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セイテイノア  作者: みか
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10/32

セイテイノア10 死の特急

なんでこいつが・・。

上半身は人間のように見えるが、下半身には無数の触手がうごめいている半人間。

どこから来たのかわからないが、なんで電車に乗っている。

そして前両から出てくる。

前と同じ古びてところどころ血のにじんでいるパーカーを着て、フードは深く被っているため顔は相変わらず見えないが、そもそもあるのかどうかも疑わしい。

こいつも所謂悪魔、なのだろう。

魔将とやらに仕える配下の一人。

俺はあのときの様子を思い出し身震いするが、すぐにあのときとは状況が違うことを悟り気を強く持つ。

今はのあがいる。

彼女ならばいつものように・・。

「なんと可哀想なことよ。その様子では自分が騙されてここに連れてこられたことにも気づいておらんようだな。」

悪魔はゆっくりとこちらに寄ってきながらそう言う。

?

どういうことだ?

俺が誰に騙されたって?

「何の話だ。」

俺はほとんどここまで自分の意思で来たし、他人が介入してくる余地なんてなかった。

せいぜいのあがこれに乗るよう指示したくらいで・・・。

「お前がそう思いたいのならばそれでいいが。」

そいつは動けなくなっている俺の前まで来て止まると、「ではなぜお前は逃げ場のない列車に一人でのこのこといるのだ?」と囁いた。

顔を近づけられて初めてわかったが、そいつは顔がフードによってできた影によって見えないのではなく、元々顔がないようだった。

顔のある部分にぽっかり空洞ができているようなのだ。

見ていると吸い込まれてしまいそうで俺は慌てて目をそらす。

確かに電車は勢いよく走っていて駅に着くまで降りることは許されない。

そして都合よく悪魔が登場。

俺は、はめられたのか・・・?

だとすると誰に?

のあ、か?

そんなことがあり得るのか。

なんのために。

思考をめぐらすが、答えはわからない。

が、しかしこの場にのあがいないのも事実。

今回も経験というつもりか?

人にもまれていたとしても彼女ならばすぐにそこから抜け出せるだろうし、この存在感に気づいていないはずもない。

なぜすぐに来ない。

来れない理由があるのか?

そういえば今日もこの電車に乗る目的を話してくれなかったが、あれもいつもの説明放棄ではなく俺をはめるためだとしたら・・?

・・・。

俺はだんだんと自分の思考が悪い方向に言っているのを感じていた。

俺は顔がみるみる青白くなっていき、良くない汗が流れ始める。

「そう、お前は売られたんだよ。」

そいつは優しくそう言ってそのまま俺に潰れた手を伸ばしてくる。

何故か俺はそれを黙って見ていた。しかし、直前でなんとか手を跳ね除け、すかさず距離をとる。

今、一瞬受け入れそうに・・。

俺は何を考えているんだ。

のあがそんなことするわけと思いつつも心の何処かで信じられない面が出てきていた。

さっきの出来事も合わさって完全に人間不信になりつつある自分に良くない流れだぞと窘める。

確かにのあは何を考えているのかよくわからないが、少なくとも彼女にとって必要な俺を切ることはしない、はずだ。

俺が不必要になったわけではなければだが。

そいつは自分の手を跳ね除けられ一瞬驚いたようだったが、距離をとった俺に手を振った。

それに対し咄嗟に身構えたが何も起きず、前に自分を守るようにかざしていた手をゆっくりと外していると、背後から俺は勢いよく地面に組み伏せられた。

仲間がいつの間にか後ろにいたのかと思い、なんとか首を動かしてその人物を確認すると、それはさっきの正義感の強い大男だった。

その男は俺の腕を後ろに固定して、体重いっぱいに俺を床に押さえつけようとする。

しかし、先ほどと同じようにその男には俺を抑える力はなく、不意は突かれたが余裕で男を振り払い起き上がった瞬間俺は視界が闇に飲み込まれた。

一瞬何が起こったのかわからなかったが、多くの手で再び地面に引き倒され理解する。

どういうわけかわからないが、乗客が俺を押さえこみに来ている。

まるで電車で迷惑行為をした乗客を取り押さえるがごとく。

どう考えても俺じゃなくてもっとふさわしいのがいるだろうと思いあの悪魔を見るが、そいつは俺が抑え込まれている様子を黙って見ているだけで、乗客からは見向きもされない。

そこでようやく何かがおかしいことに気づいた。

さっきまでとは打って変わった乗客の連携力と明らかな異物な存在は無視。

そういえばさっきの変な放送が流れたときもそうだった。

こいつに操られているのか?

ぎりぎりと数の暴力で押さえつけられながら悪魔をにらむ。

数人程度ならどうにかなりそうだったが、さすがに30人ほどで抑えられると身動き一つとれない。

必死に迫る手から逃れようと顔を背け抵抗する俺に、悪魔がまた触れようと潰れた手を近づけてくる。

あのときの光景が思い出される。

駄目だ。今度こそ逃げられない!

・・・。

現実から目を背け、目を瞑るが、一向にあのざらざらしてそうな手は触れてこない。

何が起こったのか確認しようと目を開くと、そこに彼女は立っていた。

そしてその奥には腕を吹き飛ばされ怒りを露わにする悪魔。

「間に合ったかな?」

そう言っていつものように長刀を掲げ、俺に微笑みかけるのあを見て、心のどこかで疑ってしまっていた自分が恥ずかしくなると共に、ひどい安心感に包まれた。



今までどこいってたんだと文句の一つも言いたかったが、よく見ると彼女は服をズタズタに引き裂かれ、見るからにボロボロな状態で、出しかけた言葉が引っ込む。

今回は練習ではないとその姿が如実に俺に告げていた。

「ああ、これはただ服が破けているだけで、大したことじゃない。」

のあがこんなに傷だらけになるなんて、一体何がと思っていたところに悪魔が口を開く。

「貴様・・あの群れを超えてきたのか。」

いつの間にか俺にのしかかっていた乗客も一掃されており、俺はなんとか身体を起こしている最中に、恨めしそうな口調でのあをにらみながら悪魔はそう口にする。

あの群れ・・?

のあがこんな姿になった元凶か?

「何人か死んだのではないか?お前のせいで。」

「どうせ助からないよ。」

「自我を持った人形程愚かな物はないな。」

「そこだけは本当に同感だね。」

一体二人はなにを話しているんだ。誰かわかるように解説してくれと視線を右往左往している俺にのあはじりじりと寄ってくる。

「早く逃げるよ。」

「ちょっと待て!この人達は置いていくのか!?」

隙を見て俺を担ごうとしたのあを俺は慌てて引き留め、虚ろな目で立ち尽くしている乗客に目を向ける。

「あいつを倒せばいいんだろ!?なんでそうしない!?」

「・・・あいつは無理だ。」

一瞬のあが何を言ったのか理解できなかった。

「どういうこと・・?」

無理と言ったか?

「この場所と状況では無理だ。君を守りながらじゃとても戦えない。」

のあにそこまで言わせるとは、そんなやばい奴なのか、あいつは。

再び目を向けるとその悪魔は俺らの会話を聞きながら満足そうに首を傾ける。

「まあ、そもそも儂がのこのこと逃がすはずもないがな。」

そいつのその言葉を合図に俺らの背後で立ち尽くしていた乗客が一斉に動き出す。

のあは瞬時に一番近い奴らの首を勢いよく吹き飛ばす。

さっきまで一緒に乗っていた人間がばっさばっさと殺されていくというあまりの光景に俺は思わずのあにそいつらはただ操られているだけでと声をかけるが、食い気味に知ってると被せられる。

知っていてこれなのか!?

これは、あまりにも・・。

その悲惨な光景を見ていられず、目を背けていると背後から耳元で深く悲しい声がした。

「見ていられないか?」

完全にのあが機械のように人を殺していくことに気が向いて、後ろの悪魔の存在を失念していた。

下半身から出ている触手のようなもので身体を絡めとられる。

その触手は焼けた鉄のように熱く、締め付けられている部分がジュウジュウと音を立て思わず悲鳴を上げる。

その瞬間俺の悲鳴を聞いたのかのあがものすごい勢いでこちらに飛んでくる。

しかし、その悪魔もそれには気づいているようで、彼女の鋭い突きを左手に風穴をあけながらも難なく受け止める。

悪魔は剣をしっかりと握りしめ使わせないようにするが、彼女は前にみかに対してしたように剣の形を溶かし、変えることでそれから逃れる。

悪魔は彼女の武器を押さえることができないとわかると彼女本体を無効化しようと数多ある触手を全力で彼女に向ける。

しかし、彼女は一瞬息を大きく吸ったかと思うと、それらをすべて捌き切る。

迫りくる触手を尽く叩き切り、一切彼女に触れることは許さない。

触手は数秒もすれば完全に再生しているようなのだが、彼女はそれを凌駕するスピードで削っていく。

だんだんじり貧になってきた悪魔は俺に割いていた触手までも彼女の対処に回し、俺は受け身も取れずに床に叩きつけられる。

解放されたと思ったのもつかの間、今度は操られた乗客たちが襲い掛かってくる。

俺は痛む身体に鞭を打ち、急いで身体を起こし走り出す。

向かうのは乗客のいないと思われる前両だ。

彼女は恐らく一人でも大丈夫だろう。

問題なのは足手まといの俺がいること。

とりあえず捕まらないように逃げていればきっと彼女が一人で・・。

『・・・あいつは無理だ。』

彼女の言葉が思い出される。

いや、きっと大丈夫。

俺ができる最善手はこれで間違いないはず。

彼女はこちらにこようとはしているようだが無数の触手に阻まれ、さらに後方の車両から来た乗客も加わり苦戦している。

俺は信じて時間を稼ごう。

追いかけてくる乗客から逃れるように俺は車両の先頭へ足を進める。



追っては意外にも動きが速く、俺は時間稼ぎにかなり苦戦させられた。

こういう操られているやつってゾンビみたいにあまり素早く動けないっていう固定観念が自分の中であったが、その考えを改めさせられた。

改めさせられたついでに言うならもう一つあった。

それは俺の力だ。

大男をねじ伏せた時からおかしいとは思っていたのだが、どうやらあの大男が非力なのではなく、俺の力が強くなっているらしい。

その証拠に今は電車内の椅子や手すりなどもいとも簡単に破壊し思うように捻じ曲げることができる。

そのおかげで容易くバリケードをつくることができ今こうして時間を稼げているのだが、いったいどうしてこうなったのかわからない。

今だけの限定なのか、そにかきっかけや発動条件があるのか。

あの悪魔がなにかやったのが俺に対して裏目に働いたのか?

よくわからないが、使えるうちに使おう。

今は力の出所を考えるより生き延びることが大事だ。

俺はバリケードをこいつらが一筋縄には突破できないことがわかると、大きく息を吐き出す。

とりあえずよかった・・。

万が一こいつらに襲われていたらと思うと先ほどののあの映像を思い出してぞっとする。

俺にはあんなことできない。

あそこまで割り切ることは。

動物を殺したことすらないというのに、人を殺すだなんて。

しかも操られているとはいえ元は普通の人間で一般人だ。

とてもじゃないが手を下せない。

だが俺もこのバリケードが破られればそうするしかなくなるのか?

どうしても最悪のことを考えてしまい、決心のつかないまま俺はふらふらと奥へ奥へと歩を進める。

それにしても前車両ものすごい血が飛び散ってほとんど真っ赤の割には死体がないな。

最初こそこの漂う強烈な鉄分の匂いにやられそうになったが、慣れればなんとか耐えられた。

このにおいからもこの飛び散っている赤い液体は恐らく血なんだろうが、なんで死体がないんだ?

それを覚悟のうえで足を踏み入れたというのに拍子抜けもいいところだ。

まあないのに越したことはないが、それはそれで不気味なものでじゃあなぜ?という疑問だけが残る。

静かな車両内をぶつぶつとつぶやきながら歩いていると、ふと視界に入った窓の外の様子で考えていたことがいったん止まった。

あれ?

この電車こんなに早かったっけ。

窓から見える外の景色がすごいスピードで切り替わっていく。

電車にあまり乗ることがないけどこのくらいが普通なのか?とのんきなことを考えたりもしたが、次の瞬間ギギィー!!という大きな音とともに車体が大きく揺れ、俺は言いようもない不安感に駆られる。

『どうせ助からないよ』

のあもそんなことを言っていたが・・。

まさか・・。

俺は先頭にあるであろう運転席に急ぐ。

血で何度も滑りそうになるがなんとか堪えながら運転席に着くとそこでは一人の男が立って、こちらに背を向け必死になにか操作していた。

こいつも操られた人間か?

一人相手では余裕だろうが一応警戒しながら近づくか。

そう思ってそろりそろりと近づいていたのだが、俺の足音に気が付いたのかそいつはおもむろに振り返り、言葉を発した。

「え、なんでこんなところに人間が!?」

話すと思っていなかったところに急に叫ばれて俺は度肝を抜かれている間にそいつはぶつぶつと独り言を言い始める。

「・・・んなところに・・様は何をやって・・。」

声が小さくてよく聞こえなく、とりあえず生存者がいたことに喜びを分かち合おうとしていたら、彼はあ、わかったと大げさな手ぶりをした。

「君が、主の狙っているという少年だろう?」

その一言で俺の中から急に血の気が引いていくのが分かった。

「その主って言うのはまさかあの下半身触手の半人間のことじゃないよな?」

俺は背後の車両を差しながら恐る恐る尋ねる。

「あってるよ。」

そいつは一回俺の背後を見るようなそぶりをした後、満面の笑みで答える。

「う、嘘だよな?君は生き残ることができた生存者で、今上がりすぎた電車の速度を落とそうとしてくれているんだよな?」

「いーや?むしろ逆だが?」

悪びれもせずにそう言い放つ男に俺は頭痛を覚えそうになった。

なんであの悪魔に協力しているんだ?

こんなに人が死んでいるんだぞ。

弱みでも握られているのかとも思い質問するが、返ってくるのは否定の言葉ばかり。

「いーや?ちゃんと交渉した結果だ。幸いあいつは話が通じるからな。」

悪魔の契約ってやつか?

「お前が今やろうとしていることはただの大虐殺だぞ・・。」

「いいんだよ、こんな人形どもなんか。」

意味深な人形発言の意図を汲み取ろうとしていると、まあ俺はただこの時間にこの電車に乗って窓を開く手伝いをしただけ、誰も殺してはいないと罪逃れをしようとする。

「そこまでするお前の望みはなんなんだ・・・。」

「故郷に帰ることだよ。」

その答えに俺は唖然とする。

「故郷に帰るってお前、そんなことでっ!「あ~はいはいもう聞き飽きた。そういうの。」

途中で遮られ、俺の怒りがさらに膨れ上がる。

「もう耳がたこになるまで聞いたから。お前らの説教。どうせお前らには理解できないよ。」

「当たり前だ、そんなくず野郎の考えなんかわからなくて。みんなが常識人で良かったよ。」

その瞬間、やれやれと呆れた余裕そうなポーズを取っていた男の動きがぴたりと止まる。

「お前、うるさいよ。」

次の瞬間俺は運転席の扉とは反対にある扉まで吹き飛ばされていた。

この力・・。

こいつ、亜人化経験者だったのか。

みかや如月、真木さん、朝風のような。

その力の向け方を誤っている点では朝風と同じか。

俺は倒れた身体を起き上がらせながら、自分がどうやって吹き飛ばされたか考えていた。

やつが動いたように見えなかったが、いったいなにが・・。

そうしているうちに男が腕を動かす。

すると今度は座席がバキバキと音を立てて外れて浮きはじめ、男が腕を振り下ろすとものすごいスピードでそれらが飛んできた。

俺はそれら全部をよけきることができずにまた壁に叩きつけられる。

骨が・・何本かいったかも・・。

あまりの痛さに悶絶し動けなくなる。

「ははは。君弱いねえ。こんな雑魚を欲しがるなんてあいつもよくわからんが。」

つかつかと大破して転がる座席の横を歩いてくる。

倒れた俺の目の前まで来てしゃがみ、男はまた手を振る。

それはあの悪魔が乗客を操った際にしたものと同じように見え、まずい操られると覚悟を決めたが、特になにも変化はなかった。

「・・・これは効かないか。まあ君みたいな雑魚操る必要性もないけど。」

と今度は俺の背後に手を振る。

何をしているんだと思っていると、男から話しかけてきた。

「君、さっきの動きからして亜人化経験あるよね?助けてもらった口だろう?それなのに僕の行動をまったく理解できないの?」

「それが、なにか関係あるのか・・。」

「あるよ、大ありでしょ。」

意味が分からずはてなマークを浮かべている俺を尻目に、こいつはおーいこっちこっちと俺の背後に向かって手を振る。

今度の手を振るのはちゃんと誰かを呼ぶ際のやつだ。

頭上で大きく手を左右に揺らす。

誰を呼んでいるのだろうと思っていると操られている乗客数人がやってきた。

さっき手を振っていたのは俺の作ったバリケードを破壊していたのか。

俺をあの悪魔のところまで連れていく気かと思っていると、男が勝手に語りだす。

「お前は身体強化ぐらいしかできないみたいだから教えてやるけど、これにはこんな使い方もある。」

そう言って男は突っ立って支持を待っている乗客の中にいた一人の頭に触れた。

人差し指が触れた女性は、その瞬間悲鳴を上げてその男から離れた。

「こんな風に、洗脳を解除することもできる。」

その解除された女性は狙ってそいつにしたのかたまたまなのかわからないが、先ほど俺に対してひどい仕打ちをして見せた加藤綾乃だった。

そいつは男から逃げようとする際床にあった血で足を滑らせ転倒するが、殺さないで殺さないでと頭を抱えてうずくまりはじめ、すっかり怯え切ってしまっているようだった。

男はその様子を見てやっぱり反応を見るのも面白いよねと笑っている。

気の毒だとは思うが、俺は特にそれ以上その女に対してなにも思わなかった。

別に助けようとも何かしてあげようとも思えなかった。

それは俺が決して疲弊しているというだけではなかったと思う。

「あれ?怒るかと思ったけどこれでは怒らないんだ。」

意外そうに男は俺を見てくる。

「そいつとはちょっとな。」

ふーんと男は興味なさげな反応を示すが、面白いおもちゃを見つけたかのように目を輝かせ始めたのがわかった。

まずいと思ったが、もう遅い。

「じゃあ、そいつを殺すか、この洗脳されたままの残りの4人殺すか選んでいいよ。」

男はにやにやとしながら嬉々としてそんな悪魔的なこと言うのだった。

・・・は?なんだその選択肢は。

あまりの無慈悲な選択肢に驚愕して男を見るが、そいつは早く選ばないと両方殺すよと急かしてくる。

俺が、決めるのか?

ゲーム感覚で人の命を扱うこの男を今すぐにでも殴り飛ばしてやりたかったが、あいにく今は殴ろうにも身体に力が入らず抵抗できない。

何度も起き上がろうと試みるも、そのたびに腹部で折れた骨がどこかに突き刺さり激痛が走る。

悔しいが、今はやつの提案を受け入れるしかない・・。

俺はとりあえずどちらか決めなければと2つの選択肢に交互に見る。

普通に考えれば人数の多い後者の方だが、前者は洗脳が溶け、意識が回復している。

自分で命を天秤にかけなければならない事実に自然と動機が激しくなる。

洗脳が溶けている方が協力できることも考えれば猫の手も借りたい今必要な人材だろうが、どうしてもあの人物であるという事実が邪魔をする。

加藤も話の一部始終を聞いていたようで、身体を起こし俺のことを怯えた目で見てくる。

なんで俺がこんな役目を・・。

その様子を男はにやにやしながら倒れた座席に腰を掛け眺めていた。

やはり、人数が多い方かと思いそちらに目を向けた時、女が声を上げる。

「さ、さっきは!ごめんなさい!うち、いや私が悪かったです。見捨てないでくださいお願いします。」

さっきとは打って変わって手を震わせながら情けなくも土下座しながらお願いしますお願いしますと懇願してくる姿を見て、俺は傾きかけていた考えがまた引き戻され唇を噛みしめる。

どうすんだよ!!

やっぱり、意識のある方か?

プライドをかなぐり捨ててここまで懇願されているのに見捨てるのは目覚めが悪すぎる。

だが、しかし洗脳は解けていないとはいえ単純な人数で考えれば・・・。

もう俺はこの女の今までの行いなどどうでもよくなっていた。

誰が命に価値を付けられるというのだろう。

そんなやつがいるというのなら教えてほしい。

なにで価値をつける?

金か?影響力か?人格か?

いっそのこと目をつぶって決めるか?

・・・そうだその方が平等だ。

完全な運に任せた方が俺の負担も減るし。

完全にランダムで残酷だがどちらにしようかなで決めるしかないと思っていたところに男からタイムアップ宣言が来る。

「残念時間切れ―。いや~いいもの見せてもらったよ。」

静かな車両内に男の拍手の音が響き、彼女は絶望的な表情で男を見る。

「そのお礼としてこの4人も死ぬ前に解除してあげるよ。」

そう言って男は立ち尽くしている4人にも一人ずつ触れていく。

解除された人たちはそれぞれ反応が千差万別だった。

解除された瞬間逃げだす者、泣きくずれてその場にうずくまる者、覚悟を決める者、説得しようとする者。

もちろん逃げだしたやつは真っ先に殺された。

俺にやった時と同じような念力のようなもので動かした鉄の塊にあっけなく潰された。

一般人ではとても耐えられるはずがなかった。

説得しようとした者も男のお目にはかかれなかったようで、呼吸を封じられ悶えながら亡くなった。次に選ばれたのは泣きくずれている女性で無情にもうるさいとの一言でかたづけられてしまった。

最期に残った女性は涙を流してはいるものの立ち尽くしたまま動かず、男が近くに来た一瞬びくっと身体を震わせただけで何も抵抗しなかった。

男はどう殺そうかと悩んでいるようで彼女の周りをぐるぐる回りながらあれはやったしなーと一人で呟いていた。

そういえば彼女はどこかで見たような。

そうだ、俺がのあと間違えた人物だ。

スーツ姿で思い出し、俺はすぐさま思い出すんじゃなかったと後悔する。

今から死にゆく者のことを知ってどうするというのだ。

握りしめた拳から血が滲み出そうなほど俺は見てることしかできない自分をこれでもかと叱咤していたところに、やっと男が殺し方を思いついたのか大げさに手と手を合わせる。

「そうだ、拷問にしよう!君我慢強そうだし。」

ああ、いったいこいつはどこまでぶっ飛んでるんだとあまりの非道さに肩を落としかけた瞬間、どこからか声が聞こえた。

「ああ、それいい考えだね。」

その声と同時に男の背後に立っていたその声の主は男の首を思いっきり捻り、男は糸の切れた人形のようにどさりと床に崩れ落ちる。

「のあ!!」

俺は彼女が無事だったことへの喜びで歓喜の声を上げたが、すぐにそれは車両後方から近付いてくる怨念のような音にかき消される。

「逃げるよ。」

せっぱ詰まった余裕のなさそうな様子ののあはすぐに覚悟を決め、目をふさいでいた女性を抱え俺のもとに走ってくる。

状況の理解できていない女性は「えっえっ。」とうろたえ、俺も声を出す暇もないまますぐ担がれそのままのあは窓を足でかち割り外に飛び出した。

その瞬間俺らはものすごいスピードで走る電車から外に投げ出される。

刹那的に背後で俺らを追いかけてそのまま飛び出そうとして思いとどまり、恨めしそうにこちらをにらむ悪魔が見えた。

ざまあみろと思ったのもつかの間、その背後に取り残された一人の女の姿が見えた。

あ・・。

気づいたときにはもう遅かった。


俺は助けられたはずの生存者を見殺しにして、この地獄への特急列車から一人、下車してしまったのだ。



あの速さの乗物から飛び出したというのにそこは流石だった。

のあは俺ら二人を抱えたまま慣性を強引に足の力だけで打ち消しスピードを殺すことに成功してみせたのだ。

女性はやっと助かったことを理解したのか張り詰めていた糸が切れたかのように泣き出し、そういうことに俺はもちろんのあも慣れているはずがなく、ただその様子を眺めているだけだった。

「のあさん、あいつはいったい・・。」

俺はとりあえず状況を整理するために今度は服だけでなく本当にボロボロののあに尋ねる。

「あいつは魔将だよ。」

魔将・・あいつが・・?

「あの廃神社で会った男が仕えている魔将でもある。前までは私をどうにかこうにか殺そうとしてたみたいだけどやり方を変えたみたいだね。」

「やり方を変えたって?」

「君をさらうということさ。私を殺せないと踏み間接的に周りから削っていくのか、それより君が何かキーパーソンなのかわからないが、あの神社での1件と言いあからさまに君が狙われている。」

俺が、狙われているのか?

確かになにか意味深な発言はしていたが。

「そういえば俺、あの悪魔に前会ったことがあるんです。」

言う機会がなかったんですけどとのあにあの出来事を打ち明ける。

「なるほど。あの男が君を狙い始めた時期とも一致はしているし、まあそういうことなんだろうね。」

そのときに君を執拗に狙う理由が彼らにできたことに間違いはなさそうだと述べる。

「でもそのときはみかが助けに来てくれたおかげで特になにもされなくて・・。」

そうだ、みかが来てくれていなければ俺は今頃あの悪魔に頭をいじくりまわされていたのか?

そういえば頭を触れられはしたっけ?

確かそのときなにか・・・。

「みか君が助けに?」

「はい。あの悪魔と俺の間に割り込んできてくれて。」

「あの暴走状態だったみか君が?」

のあは訝しそうに聞いてくる。

「はいそうですけど、何かおかしいですか?」

「あの暴走状態のみか君が人を助けるとは思えないんだよね。」

君も見ただろう見境なく私や君に襲い掛かっていくところを、と少し間をおいて言ってくる。

「でもそのときはかなり状態が悪化してましたし、それに彼はあの状態でも本能のようなものはあったように見えました。」

如月の影に潜み彼女が泣いたとき一番近くにいた俺を攻撃したところから見てもそれは正しいだろう。

そのため、なにもおかしな点はないように見えますがと自分の見解を述べるが、未だにどこかのあは引っかかる点があるようだ。

「みか君と君はそのときから沙奈ちゃんと同じぐらい仲が良かったの?」

「いえ、如月も一目ぼれのストーカー的なものらしいんでみかとはそんなに仲は良くなかったと思いますよ。」

なんなら一緒に戦った時が2回目の接触とかじゃなかったかな?

それを聞いてのあはうーんと考えた後、まあ彼らにも話を聞いてみるよ彼らの復活したであろう前世の記憶とやらと一緒にねととりあえずこの話を終える。

そのころにはスーツ姿の女性も落ち着いたのか、涙は枯れてきていた。

俺らの話が一区切りついたのを確認して俺らに改めてお礼と俺には何故か謝罪が飛んできた。

「あ、あのすみません。私、あの電車の中であなたが痴漢の容疑かけられているとき全部見ていたんで冤罪だっていうのはわかっていたんですけど、名乗り出るのが怖くて見て見ぬふりをしてしまいました。助けてもいただいたのに本当にごめんなさい。」

「ああ、いいよそのことは。助けたのは俺じゃないしね。」

いやそんなことはとどうしても食い下がってくるのを横に俺は女性の発言で別のことを思い出していた。

あの女。

加藤綾乃。

散々俺に嫌がらせをしてきたが、彼女もちゃんと一人の人間だった。

自分のプライドをかなぐり捨ててまで助けを乞うてきた相手を俺は、おいてきてしまった。

ひどい吐き気と眩暈が襲ってくる。

今戻れたとしてももうすでに手遅れだろう。

あの魔将にやられているのか、それとも脱線事故でかはわからないが、まだ後者であってほしい。

あのとき俺がすぐのあに伝えられていれば、もしくは俺があいつの近くにいれば・・・。

たらればのことばかり考えてしまい、激しい自己嫌悪に陥っていたとき、周りの気配を探っていたのあが何か異変に気付く。

「朝風が、結界外にいる・・。」

朝風・・?

正直起こった出来事が重すぎて今の今までそいつのことを失念していた。

そうだ、本来の目的はそいつを捕まえることで、その途中で・・。

「それに、これはまずい。街に悪魔が解き放たれている・・。」

「魔将のようなやつらがですか!?」

俺はさっきののあでも苦戦していた相手がと思い、頭を抱える。

「いや、低級のばかりで雑魚がほとんどだが、数が・・。」

「どのくらいなんですか・・。」

恐る恐る俺は尋ねるとのあは指を三本立てる。

「3体ですか・・?30体ですか・・・?」

「いや、3桁だ。」


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