セイテイノア13
俺が、魔将?
何を言っているんだこいつは。
俺は力もないし、ただ不死身の力を与えられただし、お前らみたいに残忍でもない。
見た目も人間だし、この男の言っていることを信用できる要素が見つからない。
ただの、頭のおかしいやつだ。
だが、何か引っかかる。
何かはわからないが、何故か謎の説得力を感じてしまう。
これもこの男の力か?
「僕の力にはそんなのはないよ。持ってる力は精々人形を作り出すことくらい。最もそれにもひどい代償を伴っているんだけど。」
代償・・・?
「ま、それについては内緒って事で。君がこちらについてくれるんなら教えてもいいけど?」
「なら断る。」
「ま、そうだろうね。」
「というか、純粋に疑問なんだが百歩譲って仮にその話が本当だとして、なぜ俺が魔将だと言い切れる?」
俺は精々不死身なだけで身体能力を取って見ても他のオリジンに比べても低いくらいだ。
買いかぶっているのかもしれないが、俺はあのノーフェイスの催眠のような特殊能力や、異常な身体能力など到底持ち合わせていない。
「それがおかしいんだよ。君はあまり評価していないようだけど、不死身だなんて聞いたことがない。生あるものには皆平等に死がある。それに逆らうなんて普通はできるはずがない。それがこの世界、いやすべての世界のルールなんだから。それを捻じ曲げる者がいたら、それこそ魔将だ。」
魔将に世界のルールは書き替えられない、作者と一緒さ。と彼は言う。
・・・それにはのあも驚いていたが。
いや、しかし・・・。
「それに、亜人化した人間も戻せるのだろう?君は。それだって、今まで人間では誰も成しえなかった偉業だ。何故か魔将の記憶も力も今は失っているようだが、大丈夫。ちゃんと取り戻せるよ。」
いや、なんとしても取り戻してもらわないと困る、と神田は深刻な顔で呟く。
「ちょっと待て、今亜人化した人間を戻せるのは人間では誰もいないと言ったか?そんなわけはないだろう。少なくとも俺の前任者がいたはずだ。」
今は行方知らずらしいが。
それに触れずに俺を持ち上げようとする当たりやはりこいつは信用ならない。
「ああ、だってその前任者はノーフェイスだからね。」
「・・・は?」
「そちら側の印象操作も素晴らしいね。良かったよこういう機会を作って。危うく我が主の善行が知られずに株を下げられっぱなしになるところだった。臣下の鑑だね僕は。」
え・・?いや、ちょっと待ってくれ。
あいつが、人助けを・・?
今朝電車の中ではあんなに人を殺したのに?
頭が理解を拒んでいる。
「騙されるなよ・・。ノーフェイスは治療の代わりに多大な対価をパートナーに支払わせている。とても手に入らないような額のお金を迫ったり、理不尽な選択を迫ったり・・・それで死んだ者も少なくない。」
真木さんが苦しそうに喉を詰まらせながら反論する。
「それも等価交換だろう?彼だって好きで人間なんかの命を救っているわけじゃない。僕たち人間が必死になって無理に頼み込みに行っているんだ。人間に都合が悪かったら悪だって?僕たち人間が話が通じるってだけで医者でもなんでもない彼のところに押しかけているんだろ?だれも彼も自分のことに必死で誰か彼のことを気にかけてやったかい?」
彼の演説に言葉も出ない。
「嫌なら他の魔将にでも頼みこみに行けば良い。最も、手を差し伸べてくれるやつなんていないだろうけどね。」
嬲り殺されるのが落ちだ、と彼は吐き捨てる。
ノーフェイスも被害者だってか?
あんなに楽しそうに人を殺していたのに?
「それが本来普通なんだよ。人間も娯楽や気の迷いで動物や虫を殺すだろう?」
「・・・でも、俺らは人間だ。動物や虫とは違う・・・。」
「同じだよ。悪魔からすれば人間も動物も虫も同じ悪魔ですらも。みんな同じく等しく価値のない命だ。」
そういう意味じゃあ一番平等かもね、と。
なんと意味のない平等だろう。
価値観が違いすぎてわかりあうことすらできない。
「お前の言いたいことはわかった。つまり、のあじゃ力不足だってことなんだよな・・?だからこの世界の主を復活させる必要があって、それに反対しているのあがそれを邪魔している、と。」
それにしては悪魔に肩入れしすぎなきもするが。
「そういうこと。」
「で、どうやって俺の記憶を取り戻すつもりだ?」
「それについてはまだ定まっていないんだけど、君がそれほどまで何も知らないとは思っていなかったから。そうだな、まずはノーフェイスに会いに行くとかかな。記憶操作は彼の十八番なんだ。」
同じ魔将同士、積もる話もあるだろうと。
ノーフェイスに会いに行くって、魔将なんだろそいつ。
そんな危険な話、易々と飲むわけにはいかない。
「お前の話を信じられる要素はどこにある。」
「君の中にある。」
「それじゃだめだ。俺が確認できない。もっと、俺が納得するようなものを出してくれ。」
今のところこいつの話を信じられる要素がこいつの話の中にしかない。
それでそんな危ない橋を渡るのは無理だ。
何かもっと見れば一瞬でこの世界の歪さに気づくようなものがあればまだ考える余地があるというのに。
・・・。
そうだ。
そういえば、こいつはどうやってこの世界の外の存在を知ったんだ?
確か、ノーフェイスから聞いてそれを確かめたって言っていたような気がするが・・・。
「お前は、どうやって外の世界の存在とやらを確かめたんだ・・。」
張り詰めた空気の中で俺は神田に質問する。
「ああ、そうか。君はまだこの世界の真実を知らないのか。」
呪縛・・?
「それも説明しなければならないな。君は・・」
と再び話し始めた瞬間、男は急に口を止め、俺の背後に目を向ける。
急にもったいぶったのかと思って一瞬憤りを感じたが、どうやらそうではないらしい。
誰も話さなくなって再び訪れた静寂に、微かにカツンという音が響く。
その音は背後からきているようで、何の音だと耳を澄ましているとまた聞こえてくる。
等間隔でその音はだんだん大きなっていく。
まるでなにかがこちらに近づいてきているようだ。
だれかが階段を上ってきているような音。
まだこれ以上に仲間がいるのか?それとも救援か?
姿が見えないためどちらかわからずにこの場にいるすべてのものが固唾をのんでその様子を見守る。
神社にある階段はなぜか異様に長いものが多く、その時間は無限とも言え、やけに長く感じた。
その音の主は階段を上りこちらに近づくことでようやく徐々に姿が露わになり、はっきりする。
およそこの場で一番来てほしい人物。
最強の称号をほしいままにした金髪碧眼高身長。
この町の死神のご来光だ。
のあの服は相も変わらずボロボロなままで、ところどころ目のやり場に困るところがあった。
服を直す暇もないほど激戦続きだったのが見て取れる。
しかし彼女はそんなこと微塵も気にしてなさそうに堂々と男二人が待ち受けるこのアウェーな空間に侵入してきていた。
はぁーと呆れたような声が背後で聞こえたと思うと、次の瞬間真木さんを押さえつけていた化け物が標的を変え、ものすごい勢いでのあに向かっていく。
それは生物的な本能から来た今やらなければまずいという物なのかもしれないが(そもそも生物なのかも怪しいが)、結果から言えば悪手だったのだろう。
その化け物はのあと男の間に進行を妨害する形で立ちふさがり、大きな翼を広げ、めいいっぱい威嚇したしたかと思うと次の瞬間には粉々に切り裂かれ、黒い粒子となって消えていった。
なにをしたのかまったく分からなかった。
そのままつかつかとこちらに近づいてくるのあに対し、その化け物を作り出した男は目の前の光景を受け入れられておらず、目を見開いてその様子をただ見ている。
その血気迫った姿はまるで噂の死神そのもので、皆が皆怖気づいて彼女の様子を伺っている中、神田がその静寂を破った。
「朝風はどうしたんだい?」
「もうとっ捕まえたよ。」
「呼び出された魔将は?」
「もう殺った。」
「街に解き放たれていた悪魔どもは?」
「もう片付いた。」
やれやれと賽銭箱に座ったままの男は呆れた様子を示す。
「乃庵を離しておいてよかったよ。君はチャンスとばかりに飛びついてくるからタイミングがわかりやすい。」
「それにしてはだいぶ遅かったね。もうあらかたやることは済ませちゃったよ?」
「ちょっと野暮用でね。乃庵、そいつの発言は真に受けちゃいけない。科学的根拠が皆無だ。」
「・・・科学的根拠って、君の存在自体がそれの否定になっちゃうけど?」
彼女の発言に対して失笑しながら訪ね返す神田にのあはしばらく考え込んだ後「・・・ふむ。」と漏らす。
いや、ふむじゃないが。
そんな簡単に論破されていいのかよ。
どうやらレスバは男の方に分があるらしく、彼女は彼の発言に黙り込んでしまう。
「・・・遺言はそれだけ?」
彼女は口では勝てないと悟ったのか剣を突き出し、早々に決着をつけようと構える。
「怖いなあ、そんな怒んないでよ。まだ後ろの彼との話が途中だったんだけど、いいのかな?」
「いや、駄目だ。」
男は大げさに肩を竦めて見せる。
「今回はダメだったけど、約束は守るよ。」
それじゃ、また。
そう言い残して神田は前回と同じように泥になって消えた。
最後の言葉は誰に向けられたものなんだ?
取り残されたこの男か?それとも他の人か?
それに、またってこちらとしては二度と会いたくはないのだが、謎の多く残したまま再び姿を消していったなあいつ。
また本体ではなさそうだし、よほど用心深い性格なのだろう。
そもそも本体というのがいるのかどうかもわからないのだが。
彼の持つ力がどのようなものなのか全くわからない。
「さて、そこの残された君はどうする?」
のあは神田が消えた後の泥を私怨たっぷりに踏みにじりながら振り返り、ただ立ち尽くしている男に問いかける。
「いいよ、好きにしなよ。」
神田が消え、観念したのか男は手を広げ、抵抗しないアピールをする。
のあがポリポリと頭を掻きながら彼に近づこうとしたとき、倒れていた真木さんから声が上がった。
「待ってください・・。裏切者は、私が・・。」
よろよろと今にも倒れそうな状態だがなんとか立ち上がり、彼女に告げる。
「少し彼に聞きたいことが・・・。」
「君は前にそう言って今回朝風を逃がしたが?」
「同じ轍は踏みません。どうか、お願いします。」
彼女は頭を下げてのあに頼み込む。
「前々から思っていたけど君の無駄な仲間意識の高さはいったいどこからきているんだろうね。」
その優しさが今回の被害を生んだんだろうに、と彼女はそう言う。
結構ひどいこというなとは思ったが、口とは裏腹に彼女もなんだかんだで鞘を納め、折れてあげるようだ。
状況が一通り片付き始め、俺は自分の記憶の中を落ち着いて探る。
そうだ、思い出した。
こいつはどこかで見たことあるとは思っていたが、今日あのビルの外で真木さんに鍵を渡していた人間だ。
だからあんなにすぐにピンポイントで襲撃があったのか。
真木さんと会社に帰ってきて上に上がったのを知っていたから。
彼女が裏切者と言っていたのも合点がいく。
真木さんは聞きたいことがあると言っただけなのにわざわざその男を森の中に連れていき、姿が見えなくなってしまった。
そこまで聞かれたくない話なんだろうか。
「そういえばのあさん、どうしてここが・・?」
俺はずっと気になっていたことを彼女に尋ねる。
以前結界の中に入られるとこちらからは何もできないと言っていたはずだが・・・。
「ほら、これ。」
そう言って彼女は自分の持っていた携帯の画面を俺に見せつける。
底に移っていたのは位置追跡アプリで、俺はまさかと思い自分の携帯を開くが、俺のにはそんな怪しげなアプリは入っていなかった。
何かやましいことでもあるのか見るからに焦ったような俺の動きに「君のには入ってないよ。」彼女は笑いながら続ける。
「ほら、さっきの彼女、真木陽子の携帯に入っているのさ。入れている者同士の位置情報が筒抜けになるアプリ。だから君が彼女と一緒にいると私にも場所がわかるってわけ。」
なるほど・・・。だから真木さんに俺を預けたのか。
俺はのあさんの意図を少しだけ理解することができた。
なんだかんだいいつつも彼女のことを信頼しているのではないか。
全くなにが信頼できると思う?だ。
「ていうか、あれ?結界とやらはそういうの遮断してくれないんですか?」
俺は思いついた素朴な疑問を彼女にぶつける。
確か結界があるような発言をあの男がしていたはずだが・・・。
何か真木さんが力を出せなかった?ようだし、あれは結界の力ではないのか?
「結界はあったし、ちゃんと阻まれはするけど、まあだいたいの場所がわかれば後はしらみつぶしに探すだけだから。」
そうだった。
この人はその原始的な方法を唯一可能とする人材だった。
結局王道が一番良いのだ。
注射器が150年形が変わらないのはそれが一番優れているから。
複雑なことをするよりも単純明快でいけるならそれに越したことはないということだ。
「というかそうだね、君にはこれを渡しておこう。」
彼女はそう言ってポッケに手を突っ込み、俺に何かを握った状態の手を差し出してくる。
は、はあ、と訳も分からず差し出された手の下に自分の手を入れると、そこに落とされたのは目玉だった。
「うわあっ!!」
思わず俺は手を反射的に跳ね除け、それは勢いよく地面に落下していく。
彼女はそれをすんでのところで拾うと、「もったいないなあ、この世界ではかなり貴重なものなのに。」とぼやく。
いや誰がそれで喜べるんだよ。
くりぬかれた目玉なんて触ることも、見たこともないよ。
「これは位心伝心と名付けたんだけど、もうひとセットあって、これをお互いが持ってると持ってる者同士の位置がなんとなくわかるっていう品物なんだ。」
「ええ・・・なんですかそれ。うさんくさ。」
宗教勧誘じゃないよな?
さっきの男といい、のあと言い、どうして今日はそう言う話に巻き込まれやすいのか。
「効果は確かなんだけどねえ。実際にこいつらは非情に高い精度で群れていたし。」
彼女は「どう?」自分の目にそれを重ねながらこちらを見てきます。
正直それでこっちを見てこないでほしいのだが、というかもしその効果が本当だったとして、それは何処で手に入るというのだ。
現代の技術ではお互いの位置がわかるというのは既にあるが、目玉という変わったデザインで、なんとなくわかるって・・・。
それ誰が買うの?
余程物好きな人しか買わないよ。
その一人がのあさんなんだろうけど。
「い~や?こっちの方が優れているところもあるよ。」
ほう、なんだいそれは?
「これはね、世界の壁すら超える。」
?
世界の、壁・・・?
「わかりやすく言うと、例えば君が今回あの男に唆されて悪魔の世界に連れていかれたとしよう。そのときに君がこれの片方を持っていたら、そのことがわかる。この世界にいないことが、わかる。」
なんだ、それ?
そんなことが今の人類には可能なのか?
「当然今の人類には不可能だよ。悪魔の世界に電波は繋がってないからね。じゃあこれはなんなのか、って話になるよね?これはね・・・。」
悪魔の目玉。
彼女はそう言った。
「以前あいつらの世界に行ったことがあって、そこで双子の悪魔に出会ったんだよ。そいつらは片方に見つかると、必ずもう片方もすぐにやってきてっていうすごいめんどくさいやつだったんだけど、私はそれに目を付けたってわけ。調べてみるとこの目玉でそれを行っていたらしくて、研究がてら持って帰って来た。」
窓を作られて逃げられたとしても相手に付けておけばどこの世界に行ったかわかるからかなり便利なんだよねと彼女はそれを空に掲げます。
悪魔の道具化・・・?
俺はその考えにひどい衝撃を覚える。
その発想はなかった。
確かに悪魔一体一体が色んな能力を持っているし、いかに強力で残忍と言ってもあくまでそれは生物だ。
生物で、動物である。
ならば当然利用もできる。
なぜ今までそんなことに気づかなかったのだろう。
悪魔の力を逆に利用すればもっと楽に悪魔を倒せるのではないか?そんな考えが自分の中によぎる。
「悪魔の力はArkですでに使われ始めてるらしいよ。数は少ないらしいけどね。」
まあ、それは、そうか。
悪魔を捉えなければいけないわけだし、そもそも悪魔の現れる数も少ない。
サンプルも少ない状況では数を用意できないのは仕方ない。
一体どんなアイテムがあるんだろう。
剣とか、ビームとかあるんだろうかと胸を躍らせていると、俺はそういえばのあさんが持っている剣も特殊だったことに気がつき、尋ねる。
それは一体どんな悪魔から作ったのかと。
「これは・・・悪魔が使っていた物を拝借しただけというか。殺して奪ったものだね。」
加工したわけではないのか。
「そりゃあそうでしょ。今の人類にこんなもの作れないって。」
・・・まあ、それはそうなのだが。
じゃあライトセーバーは?ビーム兵器は?
少年心を取り戻しかけていた俺の夢が粉々に打ち砕かれ、散っていった音が聞こえる。
しかし、可能性はまだゼロではなく、そのような武器を使っている悪魔が出てきたら積極的に生け捕りにしようと心に決めた。
今まで武器を持った悪魔に出会ったことは一度もないけど。
「そういえば、ノーフェイスが俺の仕事の前任者って話は本当なんでしょうか。」
真木さんが消えていった方をちらりと見るが、彼女はまだ戻ってくる気配がなかったので、のあにさっき聞いた話の真偽を問いてみる。
「本当だよ。」
「どうして今まで教えてくれなかったんですか・・・?」
「別に隠していたわけじゃない。話すタイミングが無かっただけだ。」
「タイミングって・・・」
別にこの一週間ならどこでもあっただろうと思わざるを得ない。
確かに今日はそんな余裕はなかったが、仕事を始めてからずっと働き詰めってわけでもなかったし、どこか意図的にその話題を避けようとしているような気がする。
いったいなにを隠そうとしている・・・?
「あの魔将は人間の感情が大好物なんだ。
前任者と言っても形だけで君のようにご立派だったわけじゃない。亜人化した人間を元に戻す代わりに自分を呼んだパートナーに代償を支払わせていた。
動物のように理性を失った者をいじめても楽しくないからね。自分の悪魔と戦わせたり、実験道具にしたりなどほとんど倫理なんてものはそこには存在していなかった。
それでも愚かな人間たちは自分の大事な人がわずかでも助かる見込みがあると知るとあいつの元に行くんだよね。
私の静止なんて聞きもしないで。
そしてその多くは惨たらしくおもちゃとして殺されている。
別に本当に隠していたわけじゃない。
ただ、話したくなかっただけだ・・・。」
それを話すときののあは珍しく感情を露わにしているようで、それを見て俺はこれが真実なんだと悟る。
「どれくらいの人が死んだんですか・・?」
「数えていないが、あいつを呼び出したパートナーはほとんど死んでいるから、3桁は行っているんじゃないか?」
だからこの人はみかが亜人化したとき俺にその方法を教えなかったのか。
何も知らない俺がノーフェイスに殺されてしまうから。
そして如月はそれを知ってなおみかのことを・・・。
俺はあの時の幸せそうな表情の如月を思い出す。
なんだ、すげえじゃん。あいつ。
「私としては人間が亜人化してしまうこの呪いのような病気もあいつがもたらしたものだと思っているが、今のところ正確なことはなにもわかっていない。」
だとするとひどいマッチポンプだが、あいつならやりかねないと俺は思う。
亜人化の話をするときののあは少し気だるげそうで、恐らく自分ではどうしようもないことに直面したことがなかったため参っているのだろう。
なんでもできる自分に唯一できないことにみんな縋り、そして死んでいく。
自分にはそれを止めることもできない。
俺だったら発狂ものだ。
それは魔将のことも嫌いになるし、おもちゃにされる前に殺してあげようともなる。
彼女はどうやって正気を保っていられたのだろう。保ってきたのだろう。
そんな彼女の葛藤や苦悩を勝手に推し量って想像を膨らませていたところ、先ほど真木さんが男を連れて入っていった森の方からすごい音が聞こえた。
それと同時に男の怪物の物と思われる黒い粒子が空に昇っていくのが見える。
助けに行った方が・・・とのあを見るが彼女は動かず、俺に静止を求める。
どうして!?と思っていると森の中から真木さんが出てきて、「ただいま。」と声をかけてくる。
「聞きたいことは済んだ?」
「はい。大丈夫です。」
元気に返事をする彼女だったが、俺は何故かそれに違和感を感じた。
「そ、次からは気を付けてね。」
優しい言葉をかけるのあだったが、あの男はどこに行ったのだ。
突っ込まないのか?
森から出てきたのは真木さん一人でどこにもあの男の姿はない。
裏切者から目を離してしまっているし、さっきの音はなんなんだ?
まさか殺してしまったのではと嫌な想像が頭をよぎるが、とても聞けない。
聞く勇気がない。
裏切者には死を、というのはよく聞くフレーズだし、この世界には朝風が脱獄したようにそもそも暴れる彼らオリジンを捕える術がない。
真木さんが管理するという施設でも駄目だったのだ。
だったら処遇はどうなるかと言ったら・・・。
真木さんとのあが今日の事件について話している。
これからどうするのか、事後処理は、世間には・・と。
それによると、どうやら彼女の方では、朝風が呼び出していた魔将と戦っていたらしい。
難なく退治し、朝風も再び捕えたようで安心するが、そんな話を話し半分に聞いていながら俺はあることを思い出す。
そうだ!!母さんは無事なのか!?と俺は二人の会話に水を差す。
忘れていけないことを忘れてしまっていた。
一番初めに聞くべきことだったというのに。
のあのことだから大丈夫だとは思うが。
「・・・。」
「なんで沈黙なんですか・・。」
俺はその沈黙が表す意味をすぐに察してしまい、声が震える。
「嘘、ですよね・・?」
「出血が多く、意識が回復していない。」
「生きてはいるんですか・・?」
「生きてはいるはずだ。」
俺はその事実にすっと胸が軽くなる。
意識はまだ回復していないみたいだが、とりあえず生きていてくれたことに感謝する。
意識だって次第に回復するはずだ。
だってのあが向かってくれた仕事なんだから。
言ってもそんな大事ではないはず。
俺は彼女に疲れているところ悪いがすぐ母さんのところまで連れて行ってくれと頼み込み、彼女もそれを快く引き受ける。
担がれる準備を万端にしていると、その前にと彼女は何かし始める。
この場所に張られていた結界を解体するのだそうだ。
結界が貼られている場所によくもまあ毎回辿り着けるなこの人はと思いながら、俺はポケットに手を突っ込む。
するとかさりと何かに突っ込んだ手が当たった。
なんだ・・?
さっきの目玉こっちのポッケにしまったか?と思うが明らかに感触は違う目玉のそれではない。
ぬめっとしたのではなく、乾燥した薄いものだ。
なにか取り出し忘れていたのだろうか。
次から洗濯のときは気を付けようと思いながら取り出したそれは一枚の紙だった。
何の変哲もないただのメモ用紙。
俺はてっきりいつかのお菓子のゴミでも入っているものと思っていたので少し意表を突かれたが、四つ折りに畳まれたそれを一枚ずつ開いていく。
その紙の真ん中には小さく一文だけ文字が書かれていた。
『楽園を探せ』
裏返してみても特には何もなく、本当にこれが書かれているだけだ。
なんだこれ。
暗号かなにかか?
そう思って何度も透かしてみたり、規則を見つけようとするのだが全く見つからない。
そもそも文字が少なすぎるし、横一列だから縦読みとかそういう芸当でもないようだ。
ということはこれはそのまま受け取っていいのか?
この文字の意味の通りに。
しかしそうだとしても意味が分からない。
楽園・・ってなんのことだよ。
文脈的に地名なんだろうが、ただの名詞なのか、それとも固有名詞なのかすらわからない。
隠語の可能性もありそうだし。
これだけではもっとなにかヒントかなにかがないとわかるわけもない。
俺はあほらしと切り捨てて、意図のわからないその手紙を捨ててしまおうかと思ったが、そこでふとさっきのあの男の言葉を思い出し踏みとどまった。
『君はまだこの世界の真実を知らないのか。』
もしかしてこれが、それに関係しているのか?
俄かには信じられないが、こんな悪趣味な手紙を入れる人物を俺は一人しか知らない。
そしてこれを気づかれずに懐に忍ばせることができるのも。
「よし、これで結界は剝がせたと。」
そんなのあの声で俺は現実に引き戻される。
「・・・ん?行かないの?」
「ああ、行きます行きます。」
彼女達が不思議そうにこちらを見るので、俺は慌ててその手紙をポケットにしまい込んだ。
何故かその手紙をのあに見せなかったのかは俺にもわからない。
落ちてしまわないように奥に押し込んでなんでもないような素振りをする。
俺はあの男の言葉を信じているのか?
いやまさかな。
鉄道虐殺事件に加担し、街中に悪魔を解き放ち、さっき仲間のこともあっさり見捨てて自分一人逃げたやつだぞ。
どこに信用できる要素がある・・・。
・・・。
いや、今は何よりも母さんの様子だ。
とりあえずこれのことは後で考えよう。
足元に広がる倒壊した建築物や燃えた乗用車、せり上がった道路を見ても何も思わない。
明日には元通りになっているだろう。
俺はのあに抱えられ、すっかり余裕で耐えられるようになった飛んでいる最中のGをこの身いっぱいに受けながら願う。
どうか母さん、無事で。




