行ったことは間違いで、おせっかいで、ただの自己満足で、俺が壊してしまったものはもう二度と取り返すことはできないのだと。



「こんにちは。」

校門から出てきた上谷が話しかけてくる。

「あ、ああ。・・・あれ?今日は一人なのか?」

「もう試験終わりましたから。」

「・・・お前は帰宅部なのか?」

「はい、私と祐奈は。他の3人は部活なんですけど、祐奈は風邪で休みだって。今からお見舞に行くところですわ。」

「風邪か・・。大変だな。」

「・・・大丈夫ですか?なんかぼーっとしてるみたいですけれど。なにか嫌なことでもありました?」

「嫌なこと・・。まあ、あったかもな。」

「話せば楽になるやつでしょうか?」

「・・・いや、ならないだろうな。」

「そうですか。」

そう言って、あー課題めんどうですわーと大きく伸びをする彼女。

あれ?こいつこんな話し方だったか?

俺はようやく何かいつもと違うなと思っていたが気づけなかった上谷の変化に気が付いた。

話し言葉がお嬢様言葉になっている・・。

「・・・そんなに課題多いのか?」

俺はたまたまかもしれないととりあえず普通に会話を続けてみる。

「授業のだけじゃないですよ?私は特別多いんですわ。生徒会なのもあって頼られることも多いですし、自主的にも勉強進めないと・・。」

「頑張っているんだな。」

「そうですよ。優等生も楽じゃないんですから・・。」

彼女は優等生らしく、んーっ!!と伸びのために掲げていた腕を勢いよく振り下ろす。

やはりたまたまではない。うっかり出てしまった言う感じではなく気にしていないという感じだ。

こっちが素、なのだろうか。

「お前、そんなしゃべり方だったか?」

「祐奈がいないときはこうですわ。こっちの方が楽ですもの。」

久しぶりに制限がなくて気持ちがいいですわーと風に向かって語る彼女。

「どうして高橋がいるときは標準語なんだ?」

そんなふとした疑問をぶつける俺に「祐奈一人だけに標準語を話させるわけにもいかないでしょう?」とさも当たり前のように彼女は答える。

一人だけ・・・?

「あのグループの中で唯一祐奈は貴族出身じゃない一般家庭出身ですから。」

そうなのか。

ん?

でもそれが口調を変える理由になるのか?

「当たり前ですわ。ただでさえ彼女は気にしいなんですから。」

付き合いの長い上谷が言うのであればそうなのか?

なんかもっと他に気にすることがあるような気もしないこともないが、まああまり俺が首を突っ込むことでもないか。

気にしすぎでは?と思うが、これもこれで新鮮なのでいいかと俺はその真新しい感覚を優先する。

「・・・なあ、お前はさ、母親が急にいなくなったらどうだ?うれしいか?」

「いや、うれしいわけないですわ。怖いこと言わないでくださいまし。」

上谷は急な意味の分からない発言にドン引きしたようで、今までの丁寧な口調が吹き飛び、ため口になってしまう。

そう、だよな。

それが普通の反応だ。

それを俺は許可無しにやってしまったのだ。

自分の独断と偏見で。

「なに?祐奈とけんかでもしたんですの?」

「・・・どうしてそこで彼女の名前が・・?」

「いやだって、祐奈が病欠って珍しいですし。祐奈の名前だしたらなんか狼狽えてますし。」

ほんとは高橋のことではないのだが、璃莉の家庭の事情を他の人にべらべらと話すのも憚られるし、なんとも否定がしづらい。

「それに、祐奈は母親いないのですわ。」

・・・なに?

それは初耳だった。

「祐奈は父子家庭で、あまり愛情を受けずに育ったせいか自分の世界にこもるようになっちゃったのですわ。」

まあ、これは祐奈のお父さんもそういう性格だからだと思うんだけどねと笑って言う彼女。

最初から母親がいない家庭・・・。

俺や璃莉の逆、か。

「だからほら、あの通りあんまり人なれしていないと言いますか。自分の世界にこもりがちっていうか。このグループに入ってから多少ましになりましたけど、前はほんとにひどかったのですわ。そのせいで少しいじめられそうになっていたこともあったし、例の事件があったときなんて何日もふさぎ込んでました。別に大して祐奈は関係ないのに。」

「・・・。」

「だから、多めに見てあげてほしいのですわ。」

「いや、別に俺は・・・。」

ここまで話してもらったとこ悪いが、別に高橋さんに何かされたわけではない。

だから別に多めに見るもなにも感謝こそすれ、怒る筋合いは・・。

「おすすめされた本もできるだけ読んであげてほしいのですわ。」

いや、それは・・どうかな・・。

今回おすすめされたのは今のところまだ読む気はあるが、これだっていつまで続くかわからない。

頻度にもよるが、毎回毎回言われるとちょっと・・・。

「ふーん、嫌そうですわね?あたし知ってるんですわ。乃庵さんが芦塚さんと付き合ってないこと。」

!?

「そのなんで知ってるって顔いいですわね~。」

そう言って小悪魔的に見上げてくる彼女。

・・・なぜばれた?

俺の立ち回りは完璧だったはずだが。

「この間芦塚さんが別の男性の人と一緒にいるのを見ましたの。最初は兄弟かなーと思って見てたんですけど、なんかその男性の人と一緒にいる芦塚さん楽しそうで、いつもと違う表情見せますし。それで今日、本人に聞いてみたんですけどなんだかぎこちないですし。乃庵さんも乃庵さんで今こう言う話しても普通なら浮気とかで怒りそうですけど全然気にしてないみたいですし。ねえ教えてくださいまし?本当はどういう関係なんですの?」

・・・。

俺の立ち回りは完璧だったみたいだ。

正確には完璧ではないが、ほとんど如月側の失態で、俺のせいじゃなくて良かったと胸を撫で下ろすが、すぐにそうじゃないと頭を切り替える。

元々彼女はこの恋人偽装計画には反対していたのだ。

とすると彼女が隠す気がないのはむしろ当然で、なんなら当てつけの可能性すらある。

俺への反抗的な。

「教えてくれないと本当のことみんなに話しますわよ?」

きっちり脅しもしてくるなんて抜け目がないな。

今更彼女との関係程度ならばれてもいいのだが、それ以上詮索されると困る。

せめてもの抵抗として、わざと少しもったいぶってまるで重大な秘密がバレたかのように装うか。

これ以上踏み込まれないように。

俺は彼女を舐めていたのかもしれないと少し彼女の警戒度を上げ、ため息を一つついて答える。

「ただの仕事仲間だ。恋人にしたほうが怪しまれないと思ったからそうした。」

ここまでばれては仕方ないと諦めて本当のことを明かす。が、次に彼女の口からでたのは驚くべき言葉だった。

「へえーほんとに付き合ってなかったんですのね。」

「・・・は?」

「いえ、別に確証があったわけではないんですわ。もしかしたらなーと思って鎌をかけてみたらほんとに当たっちゃった。」

まじかこいつ。

俺は一つ下の女子にしてやられたという事実に頭を抱える。

「一緒にいた人も男性って言いましたけど芦塚さんよりも小さいか同じくらいの男の子って感じでしたし。あれは弟さんかと思ってましたけど、そうじゃなかったんですのねー。」

あんな小さい子がタイプだったんですのねーとニヤニヤしながらこちらを見る上谷。

前言撤回。

俺の立ち回りは全く完璧どころか、完全に手のひらの上で転がされているだけだった。

恐らくその男性とやらはみかのことだろうが、あいつ俺に協力する気本当にゼロじゃねえか。

せめてもう少し人目に付かないところでデートするとか、隠そうとしてくれ。

「それ芦塚には俺からばれたってことばらさないでください。」

俺は懇願にも似た説得を試みる。

「えーどうしましょう。私口が軽いですから。」

この貴族人の弱みを握った瞬間これでもかと言わんばかりに腹の立つ顔をしやがる。

なんなんだその口に当ててる手は。

様になってるじゃねえか・・・。

「祐奈と付き合ってくれたらいいですわ。」

・・・は?

なんだその条件は。

まだ目の前にいる上谷ならわかるが、なんで高橋?

「彼女いないんですわよね?芦塚さんは違うみたいですし。」

「まあ、そうだが。」

「じゃあいいのではなくて?祐奈いい子ですし、彼女もきっと了承してくれますわ。」

「なんで俺を高橋と・・?」

貴族と一般人なんて立場も違うし、そもそもそこに彼女の意思はないみたいだが。

「そう、祐奈には意思がないのですわ。それでいて男運もない。どうにか直させたいのですけれど、過去に付き合ったっていう男みんな金めあてのくずでしたし、本人は特に気にしてないみたいでしたけど、その、祐奈は頼まれると断れないんですわ。その点乃庵さんなら安全ですし、頼りになると思いましたわ。」

「俺に対する信頼がすごいな。」

校門で話をするだけの中だというのに。

「もちろん調べさせてもらいましたわ、私なりに。そうしたら乃庵さん有名人だからすぐわかりましたわ。観音高校3年。現在学校にはほとんど行っておらず、その代わり仕事をしていて、ちょっと仕事の内容はまだ調べがついておりませんけれども、母親は現在入院中。校内での人気と知名度は高く、昔から人助けをよくしてた、と。」

予想をするに働いているのは母親の治療費のためなのでしょうか?と。

「その点私の取引を受け入れましたら金銭のトラブルももちろん解決ですわ。」

俺にふふんと勝ち誇ったどや顔でこちらを見てくる彼女。

流石に仕事の細かいことについては知らないようだが、こいつかなり知っているな。

母親が入院していることまで。

一体どうやって調べたんだか。

「わかってくださいました?この条件を飲むことのメリット。あなた幸い顔もそこそこ良いですし、こんな人物なら安心ですし、私もこんな好物件中々出会えませんわ。どう?私と一緒に祐奈を介護しませんこと?」

そう言って右手を差し出してくる彼女は自信に満ち溢れており、俺が断るつもりなんて微塵も考え居ないようであった。

しかし俺はそれを丁寧にお断りする。

「まず俺はそんな殊勝な人間じゃないし、重過ぎる。それにそういった脅し染みた抱き合わせ手法で付き合わせたとしてうまくいくと思っているのか?」

ガーンと言う音が聞こえてきそうなくらいに崩れ落ちた上谷だったが、立ち直るのも早いようで「祐奈側はうまくいきますわ。お相手のことなんて気にしませんもの。」と言いながらすくっと起き上がってくる。

「そういうのおせっかいって言うんじゃないのか?」

「お相手はぴちぴちのJKですわよ?」

「興味がない、し別に同年代だ。」

「・・・本当にだめ?」

今までのお嬢様口調から一転し、下から目線のきゅるんとした目でこちらを覗いてくるが、俺は一瞬グッとくるものがありつつも「だめだ。」としっかり断る。

弱みに付け込んでがダメだとわかったら次は女の武器を利用してくるとは。

高橋と違って強かに育ったということなのだろう。

いや、反面教師かな?

「ちっ。じゃあ、初めに言った祐奈におすすめされた本全部読むってやつ、あれでいいですわ。」

お金は私が用意いたしますからと不貞腐れて帰った帰ったと手を振る。

「急に投げやりになるな!!」

俺が交際を断った瞬間にこの態度である。

ていうか今舌打ちしたよな!?

「ホモってこの世に存在したんですのね・・。2次元だけかと思っていましたのに。」

「そして俺を勝手に同性愛者にするな。」

「え、じゃあ・・・もしかして女!?」

「・・・お前すごいな。主に発想力が。」

男が女の身体に釣られないことやお金で物事が動かないことがそんなに信じられないらしい。

いったいどのような人生経験を積んできたんだか。

まあ貴族だからさぞ俺とは違う人生を歩んできたんでしょう。

「軽く男はPTSDになりかけてますの。女子高サイコーですわ。」

「俺と初対面の日あの笑顔の裏でいったい何を考えていたんだよ・・。」

「そりゃあ、早く失せろ猿がって思ってましたわ。」

「それは思ってたままにしてほしかった・・。」

ここまで聞いて俺はもしかしてこれは如月と気が合うのでは?と変な気が芽生えてきた。

両方相当の男嫌いだし、裏があるし。

俺目線で似ているとは思う。

「なあ、これはお前だからこの際言うんだけど、実は芦塚も男性恐怖症なんだよね。」

「は?あんなに彼氏にべたべたしてたやつがですか?」

「その彼氏と俺だけは例外なんだと。」

「へえ・・・。」

「不服そうだな。」

彼女は嫌悪感を顔全体に露わにして隠そうともしない。

「都合が良すぎますわ。会う男すべてに言ってそうですわ。」

「お前被ってた皮が消えてから言葉の棘がすごいな。」

もう一生猫被っててくれよ。

「皮被ってるのはあなたのそれですわ。」

「もう最低だよ・・・。」

「ちなみに手術は平均5~10万くらい安いところで3万くらいでいけるらしいですわ。」

「なんでそんなことを知っているんだ・・。」

そんな皮の向けた彼女とひどい会話がしばらく続いた後。

「まあそういうわけだからよければ仲良くしてやってくれ。」と自分でもなにがそういうわけなのかわからない締めに入るが、彼女は「・・・機会があればね。」とあまり前向きではないようだった。

それも仕方ないか。

決めるのは彼女だと俺は潔く諦め、彼女が下校する後ろ姿を目で追う。

あんたが祐奈と仲良くしてくれたら考えてあげる。

去り際にそう言った彼女はこれから買い物に行くらしい。

なんでもかわいい弟が待っているのだと。

お前も特定の男に対して気を許してるじゃねえかと思ったが、それとこれとは別らしい。

いったい何が別なのかさっぱりわからないが、まあなにかあるのだろう。

当人同士にしかわからないことが。

本当に似た者同士な気がするんだけどなあと少し惜しい感情を抱きつつ、それにしても仕事について言及されなくて本当に良かったと思う。

彼女なら気づいてそうでもあるが、あえて踏み込まなかったのか?

もし踏み込まれていたらこの力についても説明しなければならなかっただろうし、そもそもこれをうまく説明できるとは思えない。

俺もつい最近記憶について知ったばかりだというのに。

人に教えるにはまず教える人がその物事について深い理解を得ていないといけないと言うが、俺は如何せん知らないことが多すぎる。

高校にももう行かなくなってしまったし、俺は教師にはなれないだろうな。

少し高校にいた仲間を懐かしく思って感傷に浸っているところに、ふと後ろから声をかけられた。

もう如月が来たのか。

そう思って俺は振り返ったのだが、そこには見知らぬ少女が立っており、俺に問いかける。

「あなたが神代乃庵さんですか?」



その質問に俺はびくりと肩を震わせ、緊張が走る。

なぜなら前にこの質問を受けた時は相手がオリジンで俺に身に覚えのない恨みを持っていたからだ。

今回もそうなのかもしれないと自然に身体に力が入る。

相手は女子高生と言えどもどんな力を持っているかわからないから油断はできず、先ほどと違う急な緊張感に動悸が激しくなる。

きっとそのせいだろう。

俺は動揺していたため頭がうまく回っていなかったのだ。

でなければ俺が彼女の質問に対し「いかにもそうだが。」と何世代前かもわからないような人の話し方はしないだろう。

なんなんだいかにもそうだがって。

少なくとも現代人の一高校生が言う言葉じゃねえよ。

彼女も引いているだろうなと思い、彼女を見るが、別にあまり気にはしていないようで「この子があなたにお話しがあるようなのです。」と彼女が言うと、その後ろからもう一人小柄の女の子が姿を現した。

「君が・・・?」

俺の言葉に軽くうなづく。

これはいったいどういう状況だろう。

この子が、上谷の言っていたあし、如月と関わりのあった子か?

だが、連れてきているこの子は上谷ではないしな。

別の子に依頼したという可能性はあるが、それにしても先ほどの会話でこんなにも触れないものだろうか。

単純に忘れていたという可能性はあるが。

それ以外の可能性を模索すると言うなら・・・、告白・・・とかか?

いや、この子とは初対面だしな・・・俺のビジュアルから考えてもその可能性はあまりに低く、己惚れすぎである。

だとするとなんだ?

対人経験の少ない俺はこの状況の次の行動が読めない。

男性という生き物に触れてこなさ過ぎて、まるで珍しい動物を見るかのような気分できたのか?と恐らく見当違いの推理をしていたところに彼女が小さく口を開く。

「助けて。」と。

「この子、助けてほしい人がいるみたいなんです。」

「助けてほしい人・・・?」

対象は彼女自身ではなく?

「はい。是非ともあなたに、と。」

「俺が人助けなんて・・・。そもそもよく知らない人にそう思えますね。」

「いえ、私はあなたのことをよく知っていますよ。」

意外とあなた有名人ですからと彼女は言う。

「俺が有名人・・・?」

「ええ、観音高校3年の神代さん?」

「・・・。」

今日は知らない知人とよく会う。

「引き受けてくださいますか?」

俯いて(泣いている?)いる女の子の肩を持ってこちらを見る彼女。

「・・・どこにいるんだ?」

そう言われて、断れるはずもなかった。

「ありがとうごさいます。それでは後はお二人で。」

「おい、あんたはいいのか?」

「ええ、私はただの仲介役ですから。」

彼女はそう言うとまるで最初からいなかったかのように去っていった。

・・・そういうもの、なのか?

俺は目の前で俯いている彼女を前に考える。

俺がこの頼みを素直に受け取れないのは、先ほどの彼女の存在。

黒髪ロングでうっすらとこびりついかのような笑顔。

まるでそこだけ空間が切り取られたみたいで、おおよそ女子高生のそれが出していいものじゃない異様な雰囲気だった。

これが漫画やアニメなら彼女の背景は黒く塗りつぶされていたことだろう。

つい警戒してしまうのも、仕方がないだろう。

オリジンの可能性だってあるわけだしと苦い記憶を思い出す。

「え〜と、名前はなんていうんだっけ?」

俺は意を決して聞いてもいない名前を聞いたことにして目の前の少女に話しかける。

「・・・莉子。」

「ああ、莉子ちゃんね。で、助けてほしいっていうのはどういう・・・?」

どこかにさらに依頼主が隠れているという友達の友達の友達展開が来るのかと思い、他の人物を探した俺に、案内しますと彼女は言って歩き始めた。

俺はそれを追うかどうか悩んだが、追うことにした。

そのときに少し顔が見えたが、別に泣いていた、わけではないらしい。

人見知り、なのかもしれないけど、だとするとさっきの女性は、俺と彼女を二人きりにするなんてなんと無情なやつなんだ。

間に入ってやれよ、と思わなくもない。

そしたら今のこの空気も少しは良くなるかもしれないのに。

「・・・。」

気まず。

先ほど軽いジャブをかけてはみたが、見事に返り討ちに会いこのありさま。

この生き様。

終始無言で前を歩く彼女の後ろをついていく。

これが助ける側の姿だろうか。

なんとも情けない限りだ。

まあ、彼女もそれだけ切羽詰まっているということなのだろうから、それ以上は詮索しない。

余計なことは聞かない。

それが彼女のためでもあるのだろうと、そう思って、スタスタと歩く彼女に黙ってついていくと、ある一つの建物の前に着いた。

メンタルクリニック中田、と書いてある。

精神科、だろうか。

ここに、助けてほしい人がいるのか?

テキパキと慣れた手つきで受付をすませる彼女の背中を追いながら俺は彼女に話しかける。

「俺はここでなにをすればいいんだ?カウンセリングをしてほしいとかそういうことか?」

「いや、ただ彼女に会ってくれるだけでいい。」

会ってくれるだけでいいって言われてもな。

それで助けられるのか?

会うだけで助けられるのなんてアイドルくらいしか思いつかないが、生憎俺にそれを期待するのはお門違いだぞ?

確かに今日は一方的に知られている回数が多いが、それで己惚れるほど俺もやわじゃない。

これは口ではそう言ってるが、遠慮してるだけで実は他にやってほしいことがある、もしくは話せない何か事情があると、そういうことじゃないのか?

後ろからでは彼女の顔は見えず、本音がわからない。

「ここ、入って。」

そう言って、ある病室の前で彼女は止まり、俺に先に入るように促して来る。

いつの間にか彼女の口調は最初の丁寧な口調から命令染みた口調になっていたが、この時の俺は状況が謎すぎて気づかなかった。

ここに、その人物がいるのか?

いったい俺に会うだけでいいなんてどんな人物なんだ。

彼女と言うからには女性なんだろうが。

「失礼しまーす。」

俺はそう言って引き戸を開け、入ってベットに持たれている人物の顔を見た瞬間ここに来たことを後悔した。

すぐに帰るために振り返ろうとするが、背後からガチャリと音が聞こえる。

それは彼女がこの部屋の扉に鍵をかけた音だとすぐにわかった。

彼女は扉の前に立ち、何が何でも俺を帰らせる気はないらしい。

俺は改めてベットで気持ちよさそうに眠る彼女の顔を見る。

顔のいたるところに引っかき傷のようなものがあり、髪もぼさぼさ、着ているものもぼろぼろですぐに彼女がまともな精神状態ではないことが見て取れた。

「あたしの名前は田中莉子。そしてそこで眠っている彼女は加藤綾乃。神代さんのせいでこうなった人です。」

わかりますよね?

急に人が変わったかのように詰め寄ってくる彼女のあまりの剣幕に俺はいたたまれずつい目をそらしてしまう。

ああ、わかってる。

忘れるはずもない。

今回彼女が俺をここに連れてきた理由は、友達の紹介でもなければ、当然告白というわけでもない。

髪の色が変わり、もう今は見る影もないが、元気で奇麗な顔立ちだったのでよく男どもにちやほやされていた。

意地悪で頭が悪かった。

璃莉を含む4人でよくやんちゃすることを楽しんでいて、人を小馬鹿にするのが趣味のような人間だった。

俺が助けられた人物。

取りこぼしてしまったはずの命。

そこにいたのは俺の弱さにして、俺の罪の生きる証明だった。



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