セイテイノア15
最近つけられているような気がする。
下校中とかに誰かに見られているような気がするのだ。
今までそんなことなく、そんなことされる心あたりもないのだが。
気のせいだったら良いけど・・・・。
「病院の中でクスリと笑ってしまったんだよね。」
「うまいこと言うな。それを言いたいがために昨日のお見舞いの話しただろ。」
そう突っ込むのは希。
ばれてしまっては仕方がない。
昨日はそれを共有する人がいなかったのだ。
「それにしても、あんたほどの人が驚愕するレベルの見た目って全く想像ができないんだけど。何?神かなにか?」
「いやあげすぎあげすぎ。あたしなんてただのクォーターだから。生まれがちょっとズルいだけだから。」
「それにみんな敵わないんだよなあ・・・。この前だって告白されてたし。」
「上には上がいたわけで・・・。」
完全にあたしの上位互換だよとあたしは言う。
「そんなやつがいるんだ・・・。え~と金髪で、長身で?あんたの上位互換?」
「うん。」
「それって死神じゃん。噂の。」
「いや~でも死ななかったけどね。刀持ってなかったし。」
「そりゃあ刀を常に携帯しているわけじゃないだろうけど・・・なんか影とかにしまってるんじゃない?ふつーは。」
どんなふつーだ。
「良かったね。これで堂々と偽物宣言できるわけだ。」
「何の意味があるのそれ?」
普通に否定させてくれない?
というのもあたしはこの学校において例の噂が広まったときに真っ先に死神じゃないかと疑われたのだ。
まあ、その気持ちはわからなくもないんだけど、こっちとしては飛んだ迷惑なわけでして・・・。
「出会う白人女性全員にも同じこと言えよ?」
「それがこの街じゃ滅多に出くわさないからなあ・・・。」
「こんな陰気な死神がいますか?」
「死神は陰気でしょ。」
フム。それは確かにそうかもしれない。
「もし学校のやつらがその人見てたら、魂でも抜かれてたんじゃないの?」
「そうかもね。少なくとも心は打ちぬかれると思う。」
「あんたの上位互換ならそうでしょうね。」
「あたしは同性だったから助かったのかな?」
「良かったねあんたが女で。」
「・・・いや、うん。どうだろう。」
あたしが女性であることで、もしあの女性と勝負しなければならないとなると勝ち目が見えない。
もうあそこまで行くと芸術品レベルである。
天然ものの無加工人間が太刀打ちできる代物ではなく、指をくわえて乃庵が取られるのを見ていることしかできないのは、嫌だ。
あたしが男だったならこんな気持ちは抱かなくて済んだかもしれないと思わなくもない。
男だったら何も気にせずに隣に並べたのかもしれないとも。
「かわいくなかったら助けてもらえてなかったかもよ。」
そんな意地悪なことを言ってくる希。
「そんな人、じゃないと思うけど・・・。でももしそうならあたしは親に初めて感謝しなくちゃいけないと思う。」
「そうなるんだ。」
「そうなるよ。あんな親でもね。」
ふーんと意味深につぶやく彼女。
「でも、あんたと母親全然似てないよね。髪色も違うし。」
「適当な男でも捕まえて生んだんじゃない?」
「あー・・・どうだろう。」
・・・そうじゃないといいね。
申し訳なさそうに彼女はつぶやいた。
別にそんな気にすることないのに。
表向きは言葉は強いのに実は気にしいなんだから。
ちゅっ。
「・・・・。」
・・・そんなうげえみたいな顔しないで。
「・・・で、そのつけられてる気がするっていうのは大丈夫そうなの?」
「いや、うん。多分・・・?」
「あんたただでさえその見た目なんだからより一層アンテナ張りなさいよ。」
「アンテナ張ってたから気づいたんだよ。」
「どうだか。」
帰り一緒に帰ってあげようか?
そんな保護者みたいなことを言う彼女。
「いや、大丈夫大丈夫今も大丈夫だったし・・・。」
あたしは心配かけまいと彼女の提案を断りながら自分の下駄箱を開けると。
「・・・あれ?」
そこには一枚の手紙が入っていた。
「・・・なに?また誰か誑かしたの。」
別に誑かしたつもりはないのだけれど。
『体育館裏で待ってます。』
手紙にはそれだけ書かれてあった。
それだけ書かれてあったら全然大丈夫なんだけど、果たし状みたいな文言で少し笑ってしまった。
体育館に向かう渡り廊下を渡る途中、ふと安藤さんの影が見えた。
あれは、理科室?
見間違いではない、と思う。
なぜそんなところに用事があるのだろうと思いつつも、あたしは約束の場所に急ぐ。
「あたしを呼んだのは、君?」
「そう、なんだけど。はい、そうです。」
呼ばれた場所に行くとそこには少し小さめの男子が待っていた。
「・・・・。」
しばらく謎の沈黙が続く。
・・・あれ?
まだ心の準備ができていないのかな。
しばらく待っているとついにその男子は意を決したのか口を開いて、「安藤さんについて聞きたいことがあるんだけど。」と言った。
気持ちは嬉しいんだけど・・・といつもの定型文を言いかけた口が止まる。
・・・?
安藤さん?
告白ではない・・・?
「ああ、いや、その安藤さんがいじめられてるって聞いて、なにか俺にできることはないかなって・・・。」
・・・恥ずかし。
あたしは羞恥心から顔を真っ赤にしているのがばれないように下を向いた。
それが彼を不安にさせたのか、「おい。大丈夫か?」と声を掛けられる。
「え?何?大丈夫大丈夫。別になんもないから。別に告白されるとか思ってないから。またいつものセリフ言わないといけないのかとか思ってないから。」
「勢いよく言えば何言ってもいいとか思ってる?」
というかそんなこと思ってたのか、顔がいいのも大変だねと彼は言う。
やばい、あたし今何を口走った?
テンパりすぎて何も覚えていない。
「吾妻さんは、いじめ否定派って聞いたんだけど。」
そんなこと言ったっけ?
記憶にないけど、というかそもそも誰から聞いたんだ?友達なんて希ぐらいしかいないというのに。
まさか希の関係者か?
「あ、いや廊下歩いていたら会話が聞こえてきてさ。いじめの話、してたでしょ。」
「まあ、してはいたけど・・・。」
「可哀想って言って怒られてたよね。」
「・・・。」
なんでそのことまで知ってる?
どんだけ大きい声で話してたんだあたしたちは。
やばい、恥ずかしさで汗が噴き出してきて暑い。
「その話が面白そうで少し聞き入っちゃった。ごめん。」
ちなみに僕はあんまり気にならないよと謎のフォローを入れてくる男子。
しばらく顔を扇いで冷ましているとさすがに少し冷静になって、彼の発言を考える。
できること。できることなあ・・・。
同じクラスのあたしですら何もできないでただ見ているだけなのに、何ができることがあるだろう。
乃庵みたいに突入させる?
いやそれだと目立ちすぎるし、悪化しかねない気もする。
わざわざ別のクラスの厄介事に首を突っ込もうとする彼の勇気はすごいけど、いったいどこまでいけるのだろう。
もしかしたら彼が第二の乃庵に・・・。
「いや、ないね。というかそいつほんとにいじめをどうにかしたくて近づいてきたの?」
あたしが希に先ほどの恥ずかしい経験を報告すると、彼女はけっと唾を吐き捨てた。
「・・・それはどういうこと?」
「普通にあんたに近づきたくて、いじめを口実にしたんじゃないの?って話。なんでいじめのことをあんたに相談するのかわかんないし、会話を盗み聞きしてるのもきもいし。そいつがあんたの言ってたストーカーじゃないの?つけられてるってやつ。」
もうちょっと相手の発言を疑うとか危機感をねぇ・・・と首をすぼめる彼女。
・・・彼女はあたしのお母さんかなにかだろうか。
これが思春期男子ならきっとうるせえばばあ案件だろう。
「確かにその可能性はあるけど・・・どうだろう。近づきたい口実としてはリスクが高い気が・・・。」
「それがいいんだよ。いじめを仲介する俺最高にかっこいい!と思わせるテクなんだから。リスクは高ければ高いほど良い!」
それは言い過ぎだと思うけど・・・。
「高感度を上げに来てるんだよ。いじめを出しにして。」
「そんな悪い人には見えなかったけどなぁ・・・。」
「あたしにはわかる。見なくてもわかる。」
何がわかるというのだろう。
「異性に下心のない男なんていないんだから。1人を除いて。」
「1人を除いて?」
「そう。1人を除いて。」
「・・・誰のことを言っているのかわからないけど、その人がいるならあの人がそうでない可能性もありそうなものだけど。」
「いや、いてたまるか。あんなやつが2人も。」
嫌なのか好きなのかわからない。
どっちなのだこれは。
嫌よ嫌よも好きの内?
「とりあえず、この世のすべてを警戒することね。自分以外は敵なんだから。」
そう言って前を歩く彼女。
いったいどのような修羅の環境で生きてきたのだろうこの女は。
そんな彼女の心打ちぬいた人がいったい誰なのかも気になるけど、あまり話したくなさそうだし、あんまり聞くのも・・・。
「だ~れ?」
「は?」
「その1人、だ~れ?」
「・・・。」
彼女のこんな嫌そうな表情は初めて見た。
それから日を増すごとに安藤さんへの嫌がらせは止むどころか増えて、過激になっていった。
靴の中に画びょうを入れられていたり、ロッカーが荒らされていたり、それは多種多様で、時には動物の死骸が入れられていることもあった。
そのあまりのひどさに担任も気づいているはずなのだが・・・まあつまりそういうことなのだろう。
あまりやる気もなさそうな先生だし、関わるだけ面倒だと思っているのかもしれない。
席が隣だから嫌でも彼女の様子が目に入る。
今日は・・・ああ、またか。
彼女を複数人で囲んで何か言っている。
登校して扉を開け、自分の席を見るとそこには小さな人だかりができていた。
邪魔なんだけどなあ・・・。
自分の席に向かう足がだんだんと重くなるのを感じながらもあたしはその場所に近づく。
近づくにつれだんだんはっきりと会話の内容が聞こえてくる。
会話というよりは、説教、叱責みたいなものだけど。
何が彼女達をそこまで駆り立てるのどろう。
彼女何をしたのだろう。
例の彼女はいつもの通りに黙りこくってキャッチボールになっていない。
その態度が逆に火に油を注いでいるのか、それでもこのいじめグループの人たちは毎日凝りもなく、いびりに行くのだ。
だとするといったいどうすればよいのか。
時間が解決してくれるまで彼女はもつだろうか。
耐えていればこれは収まるのだろうか。
あたしは荷物をしまい終え、自分の机を睨みながら考える。
「その態度うざいんだけど~。」
「何とか言ったら~。」
明らかにいじめだとわかるのに、クラスの他の人はみんな見て見ぬふりをしている。
関わりたくないのだ。
次の標的は自分になるかもしれないから。
あたしにそれを責める資格はない。
だってあたしも隣にいてなにもしていないのだから。
一番なにかできる立場のあたしが。
パチンッ。
その音を聞いてあたしは顔を上げる。
彼女の頬を赤くなっているのがこいつらの隙間から見えた。
「これでもなにも反応ないの?」
「いつまで耐えられるんだろう。」
その純粋すぎる悪魔のような提案にも誰も異を唱えることはない。
彼が、彼さえいれば・・・。
目を覆いたくなる音が一定のリズムで静まりかえった辺りに響き渡り、その誰もが息をのんでその現場を傍観している。
「アバズレ女がさあ、謝罪もできないのかって聞いてんの!!」
今までで一番大きい声と、手の振り上げ。
気づけばあたしはその彼女の手を取っていて。
「は?」
教室内の全員の視線があたしに集まる。
まるでその場の時間が止まったように感じた。
「なに?この寄生虫の仲間?」
彼女たちの視線が疑惑から敵意へ変わっていくのが肌で感じられ、取り返しのつかないことをしてしまったかもしれないと気づくには少し遅すぎた。
次の日、学校に行ったら上履きが無くなっていた。
仕方がないのでスリッパを駆りて1日を過ごした。
その次の日、ぼろぼろの上履きが返ってきてたかと思ったら、今度は机の上に落書きがされてあった。
口に出すこともできないような汚い言葉に、後ろの席からの笑い声。
確定である。
ターゲットがあたしに移ったのだ。
そこからの日々はまさに悪夢であった。
「・・・。」
ぎゃははと下品な笑い声を飛ばしている足音がだんだんと遠くになっていく。
「・・・くそっ。」
1対3とは卑怯じゃないか。
あたしは校舎裏で水浸しになった服を絞りながら立ち上がる。
「・・・はあー、どうしたもんかな。」
どうやったらいじめが終わるのか。
このまま耐えていたらまた次の標的に移るんだろうけど、それじゃだめだ。
また次のあたしや安藤さんが現れるだけで、根本的な解決になっていない。
力も複数人じゃ敵わないし、かといって誰かを巻き込む気にもなれない。
彼女たちを改心させられるなにか・・・。
「・・・いた。こんなところに。」
どうやっていじめの連鎖を断ち切れるかない頭をひねりながら考えていたところに、息を切らして走りこんできたのは希だった。
恐らくどこからかあたしが校舎裏に連れていかれたことを聞いたのだろう。
「・・・しばらく関わらないでって言ったのに。」
「そういうわけにもいかないでしょ。はい、タオル。」
「・・・次の標的、希になるかもよ。」
「・・・望むところよ。」
そういう彼女の声は少し震えていた。
わかるよ。強がっているのは。
タオルで髪はあらかた吹き終わり、後は自然乾燥でまあ、なんとかなるだろう。
暖かい季節で良かった。季節に感謝だ。
これがもし冬とかだったなら本当にシャレにならない。
凍死する。
「・・・もうここまでにしよ、本当に。しばらく落ち着くまではあたしと関わらないって約束して。」
「・・・なんでそんなこと。」
「希がいじめられてほしくないから。」
「いいよ、別に。璃莉がいじめられてるを傍から見ることしかできないのなら別に・・・。」
「良くない!!こんな気持ちを希に味わってほしくない。」
「じゃあ私はどうすればいいの!?いいじゃん2人でやり返せば!!」
「よくない!!あたしが1人でやらないと意味がないんだよ。」
「・・・どういうこと?」
「あたしが1人であいつらを改心させないと、意味がない。」
「できるわけないでしょ!!何言ってんの!?」
「できるって。見てなよ。あいつらぎゃふんと言わせてやるんだから。」
「・・・頭おかしくなったんじゃないの?改心させるだなんて・・・。」
「おかしくはなったかもね。やけになってるのかも。」
少しテンションは上がっているかもしれない。
やけになって、ハイになっている。
「なんであんなやつ助けたの・・・。」
希の口から出た言葉にはっとする。
「・・・なんでって、わかるでしょ?見てられないって。」
「でもあいつはあんたに一言もお礼を言っていない。それに助けてもらっておいて、次の日から一切学校に来なくなったじゃない!!」
「・・・それは、しょうがないでしょ。誰だっていじめは怖いよ・・・。」
「じゃあ、あんたは?怖くないの?」
「怖いよ・・・。でも誰かがやらなければならない。乃庵がそうしてくれたように。」
「・・・。」
「誰かがやらないといけないんだよ。誰かがじゃなくて、あたしが。」
「あんたは乃庵じゃない。」
「でも、好きだ。」
「それが?」
「だから、嫌われたくない。」
「・・・。」
そう。
彼女は静かにそう言った。
これでこの話し合いは終わり。
そう言いたげな間であった。
希も色々と思うところがあるのだろう。
それはわかるし、あたしだって友達がいじめられていたら助けたいと思うだろう。
しかしこれはあたしの問題であって、あたしなりのけじめでもある。
助けられたままだったあたしが助ける側になるための。
いじめる側だったあたしが罪を償うための。
こんなことで罪が無くなるとは思わないけど、厳刑だとは思うけど。
まあ減刑ぐらいにはなるだろう。
「ただいま。」
誰もいない部屋にあたしの疲弊した声が響く。
「・・・疲れた。」
どさりと荷物を床に置き、廊下に座り込む。
とりあえず今のところは大丈夫。
実被害は上履きぐらいだし、それだって汚れるぐらいでまだ使える。
金銭面では問題ない。
問題があるとしたら・・・。
「あたしの心かあ・・・。」
普通いじめを受けたら教師、友達、親等に相談するだろう。
そうしてくださいとも言われているし、実際そうするのが正解なのだと思う。
しかし、現実そうはいかないこともあって。
1つ、担任がそれを黙認している。
2つ、友達がターゲットになるかもしれない。
そして3つ目は・・・。
がちゃりとその時玄関の鍵が開く。
あの人が帰ってきたのだ。
その音を聞いてあたしはそそくさと自分の部屋(畳4畳)に逃げ入る。
あの人と私が呼んでいる人物はあたしの母にあたる人物である。
その実の娘であるあたしがこのような呼び方で母にあたる人物を呼んでいる時点でお察しだろうが、親との仲は最悪である。
3つ目、親との仲が壊滅的。
そのため、あたしは今このいじめに一人で立ち向かわなくてはならない状況に置かれていた。
助けを請える相手がいないのだ。
昔は良かった、はずなのだが、5年ほど前からこのような感じで、すっかり冷え切っている。
はあ~と深いため息を吐きながら、あの人はさっきのあたしのように椅子に座り込んだ。
そして、おもむろにテレビをつけ、コンビニで買ってきたであろう弁当を食べ始めた。
そして食べ終わると風呂に入り、寝る。
基本的にこれの繰り返しだ。
そこに愛娘との温かい言葉のやり取りはない。
イレギュラーとして入る出来事とすれば、たまに家に男を連れ込んだり、外で泊まってきたりすることぐらいだ。
外で泊まってくるときもどうせ男がらみ何だろうが、家にやってきたときは家から出ていくようにしている。
あの人の声なんか聞きたくもないし、見たくもない。
最近はその頻度も減ってきたのだが、今日はなんだかいつもと様子が違う。
少し、荒れている。
職場かなんかでいらいらすることでも言われたのだろうか。
こういう時は関わらないようにするのが吉だ。
過去に関わって文字通り痛い目を見たことを思い出す。
あの人がやけ酒を飲み終えて寝てしまってからコンビニにでも行こう。
そう思いあたしは寝たふりをして時間が過ぎるのを待つ。
この時間がとても長い。
もう慣れたものだと思っていたが、短い針が一周、また一周と周り、9時を回ったころリビングから微かな寝息が聞こえてきた。
飲み干した空き缶が散乱し、あの人は机に突っ伏してだらしない表情を見せている。
あたしはため息を吐きながらその散らばった空き缶を起こさないように片付けていると、カランッと足元の空き缶に気づかず蹴飛ばしてしまった。
恐る恐るあの人に目をやるが、ぐっすり寝ているようで今の音で起きていないことにほっと胸を撫で下ろす。
あたしは安心して集めた空き缶を捨ててしまおうと目をそらした瞬間、ふいに背後から声が聞こえた。
「雪・・・。」
しかし、それは寝言だったようで、急激に上がった心拍をなんとかなだめる。
雪・・?
もう4月だというのにそんな子どもみたいなこと言わないでよ。
半ば呆れながらあたしは家を出る。
こんな夜に女の子が一人で歩くのは危険かもしれないが、なに、すぐそこのコンビニまで行くだけだ。
往復で10分もかからない。
部活でもよくやっている軽いジョギングである。
代謝をキープするにもちょうどよい。
涼しい夜風を感じながらあたしはそういえばとつけられている気がしていたことを思い出した。
少し神経質に辺りを警戒するが、特に今はそれを感じない。
やはりあれはあたしの思い違いだったのだろうか。
余計なことを考えるのはやめよう。
明日は大事な日なのだから。
震える足を叩いて進む。
走れ。進め。自分の足で変えろ。
ふと陸上部のスローガンを思い出して少し笑ってしまう。
前はなんとも思わなかったというのに、なんと頼もしいことで。
良いスローガンだなと、そう思うのだった。




