セイテイノア21
そんなこんなで今に至るわけだが、正直気まずい。
如月本人は「なんでみかじゃないの・・・。」とぶつぶつ文句を言っていて不機嫌だし。
こんな嫌がられながら仕事するのも楽じゃないんだけどなあと思うが、真木さんは「最近起こった集団自殺事件の場所がちょうど彼女の通っている高校なんだ。それで彼女の補助ができる人材を探していたんだけど、あいにく彼女は極度の男性恐怖症で、男性は君とみか君以外は無理らしい。で、みか君と如月さんを組ませると仕事にならないじゃん?」と言って、俺の肩に手を置いたのだ。
それも満面の笑みで。
確かにこの職場は男性の比率は高いし(だからこそ女性でトップの彼女は一目置かれている)、みかと一緒なら彼女は仕事どころではなくなるとは思うが、本当に他に出れる女性はいなかったのかよと文句の一つも言いたくなる。
先日のあれと言い、こいつは俺にどうにかして仕事させて、過労死でもさせようってか?
何か俺が悪いことしたか?
もちろんそんなことはないとは思うのだが、なんともこいつには振り回されてばっかりだ。
なぜ仕事を首にならないのが不思議だと思ったが、すぐに多忙な人材が足りていない現状を思い出し納得する。
「なあ、如月。その、今回の事件の被害者にお前の友達とかいたりするのか・・?」
「はあ?いないけど。そもそもあたし友達とかいないし。」
「・・・。」
うわあ。言い方きつー。
絶対怒ってるよこれ。
俺はその態度に出会った当初のことを思い出していた。
「なにその顔。もう学校も行ってないよ。今回たまたまあたしの通っていた学校で事件が起こっただけで、正直今日真木さんから聞くまで知りもしなかった。だから別にそんなどうでもいいこと気にしなくていいよ。あんたってよく変なところ気にするけど疲れないの?」
「いや別に普通だと思うけど・・。」
「・・・普通、ね。」
「その、お前が学校に行かなかったり、友達が要らないっていうのは、自分がオリジンであることと関係があったりするのか?」
「・・・?質問の意味が分からないんだけど。」
俺はそれを聞いて心底胸を撫で下ろす。
彼女の発言の節々からもしかして最近真木さんから聞いたオリジン至上主義者とやらなのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
まあ、こいつはみか以外が目に入っていないというだけだもんなと俺は勝手に安心し、「なんでもない。」と返すのだが、それが気に入らなかったのか彼女は説明しろといわんばかりの鋭い視線をこちらに向けてくる。
「いや、あまり気持ちのいい話じゃないよ?」と俺はなんとか逃げようとするのだが、彼女も「いいから言って。」の一点張りで譲ろうとしない。
結局俺が折れて、しぶしぶ説明することにする。
「オリジンが人間の上位存在と考えて他の人間を差別する考え方のことだよ。最近そんな奴に出会ったせいで、もしかしたらそうなのかもと思ってしまったんだ。許してくれ。」
俺の言葉に彼女は初め一瞬嫌悪感を示したが、俺の謝罪を聞いてなんとか許してくれたようだ。
「あたしはそんなに大した人間じゃない。」
「お前がそういうことを思うような人間じゃないことはわかってるよ。」
俺は弁解するように言葉を畳みかけるのだが、しかし彼女は少し気にしてしまったようでネガティブモードに入ってしまい、俺は後悔する。
やはりせがまれてもなんとか誤魔化すべきだったかいや、そもそも彼女にこの話しを振ったのがまずったかと自己内省をしていると、「でも少しだけわかるかもしれない・・・。」と彼女が小さく言ったのを俺は聞き逃さなかった。
「わかるって?」
俺は恐る恐る尋ねる。
「元々オリジンとそうでない人は話が合わないし、オリジンになると本来の記憶を思い出すから今までの私ってなんだったんだろうって。偽りの自我であるオリジンじゃない人たちはなんなんだろうって、思うことはあるよ。この人たちがオリジンに目覚めたら結局今までの関係はなかったことになるのにって。」
差別かと言われるとわからないけどと彼女は最後に付ける。
過激すぎる思想でなくて安心したが、知識としては理解できるが、体感としては理解できない。
なぜなら俺はオリジンではないから。
これが彼女達が疎外感を感じてしまう原因なのだろう。
彼女は俺のことはオリジンだと思っているが、俺が今そうではないということを明かしたらどうなってしまうのだろう。
関係にひびが入るだろうか。
そんなことを考えていると会話が終わり、再び空気が沈黙に戻る。
「あのー今からでもみかと変えるように真木さんに言ってこようか?俺から強く言えばなんとかなるかも・・。」
俺はあまりの気まずさに自分から冗談っぽく提案をするのだが「・・・。」と彼女は本気で悩み始める。
その事実に落ち込みそうになるが、しかし少し考えて「別に。」と否定なのか肯定なのかわかりづらいニュアンスの発言をつぶやく。
「みかとのデートは楽しかったか?」
俺は意を決してどうにかして彼女の機嫌を取ろうと彼女の好きそうな話題をチョイスする。
「・・・まあ。」
「本当に好きなんだな。」
「・・・まあ。」
「・・・それはいつからなんだ?記憶を取り戻す前からそうだったのか?」
俺のその質問で一瞬の静寂が訪れる。
・・・聞いちゃまずいことだったか?
あんまり過去のことについては詮索しないほうがいいとは真木さんから常々言われていたのだが、2日前に新たに知った知識もありつい聞いてしまった。
沈黙が続き、そろそろ自分の言った発言を後悔し始めて撤回しようとしたところで、俯いていた彼女がようやく口を開いた。
「・・・いや、覚えてすらいなかった。あんなに助けてくれたのに。」
彼女はそう悲しげにつぶやいた。
助けてくれたってみかと大災害前に関わりがあったってことか?
どのくらい関わりがあったのかは測れないが、彼女の様子からして余程のものだったのだろう。
そしてそのみかもなんとか記憶を取り戻して、再会?ということだろうか。
彼は感情を表情に出さないからわからないが、それはそれは嬉しいことであったに違いない。
そしてそれは彼女にとっても。
過去の関係が元通りになるのは稀だって聞いていたが、この二人は再構築できたみたいでなんだか自分のことのようにうれしくなった。
俺があの時みかを見捨てなくて良かったと彼女を見ていると心から思える。
「だから、あんたには感謝してる。あたしみかがいないと何もできなかったから。」
「何もできないって、そんなことないだろ。一人でみかを探していたし。」
「いや、本当に何もできないの。男性はまだ怖いし、友達だって作れないし、口調は荒いままだし・・。」
結局みかを探したのだって、あたし一人じゃ見つけることすらできなかった。
そんな風にぽつりとつぶやく彼女。
「でもお前はみかを助けるために自分の命を顧みなかったじゃないか。普通の人にはできないことだよ。」
みかを亜人化から救おうとしていたときのことを思い出す。
「あれは、それしか道がなかっただけだよ。どっちにしろみかを救えなかったらあたしも死んでた。」
死んでたって・・・。
こいつならやりかねないが、あまり簡単に言うもんじゃないぞと言諫めようとして俺はどの口がと口を噤む。
俺にはこれを言う説得力がない。
俺だってそれしか方法がないのであればそうしていただろうからだ。
そんな俺にはどんどん悪い方に悪い方に考えていく彼女をどうにかやめさせようとしたいのだが、かける言葉が見つからない。
テンプレのように悪いことばっかり考えるのはやめろと諭すか、なにもできないわけないと激励するべきなのか。
こういうときの正解がわからない。
何と言ってあげればよいのだろう。
そうしてふさぎ込む女の子と何も話せばいいのかわからなくなっている男と言うなんとも情けない図が完成した。
そのままお互いに言葉を発さず無言のまま並んで歩くという奇妙な状態が数分続いて、やっと俺は声を発した。
「・・・お前は今幸せか?記憶を取り戻せてよかったか?」と。
どうしてもこれだけは聞きたかった。
聞かねばならなかった。
俺のした行いが正しかったのか知るために。
「幸せだよ。」
間髪入れずにそう答える彼女を見て、俺は安堵する。
「・・・そうか、なら良かった。」
正直俺は石川や朝風のその後を見て、よくわからなくなっていた。
記憶なんて思い出さない方がよかったんじゃないかと。
一度は俺がこんなことなら知りたくなかったと絶望したように、彼らももしかしたら思ったんじゃないかと。
しかし、一度亜人化してしまった人間を元に戻すには現状これしかない。
そしてそれができるのも今は俺だけ・・。
俺が背負っていくしかないのだ。
みんなの人生を。
それが力を持つものの定めと言うのなら。
「あたしさ、大災害の前最悪な環境だったんだよね。母はいないし、父親は酒やギャンブルばっかでろくに働かなくてさ。挙句の果てには借金のかたにあたしを売り物にしてたんだよ。」
「売り物って・・。」
「うん。毎日あまり他人には言えないようなことをやらされてて、そのせいで学校でも汚物扱いされてて、ほんとに死のうかと思ってたの。」
引いた?と彼女はこちらに尋ねてくる。
こんな話をしているというのにあははと笑って俺の顔を覗き込んでくる彼女。
何なんだその笑いは。
笑い話じゃないだろうに。
それとももう笑うしかないのか?
人間あまりにも悲惨な状態に陥ると笑うしかなくなると言うが。
何も口を開こうとしない俺に飽きたのか、彼女はそのまま話を続ける。
「でも、そんなときみかが助けてくれて、でもそのせいでみかは重症になって、もうだめだというときに大災害が起こったの。それで人間関係がリセットされて、父親もいなくなって、また新たなスタートが切ることができた。記憶が戻った時、生活は貧しいままで友達もいないままだったけど、あの父親はいなくなったこととみかにもう一度会えるとわかったときがあたしとってはなにより嬉しかった。神様がもう一度人生を与えてくれたんだって、本気でそう思った。あたしはみかに一度、神様に一度、合計二回も救われてる。他のオリジンの人には悪いけど、大災害が起きてくれてむしろ感謝してるの。空白の期間があったことなんて簡単に水に流せるぐらいに。」
元が低すぎる人間もいるんだよと半ば自虐的に話を締めくくる彼女。
俺は彼女の話を聞いて自分がどれほど恵まれていたかを理解した。
彼女は薄幸そうだとは思っていたが、まさかそんな過去があるとは・・・。
男性が苦手なのも納得だ。
PTSDになっていても、世の中の男性全てに憎しみや嫌悪感を抱いていてもおかしくはない。
それなのに如月は最初俺に会いに来た。
それはつまりそれほどみかのことが大切だったということで、みかがどれほど彼女の嫌悪感を和らげていてくれたのか想像するに難くない。
「あたしって最低かな?」
そう聞かれるとそんなわけないとしか言えなくなるが、実際どうだろう。
そりゃあすべての人間が同じ感情を抱くわけはないし、如月のほかにも大災害を喜ばしく思う人も少なくないだろうが。
「心の中ぐらいは自由でいいんじゃないか?」と俺は答える。
遺族や被害者の前で逆撫でするようなことを言わないのなら別にいいだろう。
そこまで気負うことじゃない。
・・・こんな状態で大丈夫なんだろうか。
俺は彼女のやられっぷりに正直仕事どころではないのではと心配になる。
まあ俺が余計なことを聞いたからなのかもしれないが。
真木さんに彼女の補佐をしろと言われて具体的にいったい何をすればいいのかわからなかったが、こういうメンタルケアのようなものも含まれているのだろうな。
前々から彼女は行動力とそれを実行する能力はあるけど、メンタルが心配と言われていたし、その精神安定剤としての仕事をしていれば今回の仕事はうまくいくだろう。
実際に校内に入れるのは彼女だけで、俺にできることは少ない。
彼女に頑張ってもらわねばならないのだ。
俺はただ彼女が持ち帰った情報をもとに考え手助けをし、もしも危険が迫った時は強制介入する。
それだけでいい。
今回俺たちが任された仕事は最近ニュースにも取り上げられた集団自殺の原因特定だ。
なぜこのようなことをするのかと言うと、もしこれがただの自殺ではなく、オリジンが絡んだ事件であったとしたらまずいからだ。
普通の一般人である警察ではそれがどっちであるか見分けることはできない。
超常現象をただのオカルトか錯覚かなにかだとごまかして短絡的に結論付けてしまうのが落ちだ。
実際にはそれが真実だとしても。
そのためにそのような怪しい事件には俺らが派遣される。
一般人にばれると面倒なため表立って行動はできないが、何故か顔が利く。
それは真木さんが今までにそれほどの信頼を積み重ねてくれたということなのだろう。
そういった経緯で現場に向かうのはいいのだが、ただでさえ集団自殺と聞けばなにか不穏なものを感じて、さっき彼女に質問はしたが、どうやら彼女は記憶が戻ってからは学校に行っておらずさっぱりわからないらしいし。
それは真木さんから聞かないと知らないわけだ。
よくわからないが、そんな規律正しいお嬢様高校ならあんまり学校に行ってないと退学とかにならないのだろうかと考えて俺は自分も学校を長期にわたって不登校になっていることを思い出す。
これについては人のことを言えたことではなかったな。
俺も学校に行かなくてはとは思っているのだが(志望校も一応提出していたし)、中々世界がそれを許してくれない。
通報には駆けつけないといけないし、今回のような調査もしないといけないし、人員が圧倒的に足りていない。
それに俺の力のことも・・・。
そんなことを考えている間にいつの間にか目的地についていたようで、如月が「着いたよ。」と声をかけてくれた。
ここが、立山女学園・・。
思ってたより普通というか、もっと派手な感じだと思っていたが、建物もそこまで新しくないし、花が咲き誇っている庭があるようにも見えない。
まあまだ校門から見ているにすぎないのだが。
「だから言ったでしょ。普通の高校だって。ただ男がいないだけだよ。」
フム。
まあ案外そういうものなのかもしれない。
未知のゾーンである女子高というものに過度な期待をしすぎたか?
自分の良く知らない分野に関して良い部分だけを見てそれが全体だと思ってしまうような、よく陥りがちなやつだろうか。
やっぱり思い込みじゃなくて自分でちゃんと知ることが大事だなと思っていると、すたすたと彼女が敷地内に入りだす。
「じゃあ、また後で。」
ここからは彼女の仕事ということだろう。
もうすでに下校時刻らしく、俺は校舎に向けて周りの生徒と逆走していく彼女の背中を見守る。
心配だ。
心配だが、俺にできることはないもない。
俺は不審な目でこちらを見ている警備員を見てなんとか彼女に続いて校舎に入りかけた自分の身体を踏み留めさせる
一応制服(当たり前だが自分が通っている高校の)に着替えてはいるのでそこまで露骨に危険視されてはいないだろうが、ここからいったいどうしたものか。
周りの下校途中の生徒からじろじろとまるで新しい生命体を見るかのような視線が向けられ、とても居心地が悪い。
こういうことがあるから俺は昼にしたかったのだが、昼だと逆に彼女が目立ってしまうから駄目なんだそうだ。
確かに授業中に廊下を歩き回る生徒がいるのは目立つなと納得しつつ、まあ大事なのは中の彼女の仕事のほうなので俺もこれには仕方なさを覚えつつ、最悪彼氏の振りでもして切り抜けたらいいかと考えていた、そんなとき。
「お兄さん、さっき芦塚さんと一緒に来ましたけど、どんな関係なんですかー?」
女子高生の集団に話しかけられた。
まさか話しかけられるとは思っていなかったので少しテンパって返事が遅れるが、・・・芦塚?
・・・。
あ、そうか。
誰のことを言っているんだと一瞬考えてそれが如月の旧姓だったことを思い出す。
そう言えばオリジンは名前二個持っているんだったな。
学校では苗字を本来のものにしていないのか。
まあ今更変えたら離婚か結婚かどっちかを疑われるし、オリジンのことを言えるわけもないし、めんどくさいことになるのは目に見えてるから仕方ないかと俺はそれに納得する。
イレギュラーはあったが、予め予想していた質問内容だったので、俺は予め容姿していた答えをその下校途中の一グループにさらりと答えた。
「彼氏です。うちのきさ、芦塚をよろしくね。」
声を作って、ニコリと彼女らに微笑む。
少し危うかったが、まあ及第点だろうと思っていると、なぜか俺に話しかけてきた彼女たちが固まってこそこそと話し出した。
あれ。
俺の想定ではこのイケメンスマイルで悩殺するつもりだったのだが。
他の生徒の声やチャイム音などで良く聞こえないが、まさかきもがられてそのまま通報なんてことないよな。
嫌な予感がして警備員の方をちらちらと警戒するが、とりあえず動きは見えない。
まさかその内緒話に参加するわけにもいかないからだらだらと冷や汗を流しながら待っていると、最初に話しかけてきたリーダー格っぽい人がまた話しかけてきた。
気品が漂っていて、見た目こそ一般人を装っているが、どことなく上品な感じがする。
お嬢様とかなんだろうか。
女子高ってそういうのがいるってイメージだし。
これは妄想のし過ぎか?
「あのーおせっかいかもしれませんけど、芦塚さんと付き合うのはやめた方がいいですよ。悪い噂がすごいですし、もし付き合ったばっかだと言うのなら・・。」
「そんなことないよ。彼女は一途で良い子だ。噂もいいけど事実かは確かめないと。」
俺は途中で彼女の言葉を遮り、彼女らにウインクをした。
なぜならそれは事実だからだ。
しかしまた彼女らは集まってこそこそ話し始める。
・・・今度は本当にアウトか?
いや確かにウインクはやりすぎたかもしれないが、彼女と付き合っているって言っちゃったしここは強く否定しとかないと怪しまれるし間違ってないよな?
実際に一途だし、良い子かと言われると俺を殺そうとしたこともあるし少し難しいところもあるが、まあ悪い子ではないと言えるだろう。
今度の話し合いはさっきより長く、今度こそ警備員に連れ去られて真木さんから説教ルートかと覚悟を決めかけていると、ほどなくして話し合いにひと段落ついたように見えた瞬間、怒涛の質問攻めにあった。
「趣味はなんですか?」
「どこの高校ですの?」
「彼女のどこに惹かれたんですか?」
「お名前は?」
もうすごいのなんの。
急な手のひら返しに俺が驚かされたわ。
こんなに一気に180度話が変わることってあるんだ。
質問自体はまあ高校生によくありがちな質問ばっかで予想の範疇をでないものだったが、いったい何が彼女らをここまで駆り立てるのか。
あまりにも自然だからスルーしそうになったが、数人お嬢様透けてるしな。
やはりここは由緒ある女学園、如月は普通と言っていたが、ちゃんと存在するではないか!!
絶滅したわけではなかった!!
俺は変な感動を覚えつつも、如月を待っている間特にやることがなかったので、その間の時間を埋めるようにして彼女らと話した。
内部の情報も知れるから、一石二鳥だしな、と。
「彼女に惹かれたのは、一生懸命なところかな。ちょっと向こう見ずな部分もあるけど、好きな人のためならすごい努力してくれるとこ。」
「「おおー。」」
ちょっとそれっぽいことを言うと、きゃっきゃっと初心な反応を見せる彼女たち。
なんだこの大げさなリアクションは。
これが女子高クオリティかとちょっと気持ちよくなって他の質問にも答えたところで、じゃあねぇと次さらに質問を繰り出そうとする彼女らを静止する。
一通りの辺り障りのない質問にも答えたので、そろそろいいだろうと今度はお返しと言わんばかりに彼女らに質問する。
「き、芦塚の悪い噂ってどんなのがあるの?」
普段如月と呼んでいるからこれ慣れないな。
気を付けないと。
「え、その、変な男と一緒にいたのを見たとか、路上で怒鳴り散らしてたとか、いろいろ?前まではおとなしい教室の隅にいるような真面目な子だったのに急に不登校になったし、絶対なにかあるって言われてます・・わ。」
思わず漏れてしまったような『わ』には触れないでおくとして(お嬢様であることを隠しているのか?)、まあそれは確かに怪しいな。
俺でも何か疑うわ。
ていうか、その変な男って俺じゃないよな?
路上で怒鳴り散らしてたのは知らないけど、あの性格で男嫌いならあってもおかしくはないし、記憶戻る前は真面目ちゃんだったことには驚いたが。
やはり記憶が戻ると今までの自分とやらは消え去ってしまうみたいだ。
生活や周りの環境に与える影響はかなりのもので、これが誰にも話せないとなると心身への負担は相当なものだろう。
それはあのコミュニティ、Arkに入りたくもなる。
「最近学校でなにか変わったこととかない?芦塚これから学校にちゃんと通うみたいで少し心配なんだけど。」
少しその真面目な如月の話を掘り下げたかったが、致し方ない。
次の話題に進む。
集団自殺のことを直接聞くのはまだ生徒たちにとって重いし怪しまれるかもと判断し、少し遠回りに聞いてみる。
「最近はもう自殺の件ばっかですね。お兄さんもご存じだと思いますけど、マスコミも警察もそりゃあひっきりなしでしたし。さすがにもう落ち着きましたけど、あ、別にうちの学校にいじめがあったとかいうわけではなくてですね、多分ですけど。いい学校なんですよ本当に。でも、だからこそ今回のはみんな困惑してて。」
「それ、もっと詳しく聞きたいんだけどいい?」
彼女達は顔を見合わせて話始める。
「えっと、私たちはあんまり彼女たちと絡みはなかったので詳しくはわからないですけど、どちらかと言うと彼女たちはいじめる側のグループで、毎日楽しそうに大声で話してたんで・・・。」
私たちにもなぜ彼女たちが自殺しちゃったのかわかってないんですと万代と言うリーダー格のお嬢様の横にいる子がつぶやく。
「その当事者たちと関わりがあった人って誰か知らない?」
「関わりがあるくらいならいますけど、みんな自殺の理由についてはわからないらしくて、塞ぎこんじゃう人もいて簡単には聞けない感じなんです。」
今は話すこともタブーになっているという感じです。
そういう彼女たちの顔も暗く沈みこんでいてあまりこの話を深掘りはしたくないと言った感じだった。
それを見て俺もとりあえず今日はここまで切り上げることにする。
だれも自殺の原因がわからない事件、これは匂うな。
「情報ありがとう。他になにかあったりしない?」
「なんか探偵さんみたーい、です。」
「彼女のためなら警察にでも探偵にでもなります。」
「わたしも言われたーい。」
「頑張って彼氏を作りな。」
そんな他愛のないやり取りをしてもう日も落ちかけてきたし、そろそろ帰らさないとなと思っていた中、後ろでこの会話には混じらず考え込んでいた一人の女子生徒がぽつりとつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった。
彼女は一人だけ眼鏡をして本を片手に持ち、いかにも文学系と言った感じで。
「そういえば、現場には血が一切なかったって・・。」
血が、ない?




